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■第二章 試される大地
第三話 家造り――基礎
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ノースオーシャン領のボックスホームの村。
ここで最初に建てる家にもっとも必要なものは何か?
ムーンベアから身を守るために、頑丈さも必要だろう。
人数も少なく住む家がないのだから、工期の速さも必要だ。
だが、見落としてはならない最重要課題は『断熱』だ。
寒いことで有名なノースオーシャンでは、『断熱』こそが命に関わる。
薪を暖炉にひっきりなしに放り込むのも有りだが、それでは木を切ったり運ぶ時間に労力を費やさなくてはいけなくなる。
まだ人数が少ない領地を切り盛りするためには、なるべく楽ができる家が良いのだ。
「どうか、大地の神様、安全に建てられますよう、お守りください」
最初に、土地に塩を撒き、皆で祈りを捧げた。大地神の加護を得ておくのも大事だが、こうして精神集中することによって、ミスを減らす役割があるのだ。
「じゃ、さっそく家の『基礎』に取りかかろう。基礎というのは縁の下の土台の事だね。本当は土地を平らにして土を入れ替えておいて、一年は寝かせて安定させたいところだけど……僕らにはそんな余裕がないし、今は応急だから」
そう言って家の土台造りに取りかかる。
「ねえ、アッシュ、なんで土地を寝かせる必要があるの?」
レニアが好奇心で質問してくる。
「土を盛ったばかりの土地は、まだ固まっていないから、年月が経つと沈んだり傾いたりする事があるんだ」
「ああ、それはしっかり安定するまで寝かせたほうがいいわねぇ」
「うん。だけど、また落ち着いたら建て替える予定だし、今は気にしなくて良いよ。じゃ、僕が印を付けるから、そこをみんなで掘り返して」
「分かった!」「よし!」
スコップなどの道具は馬車に積んで持ってきている。
さすがに道具がないとどうしようもない。スコップも刃は鉄製だ。
「できた!」
「じゃあ、次は石を敷こう。パズルみたいに、なるべく詰めて置いて隙間がないように」
「ちなみに、アッシュ、これは何のためにやるの?」
「湿気が下から入ってこないようにするためだよ」
「ああ、湿気かぁ。床板がカビたら嫌だもんね」
「うん、他にも土台の柱がカビたり腐ったりすると、脆くなって危険だからね。床下は通風口を造って、風通しをよくするんだ。そこにネズミも入らないよう、格子で穴を小さくしなきゃ」
あちこちから適度な大きさの石を集め、それを敷き詰めていく。結構大変な作業だ。とても一人ではできない。
「ふう、アッシュ、こっちは済んだぞ。見てくれ」
アイゼンさんが呼ぶのでそっちを見に行く。同時に十棟を立てる予定だ。
「はい。ああ、こことこの辺ももうちょっと詰めてと」
僕は隙間に石をはめ込み、それからモルタルを入れた桶を持ってくる。石灰を水と混ぜたものだ。大量に馬車で運んできたが、それでも十棟分の基礎を造るとそれで残り少なくなってしまった。また後でどこからか石灰の地層を見つけないとな。
「じゃ、『一式』、頼むよ」
「了解デス」
ウッドゴーレム『一式』のドリルで、柱をはめ込む『礎石』を凹型に削る。
そこまでの作業で日が暮れてしまった。
「お疲れ様。じゃあ、柱の組み立ては明日にして、今日は休もう」
「疲れたぁ」
みんながほっとした表情で肩を回す。何人かの職人にとってはかなりの重労働だったことだろう。
「さあ、温かいスープができたよ!」
先に料理の準備をしてくれていたマチルダさんが、ちょうど良いタイミングでスープを配ってくれた。
「美味しい!」「うめえ!」
しっかり働いたあとの食事は、お腹が空いていることもあって、やっぱり一段と美味しい。
「見て、アッシュ、空! 空!」
「んん? おお」
レニアに言われて空を見上げたが、星が近い。頭上は満天の星に彩られており、青、赤、紫、黄色と驚くほどに星の色合いがはっきりと見えた。見ているとその輝きに吸い込まれそうになる。
「なんだか、いつも見るより、星が綺麗ね!」
「ああ、そうか、寒いから空気が乾燥して見えやすくなってるんだ」
僕がそう言うとレニアがきょとんとした。
「空気? 何を言ってるの、アッシュ。空気は吸えるけど、見えないでしょ」
「いや、お湯を沸かしたときは白い湯気が出るし、朝は霧や靄が白くなってたりするだろう? 今だって僕らの吐く息は白い。これは空気が水を含んで湿っているからなんだ。木にとって湿度は大事だからね」
僕はニッコリと言う。
「なんだ、まーた木の話なのね、ハイハイ」
レニアに少しあきれられてしまったが、寒くなるなら結露にも気をつけないと。
ノースオーシャンでの家造りはとても大変な事になりそう。
だけど、僕は、なぜだかそれが妙にワクワクするのだった。
ここで最初に建てる家にもっとも必要なものは何か?
ムーンベアから身を守るために、頑丈さも必要だろう。
人数も少なく住む家がないのだから、工期の速さも必要だ。
だが、見落としてはならない最重要課題は『断熱』だ。
寒いことで有名なノースオーシャンでは、『断熱』こそが命に関わる。
薪を暖炉にひっきりなしに放り込むのも有りだが、それでは木を切ったり運ぶ時間に労力を費やさなくてはいけなくなる。
まだ人数が少ない領地を切り盛りするためには、なるべく楽ができる家が良いのだ。
「どうか、大地の神様、安全に建てられますよう、お守りください」
最初に、土地に塩を撒き、皆で祈りを捧げた。大地神の加護を得ておくのも大事だが、こうして精神集中することによって、ミスを減らす役割があるのだ。
「じゃ、さっそく家の『基礎』に取りかかろう。基礎というのは縁の下の土台の事だね。本当は土地を平らにして土を入れ替えておいて、一年は寝かせて安定させたいところだけど……僕らにはそんな余裕がないし、今は応急だから」
そう言って家の土台造りに取りかかる。
「ねえ、アッシュ、なんで土地を寝かせる必要があるの?」
レニアが好奇心で質問してくる。
「土を盛ったばかりの土地は、まだ固まっていないから、年月が経つと沈んだり傾いたりする事があるんだ」
「ああ、それはしっかり安定するまで寝かせたほうがいいわねぇ」
「うん。だけど、また落ち着いたら建て替える予定だし、今は気にしなくて良いよ。じゃ、僕が印を付けるから、そこをみんなで掘り返して」
「分かった!」「よし!」
スコップなどの道具は馬車に積んで持ってきている。
さすがに道具がないとどうしようもない。スコップも刃は鉄製だ。
「できた!」
「じゃあ、次は石を敷こう。パズルみたいに、なるべく詰めて置いて隙間がないように」
「ちなみに、アッシュ、これは何のためにやるの?」
「湿気が下から入ってこないようにするためだよ」
「ああ、湿気かぁ。床板がカビたら嫌だもんね」
「うん、他にも土台の柱がカビたり腐ったりすると、脆くなって危険だからね。床下は通風口を造って、風通しをよくするんだ。そこにネズミも入らないよう、格子で穴を小さくしなきゃ」
あちこちから適度な大きさの石を集め、それを敷き詰めていく。結構大変な作業だ。とても一人ではできない。
「ふう、アッシュ、こっちは済んだぞ。見てくれ」
アイゼンさんが呼ぶのでそっちを見に行く。同時に十棟を立てる予定だ。
「はい。ああ、こことこの辺ももうちょっと詰めてと」
僕は隙間に石をはめ込み、それからモルタルを入れた桶を持ってくる。石灰を水と混ぜたものだ。大量に馬車で運んできたが、それでも十棟分の基礎を造るとそれで残り少なくなってしまった。また後でどこからか石灰の地層を見つけないとな。
「じゃ、『一式』、頼むよ」
「了解デス」
ウッドゴーレム『一式』のドリルで、柱をはめ込む『礎石』を凹型に削る。
そこまでの作業で日が暮れてしまった。
「お疲れ様。じゃあ、柱の組み立ては明日にして、今日は休もう」
「疲れたぁ」
みんながほっとした表情で肩を回す。何人かの職人にとってはかなりの重労働だったことだろう。
「さあ、温かいスープができたよ!」
先に料理の準備をしてくれていたマチルダさんが、ちょうど良いタイミングでスープを配ってくれた。
「美味しい!」「うめえ!」
しっかり働いたあとの食事は、お腹が空いていることもあって、やっぱり一段と美味しい。
「見て、アッシュ、空! 空!」
「んん? おお」
レニアに言われて空を見上げたが、星が近い。頭上は満天の星に彩られており、青、赤、紫、黄色と驚くほどに星の色合いがはっきりと見えた。見ているとその輝きに吸い込まれそうになる。
「なんだか、いつも見るより、星が綺麗ね!」
「ああ、そうか、寒いから空気が乾燥して見えやすくなってるんだ」
僕がそう言うとレニアがきょとんとした。
「空気? 何を言ってるの、アッシュ。空気は吸えるけど、見えないでしょ」
「いや、お湯を沸かしたときは白い湯気が出るし、朝は霧や靄が白くなってたりするだろう? 今だって僕らの吐く息は白い。これは空気が水を含んで湿っているからなんだ。木にとって湿度は大事だからね」
僕はニッコリと言う。
「なんだ、まーた木の話なのね、ハイハイ」
レニアに少しあきれられてしまったが、寒くなるなら結露にも気をつけないと。
ノースオーシャンでの家造りはとても大変な事になりそう。
だけど、僕は、なぜだかそれが妙にワクワクするのだった。
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