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【救い難きモノ】・1
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私の出した条件は一つだけだった。
王宮に属する者のみであれば、助けの手を差し伸べよう。
それだけだ。
彼らは嬉々としてそれを受け入れた。
主君の態度を模範とする配下があのような様子だったのだから、配下の態度の手本である主君等もきっと、同じような情緒を露わにするだろう。
実際、そうなった。
国に帰ることはないが、お前たちの助けになることはできる。
私はそう言った。
どういうことかと言えば、まあつまり、瓦解寸前の国を捨ててこの地へ越してこいと誘ったわけだ。
王宮に属する者のみ、この地へ迎え入れようと――私はあのとき、そう言ったのだ。
全員を迎え入れることはできぬので、国を見捨ててここへ来いと。
そのように、誘ったのだ。
――呆れたことに、王宮の中枢に属する彼等は、それから三月と経たぬ内に、傲岸不遜の顔を揃えてこの地へやってきた。
どうやら、国を――民を捨てることに、微塵の躊躇も持たなかったらしい。
はたして、ルイーンはどのような表情をもって私の前に現れるのか?
私に貸しを作ったことで気格が傷付けられたような気にでもなり、やりきれぬ憤怒を内に抱えた悪鬼の顔で睨み据えてくるのか。
はたまた、表面だけでも私の上を取ろうと、見え透いた高慢ちきで誤魔化しを入れてくるのか。
私は内心で、彼女がどのような態度をもって私たちの前に現れるのかということを、好奇心もあり、この頃ふとしたときに思索していたのだが――。
私の想像していた予測は、掠りもせずに悉く外れた。
――彼女はなんと、一点の曇りも無い優越意識の表情を持って、私たちの前に現れたのだ。
優越意識。
怒りや引け目など微塵も見せずに、『私は選ばれたのだ』という選民思想のみをもって、その醜く歪んだ曇りなき笑顔の表情で私たちの前に現れた。
……もし神が在るというのなら。
どうして、彼女のような存在を産み落としたのか。
つい柄にもなく、私は神の在り様なぞに思いを馳せてしまった。
「ふうン、なかなかいいところじゃない」
下趣味な色の鞍が設えられた馬から降りると、ルイーンは私たちのほうになど目線もやらずに、私たちが切り開いた集落を見渡した。
「まあ、いいんじゃない? 何もない難民地みたいな辺境だったらどうしてくれようと思ったけれど、まあ、とりあえず合格ね」
――およそ人間に向けるものではない視線をルイーンに向け、呆気に取られた面持ちで固まるエルーナを、背の後ろに隠した。
「……ようこそ。何もないところだが、まあ、好きにしてくれ」
言うと、やっとルイーンはこちらに顔を向け、汚物でも見るような視線を私たちに向けた。
「フン」
それだけだった。
それで終わりとばかりに集落に視線を戻し、実り豊かな畑の成果に感嘆を上げる配下の姿を眺めながら、彼女は太陽光が射し込んだと錯覚するような、希望に満ち溢れた輝かしい表情を浮かべて、心の籠った声を発した。
「ここから、私の新しい生活が始まるのね――」
王宮に属する者のみであれば、助けの手を差し伸べよう。
それだけだ。
彼らは嬉々としてそれを受け入れた。
主君の態度を模範とする配下があのような様子だったのだから、配下の態度の手本である主君等もきっと、同じような情緒を露わにするだろう。
実際、そうなった。
国に帰ることはないが、お前たちの助けになることはできる。
私はそう言った。
どういうことかと言えば、まあつまり、瓦解寸前の国を捨ててこの地へ越してこいと誘ったわけだ。
王宮に属する者のみ、この地へ迎え入れようと――私はあのとき、そう言ったのだ。
全員を迎え入れることはできぬので、国を見捨ててここへ来いと。
そのように、誘ったのだ。
――呆れたことに、王宮の中枢に属する彼等は、それから三月と経たぬ内に、傲岸不遜の顔を揃えてこの地へやってきた。
どうやら、国を――民を捨てることに、微塵の躊躇も持たなかったらしい。
はたして、ルイーンはどのような表情をもって私の前に現れるのか?
私に貸しを作ったことで気格が傷付けられたような気にでもなり、やりきれぬ憤怒を内に抱えた悪鬼の顔で睨み据えてくるのか。
はたまた、表面だけでも私の上を取ろうと、見え透いた高慢ちきで誤魔化しを入れてくるのか。
私は内心で、彼女がどのような態度をもって私たちの前に現れるのかということを、好奇心もあり、この頃ふとしたときに思索していたのだが――。
私の想像していた予測は、掠りもせずに悉く外れた。
――彼女はなんと、一点の曇りも無い優越意識の表情を持って、私たちの前に現れたのだ。
優越意識。
怒りや引け目など微塵も見せずに、『私は選ばれたのだ』という選民思想のみをもって、その醜く歪んだ曇りなき笑顔の表情で私たちの前に現れた。
……もし神が在るというのなら。
どうして、彼女のような存在を産み落としたのか。
つい柄にもなく、私は神の在り様なぞに思いを馳せてしまった。
「ふうン、なかなかいいところじゃない」
下趣味な色の鞍が設えられた馬から降りると、ルイーンは私たちのほうになど目線もやらずに、私たちが切り開いた集落を見渡した。
「まあ、いいんじゃない? 何もない難民地みたいな辺境だったらどうしてくれようと思ったけれど、まあ、とりあえず合格ね」
――およそ人間に向けるものではない視線をルイーンに向け、呆気に取られた面持ちで固まるエルーナを、背の後ろに隠した。
「……ようこそ。何もないところだが、まあ、好きにしてくれ」
言うと、やっとルイーンはこちらに顔を向け、汚物でも見るような視線を私たちに向けた。
「フン」
それだけだった。
それで終わりとばかりに集落に視線を戻し、実り豊かな畑の成果に感嘆を上げる配下の姿を眺めながら、彼女は太陽光が射し込んだと錯覚するような、希望に満ち溢れた輝かしい表情を浮かべて、心の籠った声を発した。
「ここから、私の新しい生活が始まるのね――」
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