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最終章 Side:愛梨
25話
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「おじさん!? おばさん!?」
迎えに来た雪哉に導かれるまま品川駅に赴くと、雪哉の父・晴哉と母・和花奈がキャリーケースを引っ張りながら愛梨と雪哉に近付いてきた。思わず大声を上げてしまうと、雪哉の母の顔がパァッと明るく綻ぶ。
「わあぁ、愛梨ちゃん! 久しぶり~!」
途中でキャリーケースを手放して愛梨に抱き着いてきた雪哉の母は、昔と変わらずテンションが高い。愛梨の母といい勝負だ。
「お、お久しぶりです…!」
「やーん。髪形変わらないのね~。昔の可愛い愛梨ちゃんのまんま~!」
ぐりぐりと愛梨の頭を撫で回しつつ、存在を確かめるように身体中を触られる。
雪哉の母は愛梨の母と同じ年齢だが、昔は常にロングスカートとエプロンを身に着け、割と落ち着いた格好を好んでいた。だが今はロールアップした白いパンツに真っ赤なヒール、デコルテが開いたニットを身に着け、ショルダーバッグの金具には玉虫色のサングラスが引っかけられている。品川駅ではさほど浮かないが、元々住んでいた田舎でこの格好をしていると結構目立つんじゃないかなぁと思うほどだ。
「でもすごく女性らしくなっちゃって~」
「母さん。そろそろ愛梨を離してあげて」
雪哉がげんなりしたように母の行動を諫めたが、それでも雪哉の母のマシンガントークは止まらなかった。
「お母さんとお父さんは元気? 響くんは?」
「元気ですよ。響平は仕事で大阪にいるのでお正月しか会ってないですけど、多分元気です」
聞かれた言葉に応えると、雪哉の母がうんうんと笑顔のまま頷いた。それから愛梨の姿をもう1度眺め、もう1回ハグされた後にようやく自分の息子の存在を思い出したようだった。
「あ、雪は? 元気だったの?」
「元気だよ。息子の扱い雑すぎるから」
「えぇ~、そんなことないわよ~」
雪哉がちょっと困った顔をしている。その隣にいた雪哉の父と目が合うと『久しぶりだね、愛梨ちゃん』とにこにこ笑われた。
昔はいつも絵の具にまみれていた印象の雪哉の父が、お洒落なシャツ姿に上品なコートを身に着けているのもまた珍しいと思ってしまう。彼は肉体労働者ではないので、男性にしてはしなやかな印象がある。外見だけなら雪哉は間違いなく父親似だったが、自由度で言ったら母親に似ていると思う。テンションの高さの差はあれど。
「で? 雪、プロポーズはしたの?」
「えっ…?」
「まだだよ。ていうか、俺より先に言うのやめてくれる?」
その自由でテンション高めの発言に、愛梨の方が思わず声を失う。自由過ぎる母の発言にいよいよこめかみを抑えて頭を抱えた雪哉だったが、それでもちゃんと返答はしていた。
「なによ~。ぼんやりしてたら愛梨ちゃんどこかの誰かに取られちゃうわよ。こんなに可愛いんだから」
「それは十分わかってるから」
ハァと溜息をついた雪哉と、頬を膨らませる母。それを見て笑う父。何だかんだで楽しそうな親子3人の様子を眺めていると、愛梨も昔を思い出して少し楽しい気持ちになった。
でも今……結構、聞き捨てならない事言ったよね?
雪哉の両親と4人で和食のコース料理を食べながら、アメリカに行ってからの河上家の話を色々と教えてもらった。それと同じぐらいに愛梨の様子も訊ねられ、15年間の出来事を話すと雪哉の両親も愉快そうに笑ってくれた。
夜の便でアメリカに戻ると言う2人を、先程と同じ品川駅で見送る。
「愛梨ちゃん。雪、わがままで頑固だから大変だと思うけど、よろしく頼むな」
9割以上は雪哉の母が喋っていたが、最後の言葉は雪哉の父の言葉だった。あわあわとしながら『はい』と返事をすると、2人はお土産を抱えて手を振りながらエスカレーターの奥に消えていった。
「ほんとにハリケーンみたいだった」
2人が見えなくなった頃にぼそりと呟くと、隣にいた雪哉が呆れたように頷いた。
「母さんは日本の窮屈な田舎暮らしから解放されたら、更に元気になった気がするな」
田舎なりに住み心地は悪くない土地だったが、雪哉の父と母には少しだけ物足りない世界だったようだ。小さな楽園から飛び出した今の2人は、愛梨の記憶の中よりも活き活きと輝いているように思える。
それでもあの土地は愛梨と雪哉が幼少期を過ごし、思い出がたくさん詰まった場所だ。そのうち2人で訪れてみたいな、と思いながら雪哉の顔を見上げる。蛍光灯の灯りに照らされる成長した雪哉の横顔は、やはりまだ見慣れない。
「ユキ……手つないでもいい?」
「どうぞ」
ちょっと照れながら問いかけると、雪哉が手のひらを上にして左手を差し出す。その手に自分の右手を重ねると、突然ぐいっと引っ張られた。雪哉がそのまま手の甲に小さく口付けるので、愛梨はまた吃驚してしまう。
「もー! 普通でいいの!」
手に口付けるのは敬愛の証。まるでお姫様に誓いを立てる王子様のようなキスに頬を膨らませて抗議すると、雪哉が愉快そうにくすくすと笑い出した。
「今日は俺の家でいい?」
当然のようにこの後の予定を誘導されたが、いつもの事なので素直に頷く。優柔不断な愛梨を導いてくれるのは弘翔と同じだが、雪哉はかなり強引だ。とはいえ愛梨が嫌がるような事はしないし、意見はちゃんと聞いてくれる。
「少し散歩して帰ろうか」
『普通』に手を繋ぎ直した雪哉の指を握り返す。そして嬉しそうに手を引く雪哉の横顔を眺めながら、次の目的地に続くホームへと歩き出した。
迎えに来た雪哉に導かれるまま品川駅に赴くと、雪哉の父・晴哉と母・和花奈がキャリーケースを引っ張りながら愛梨と雪哉に近付いてきた。思わず大声を上げてしまうと、雪哉の母の顔がパァッと明るく綻ぶ。
「わあぁ、愛梨ちゃん! 久しぶり~!」
途中でキャリーケースを手放して愛梨に抱き着いてきた雪哉の母は、昔と変わらずテンションが高い。愛梨の母といい勝負だ。
「お、お久しぶりです…!」
「やーん。髪形変わらないのね~。昔の可愛い愛梨ちゃんのまんま~!」
ぐりぐりと愛梨の頭を撫で回しつつ、存在を確かめるように身体中を触られる。
雪哉の母は愛梨の母と同じ年齢だが、昔は常にロングスカートとエプロンを身に着け、割と落ち着いた格好を好んでいた。だが今はロールアップした白いパンツに真っ赤なヒール、デコルテが開いたニットを身に着け、ショルダーバッグの金具には玉虫色のサングラスが引っかけられている。品川駅ではさほど浮かないが、元々住んでいた田舎でこの格好をしていると結構目立つんじゃないかなぁと思うほどだ。
「でもすごく女性らしくなっちゃって~」
「母さん。そろそろ愛梨を離してあげて」
雪哉がげんなりしたように母の行動を諫めたが、それでも雪哉の母のマシンガントークは止まらなかった。
「お母さんとお父さんは元気? 響くんは?」
「元気ですよ。響平は仕事で大阪にいるのでお正月しか会ってないですけど、多分元気です」
聞かれた言葉に応えると、雪哉の母がうんうんと笑顔のまま頷いた。それから愛梨の姿をもう1度眺め、もう1回ハグされた後にようやく自分の息子の存在を思い出したようだった。
「あ、雪は? 元気だったの?」
「元気だよ。息子の扱い雑すぎるから」
「えぇ~、そんなことないわよ~」
雪哉がちょっと困った顔をしている。その隣にいた雪哉の父と目が合うと『久しぶりだね、愛梨ちゃん』とにこにこ笑われた。
昔はいつも絵の具にまみれていた印象の雪哉の父が、お洒落なシャツ姿に上品なコートを身に着けているのもまた珍しいと思ってしまう。彼は肉体労働者ではないので、男性にしてはしなやかな印象がある。外見だけなら雪哉は間違いなく父親似だったが、自由度で言ったら母親に似ていると思う。テンションの高さの差はあれど。
「で? 雪、プロポーズはしたの?」
「えっ…?」
「まだだよ。ていうか、俺より先に言うのやめてくれる?」
その自由でテンション高めの発言に、愛梨の方が思わず声を失う。自由過ぎる母の発言にいよいよこめかみを抑えて頭を抱えた雪哉だったが、それでもちゃんと返答はしていた。
「なによ~。ぼんやりしてたら愛梨ちゃんどこかの誰かに取られちゃうわよ。こんなに可愛いんだから」
「それは十分わかってるから」
ハァと溜息をついた雪哉と、頬を膨らませる母。それを見て笑う父。何だかんだで楽しそうな親子3人の様子を眺めていると、愛梨も昔を思い出して少し楽しい気持ちになった。
でも今……結構、聞き捨てならない事言ったよね?
雪哉の両親と4人で和食のコース料理を食べながら、アメリカに行ってからの河上家の話を色々と教えてもらった。それと同じぐらいに愛梨の様子も訊ねられ、15年間の出来事を話すと雪哉の両親も愉快そうに笑ってくれた。
夜の便でアメリカに戻ると言う2人を、先程と同じ品川駅で見送る。
「愛梨ちゃん。雪、わがままで頑固だから大変だと思うけど、よろしく頼むな」
9割以上は雪哉の母が喋っていたが、最後の言葉は雪哉の父の言葉だった。あわあわとしながら『はい』と返事をすると、2人はお土産を抱えて手を振りながらエスカレーターの奥に消えていった。
「ほんとにハリケーンみたいだった」
2人が見えなくなった頃にぼそりと呟くと、隣にいた雪哉が呆れたように頷いた。
「母さんは日本の窮屈な田舎暮らしから解放されたら、更に元気になった気がするな」
田舎なりに住み心地は悪くない土地だったが、雪哉の父と母には少しだけ物足りない世界だったようだ。小さな楽園から飛び出した今の2人は、愛梨の記憶の中よりも活き活きと輝いているように思える。
それでもあの土地は愛梨と雪哉が幼少期を過ごし、思い出がたくさん詰まった場所だ。そのうち2人で訪れてみたいな、と思いながら雪哉の顔を見上げる。蛍光灯の灯りに照らされる成長した雪哉の横顔は、やはりまだ見慣れない。
「ユキ……手つないでもいい?」
「どうぞ」
ちょっと照れながら問いかけると、雪哉が手のひらを上にして左手を差し出す。その手に自分の右手を重ねると、突然ぐいっと引っ張られた。雪哉がそのまま手の甲に小さく口付けるので、愛梨はまた吃驚してしまう。
「もー! 普通でいいの!」
手に口付けるのは敬愛の証。まるでお姫様に誓いを立てる王子様のようなキスに頬を膨らませて抗議すると、雪哉が愉快そうにくすくすと笑い出した。
「今日は俺の家でいい?」
当然のようにこの後の予定を誘導されたが、いつもの事なので素直に頷く。優柔不断な愛梨を導いてくれるのは弘翔と同じだが、雪哉はかなり強引だ。とはいえ愛梨が嫌がるような事はしないし、意見はちゃんと聞いてくれる。
「少し散歩して帰ろうか」
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