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第3話 ◆
しおりを挟む「しかし肝心なところがわからない。何をすれば扉が開くんだ……?」
「Σはっ……!」
感動とともにヴィクトルの横顔を見ていたリーゼはふと、雷に打たれたようにある事実に気がついた。
そうだ。ここは……この『らぶほてる』と言う場所は――
「ヴィクトルさまっ! この小さな城は、愛し合うもの同士が睦み合うための場所です!」
「は? あ、ああ? そ、そうらしいな……?」
「では、私たちも! ここで愛し合えば良いのではないでしょうかっ」
恥ずかしい気持ちを覚えつつ自分の考えを一気に捲し立てると、それを聞いたヴィクトルがぽかん、と口を開けて固まった。何を言っているのかわからない、といった様子で呆然と立ち尽くすヴィクトルと見つめ合ううちに、顔がじわじわと熱く火照ってくる。
「そういう場所ですもの。きっと……その……しっかり愛し合えば、扉も開くはずです!」
(※ ちがいます。お金払わないと開かないだけです)
「リーゼ? まだ陽が高いうちから、何を言ってるんだ……?」
ヴィクトルが驚愕の表情でリーゼを見つめる。呆れたような視線を向けられると、やはり「うう」と怯んでしまう。
もちろんリーゼも理解している。自分は今、とんでもない提案を口にしている。それはわかっているが、サナから事前に聞いた『らぶほてる』の情報と、今自分たちが置かれた状況を照らし合わせてみると、それ以外の正解は存在しない気がする。なぜならここは〝そういう場所〟だから。
それに。
「ヴィクトルさま、最近忙しくて、ゆっくりされてないじゃないですか……」
「……リーゼ」
「それに私も……夫婦の寝室がマリアさまの寝室のお隣では、ヴィクトルさまに甘えられません」
「それはすまない……そのうち部屋を移動しようとは思ってるんだが……」
マリア、というのは現在の王妃――つまりヴィクトルの母の名だ。
広い王城なので寝室には前室が設けられているし、隣室との距離もかなり離れている。だが警備や護衛の関係上、王家の面々が生活する場所は王城内のある区画に限定されており、ゆえに王妃の寝室の隣に王太子夫妻の寝室があるのも仕方のないこと。
それは十分理解しているつもりだが、義母が近くにいると思うとどうしてもヴィクトルに甘えられない。
だからリーゼにはこういう場所を利用したがる人々の気持ちがよくわかる。時には誰にも邪魔されない、見られない、聞かれない――誰にも知られない場所で、好きな人と存分に触れ合いたいと思う。
その機会を得られることは、本当は幸福なことなのだ。
じっと見つめ合うことでリーゼの感情が伝わったのだろう。そっと表情を緩めたヴィクトルの手が頬を包み込んで、輪郭をするすると撫でる。その優しい指遣いにリーゼもぴくっと反応してしまう。
本当は冷静な思考でゆっくりと文字を読み、正しい手順を取ればすぐにでも出られる部屋だというのに。熱の籠もった指先と絡み合う視線は、きっともう誰にも止められない。
* * *
「ん……んぅ……ぁ」
「はぁ……リーゼ……」
寝台の端に腰を下ろしたときからずっと貪り合っていた唇を離すと、互いの熱い吐息がじわりと混ざり合う。至近距離で見つめ合うことに照れていると今度は服の上から胸の膨らみを掴んで揉まれ、固く膨れあがった突起を布越しに擦り込まれた。
「あぅ……っ、ヴィクトル、さま……っ」
「気持ちいいか?」
「そ……じゃ、なくて……っ」
リーゼの反応を探って微笑むヴィクトルにふるふると首を振ってみせる。だが先ほどのキスですっかりとその気にさせられていたリーゼは、否定の言葉も上手く紡げない。
「中途半端はもどかしいんだろう? ほら、全部脱いでしまえ」
「え、で……でも……」
「大丈夫だ、俺しかいない」
はじめからサナと一緒に城外へ出て街に行くつもりでいたので、着ている服も外出用のワンピースドレスだ。装飾が少なくさほど華美ではないドレスは着脱も簡便なため、ヴィクトルの長い指に背中で編み上げられたリボンを引っ張られてゆるく振られると、それだけで身体を締めつける布は簡単にほどけてしまう。そのままドレスを取り払われ、コルセットも外され、下着まで一気に引き下げられるとあっという間に丸裸になった。
カーテンはきっちりと閉じられているので陽の光は感じられないが、本当はまだ真昼間なのだ。陽が高いうちから自分たちの寝室以外の場所で裸になるなんて、なんだかものすごくいけないことをしている気分になる。
でもこれが部屋の外に出るための手段……と頭の中で言い訳していると、上着を脱いでシャツのボタンを半分まで外したヴィクトルに寝台に押し倒された。安価な材木を使っているのか体重を乗せると、ぎし、と軋む音がしたが、リーゼをじっと見下ろすヴィクトルは寝台の寝心地などはさほど気にしていないようだ。
「!」
熱を帯びた視線のまま覆いかぶさってきたヴィクトルの首に腕を回しかけたリーゼだったが、そこで衝撃の事実に気がつく。
(な、なぜ天井に鏡が……!?)
寝台に仰向けに寝転がったことで、ヴィクトルの背後――つまり天井に、なぜか鏡がついていることに気づいた。
最初は知らなかった。部屋に入ったときは、天井にいくつもの照明があるように見えていた。確かに本物の照明も設置されているが、見えているうちの何個かはベッドランプが天井の鏡に反射して生じた光だったらしい。
そして天井に鏡が設置されているということは、寝台の上で繰り広げられるあれこれをすべて自ら認識できてしまうということ。これからする行為のすべてを視認しなければならない状況にある、ということだ。
「リーゼ?」
「! い、いえ……っ」
シーツの上に手をついたヴィクトルが頬にそっと口づけてくれるが、照れる自分の顔が頭上の銀板に映り込んでいる。突然の出来事とはいえ昼間からヴィクトルと触れ合えることになって嬉しいはずなのに、これでは全然集中できない。恥ずかしくてどこを見ていればいいのかわからない。
「んぅ……ぁ」
そわそわと視線を彷徨わせていると、ヴィクトルの両手が胸の膨らみをそっと包み込んだ。
「あ……っふ」
「痛くないか?」
「あ、痛くは……っふぁ、あ」
形と質感を確かめるようにふわふわと双丘を揉む動きに、自然と身を捩って逃げたくなってしまう。理由は痛いからでも苦しいからでもなく、この手が甘やかな刺激と優しい快感をリーゼに与えてくれると知っているから。ヴィクトルの指がリーゼの弱い場所を熟知していることを、自分でも十分すぎるほど理解しているからだ。
「んん、ぅ……」
骨張った指が柔肉を包みつつ、固く張り詰めた頂を撫でる。
王家に輿入れして初めての夜にヴィクトルから触れられるまでは、性の刺激を拾う部位であることすら知らなかった場所だ。けれど今は彼の指先がほんの少し触れるだけで、腰の奥から全身が疼くように反応してしまう。
「あ……ぁ、ん」
ヴィクトルの指がぷくっと尖った尖端をくにくにと潰すように撫でる。それだけでも十分すぎるほど強い刺激なのに、ふと表情を緩めたヴィクトルが身体を近づけて固く主張する左胸の蜜豆をかぷりと口に含む。
「やぁ、あ……ヴィク……トルさ、ま……ぁ」
生温かい舌が張り詰めた突起の上をにゅるにゅると滑る。ざらついた感覚が表面を滑り、濡れた唇にわざとじゅる、と音を出され、さらに空いた手に右胸の乳輪をくるくると撫でられる。左右同時に別の刺激を与えられると、身体の芯から発火したように全身が甘く熱を持った。
「あっ! ヴィクトルさま……! 待ってください、そこは……」
胸を刺激されることに意識を持っていかれていたリーゼは、太腿の内側をまさぐるヴィクトルの右手への反応が遅れた。すでにショーツを剥ぎ取られ素肌を晒していた秘部に彼の指先が滑り込んできたので、慌てて制止を試みる。しかしヴィクトルにはリーゼの抵抗を阻害要因と感じている風はなく、細身の割に力強いヴィクトルの指先は簡単に秘部へと到達した。
「あ……やぁ、……ぁ」
「……なんだ、結構濡れてるな」
ぐい、と折り曲げられた指先が、すでに溢れ出していた蜜の泉に沈む。ぴちゃ……と音がしたので必死に下半身の直視を避けたリーゼだったが、視線を外した拍子に視界の端に自分の栗色の髪が映った気がして、はっと天井を見上げた。
するとそこには忘れかけていた鏡の存在が――寝台に横たわったまま紅潮する顔面を必死に両手で覆いつつ、指の隙間からヴィクトルの様子を窺っている自分の姿が目に入った。とんでもない光景に思わず絶叫しそうになるが、下手に反応すればヴィクトルに知られてしまうと気づき、どうにか必死に声を押さえる。
「久しぶりなのに……いや、久しぶりだからか?」
「ん……っ、んん」
笑顔で問いかけてくるヴィクトルはおそらく、自分の頭上に行為のすべてを映し出す鏡があることに気づいていないだろう。気づかれたら猛烈に恥ずかしいのでできればこのままでいてほしいが、代わりにリーゼはこの羞恥と一人で戦わなくてはならない。
(ど、どこを見ていればいいの……っ)
うっすらと開いていた指の隙間をさりげなく閉じると、顔ごと左を向いて視覚情報を遮断する。どこを見ていても恥ずかしいのならいっそどこも見ないつもりだったが、その挙動不審な様子にヴィクトルも疑問を抱いたようだ。
「……リーゼ? どうした、怒ってるのか?」
「え? いいえっ……ちがい、ます……」
「ならこっちを見てくれ……ほら」
「ふあ、ぁっ……!?」
リーゼの態度に不満げな声を出したヴィクトルが、ぬかるんだ秘部の中央に指先を埋めてくる。ちゅぷっと音がすると同時に股の間にかすかな異物感が生じたが、痛みというほどの辛さではない。
ヴィクトルの指の感覚を確かめるように、蜜口がひくっと収縮する。まるで久々の感触を味わうかのような反応が恥ずかしいのに、身体は恨めしいほど正直で、ヴィクトルの指をもっともっとと奥へ誘い込もうとする。その流れに従うように指が付け根まで挿入されると、内壁を押して肉襞の緊張をほぐすように少しずつ指を動かして中をかき回された。
「あっ……っ、ぅ……んう」
リーゼの反応を確かめながら、指全体を使って隘路を広げられる。明確に〝準備されている〟と知ると羞恥で居たたまれなくなるのに、右胸の先を摘ままれる動きも左胸の頂点に軽く歯を立てられるのも気持ち良すぎて、結局はヴィクトルの指遣いと舌遣いを受けれてしまう。
「あっ……んっ……あぁ」
ゆるやかな快感を生む刺激の連続に、思考がほろほろと砕けてまともな判断を下す力が失われていく。そのせいか蜜壺をかき回す手の動きがどんどん大胆になって、秘部からぐちゅぐちゅと卑猥な音が溢れ出す頃には、リーゼの呼吸もひどく乱れて身体も小刻みに震えていた。
けれど不思議なことに、羞恥心だけはちゃんと残存している。
「ん?」
「!」
ちらりと視線を上げたことで忘れかけていた鏡の存在を唐突に思い出して、身体がびくっと強張った。リーゼの身体の準備を終えて自分もシャツを脱いでいたヴィクトルが、その動揺に気づいてそっと首を傾げる。
妻の視線の先を確認しようと彼の意識が上へ向かった瞬間、焦ったリーゼは手を伸ばしてヴィクトルの首にぎゅっと抱きついた。そのまま腕を絡めてぐいっと引き寄せると、驚いて目を丸くするヴィクトルに早口気味に懇願する。
「ヴィクトルさま……もう、きて……くださいっ」
「なんだ? 怒ってるのかと思えば急に大胆だな」
ほんの少しだけ驚いた表情を見せたものの、不快には思わなかったようだ。ふ、と表情を緩めてリーゼの太腿を掴んだヴィクトルが、その脚を掲げてリーゼの蜜口に熱竿の先端を密着させる。
どき、と心臓が跳ねる。
年中無休で不機嫌顔のヴィクトルが優しい笑顔になるこの瞬間は、リーゼだけのものだ。
「ふぁっ、あ――っ……」
じゅぷ、と濡れた音と重い音が重なると同時に、鋼鉄の肉杭が愛液にまみれた蜜膣を深く貫いた。太くて固い塊を一気に奥へ押し込まれると、久々の感覚を味わったリーゼの身体がシーツの上で激しくしなる。ヴィクトルの陰茎を収めた秘部も、きゅん、きゅうぅ、と強く締めつけてしまう。
「っ、どうした……? 今日はすごい、締めつけるじゃないか」
「ぁ……」
蜜壺を貫いた体勢のままでぴたりと動きを止め、じっと顔を覗き込まれる。
責めるような口調のヴィクトルだが、リーゼは彼が怒っていないことを知っている。ただ、問いかけへの回答は上手く示せない。なにからなにまでいつもと異なる状況下にあるので、リーゼの興奮そのものには気づけても、どの要因が最もリーゼの興奮度を増幅させているのか正確には把握できないはず。――そう信じていても、やはり頭上の鏡には気づかれたくない。
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