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第四幕&終幕
「オレの前におまえを跪かせてやる。」~最凶の式神と最強の陰陽師~
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第四幕
有翼獅子を穏行させて疾風が降り立ったのは、ビルとビルの間の細い路地だった。そこから、かなり長い間歩き回って追手がいないことを確認し、最終的に疾風が向かったのは、自分が通う中学校だった。
なぜここに、という顔をした螢惑に
「金あっても、中学生じゃホテルとか泊まれねーし。だからって、一晩外で過ごすわけにもいかねーし。凍死する。」
と、疾風は答えた。
「ガキって不便だよなー。でも、泊まれたとしても、零課にばれるから、駄目か。おたずね者ってつらいなー。」
と、ぼやく。危機感はあるようだが、悲愴感はない。こいつは、状況がわかっているのかと、螢惑は首をひねった。
そんな螢惑の心情には全く気づいていないようで、疾風は、足早に体育館へ向かう。街中を歩き回っていた時間が長かったので、既に日は沈みかけている。校庭の木々は、葉が落ち、枝だけになったシルエットを、寒空に浮かび上がらせている。
土曜日に活動している部も、とっくに帰った時間だった。当然、体育館は施錠されているはずなのだが。
「体育館の倉庫の鍵、壊れてるんだ。」
あまり学校に来ていないくせに、そういうことだけは知っている。校舎には警報が設置されており、不法侵入しようものなら、警備会社の人間が飛んでくるが、体育館にはそれはない。
鍵が壊れているのは、大人なら胴体が通らない小窓で、だからこそすぐに直さず放置されていたようだが、細身の疾風はぎりぎり入れた。窓から、倉庫に敷かれていたマットの上に、身軽に跳び下りる。
螢惑は霊体にもどったので、何の問題もない。
「これで朝まではゆっくりできるな。」
と、疾風はうーんと伸びをした。マットの上にすとんと座り、跳び箱にもたれた。
小窓から差し込む夕日が、倉庫を朱色に染め上げている。
螢惑は、疾風を見下ろし、感情の読み取れない低い声で尋ねた。
「小僧、これからどうするつもりだ?」
「メシ食って寝る。」
疾風の答えは、刹那的だった。途中で調達した食料の入ったコンビニの袋は、自分が入るより先に小窓から投げ入れていた。それを引き寄せて、パンの袋を開ける。育ちざかりらしい旺盛な食欲で、あっという間に平らげた。
螢惑は、そんなことを聞いてはいない、と言いたげに眉をひそめた。
この子どもは、けして愚かではない。理解していないはずがない。
螢惑を零課に差し出さなければ、疾風の未来には破滅しかないことを。
螢惑は、この時代の陰陽師の力が、侮れるものではないことを知った。
白の王祖は、陰陽師の力は衰退したと嘆いていた。しかし、時代を経て、失われた力もあれば、磨かれた技術もある。
疾風の兄が使った禁呪は、長い年月をかけて織り上げられた術。あれは、雪比古一人の力で練り上げたものではない。おそらく、あの短剣には、百人近い術者の執念がこもっている。不測の事態に備えて、蓄えられてきた力。使った反動で、寿命の数年分は吹っ飛ぶ。
自らの命を代償にしてでも、螢惑を…この世に仇為す災禍を食い止めようとする、高潔な志が、そこにはある。
それは、かつて、命を賭して螢惑を異界に封じた、五百年前の陰陽師たちと同じ魂だ。
年端もいかぬ子ども一人で立ち向かって、どうなるものではない。
「小僧、貴様、俺のために全てを捨てる気か?」
「オレは、おまえの主だ。」
青い目が、螢惑を射抜いた。
全てをなぎ倒していく、嵐のような激しさで。
螢惑の胸を穿つ。
螢惑は、息を詰めた。
知っていると思った。
この瞳を。
いつか、どこかで。
螢惑が答えをつかむ前に、疾風が言葉を継いでいる。
「おまえのことは、オレが決める。それを邪魔するなら、零課も敵だ。」
「…狂気の沙汰だな。」
螢惑は、冷たく嘲笑ったつもりだった。けれど、ひどく力の無い呟きとなってこぼれ落ちた。
疾風は、フンと不敵に笑う。
「そういうオレを選んだのは、おまえだろ。責任とって、付き合えよ。最後まで。」
最後、が何を指すのか、螢惑は問いただそうとして、ためらう。
世界の終わりのような、血で染めたような夕日が、空間を満たしている。
疾風は、螢惑をまっすぐに見上げたまま、目を反らさない。
視線で縫い止められたように、螢惑は微動だにしない。
青と紅の視線は、強く絡んだまま、ほどけない。
☆
螢惑は、跳び箱にもたれ、マットの上に座っている。
霊体なので、かける体重があるわけでもないのだが。
その傍らで、疾風は丸くなって眠っている。すうすうと、穏やかな寝息をたてて、ぐっすりと深い眠りに落ちている。仔猫のようだと、螢惑は思う。細い月明かりしか差し込まないが、螢惑の目には何の問題もなく、疾風の寝顔が映る。
強気な眼光を放つ双眸が閉じられているせいか、あどけないと言えるほどに幼く無邪気だ。
この状況でよく熟睡できるものだと螢惑は呆れる。
呑気なのか豪胆なのか。
(その気になれば、俺がおまえを殺すことなど造作もないと、知っているだろう、小僧。)
螢惑が一国を滅ぼし、何万という人間を殺したことも。
眠っている疾風が、かすかに身じろぎした。
額が、螢惑の手首に触れる。
霊体の状態で、触感があるわけでもないのに、螢惑はびくりと肩を揺らした。
手首を持ち上げて、まじまじと見つめる。
疾風の小さな手の熱さが、螢惑の手首にはっきりと刻まれている。
消えない熾火のように、燃え続けて。
『来い、螢惑!!』
魂に突き刺さる叫びが、螢惑の胸にまだ響いている。
螢惑は、手を下ろして、疾風の髪に触れた。髪を梳くように撫でる。
どうして、そんなことをしているのか、螢惑自身にもわからない。
霊体の手が触れたところで、何の意味もないというのに。
それなのに、疾風のまぶたが、かすかに動いた。
「…ん…?」
と、小さな吐息をもらして、疾風が目を開ける。
半覚醒で、とろんとしていた漆黒の目だが、すぐにいつもの鋭さをとりもどし、螢惑を見上げる。
視線が重なったとき、螢惑は唐突に気づいた。
劫炎の目と同じだと。
似ているのだ、この烈しさが。
生まれも育ちも全く違う。だから抱えているものも、性根も違うし、姿かたちにも似たところは無い。
ただ、己が破滅しようとも、意志を貫き通す苛烈さがそっくりだった。
衝撃に表情を凍らせた螢惑に、疾風は何を読み取ったのだろう。寝転んだまま、
「おまえさあ。」
と、不機嫌そうにすがめた目が、かすかに青みがかっている。深い藍に。
「今、誰か別のやつのこと、考えてただろ。」
空恐ろしくなるほどの勘の良さは、疾風が常に雪比古と比べられてきたせいか。自分を通して兄を見る視線ばかりだったゆえの。
「おまえを作ったやつか?」
螢惑は、鼻先で嗤ってみせた。
「だったら何だ?妬いているのか?」
「悪いか?」
慌てふためいて否定するだろうと踏んでからかった言葉を、平然と切り返されて、螢惑は絶句する。
「…許してやるけど。今のおまえの主はオレなんだから。」
疾風は、拗ねたように唇をとがらせた。
「螢惑召喚、急急如律令。」
疾風は、いきなり螢惑を実体化させる。
何の意味があるのかと、螢惑は戸惑う。
疾風は、螢惑に身を寄せる。仔猫がすり寄るような、幼さを感じさせる動きだった。螢惑の着物の袖を握りしめる。
「逃がさねえから。」
螢惑は、息をついた。
「くだらん。霊力は温存しろ。ここで無駄に消費するのは愚かの極みだ。」
「馬鹿で悪かったな。」
と言いつつも、螢惑の言葉が正論なのは認めたのか、疾風が螢惑の実体化を解く。
何かに気づいたように、瞬きしてぽつりと呟いた。
「なんか、あったかいけど…これって、おまえの力か?」
螢惑は答えなかったが、疾風は勝手に納得した。螢惑が、熱を操って、この場の温度を上げているのだと。そうでなければ、火の気のない真冬の体育館は、しんしんと冷えているはずだ。
螢惑の隣にいると、ぽかぽかと体の芯から温まる。春の日だまりのような、穏やかで心地よいぬくもりだ。
「ありがとな。」
「!」
螢惑は、ずきりと胸に走った痛みに、声を失う。
刃物で刺されたように、鋭く胸を抉られたのに、それはひどく甘い疼きで。
混乱している螢惑を置き去りに、疾風はそのまま、目を閉じる。降り注ぐ日差しを浴びているような暖かさが、まどろみを誘ったか。しばらくすると、穏やかな寝息が聞こえてくる。
睡眠もたっぷりと必要な、成長期の子どもらしい姿。丸みを帯びた頬。螢惑は、疾風を腕に抱えたときの軽さを思い出す。
この少年は、本当に十二、三年しか生きていないのだと気づかされる。初めから十五、六歳の見た目で作られ、そのまま五百年を過ごした自分とは違うのだと。
そして、自分を創りだした異端の陰陽師、劫炎とも。
己を認めなかった世界の全てを憎んで呪って、滅ぼすことだけを望んでいた孤独な主。
病魔に侵されていた彼に、未来はなかった。そして、劫炎には、彼を待つ家族も、友人もいなかったのだ。
(おまえは、劫炎とは違う。だから。)
☆
スマートフォンが、大音量で鳴りだして、疾風は飛び起きた。
電源は切っておいたはずだった。
しかし、零課から支給されているスマートフォンには、強制的に電源が入るのだ。
緊急招集の時には。
「緊急招集、緊急招集。零課に所属する全陰陽師に通達。零課本部に、レベルSの異形の襲撃。至急、零課本部に集結せよ。繰り返す。零課に所属する全陰陽師に…。」
眠気が吹き飛んだ。
緊急招集など、十年に一度あるかどうかという異常事態だ。
「レベルSの異形なんて、滅多に出るもんじゃねえだろ。おい、螢惑、これって。」
と顔を上げた疾風は、凍りついた。
螢惑の姿は、どこにもなかった。
がん、と、疾風は拳を壁に叩き付ける。
「…ふざけんなよ。」
その声は、地獄の底から響いて来るように低かった。
☆
疾風が駆け付けたとき、零課本部ビルは、戦闘機で爆撃されたかのような惨状だった。
窓ガラスは吹っ飛び、壁には穴と亀裂だらけ。倒壊こそしていないが、それも時間の問題かもしれなかった。
「うそだろ…。」
疾風の声が上ずる。
公安の最暗部、零課本部は最新鋭の防衛システムが導入されている。それも、対兵器用だけではなく、異形の者の攻撃を防ぐ霊的守護も強固に。
呆然とビルを見上げて、疾風はその場に崩れ落ちそうになった。
ビルの屋上。
真冬の風に翻る銀色の髪が、朝の日射しを冷たくはね返す。
純白の着流しの袖を風に遊ばせ、螢惑が悠然と疾風を見下ろしていた。
「螢惑!!」
疾風が叫ぶ。届かないと知って、それでも喉が裂けるほどの声で吠えた。
防弾ガラスが吹き飛んだ入口から、ビルの中に駆けだす。
内部も、このビルだけ大地震が襲ったかのような、ひどい有様だった。
デスクもロッカーも薙ぎ倒され、大量の書類が舞っている。あちこち焼け焦げ、煙が上がっている。
そして、床に倒れ伏す、スーツ姿の男女。
無傷の者はいない。皆、血を流し、うめき声を上げ、それでも、ピクリとも動かない者はいない。
疾風は、その中の一人に駆け寄った。
「雪比古!!」
「疾風…。」
雪比古は、弱々しい笑みを浮かべた。あおむけに倒れたまま。
疾風は、とっさに言葉が出ない。「大丈夫か。」の一言さえ。
兄が倒れるほどのダメージを負っているところなんて、初めて見た。想像したことすらなかった。
疾風が知る雪比古は、天才だった。
疾風がどれほど努力しようとも、雪比古を知る者は、皆、口をそろえて言った。
『その術、雪比古はもっと幼い頃に会得していた。』
『兄弟と言えど、格が違う。』
『比べものにならない。』
と。両親でさえ、雪比古と比べれば凡庸な疾風に無関心だった。優秀な長男さえいれば、天璃の家は安泰で、疾風は必要なかったのだ。
その兄が、全身を血に染めて横たわっている。疾風は、今まで当たり前だと思っていた世界が、足元から崩壊していく気がした。
「なんで…雪比古は、禁呪で螢惑を縛っただろ…もう一回、使えば…。」
螢惑がやったのかと、疾風は尋ねなかった。雪比古をここまで追い詰められる相手など、ただ一人しかいない。
雪比古は苦笑し、それが傷に響いて顔をしかめた。
「そう何度も簡単に使える術なら、禁呪なんて呼ばれないよ。」
あの禁呪は、緊急事態に備え、百年近い年月をかけて、数多くの陰陽師たちが呪を込めてきた代物なのだ。使い手も限られている上に、零課の中でも選りすぐりの陰陽師である雪比古でさえ、この短期間で連続して使えるものではない。
「おまえは、近くにいたくせに、あれの真価を理解していなかったのか。あれは、それほどの力でしか縛れない式神だ。おまえが、簡単に禁呪を解除できたのは、あの式神を縛ることに、禁呪の力の大半が消費されていたからだ。」
雪比古は、厳しい眼差しで疾風を見据えた。
兄としてではなく、この国の霊的守護を担う陰陽師として。
「おまえは、あれを封じる唯一の機会を台無しにした。いっときの愚かな感情で。」
その声は冷たくはなかった。ただ事実のみを率直に告げた。
疾風は、無言で唇をかみしめる。
雪比古は、激痛に耐えながら身を起こす。ぽたぽたと、鮮血が散った。疾風は手を貸そうとして、制された。
「いい。負傷者たちは、私が何とかする。おまえは、自分のなしたことに責任をとれ。陰陽師なら。」
疾風は、無言で頷いた。
背中に羽根でも生えているかのようなスピードで駆け去って行く。
雪比古もまた、無言で弟の背中を見送った。
☆
バサバサッと、力強く羽ばたく翼の音。
螢惑の上に、大きな影が落ちる。
屋上の柵の上に、まるで玉座に座るように腰かけていた螢惑が、顔を上げる。
赤い視線の先に、有翼獅子の背に乗る疾風。
螢惑が、ふっと笑う。一切の温度がない、氷のような、それでいて視線が反らせない美麗な笑み。
「来たか、小僧。」
「螢惑、おまえっ…おまえ、なんでっ!!」
激情に、疾風の声が詰まる。
対照的に、螢惑は落ち着き払っている。
「これは面白いことを言う。」
冷ややかに、真紅の目を細めて、ふわりと柵から下りる。音はない。今の螢惑は霊体だった。
「俺の目的は、初めから、全ての破壊と殺戮だ。」
「嘘だ!!」
疾風が有翼獅子の背から跳び下りた。螢惑の正面に立って見上げる。
澄んだ青い瞳。天を切り取ったかのような碧玉。
螢惑の紅玉の瞳と火花を散らす。
「…遊びは終わった。それだけだ。」
螢惑の手中に炎が生まれる。
「日輪破火。」
無造作に投げつけられたそれは、掌の中に隠せそうな小さな球だった。しかし、疾風は本能的に危険を察知し、大きく避ける。
炎の玉は、疾風が立っていた、コンクリートの床にぶつかる。
ぐら、と屋上全体が揺れた。
爆発。
轟音。
コンクリートの破片が弾け飛ぶ。
揺れが収まったとき、屋上の床に大穴が開いていた。
術の名の通り、寿命を終えた太陽が破裂したかのような。
(白の王祖のときと、全然違う…!)
疾風の背中に冷たい汗が流れる。
今、螢惑は、術の名を口にしていた。言霊は、呪術の基本。省くことなく術の名を口にしてこそ、本来の威力が出せる。裏を返せば、今まで螢惑は、全く本気ではなかったのだ。
螢惑は、疾風の動揺が収まるのを待つ気はなかった。
「次がいくぞ、小僧。日輪破火」
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ…。
螢惑の手から、次々生まれる炎の球が、ふわりふわりと、空中を漂う。
蒼穹に浮かぶ、紅蓮の光。幻想的なまでに美しい。それが命を奪うものでなければ、見惚れてしまいそうに。
火球が、疾風に向かう。
避けきれる数ではない。
疾風が、ぎりっと奥歯をかみしめ、重心を落とした。人差し指と中指を立てた、刀印を結ぶ。
光る指先で、空中に五芒星を描く。
「バン・ウン・タラク・キリク・アク!!」
光の星が完成したのと、火球がそれにぶつかったのが、全く同時。
火球が、光の星に阻まれて止まる。
しかし。
パキッと、ごく小さな音がした。
星の防御壁に、ひびが入った音。
火球はそのまま、星の壁を突き破ろうとしている。
疾風は、再び刀印を結んで星を描く。
「東方降三世夜叉明王、南方軍茶利夜叉明王、西方大威徳夜叉明王、北方金剛夜叉明王、中央二大日大聖不動明王!!」
新たな防御壁は、先程のものよりも厚く、強固だ。
疾風は、大きく肩で息をする。
早口で一気に唱えて息が切れたというより、五大明王の力を使う術に、霊力の消費が大きかったせいだ。
しかし、出し惜しみしていては、防げなかった。
ぽたぽたと、コンクリートに汗が散る。
弾かれた火球が、四方八方に飛び、ぶつかった先で爆発が起きる。
ドン、ドン、ドン、ドンと、続けざまに火の手が上がる。
爆風に、疾風の、そして螢惑の銀髪がなびく。
螢惑が、に、と唇の端をつり上げた。ゾッとするほど残酷に、血赤珊瑚に瞳が光る。
「それで、防いだつもりか?」
「え?」
螢惑が、ヒュッと指を振った。
疾風は、チリと、何かが燃える音を聞く。
とっさに振り向く。
疾風の背後に、火球が燃えていた。
「なっ…。」
うかつさに、ざっと血の気が引く。
火球は五つ。爆発は四回。
「臨。」
「間に合わん。」
螢惑の、無情の宣告。
バサッと、翼の舞う音。落ちる影。
閃光と爆音。
白く染まった視界が回復したとき、疾風は、有翼獅子に首筋をくわえられて、上空にいた。有翼獅子は、首を後ろに回し、ひょいっと器用に疾風を背に乗せる。
「主思いの式神だな。」
螢惑が皮肉っぽく笑っている。
「だが、それを出し続けるだけの霊力が残っているか?」
「…。」
疾風が、唇を引き結ぶ。
螢惑を見下ろす。何かが引っかかっている。けれど、深く考える時間はない。そして、螢惑の指摘通り、霊力に余裕はなかった。
有翼獅子は、主に従い、滑空して低い位置で止まった。疾風が屋上に跳び下りると、有翼獅子は、空気に溶けるようにすうっと消えた。
同時に、疾風は仕掛ける。防御に徹しても防ぎきれないのだから、攻撃に転じるしかない。ほとんど破れかぶれだ。
「オンバダロシヤ、キバの吹く息吐く息、地吹く風、空吹く風。下には不動の火災あり、上には五色の雲ありて、早吹き込んだぞ、伊勢の神風!!」
パンッと、甲高く鳴らされた柏手。
それは、突風、烈風というより、竜巻だった。いくつもいくつも、竜巻が生まれる。
霊力を帯びた、邪悪を吹き清める神風が、暴走する。
「業火絶壁。」
螢惑の周囲に炎の壁が生まれた。
風が炎を吹き飛ばし、炎が風を呑みこむ。
疾風が渾身の力をこめて生み出した風は、膠着状態を生み出しただけで、螢惑に何らダメージを与えてはいない。
しかし、疾風には、それで十分だった。
螢惑が、ほんの刹那、動きを止めてくれれば。
疾風が、自ら生み出した竜巻にとともに、焔の壁に突っ込んだ。
「!?」
螢惑がさすがに目を見開く。
全身を炎に炙られながら、
「螢惑召喚、急急如律令!!」
と叫んで、螢惑の腕をつかんだ疾風に対して。
「小僧、何を。」
「天地神明、我が請願に応えよ。速やかに次元の通路を開き、路をつなげ!!」
ぽっかりと空いた、時空の穴。
此岸と彼岸を分ける壁に、穿たれた扉。
疾風はそこに突っ込んだ。螢惑の手を強くつかんだまま。
☆
そこは、茜色の世界。
空は、沈みゆく夕日によって朱金の光に満ち、大地は咲き誇る彼岸花で紅緋に染まっている。
吹き渡っていく夕風が、疾風の黒髪と螢惑の白銀の髪を揺らしていく。
「貴様、どういうつもりだ。」
螢惑の声音は相変わらず冷たいが、そこに含まれる戸惑いに、疾風はもう気づいている。
疾風は、ゆっくりと周囲を見回した。
炎の壁に自ら突っ込んだわりに、火傷はそれほどひどくない。まとった神風が、疾風を守ったのだろう。だが、それだけではない。
「前来た時は、そんなこと考える余裕がなかったけど、ここって、きれいだけど、さびしい場所だな。」
誰もいない、永遠の夕暮れ。
「こんなとこに、一人でいるのは、さびしいだろ?」
疾風は、螢惑の手をつかんだまま、彼を見上げた。
「だから、一緒にいてやるよ。オレが、ずっと。」
螢惑が顔色をなくす。
「小僧、貴様、何を言っている。俺は。」
「ちょっと考えれば、おまえの行動が変なのはすぐわかるぜ。」
疾風が、螢惑の手首を握る手に、ぎゅっと力をこめた。
「おまえが本気出せば、零課のビルごと吹き飛んだはずなんだ。それなのに、負傷者はいても、死者はいない。それに、わざわざオレに声かけて、火球に気づかせた。そんな時間かせぎしなければ、有翼獅子がオレを助ける暇なんかなかったのに。それに、オレが炎に突っ込んだとき。」
「もういい。黙れ。」
螢惑が、疾風の手を振り払った。
「帰れ。」
それは、完璧な拒絶だった。
疾風の顔が蒼ざめる。
今の螢惑が、いちばん怖かった。
組み敷かれて首を絞められたときよりも、火球で攻撃されたときよりも。
「螢惑。」
震える声で、それでも呼ぶ疾風に、螢惑は突きつけた。
「貴様では、俺の主にはなれん。」
螢惑は疾風に背を向けて、告げる。
「貴様は弱い。」
歩き出したその足が止まったのは、疾風がその前に回り込んだからだ。
「だったら強くなってやるよ。」
ぎらぎらと、狂おしく輝く、紺碧の瞳。空より青く、海より深い。
覚悟と言えるほど、正しいものではない。けれど、譲れないもの。どうしても手放したくない執着が、その瞳の中に燃える。
「誰にも、おまえにも文句言わせないくらい強くなってやる。」
最凶の式神を御せる陰陽師だと、誰もが仰ぎ見るくらいに。
螢惑自身が、疾風を主だと認めるくらいに。
まっすぐに、螢惑を射抜く。縫い止める。痛みを覚えるほどに鋭利な視線で。
「オレの前に、おまえを跪かせてやる!!」
螢惑は、呆気にとられて、疾風を見つめ返し…笑った。
「はははははっ!」
生まれて初めて、腹の底から笑った。
螢惑は、す、と手を伸ばした。疾風の頬に触れる。
彼には似合わない、壊れ物に触れるような手つき。
疾風は、はっと息を詰めて螢惑を見返す。
怖気をふるうような美貌が、ひどく優しく見えた。
「ならば、最強の陰陽師になって、迎えに来い、疾風。」
「!!」
目の裏と、喉の奥が熱くなる。
歯を喰いしばってこらえようとしたけれど、駄目だった。口元が、ひくっと歪む。
疾風の青い目から、涙があふれた。
ぼろぼろと、頬を伝い、螢惑の手に雫が散る。
熱い涙だった。
夕日の朱色を閉じ込めて光る粒は、螢惑の目に、どんな宝玉よりも尊く映った。
☆
なんで、と思う。
なんで、今まで一度も呼んだことがなかったのに、最後の最後で名前を呼ぶのか。
(違う。)
と、疾風は、手の甲で涙を乱暴にぬぐって、顔を上げる。
「最後になんかするか…!!」
☆
「うわ、重っ!」
「やっぱり二人で行けよ。無理すると途中で袋破れて大惨事になりそーだぞ。」
「だなー。」
そうじ中の技術室での会話。
今日は、何クラスか木工の授業があり、木の板のごみが大量に出た。特別教室のそうじの割り当ては四人で、通常は、そのうち一人がごみ捨てだ。しかし、今日は二人で行くことになったので、教室に残ったのは二人だけ。
疾風は、六人がけの作業台をぞうきんで水ぶきしていて、思い出してしまった。
(この机だったか。)
螢惑に、この上に組み敷かれたのは、ほんの数日前のこと。まだ数日なのか、もう数日なのか。
(結局、あいつがオレのそばにいたのって、ほんの数日のことなんだよな。)
それなのに、ずっと一緒にいたような気がしている。
螢惑の姿を無意識に探していた自分に気づいて、愕然とするのだ。
「…璃、天璃ってば。」
目の前で、ひらひらと手をふられ、疾風は我に返る。
「なんだよ?」
「いや、最近元気ないからさー何かあったのかと思って。」
と、顔をのぞきこんで来る、クラスメート。
「なんもねーよ。」
と、答えながら、疾風は、いつも真っ先に声をかけてくるのはこいつだなと思う。補習が終わって帰ろうとしていたときも、ショッピングモールのフードコートでも。
「そうかー?失恋とかしてたりして。」
茶化しているようで、実は心配されているのだと伝わってくる。深刻にならない寄り添い方のうまいやつで、だからこそ、いつも自然と輪の中心にいるのだろう。
「睦月、おまえな。」
と、呆れて、疾風は、ふと真顔になった。
「失恋じゃねーけど、フラれたのは当たってるか。」
「え?」
「でも、いいんだ。」
と、疾風は不敵に笑う。
「迎えに行くって、約束したからな。」
そして、少年は最強を目指す。自分のためではなく、大切なただ一人のために。
終幕
世界に満ちる、茜色。
沈みかけた夕日は、けれど沈むことはなく、永遠に空を燃える緋色に彩っている。
咲き続ける、彼岸花。
時の止まった、永遠の夕暮れに、螢惑は一人佇む。
思い出す。この世界の中で、唯一青かったものを。
染まらずに輝いていた、稀有な宝玉。
なぜ、と螢惑は思う。
この異界にもどってから、幾度となく繰り返してきた問い。
破壊と殺戮の道具だったはずの自分が、なぜ、あの子どもを守りたいと思ったのだろうと。
初めは、利用するつもりだったのに。
心など、情などないはずの自分が、どうして絆されてしまったのだろう。
その答えは、もうすぐわかるのかもしれない。
「約束通り、迎えに来てやったぜ、螢惑。」
あの時より、声は少し低くなった。
目を合わせようとして、近くなった目線に驚かされる。
けれど、強気でまっすぐな青い瞳の輝きは、思い出の中と寸分違わぬもの。
「もう、小僧はやめろよ。」
螢惑は笑い、主の名を呼ぶ。
終
有翼獅子を穏行させて疾風が降り立ったのは、ビルとビルの間の細い路地だった。そこから、かなり長い間歩き回って追手がいないことを確認し、最終的に疾風が向かったのは、自分が通う中学校だった。
なぜここに、という顔をした螢惑に
「金あっても、中学生じゃホテルとか泊まれねーし。だからって、一晩外で過ごすわけにもいかねーし。凍死する。」
と、疾風は答えた。
「ガキって不便だよなー。でも、泊まれたとしても、零課にばれるから、駄目か。おたずね者ってつらいなー。」
と、ぼやく。危機感はあるようだが、悲愴感はない。こいつは、状況がわかっているのかと、螢惑は首をひねった。
そんな螢惑の心情には全く気づいていないようで、疾風は、足早に体育館へ向かう。街中を歩き回っていた時間が長かったので、既に日は沈みかけている。校庭の木々は、葉が落ち、枝だけになったシルエットを、寒空に浮かび上がらせている。
土曜日に活動している部も、とっくに帰った時間だった。当然、体育館は施錠されているはずなのだが。
「体育館の倉庫の鍵、壊れてるんだ。」
あまり学校に来ていないくせに、そういうことだけは知っている。校舎には警報が設置されており、不法侵入しようものなら、警備会社の人間が飛んでくるが、体育館にはそれはない。
鍵が壊れているのは、大人なら胴体が通らない小窓で、だからこそすぐに直さず放置されていたようだが、細身の疾風はぎりぎり入れた。窓から、倉庫に敷かれていたマットの上に、身軽に跳び下りる。
螢惑は霊体にもどったので、何の問題もない。
「これで朝まではゆっくりできるな。」
と、疾風はうーんと伸びをした。マットの上にすとんと座り、跳び箱にもたれた。
小窓から差し込む夕日が、倉庫を朱色に染め上げている。
螢惑は、疾風を見下ろし、感情の読み取れない低い声で尋ねた。
「小僧、これからどうするつもりだ?」
「メシ食って寝る。」
疾風の答えは、刹那的だった。途中で調達した食料の入ったコンビニの袋は、自分が入るより先に小窓から投げ入れていた。それを引き寄せて、パンの袋を開ける。育ちざかりらしい旺盛な食欲で、あっという間に平らげた。
螢惑は、そんなことを聞いてはいない、と言いたげに眉をひそめた。
この子どもは、けして愚かではない。理解していないはずがない。
螢惑を零課に差し出さなければ、疾風の未来には破滅しかないことを。
螢惑は、この時代の陰陽師の力が、侮れるものではないことを知った。
白の王祖は、陰陽師の力は衰退したと嘆いていた。しかし、時代を経て、失われた力もあれば、磨かれた技術もある。
疾風の兄が使った禁呪は、長い年月をかけて織り上げられた術。あれは、雪比古一人の力で練り上げたものではない。おそらく、あの短剣には、百人近い術者の執念がこもっている。不測の事態に備えて、蓄えられてきた力。使った反動で、寿命の数年分は吹っ飛ぶ。
自らの命を代償にしてでも、螢惑を…この世に仇為す災禍を食い止めようとする、高潔な志が、そこにはある。
それは、かつて、命を賭して螢惑を異界に封じた、五百年前の陰陽師たちと同じ魂だ。
年端もいかぬ子ども一人で立ち向かって、どうなるものではない。
「小僧、貴様、俺のために全てを捨てる気か?」
「オレは、おまえの主だ。」
青い目が、螢惑を射抜いた。
全てをなぎ倒していく、嵐のような激しさで。
螢惑の胸を穿つ。
螢惑は、息を詰めた。
知っていると思った。
この瞳を。
いつか、どこかで。
螢惑が答えをつかむ前に、疾風が言葉を継いでいる。
「おまえのことは、オレが決める。それを邪魔するなら、零課も敵だ。」
「…狂気の沙汰だな。」
螢惑は、冷たく嘲笑ったつもりだった。けれど、ひどく力の無い呟きとなってこぼれ落ちた。
疾風は、フンと不敵に笑う。
「そういうオレを選んだのは、おまえだろ。責任とって、付き合えよ。最後まで。」
最後、が何を指すのか、螢惑は問いただそうとして、ためらう。
世界の終わりのような、血で染めたような夕日が、空間を満たしている。
疾風は、螢惑をまっすぐに見上げたまま、目を反らさない。
視線で縫い止められたように、螢惑は微動だにしない。
青と紅の視線は、強く絡んだまま、ほどけない。
☆
螢惑は、跳び箱にもたれ、マットの上に座っている。
霊体なので、かける体重があるわけでもないのだが。
その傍らで、疾風は丸くなって眠っている。すうすうと、穏やかな寝息をたてて、ぐっすりと深い眠りに落ちている。仔猫のようだと、螢惑は思う。細い月明かりしか差し込まないが、螢惑の目には何の問題もなく、疾風の寝顔が映る。
強気な眼光を放つ双眸が閉じられているせいか、あどけないと言えるほどに幼く無邪気だ。
この状況でよく熟睡できるものだと螢惑は呆れる。
呑気なのか豪胆なのか。
(その気になれば、俺がおまえを殺すことなど造作もないと、知っているだろう、小僧。)
螢惑が一国を滅ぼし、何万という人間を殺したことも。
眠っている疾風が、かすかに身じろぎした。
額が、螢惑の手首に触れる。
霊体の状態で、触感があるわけでもないのに、螢惑はびくりと肩を揺らした。
手首を持ち上げて、まじまじと見つめる。
疾風の小さな手の熱さが、螢惑の手首にはっきりと刻まれている。
消えない熾火のように、燃え続けて。
『来い、螢惑!!』
魂に突き刺さる叫びが、螢惑の胸にまだ響いている。
螢惑は、手を下ろして、疾風の髪に触れた。髪を梳くように撫でる。
どうして、そんなことをしているのか、螢惑自身にもわからない。
霊体の手が触れたところで、何の意味もないというのに。
それなのに、疾風のまぶたが、かすかに動いた。
「…ん…?」
と、小さな吐息をもらして、疾風が目を開ける。
半覚醒で、とろんとしていた漆黒の目だが、すぐにいつもの鋭さをとりもどし、螢惑を見上げる。
視線が重なったとき、螢惑は唐突に気づいた。
劫炎の目と同じだと。
似ているのだ、この烈しさが。
生まれも育ちも全く違う。だから抱えているものも、性根も違うし、姿かたちにも似たところは無い。
ただ、己が破滅しようとも、意志を貫き通す苛烈さがそっくりだった。
衝撃に表情を凍らせた螢惑に、疾風は何を読み取ったのだろう。寝転んだまま、
「おまえさあ。」
と、不機嫌そうにすがめた目が、かすかに青みがかっている。深い藍に。
「今、誰か別のやつのこと、考えてただろ。」
空恐ろしくなるほどの勘の良さは、疾風が常に雪比古と比べられてきたせいか。自分を通して兄を見る視線ばかりだったゆえの。
「おまえを作ったやつか?」
螢惑は、鼻先で嗤ってみせた。
「だったら何だ?妬いているのか?」
「悪いか?」
慌てふためいて否定するだろうと踏んでからかった言葉を、平然と切り返されて、螢惑は絶句する。
「…許してやるけど。今のおまえの主はオレなんだから。」
疾風は、拗ねたように唇をとがらせた。
「螢惑召喚、急急如律令。」
疾風は、いきなり螢惑を実体化させる。
何の意味があるのかと、螢惑は戸惑う。
疾風は、螢惑に身を寄せる。仔猫がすり寄るような、幼さを感じさせる動きだった。螢惑の着物の袖を握りしめる。
「逃がさねえから。」
螢惑は、息をついた。
「くだらん。霊力は温存しろ。ここで無駄に消費するのは愚かの極みだ。」
「馬鹿で悪かったな。」
と言いつつも、螢惑の言葉が正論なのは認めたのか、疾風が螢惑の実体化を解く。
何かに気づいたように、瞬きしてぽつりと呟いた。
「なんか、あったかいけど…これって、おまえの力か?」
螢惑は答えなかったが、疾風は勝手に納得した。螢惑が、熱を操って、この場の温度を上げているのだと。そうでなければ、火の気のない真冬の体育館は、しんしんと冷えているはずだ。
螢惑の隣にいると、ぽかぽかと体の芯から温まる。春の日だまりのような、穏やかで心地よいぬくもりだ。
「ありがとな。」
「!」
螢惑は、ずきりと胸に走った痛みに、声を失う。
刃物で刺されたように、鋭く胸を抉られたのに、それはひどく甘い疼きで。
混乱している螢惑を置き去りに、疾風はそのまま、目を閉じる。降り注ぐ日差しを浴びているような暖かさが、まどろみを誘ったか。しばらくすると、穏やかな寝息が聞こえてくる。
睡眠もたっぷりと必要な、成長期の子どもらしい姿。丸みを帯びた頬。螢惑は、疾風を腕に抱えたときの軽さを思い出す。
この少年は、本当に十二、三年しか生きていないのだと気づかされる。初めから十五、六歳の見た目で作られ、そのまま五百年を過ごした自分とは違うのだと。
そして、自分を創りだした異端の陰陽師、劫炎とも。
己を認めなかった世界の全てを憎んで呪って、滅ぼすことだけを望んでいた孤独な主。
病魔に侵されていた彼に、未来はなかった。そして、劫炎には、彼を待つ家族も、友人もいなかったのだ。
(おまえは、劫炎とは違う。だから。)
☆
スマートフォンが、大音量で鳴りだして、疾風は飛び起きた。
電源は切っておいたはずだった。
しかし、零課から支給されているスマートフォンには、強制的に電源が入るのだ。
緊急招集の時には。
「緊急招集、緊急招集。零課に所属する全陰陽師に通達。零課本部に、レベルSの異形の襲撃。至急、零課本部に集結せよ。繰り返す。零課に所属する全陰陽師に…。」
眠気が吹き飛んだ。
緊急招集など、十年に一度あるかどうかという異常事態だ。
「レベルSの異形なんて、滅多に出るもんじゃねえだろ。おい、螢惑、これって。」
と顔を上げた疾風は、凍りついた。
螢惑の姿は、どこにもなかった。
がん、と、疾風は拳を壁に叩き付ける。
「…ふざけんなよ。」
その声は、地獄の底から響いて来るように低かった。
☆
疾風が駆け付けたとき、零課本部ビルは、戦闘機で爆撃されたかのような惨状だった。
窓ガラスは吹っ飛び、壁には穴と亀裂だらけ。倒壊こそしていないが、それも時間の問題かもしれなかった。
「うそだろ…。」
疾風の声が上ずる。
公安の最暗部、零課本部は最新鋭の防衛システムが導入されている。それも、対兵器用だけではなく、異形の者の攻撃を防ぐ霊的守護も強固に。
呆然とビルを見上げて、疾風はその場に崩れ落ちそうになった。
ビルの屋上。
真冬の風に翻る銀色の髪が、朝の日射しを冷たくはね返す。
純白の着流しの袖を風に遊ばせ、螢惑が悠然と疾風を見下ろしていた。
「螢惑!!」
疾風が叫ぶ。届かないと知って、それでも喉が裂けるほどの声で吠えた。
防弾ガラスが吹き飛んだ入口から、ビルの中に駆けだす。
内部も、このビルだけ大地震が襲ったかのような、ひどい有様だった。
デスクもロッカーも薙ぎ倒され、大量の書類が舞っている。あちこち焼け焦げ、煙が上がっている。
そして、床に倒れ伏す、スーツ姿の男女。
無傷の者はいない。皆、血を流し、うめき声を上げ、それでも、ピクリとも動かない者はいない。
疾風は、その中の一人に駆け寄った。
「雪比古!!」
「疾風…。」
雪比古は、弱々しい笑みを浮かべた。あおむけに倒れたまま。
疾風は、とっさに言葉が出ない。「大丈夫か。」の一言さえ。
兄が倒れるほどのダメージを負っているところなんて、初めて見た。想像したことすらなかった。
疾風が知る雪比古は、天才だった。
疾風がどれほど努力しようとも、雪比古を知る者は、皆、口をそろえて言った。
『その術、雪比古はもっと幼い頃に会得していた。』
『兄弟と言えど、格が違う。』
『比べものにならない。』
と。両親でさえ、雪比古と比べれば凡庸な疾風に無関心だった。優秀な長男さえいれば、天璃の家は安泰で、疾風は必要なかったのだ。
その兄が、全身を血に染めて横たわっている。疾風は、今まで当たり前だと思っていた世界が、足元から崩壊していく気がした。
「なんで…雪比古は、禁呪で螢惑を縛っただろ…もう一回、使えば…。」
螢惑がやったのかと、疾風は尋ねなかった。雪比古をここまで追い詰められる相手など、ただ一人しかいない。
雪比古は苦笑し、それが傷に響いて顔をしかめた。
「そう何度も簡単に使える術なら、禁呪なんて呼ばれないよ。」
あの禁呪は、緊急事態に備え、百年近い年月をかけて、数多くの陰陽師たちが呪を込めてきた代物なのだ。使い手も限られている上に、零課の中でも選りすぐりの陰陽師である雪比古でさえ、この短期間で連続して使えるものではない。
「おまえは、近くにいたくせに、あれの真価を理解していなかったのか。あれは、それほどの力でしか縛れない式神だ。おまえが、簡単に禁呪を解除できたのは、あの式神を縛ることに、禁呪の力の大半が消費されていたからだ。」
雪比古は、厳しい眼差しで疾風を見据えた。
兄としてではなく、この国の霊的守護を担う陰陽師として。
「おまえは、あれを封じる唯一の機会を台無しにした。いっときの愚かな感情で。」
その声は冷たくはなかった。ただ事実のみを率直に告げた。
疾風は、無言で唇をかみしめる。
雪比古は、激痛に耐えながら身を起こす。ぽたぽたと、鮮血が散った。疾風は手を貸そうとして、制された。
「いい。負傷者たちは、私が何とかする。おまえは、自分のなしたことに責任をとれ。陰陽師なら。」
疾風は、無言で頷いた。
背中に羽根でも生えているかのようなスピードで駆け去って行く。
雪比古もまた、無言で弟の背中を見送った。
☆
バサバサッと、力強く羽ばたく翼の音。
螢惑の上に、大きな影が落ちる。
屋上の柵の上に、まるで玉座に座るように腰かけていた螢惑が、顔を上げる。
赤い視線の先に、有翼獅子の背に乗る疾風。
螢惑が、ふっと笑う。一切の温度がない、氷のような、それでいて視線が反らせない美麗な笑み。
「来たか、小僧。」
「螢惑、おまえっ…おまえ、なんでっ!!」
激情に、疾風の声が詰まる。
対照的に、螢惑は落ち着き払っている。
「これは面白いことを言う。」
冷ややかに、真紅の目を細めて、ふわりと柵から下りる。音はない。今の螢惑は霊体だった。
「俺の目的は、初めから、全ての破壊と殺戮だ。」
「嘘だ!!」
疾風が有翼獅子の背から跳び下りた。螢惑の正面に立って見上げる。
澄んだ青い瞳。天を切り取ったかのような碧玉。
螢惑の紅玉の瞳と火花を散らす。
「…遊びは終わった。それだけだ。」
螢惑の手中に炎が生まれる。
「日輪破火。」
無造作に投げつけられたそれは、掌の中に隠せそうな小さな球だった。しかし、疾風は本能的に危険を察知し、大きく避ける。
炎の玉は、疾風が立っていた、コンクリートの床にぶつかる。
ぐら、と屋上全体が揺れた。
爆発。
轟音。
コンクリートの破片が弾け飛ぶ。
揺れが収まったとき、屋上の床に大穴が開いていた。
術の名の通り、寿命を終えた太陽が破裂したかのような。
(白の王祖のときと、全然違う…!)
疾風の背中に冷たい汗が流れる。
今、螢惑は、術の名を口にしていた。言霊は、呪術の基本。省くことなく術の名を口にしてこそ、本来の威力が出せる。裏を返せば、今まで螢惑は、全く本気ではなかったのだ。
螢惑は、疾風の動揺が収まるのを待つ気はなかった。
「次がいくぞ、小僧。日輪破火」
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ…。
螢惑の手から、次々生まれる炎の球が、ふわりふわりと、空中を漂う。
蒼穹に浮かぶ、紅蓮の光。幻想的なまでに美しい。それが命を奪うものでなければ、見惚れてしまいそうに。
火球が、疾風に向かう。
避けきれる数ではない。
疾風が、ぎりっと奥歯をかみしめ、重心を落とした。人差し指と中指を立てた、刀印を結ぶ。
光る指先で、空中に五芒星を描く。
「バン・ウン・タラク・キリク・アク!!」
光の星が完成したのと、火球がそれにぶつかったのが、全く同時。
火球が、光の星に阻まれて止まる。
しかし。
パキッと、ごく小さな音がした。
星の防御壁に、ひびが入った音。
火球はそのまま、星の壁を突き破ろうとしている。
疾風は、再び刀印を結んで星を描く。
「東方降三世夜叉明王、南方軍茶利夜叉明王、西方大威徳夜叉明王、北方金剛夜叉明王、中央二大日大聖不動明王!!」
新たな防御壁は、先程のものよりも厚く、強固だ。
疾風は、大きく肩で息をする。
早口で一気に唱えて息が切れたというより、五大明王の力を使う術に、霊力の消費が大きかったせいだ。
しかし、出し惜しみしていては、防げなかった。
ぽたぽたと、コンクリートに汗が散る。
弾かれた火球が、四方八方に飛び、ぶつかった先で爆発が起きる。
ドン、ドン、ドン、ドンと、続けざまに火の手が上がる。
爆風に、疾風の、そして螢惑の銀髪がなびく。
螢惑が、に、と唇の端をつり上げた。ゾッとするほど残酷に、血赤珊瑚に瞳が光る。
「それで、防いだつもりか?」
「え?」
螢惑が、ヒュッと指を振った。
疾風は、チリと、何かが燃える音を聞く。
とっさに振り向く。
疾風の背後に、火球が燃えていた。
「なっ…。」
うかつさに、ざっと血の気が引く。
火球は五つ。爆発は四回。
「臨。」
「間に合わん。」
螢惑の、無情の宣告。
バサッと、翼の舞う音。落ちる影。
閃光と爆音。
白く染まった視界が回復したとき、疾風は、有翼獅子に首筋をくわえられて、上空にいた。有翼獅子は、首を後ろに回し、ひょいっと器用に疾風を背に乗せる。
「主思いの式神だな。」
螢惑が皮肉っぽく笑っている。
「だが、それを出し続けるだけの霊力が残っているか?」
「…。」
疾風が、唇を引き結ぶ。
螢惑を見下ろす。何かが引っかかっている。けれど、深く考える時間はない。そして、螢惑の指摘通り、霊力に余裕はなかった。
有翼獅子は、主に従い、滑空して低い位置で止まった。疾風が屋上に跳び下りると、有翼獅子は、空気に溶けるようにすうっと消えた。
同時に、疾風は仕掛ける。防御に徹しても防ぎきれないのだから、攻撃に転じるしかない。ほとんど破れかぶれだ。
「オンバダロシヤ、キバの吹く息吐く息、地吹く風、空吹く風。下には不動の火災あり、上には五色の雲ありて、早吹き込んだぞ、伊勢の神風!!」
パンッと、甲高く鳴らされた柏手。
それは、突風、烈風というより、竜巻だった。いくつもいくつも、竜巻が生まれる。
霊力を帯びた、邪悪を吹き清める神風が、暴走する。
「業火絶壁。」
螢惑の周囲に炎の壁が生まれた。
風が炎を吹き飛ばし、炎が風を呑みこむ。
疾風が渾身の力をこめて生み出した風は、膠着状態を生み出しただけで、螢惑に何らダメージを与えてはいない。
しかし、疾風には、それで十分だった。
螢惑が、ほんの刹那、動きを止めてくれれば。
疾風が、自ら生み出した竜巻にとともに、焔の壁に突っ込んだ。
「!?」
螢惑がさすがに目を見開く。
全身を炎に炙られながら、
「螢惑召喚、急急如律令!!」
と叫んで、螢惑の腕をつかんだ疾風に対して。
「小僧、何を。」
「天地神明、我が請願に応えよ。速やかに次元の通路を開き、路をつなげ!!」
ぽっかりと空いた、時空の穴。
此岸と彼岸を分ける壁に、穿たれた扉。
疾風はそこに突っ込んだ。螢惑の手を強くつかんだまま。
☆
そこは、茜色の世界。
空は、沈みゆく夕日によって朱金の光に満ち、大地は咲き誇る彼岸花で紅緋に染まっている。
吹き渡っていく夕風が、疾風の黒髪と螢惑の白銀の髪を揺らしていく。
「貴様、どういうつもりだ。」
螢惑の声音は相変わらず冷たいが、そこに含まれる戸惑いに、疾風はもう気づいている。
疾風は、ゆっくりと周囲を見回した。
炎の壁に自ら突っ込んだわりに、火傷はそれほどひどくない。まとった神風が、疾風を守ったのだろう。だが、それだけではない。
「前来た時は、そんなこと考える余裕がなかったけど、ここって、きれいだけど、さびしい場所だな。」
誰もいない、永遠の夕暮れ。
「こんなとこに、一人でいるのは、さびしいだろ?」
疾風は、螢惑の手をつかんだまま、彼を見上げた。
「だから、一緒にいてやるよ。オレが、ずっと。」
螢惑が顔色をなくす。
「小僧、貴様、何を言っている。俺は。」
「ちょっと考えれば、おまえの行動が変なのはすぐわかるぜ。」
疾風が、螢惑の手首を握る手に、ぎゅっと力をこめた。
「おまえが本気出せば、零課のビルごと吹き飛んだはずなんだ。それなのに、負傷者はいても、死者はいない。それに、わざわざオレに声かけて、火球に気づかせた。そんな時間かせぎしなければ、有翼獅子がオレを助ける暇なんかなかったのに。それに、オレが炎に突っ込んだとき。」
「もういい。黙れ。」
螢惑が、疾風の手を振り払った。
「帰れ。」
それは、完璧な拒絶だった。
疾風の顔が蒼ざめる。
今の螢惑が、いちばん怖かった。
組み敷かれて首を絞められたときよりも、火球で攻撃されたときよりも。
「螢惑。」
震える声で、それでも呼ぶ疾風に、螢惑は突きつけた。
「貴様では、俺の主にはなれん。」
螢惑は疾風に背を向けて、告げる。
「貴様は弱い。」
歩き出したその足が止まったのは、疾風がその前に回り込んだからだ。
「だったら強くなってやるよ。」
ぎらぎらと、狂おしく輝く、紺碧の瞳。空より青く、海より深い。
覚悟と言えるほど、正しいものではない。けれど、譲れないもの。どうしても手放したくない執着が、その瞳の中に燃える。
「誰にも、おまえにも文句言わせないくらい強くなってやる。」
最凶の式神を御せる陰陽師だと、誰もが仰ぎ見るくらいに。
螢惑自身が、疾風を主だと認めるくらいに。
まっすぐに、螢惑を射抜く。縫い止める。痛みを覚えるほどに鋭利な視線で。
「オレの前に、おまえを跪かせてやる!!」
螢惑は、呆気にとられて、疾風を見つめ返し…笑った。
「はははははっ!」
生まれて初めて、腹の底から笑った。
螢惑は、す、と手を伸ばした。疾風の頬に触れる。
彼には似合わない、壊れ物に触れるような手つき。
疾風は、はっと息を詰めて螢惑を見返す。
怖気をふるうような美貌が、ひどく優しく見えた。
「ならば、最強の陰陽師になって、迎えに来い、疾風。」
「!!」
目の裏と、喉の奥が熱くなる。
歯を喰いしばってこらえようとしたけれど、駄目だった。口元が、ひくっと歪む。
疾風の青い目から、涙があふれた。
ぼろぼろと、頬を伝い、螢惑の手に雫が散る。
熱い涙だった。
夕日の朱色を閉じ込めて光る粒は、螢惑の目に、どんな宝玉よりも尊く映った。
☆
なんで、と思う。
なんで、今まで一度も呼んだことがなかったのに、最後の最後で名前を呼ぶのか。
(違う。)
と、疾風は、手の甲で涙を乱暴にぬぐって、顔を上げる。
「最後になんかするか…!!」
☆
「うわ、重っ!」
「やっぱり二人で行けよ。無理すると途中で袋破れて大惨事になりそーだぞ。」
「だなー。」
そうじ中の技術室での会話。
今日は、何クラスか木工の授業があり、木の板のごみが大量に出た。特別教室のそうじの割り当ては四人で、通常は、そのうち一人がごみ捨てだ。しかし、今日は二人で行くことになったので、教室に残ったのは二人だけ。
疾風は、六人がけの作業台をぞうきんで水ぶきしていて、思い出してしまった。
(この机だったか。)
螢惑に、この上に組み敷かれたのは、ほんの数日前のこと。まだ数日なのか、もう数日なのか。
(結局、あいつがオレのそばにいたのって、ほんの数日のことなんだよな。)
それなのに、ずっと一緒にいたような気がしている。
螢惑の姿を無意識に探していた自分に気づいて、愕然とするのだ。
「…璃、天璃ってば。」
目の前で、ひらひらと手をふられ、疾風は我に返る。
「なんだよ?」
「いや、最近元気ないからさー何かあったのかと思って。」
と、顔をのぞきこんで来る、クラスメート。
「なんもねーよ。」
と、答えながら、疾風は、いつも真っ先に声をかけてくるのはこいつだなと思う。補習が終わって帰ろうとしていたときも、ショッピングモールのフードコートでも。
「そうかー?失恋とかしてたりして。」
茶化しているようで、実は心配されているのだと伝わってくる。深刻にならない寄り添い方のうまいやつで、だからこそ、いつも自然と輪の中心にいるのだろう。
「睦月、おまえな。」
と、呆れて、疾風は、ふと真顔になった。
「失恋じゃねーけど、フラれたのは当たってるか。」
「え?」
「でも、いいんだ。」
と、疾風は不敵に笑う。
「迎えに行くって、約束したからな。」
そして、少年は最強を目指す。自分のためではなく、大切なただ一人のために。
終幕
世界に満ちる、茜色。
沈みかけた夕日は、けれど沈むことはなく、永遠に空を燃える緋色に彩っている。
咲き続ける、彼岸花。
時の止まった、永遠の夕暮れに、螢惑は一人佇む。
思い出す。この世界の中で、唯一青かったものを。
染まらずに輝いていた、稀有な宝玉。
なぜ、と螢惑は思う。
この異界にもどってから、幾度となく繰り返してきた問い。
破壊と殺戮の道具だったはずの自分が、なぜ、あの子どもを守りたいと思ったのだろうと。
初めは、利用するつもりだったのに。
心など、情などないはずの自分が、どうして絆されてしまったのだろう。
その答えは、もうすぐわかるのかもしれない。
「約束通り、迎えに来てやったぜ、螢惑。」
あの時より、声は少し低くなった。
目を合わせようとして、近くなった目線に驚かされる。
けれど、強気でまっすぐな青い瞳の輝きは、思い出の中と寸分違わぬもの。
「もう、小僧はやめろよ。」
螢惑は笑い、主の名を呼ぶ。
終
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ここは貴方の国ではありませんよ
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傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
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裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
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いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
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古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
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※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
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