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「ノア。……本当に、よろしいのですか?」

 勇み足で帰路を歩み始めた兵二人の背が見えなくなったところで――エルーナがぽつりと、私の腕を抱きながら、問うた。
 私は頷いた。

「いいのさ。これでいい。心配事もあるしな」
「そうですか。ノア、貴方がそう決めたのなら、何も言いません」
「名残り惜しいかい? 確かに、ここでのゆったりとした生活も素敵だった」

 言うと、エルーナは私を見上げて、花の如くの微笑みを浮かべた。

「私は、どこまででもノアのお供であり続けます」

 ――私はこれで十分だよ。
 この頃は、これ以上の他の何を望むのも、過ぎたるもののように感じているよ。

「――では、残り僅かなこの生活を楽しむとしようか」
「ええ。今まで通り、ゆっくりと暮らしましょう」

 ……名残り惜しい、か。
 それは、私がそう感じていることだな。

 本当に、ここでの生活は、これはこれで最高に素敵なものだった。

 ……少しだけ。私の中にも確かにある心情。
 ここを離れたくないという気持ちがないかと言えば、それは、嘘になる。

「――さて、今日は木の実を合成して果実でも作ってみるかな。林檎でも作ってみるか」
「……ノア。正直に答えてほしいのですが、共に在るという以外で、私がお役に立てた場面がはたしてあったでしょうか……?」
「はは、何を言う。沢山あったよ。何とは言わない」
「も、もうっ!」

 エルーナにぽこんと叩かれると、私の一抹の寂しさも、途端に吹き飛んでしまった。
 ――まあ、どこでもやっていけるさ。
 辺境の未開ですら、人の営みのある地に開拓せしめた私たちなのだから。

 
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