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灯す目印

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森の守り人が住まう二本の大樹の根元まで来た一ノ瀬達は、近付いてより一層大樹の大きさに驚いていた。







「何か、世界樹って感じだな~。」

一ノ瀬は下から見上げ、呆けた声で呟いた。その一方で、ロゼッタは訝しげに首を傾け、未だ聞いていた情報との差に疑問を懐いていた。







「確かにこの場所で間違いないはずなんだけど?こんな大樹や無数にある建物の話しは聞いた事がないわ?クライン貴方は知っていた?」

「いえ、私が知る限り、この辺りにはこのようなものがあることは聞き及んでいませんでしたが、森の守り人の集落の他にもこの辺りには幾つかの集落が点在し、小人族や鳥人族、それから獣人族が、共に共栄しあっていると聞いていたのですが、周囲にその様子はみられませんね。」







ロゼッタに続きクラインも首を傾げているなかで、一人未だに口を開こうとしないベルトレに一ノ瀬は目を配った。

「なあベル、道中かなりこの場所を避けたがっていたけど、ここの事を何か知ってるのか?」







「、、、、」

一ノ瀬の問いかけに沈黙を続けるベルトレは、ただ静かに立ち尽くしていた。そんな一同の前で突然何処からともなく白い花びらが吹き荒れ、その中から一人の白いドレスをきた女性が銀色の長髪をたなびかせながら現れた。彼女は静かに閉じていた瞼を起こし、美しい目でこちらを見据えるように視線を上げた。







「ようこそ、旅の方々。私は草木の精霊族のレイヤと申します。こんな夜更けに一体どうしましたか?」

レイヤと名乗った精霊族は、こんな深夜に訪れた一向を不思議そうに見みており、その理由を一向に問いかけた。







「初めまして、私はロゼッタと言います。この先にある首都を目指しているのだけど、森を抜けられそうになかったから、こちらの集落で一晩泊めてもらいたかったのだけれど、道中で色々ありこんな時間になってしまったの。」

レイヤの問いかけに答えたロゼッタは、初めて会ったレイヤからもその疲労感が分かるほどにフラフラであった。







ロゼッタに続いて、一ノ瀬とクラインも自己紹介を済ませた時、レイヤは後ろで隠れるようにたたずむベルトレに声をかけた。

「初めまして、貴方のお名前は?」







レイヤの問いかけに冷や汗をかき返事を返さない様子のベルトレを見かねた一ノ瀬が、ベルトレの代わりに答えた。

「失礼してしまいすいません。こいつはベルトレと言い、いまは俺と使い魔の契約をしています。」







ベルトレは勝手に紹介した一ノ瀬を制止しかけたが、その前におおよその紹介が終わってしまった。ベルトレの名を聞いたレイヤはベルトレをしっかり確認し終え、見開いた瞳から急に涙を流し出した。一同が困惑するなかレイヤはベルトレに呟いた。







「帰ってきてくれたのですね。お帰りなさい、ベル。」

静かに泣きながら、目の前の複雑そうなベルトレとは対象的にレイヤは微笑みを浮かべた。







「、、久しぶりだな、レイヤ。」

レイヤの姿を横目で確認したベルトレは、何か負い目を感じるように、返事を返した。







暫くして落ち着きを取り戻したレイヤは、一向に向き直りここころよく宿を貸してくれたが、未だベルトレは皆の空気に馴染めずにいた。







大樹に建つ建造物には、それぞれ幹を階段の様に削った道を使い、移動が出来るように成っているが、ほとんどの建物には、階段が繋がっておらず、行き来が出来ない建物が幹から生えるように建っており、不思議に思った一ノ瀬は先方で誘導するレイヤに尋ねた。

「レイヤさん、所々にある建物の玄関には全て明かりが灯されてますけど、階段も繋がっておらず、どうやって行き来するんですか?」







レイヤは一ノ瀬の問いかけに階段を登りながら答えた。

「階段は現在使用されている建物に繋がっており、階段の無い建物は、今は誰も住んでいません。明かりは光の魔法で灯しますので、階段は不要なのです。」

その言葉を聞き、次に質問を投げ掛けたのはロゼッタだった。







「でもそれじゃあ、誰も居ない民家や商店に何故明かりがついてるの?」

尚も質問を投げ掛けられたレイヤは階段を登り進め、目的の建物を目指しながら一向に語りかけた。







「3年前、まだこの場所にはこの様な大樹は無く、森には幾つかの集落があり、集落ごとに住まう種族は違いましたが、共に森を守りながら暮らしていました。そんな日々の中に突然、魔族と蛇族が結託し、軍を率いてこの森を襲ったのです。」

一同は、レイヤの後をついていきながら、耳を傾けていた。

「奴らの狙いは私どもが持つ再生の魔導禁書でした。」

「「「!?」」」

レイヤが発した魔導禁書と言う単語にベルトレ以外の三人が反応した。その事にレイヤ本人も気づいたが、そのまま話しをつづけた。







「数えるに数千はいた敵に対し、私達は女と子どもを含めても数百しか居らず、森はあっという間に火の海になってしまいました。そんな中、私と同じ精霊族の兄妹が別の国にある私たち、精霊族の故郷の里の掟を破り、集落に隠されていた魔導禁書を持ち出し、この世界樹と並ぶような大樹を召還してしまったのです。そのおかげで、全滅しかけていた私達はかろうじて助かり、敵を追い払う事が出来たのですが、あの本を使用してしまった二人の兄妹は、魔導禁書と共にこの大樹にのまれてしまいました。」







話しを聞いていた三人は完全に言葉を失っていたが、ベルトレは、無意識に自身の拳を強く握りしめ、震わせていた。







「今は空き家となっている建物はその時亡くなってしまった方々の家だったものです。私達は全てを照らす太陽の光が隠れ、夜が星や月と共に魂をこの世に舞い戻らせた時、迷える魂が出ないよう、毎日明かりを灯すのです。」







柵も手すりも無い階段を登りながら、一同は先導するレイヤを見上げる様にその視界に納めるも、誰一人としてレイヤに声をかけられずにいた。
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