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蜜愛パラドクス
こういうの好きじゃないですか?
しおりを挟む「……レティシア様。リオネル殿下の所へ行かなくて宜しいのですか?」
ゼーベック侯爵は先程の照れ隠しか一つ咳払いをしてからそう言った。
「えっ!? いえでも、……人の目がありますから……」
レティシアが恥ずかしげにそう言うと、ゼーベック侯爵は呆れたように言った。
「何を仰いますか。先程はこの大広間のたくさんの人々の目の前でリオネル殿下への愛を宣言しておいて。……今更でございますよ」
……ッ! そうだわ……。私ったらさっきこの場でリオネル様をお慕いしてる愛してるって……!!
今更ながらその事に気付き、真っ赤になるレティシアをゼーベック侯爵は眩しいものを見るように目を細めた。
……約20年前。少年だったゼーベック侯爵が憧れた従姉妹のヴァイオレット皇女。激動の時代に飲み込まれ次期皇帝にと指名されながらもそれを揉み消され国を追われた、帝国にとっては特別な意味を持つ『ヴォールのアメジスト』の瞳を持った美しい悲劇の皇女。
まだ学園にも通っていない年齢だったゼーベック侯爵には、大人たちの間でどんな思惑があって彼女を巻き込んでいったのかは当時は知る由もなかった。……辛くも皇女の娘であるレティシアが現れた事で全てを知る事になった。
……少年時代の淡い初恋の相手でもあった皇女殿下に、自分はこれで少しは顔向けが出来るだろうか?
……ゼーベック侯爵は、レティシアのヴァイオレット皇女と同じ深く美しい紫の瞳を愛しげに見詰めてそう思った。
「……大丈夫です。皆様にもお2人の愛は伝わっておりますよ。……そして、祝福しております」
ゼーベック侯爵のその言葉を聞き、レティシアは恐る恐る前方を見る。
すると大広間中の人々の温かい目と、自分に向かって足速に歩いてくるリオネル王子の少し紅潮した顔が見えた。
……ええ!? リオネル様ったら、今この大広間のみんなの生温かい目があるこの場で、こちらに来てしまうのですか!? これ以上皆に見られながらなんて、恥ずかし過ぎるのですけど……!
思わず逃げようかと思ったレティシアの前に、父クライスラー公爵が現れ優しく微笑みその手を取った。
「お父様……! 今日は本当にありがとうございました。でもあの、今ここでは恥ずかし過ぎるのでリオネル様とは後で別室でゆっくりお話をしようと思うのですが……」
……良かった、お父様に何とかこの場は助けていただけるわ! ……そう、レティシアは思ったのだが。
「レティシア。今、すごくいい流れで来てるよね? ここはやはり皆の前で2人が愛と喜びを分かち合う姿を見せないと。……ね?」
父は最後すごくいい笑顔で言った。
「お父様……! ええ!? ちょっ……っ! 今ここで? ええ……、私を裏切るのですか……!」
レティシアは半分涙目で父に訴えたが、そのとても良い笑顔でそのままスルーされた。
「……レティシア」
父を見たまま混乱しているレティシアのところにリオネル王子がやって来た。
レティシアがそっと声のする方を見ると、リオネル王子は少し困ったように微笑んでいた。
「……レティシア。……本当は、嫌だった? さっきは私に気を遣ってくれたのかい?」
リオネル王子は悲しそうに言った。
レティシアは、そんなはずがない! と即否定する。
「違いますッ! 私は……ただ、皆の前で恥ずかしくて……。リオネル様と一緒にいると周りが見えなくなって、ただ貴方しか見えなくなって……。何かとんでもなく恥ずかしい事を言ってしまわないか、心配なだけなのです」
その答えを聞き、リオネル王子はホッとした。
そんな2人を見て、クライスラー公爵は握っていたレティシアの手をそっとリオネル王子に渡した。
「リオネル殿下。……レティシアを、頼みます。私の大切な……大切な愛する娘を」
リオネル王子とクライスラー公爵は目をしっかりと合わせてお互いを見た。……そしてリオネルが頷き公爵は安心したかのように微笑んだ。
リオネルは受け取ったレティシアの手をキュッと握る。するとレティシアの顔がまた赤くなった。
「お任せください。私は生涯彼女を愛し守り続けると誓います」
リオネル王子は力強く答えた。
クライスラー公爵はその答えに満足そうな笑顔を浮かべた。……少し、寂しげな表情も醸し出しながら。
「お父様。……ありがとうございます。リオネル様。私も貴方を愛し守り抜くとお誓いいたします」
レティシアがそう父とリオネル王子に言うと、リオネルはレティシアの手を取ったまま真剣な顔でこちらを向きしゃがみ込む。
その雰囲気に、人々はまた2人に注目した。
「レティシア クライスラー公爵令嬢。……私リオネル ランゴーニュは生涯貴女を愛する事を誓います。どうか私と結婚してください」
リオネル王子は改めてプロポーズをした。
レティシアは一瞬人前なのに! と思ったが、先程父が言ったようにここまでくればもう皆にこの話の結末を見せた方がいいのだ、皆を安心させ認めさせる為なのだと気持ちを切り替える。
……今更だしね。
「リオネル ランゴーニュ王太子殿下。私レティシア クライスラーも貴方を生涯愛する事を誓います。……お話を、お受けいたします」
ワッ……!!
大広間中が喜びに湧き、人々は盛り上がった。
リオネル王子は嬉しそうに立ち上がり、2人は数秒見つめ合った後リオネル王子はレティシアの腰辺りを軽く手を添えるように抱いて寄り添い、2人は少し照れながらも皆の祝福を受けた。
……色んな事があったけれど……、私はリオネル様が好き。
ここは乙女ゲームの世界だけど同じじゃない。私達はここでそれぞれに精一杯生きてきた。そして出逢った大切な人たち。……私はこれからも、この大切な人達と共に生きていく。
レティシアは今までの事を思い返しながら、周りを見た。
そこにはレティシアや実の両親を見守り続けてくれたコベール子爵が瞳を潤ませて見つめてくれていた。レティシアは子爵に微笑みかける。子爵も微笑み嬉しそうに頷いてくれた。
そして帝国での父クライスラー公爵。レティシアの母をただ1人の女性として愛し、その娘である自分をも本当の娘のように愛し守ってくれた。公爵も微笑み頷いてくれた。
レティシアは2人の父の愛を受け、そのまま愛しい人リオネルを見詰めた。
「リオネル様。……末永く、宜しくお願いいたします。…………大好きです」
レティシアがこの想いを伝えたくてポソリと囁くと、リオネルはこれ以上はないほどに破顔した。
「レティシア。こちらこそよろしく。…………私も愛してる」
その破壊力のある言葉と笑顔に、自分から仕掛けておきながらどうしたら良いのか分からず真っ赤になるレティシア。
そしてそんな初々しい将来の国王夫妻を大広間にいる人々は大いに祝ったのだった。
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