婚約破棄された聖女がモフモフな相棒と辺境地で自堕落生活! ~いまさら国に戻れと言われても遅いのです~

銀灰

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【一】

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 生まれながらに、その身に聖なる女神の力を宿した現人神、聖女。
 それは人生に酷烈たる天命を負った、神と人に献身の奉じを約束した存在です。

 私は生まれたそのときから、それに一片の疑いも抱かずに、人々へ尽くしてきました。

 支える者としての自覚とお役目への傾注を忘れることなく、毎日祈りを欠かさず国土を結界で守り、悩める者へ手を差し伸ばし、お国の祭り事にさえ尽力の協力を捧げて――。


「ルールゥ、君に婚約破棄を言い渡す」


 ――だというのにどうして、こんな日が来てしまったのでしょう……?

 私は皇子様から突然宣告されたそれに、硬直を返すことしかできませんでした……。

「皇子様、どうして……?」

 お腹の下辺りにかろうじて残っていた僅かな力を振り絞り、やっとのことで形にした声は、か細く消え入るようでした。

 皇子様は、異物を見るような視線で私を見下ろしながら、冷たく言い放ちました。

「ルールゥ、近日中、お前の聖女としての責務が解かれる」
「え!?」
「もはやお前の役目に意味が生じなくなったからだ」
「ど、どういうこと……ですか……?」
「いいか」

 皇子様は苛立ちを表情に浮かべながら、私に滔々と講釈をしてくださいました。

「敵国もない、野生動物の脅威も、近年では無いに等しいものになった。故に今や、国土を守る結界にはなんの意味もなくなった。お前は技術発展の影に埋もれ、忘れ去られつつあるのだ」
「――で、ですが……!」

 私は必死で皇子様を見上げました。

「ですが……私は、悩みに苦しむ民へ手を差し伸べねばなりません。それが聖女のお役目ですから……!」
「だから――民も、お前に力を借りずともやっていけるようになっているのだ!」

 ますます苛立ちを露わにしながら、皇子は私を睨みました。

「技術発展の影に埋もれ、忘れ去られてゆく。――その有り様が一番顕著であるのが、町で暮らすあまねく民なのだッ」
「――そ、そんな……」

 顔を真っ青に染める私へ、皇子はとどめとばかりに、先程から苛立ちを露わにしている理由を語りました。

「いいか? 今この国は、お前を祭り上げすぎたおかげで、国政の威信が失墜しようとしている。転落の象徴であるお前を、アイコンとして掲げ上げてきた、そのおかげで!」
「な――ッ」
「そしてお前と婚約を結んでいる私の立場はどうなる!? まるで陰気な貧乏神に取り憑かれたような有様じゃあないかッ。――理由は分かったな?」
「…………!」

 私は度肝を抜かれた表情を浮かべながら、皇子からの最終宣告を受け取りました。

「お前とは婚約破棄をする。以後、私に少しでも親しげな様子を向けるな。――いいな?」

 
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