偽物の女神と陥れられ国を追われることになった聖女が、ざまぁのために虎視眈々と策略を練りながら、辺境の地でゆったり楽しく領地開拓ライフ!!

銀灰

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【追放】・1

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 人々は落胆と焦燥に暮れていた。
 やり場のない苛立ちが充満し張り詰めているのが、肌で感じ取れる。

 豊穣頂きの日。半年に一度行われる大収穫の日であるはずの今日の収穫も、優れたるものとは言い難い成果であった。
 かつては毎年の大豊作を誇っていたこの国だったが、今やその繁栄の象徴たる実りはなりを潜め、この頃は細々としたものだった。

(土地の力が弱まっているのだ……)

 こればかりはどうしようもない。
 ここは国土の民全てをもって一意奮闘し問題に当たるべき局面であったが、現実はそんな精力満ちた旗揚げとは対極のように醜く、現状に不平不満を述べるだけの輩ばかりが溢れているというのが現状だった。

「女神様が……」
「女神様の力が……」
「あのお方の力不足で……」

 街中に流れる、ねばつき湿ったくぐもり声。
 そしてそれは下級の民のみならず、王宮内でも聞こえてくる誹謗でもあった。

「……ノア様」

 付きじょのエルーナが顔を曇らせ私を見上げる。
 私は彼女の頭に手を置き――無言でいることしかできない。

「やはり聖女が……」
「女神の力が枯渇しているとしか……」

 ――民ならともかく、指揮を取るべき王宮の者がこれとは。
 エルーナの心配も然るべくというものだった。


 そして、それは起こった。


 新たな聖女が現れたと聞いたとき、私は首を傾げるばかりだった。後から考えてみれば、我ながら間抜けなものだった。
 聖女が現れたのならすぐに分かる。同じ根源たる力同士が反発し、お互いを見つけ合うからだ。

 だが新たな聖女の事情は、想像しうる限りに愚かな、馬鹿者の策であった。

「……ルイーンか」

 あの欲深な女が聖女として目覚めたという戯言を聞いたとき、私は全てを理解し、思わずその愚かに顔を手で覆い隠した。

 ルイーン。
 出世欲や自己顕示欲、あらゆる欲に塗れた王宮令嬢のあの女が『聖女である』と名乗り出た無謀に、王宮が耳を傾けた理由。それはお為ごかしのために他ならなかった。

 つまり、新たな聖女の降臨という報をもって、一時的にでも国民を安心させようという稚拙である。

 信じがたい文脈の稚拙ではあったが。
 どうやらそれが、この国の現実であるらしかった。

「……この国土も、ここまでか」

 額を押え呟いたちょうどそのとき、バタンと大きな音を立てて、女神の間の扉が開いた。

  
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