64 / 95
最終章 Side:愛梨
1話
しおりを挟む玲子とお昼のタイミングが合わず1人で社食を食べていると、1週間ぶりの出勤となった友理香が愛梨の傍にやって来た。
「友理香ちゃん、ここ座る?」
促すと友理香が目の前の席に腰を下ろしてくれる。最後に見た顔面蒼白からは幾分か顔色を取り戻していたが、やはり元気がないままだった。その萎れた表情のまま、友理香がそっと口を開く。
「愛梨、この間はごめんなさい。謝って済まされることじゃないけど……」
「ううん。大丈夫だよ」
しょんぼりと俯いた姿を見て愛梨が首を横に振ると、顔を上げた友理香の表情が少しやわらかなものに変化した。その笑顔に、密かに魅了されてしまう。女の愛梨でも惚けてしまうほどに美人の友理香には、もっと笑っていて欲しいと思うのに。
「あの後、雪哉にすっごい怒られたの」
「えぇ、あれからまだ怒ったんだ? もういいのに」
友理香が悲しそうに俯くので、つい愛梨の方が呆れてしまう。
あの日から数日後、愛梨は雪哉から直接謝罪を受けた。『愛梨が望まないような対応はしない』と話していたから穏便に済んだと思っていたのに、実は更に友理香を叱った後だったとは。
仕事に私情を挟んで愛梨に迷惑かけた友理香を叱るのなら、資料室で無理矢理キスした雪哉も十分同罪だと思う。それなのに友理香だけ厳しく断罪するのはどうなのだろう。とは言え、それは誰も知らない話なので、愛梨以外に雪哉を注意する人もいないのだけれど。
「私、本当は自分から本社に報告しようとしたんだ。悪い事したのは私だから、ちゃんと罰を受けるべきかなって」
肩を落とした友理香が口にした言葉に、思わず目を丸くする。
愛梨には派遣元会社のルールがわからない。だから判断は雪哉に委ねるしかないと思っていたが、友理香も自分自身でしっかりと反省したらしい。落ち込んで項垂れた友理香が歳の近い妹のように思えて、なんだか可愛いと思ってしまう。
「でも雪哉に止められたの」
「それはそうだよ。だって友理香ちゃんがいなくなったら、うちの会社も困るもん」
「それもあるけど、折角庇ったのに処罰になったら、愛梨が気にするからって」
「へ……私?」
「自分だけ処分を受け入れて楽になっても、それで担当外れたら愛梨は絶対気にするからって。だから反省してるならその分は仕事で返してって言われちゃった」
「わぁ……手厳しいねぇ……」
雪哉は愛梨に鋭い視線を向けることはあるが、基本的に他人には厳しくないし、今までは友理香の困った言動を強く咎める様子もなかった。その雪哉にしては、今回は随分厳格な判断をしたと思う。
けれど雪哉の言い分は間違っていない。愛梨が気にするかどうかはともかく、仕事のミスを仕事で取り返すのは社会人の基本だ。ミスを愛嬌で取り返せるのは学生まで。
とは言え、友理香自身が自分の過ちをしっかり理解しているなら、きっと大丈夫だろう。雪哉の信頼を取り戻せるかどうかは友理香の頑張りにかかっていて、愛梨には見守る事しか出来ない。それでも友理香の成長のサインを見つけた気がして、愛梨は『そっか』と安堵して頷いた。
1
お気に入りに追加
651
あなたにおすすめの小説
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
そんな目で見ないで。
春密まつり
恋愛
職場の廊下で呼び止められ、無口な後輩の司に告白をされた真子。
勢いのまま承諾するが、口数の少ない彼との距離がなかなか縮まらない。
そのくせ、キスをする時は情熱的だった。
司の知らない一面を知ることによって惹かれ始め、身体を重ねるが、司の熱のこもった視線に真子は混乱し、怖くなった。
それから身体を重ねることを拒否し続けるが――。
▼2019年2月発行のオリジナルTL小説のWEB再録です。
▼全8話の短編連載
▼Rシーンが含まれる話には「*」マークをつけています。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる