病弱らしい幼馴染がそんなに大切ですか。――ならば婚約破棄しましょう。……忠告はしましたよ?

銀灰

文字の大きさ
上 下
1 / 3

【上】

しおりを挟む
 最初から、少し妙だとは思っていました。
 二人きりでの私との会食のときも、時折幼馴染の話を口にしていました。――まだ、婚約を結ぶ前、顔を合わせたばかりの頃です。

 お家の事情――祖父方の縁ゆえに結ばれた婚約ですが、――これは少々、いえ大分、とんでもない縁だったと、今であればはっきりとそう思えます。

「アイリス、聞いてほしい。――ローズの容体が芳しくないんだ。また、と思われるかもしれないが……少し、お金を貸してほしい」

 ――皮肉に思えるほど彼の懸念通り、私は「またか」という念を抱いて、小さくため息を吐きました。

「……ロレディ、ローズの容体は本当に悪いの?」
「ああ。この頃はまた、弱っていて……。見ていられないんだ……」
「……お金を返す充てはあるの?」
「アイリス」

 ロレディは生真面目な顔つきになり、ずいと一歩進み出て、私に非難のような視線を向けて言いました。

「心も体も弱めた、一人の人のためなんだ。頼むよ、……冷たいことは言わないでくれ」

 こめかみに、ピキリと筋が奔る心持ちでした。
 私は何度もしたけれど……彼がきちんとそれに耳を貸したことは一度としてなかった。

 ――それに。
 その話しは、私と何の関係があるの?
 私の家のお金で貴方の幼馴染を養う理由は、いったいどこに?

「ロレディ」

 私は疲れを表情の内に隠しながら、私は平坦な声を出しました。

「分かったわ」
「――ありがとうアイリス! 助かる、本当に――」
「わかった、分かったわ」
「では、少しローズの容体を窺いに出てくる。そんなに悪いわけではないと思うのだが……」

 ……彼を追い払うために承諾したとはいえ、それでもイラっとくるわね。

 なんて思っていたら、彼は部屋を飛び出す直前に、最も私を苛立たせるためとしか思えない言葉を置いていった。

「そんなに心配はしないでくれ―――急を要するという衰弱ではないんだ。では」

 血管がはち切れそうになりました。
 心配してねえよ。

 ……これは、もう駄目ですね。
 この現状を伝えれば、お父様も納得して下さるでしょう。

 婚約破棄をしましょう。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者を妹に奪われました。気分が悪いので二人を見なくて良い場所へ行って生きようと思います。

四季
恋愛
婚約者を妹に奪われました。気分が悪いので二人を見なくて良い場所へ行って生きようと思います。

婚約破棄宣言から一年と七ヶ月、私は今とても穏やかに幸せに暮らしています。

四季
恋愛
私は今とても穏やかに幸せに暮らしています。

お金を頂きに参りました

狂乱の傀儡師
恋愛
名家の当主から一方的に婚約破棄されたアデリーは、それを堂々と受け入れ実家に戻る。 しかし、この婚約破棄の裏には宿敵の影があると知り——?

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

婚約破棄してきた王子、我が父に復讐される。~彼はすべてを失いました……意外な形で~

四季
恋愛
婚約破棄してきた王子、我が父に復讐される。

婚約者を奪えて良かったですね! 今どんなお気持ちですか?

四季
恋愛
「お姉様、申し訳ありませんけれど、ダルビン様はいただきますわ」 ある日突然腹違いの妹からそんなことを告げられた。 気付いた時には既に婚約者を奪われていて……。

これまでは妹に奪われ壊されてきましたが、彼女は婚約とその破棄を機に壊れてしまいました。

四季
恋愛
 私の実の妹であるプピは強欲で心ない人だった。  彼女は私を見下し私からは何でも奪って良いものと思っているようであった。

処理中です...