41 / 95
3章 Side:愛梨
閑話:17 years ago.
しおりを挟む今日はバレーボールクラブの練習がない日曜なので、愛梨は母と出掛けることになった。朝のアニメが終わって外出の準備をしていると、幼馴染みの雪哉がテレビゲームをしようと訪ねてきた。
「あれ? 愛梨、出掛けるの?」
「うん、でもお昼には帰ってくるから。お昼ご飯食べたら遊ぼうよ」
別に前もって約束していた訳ではない。だが雪哉が残念そうにしょんぼりとした顔で言うので、午後から遊ぶ代替案をその場で取り付けた。
頷いた雪哉の顔を見て『にこり』と、いや『にやり』と笑う。そんな愛梨の顔を見て、雪哉も愛梨が悪戯を企んでいることに気付いたらしかった。
言葉でのやり取りはないが、少し困ったように笑った雪哉は、いつものように愛梨の悪戯に付き合ってくれる態度を示す。
そして昼食を食べてから再び家を訪ねてきた雪哉は、愛梨の悪戯にものの見事に引っかかった。
驚きのあまり上田家の玄関先で腰を抜かしてしまった雪哉の前に立つと、愛梨は今朝と同じく『にやり』と微笑む。
「あ、愛梨…!? その頭どうしたの!?」
「えへへ、どう? 似合う?」
雪哉と別れた後、愛梨は母親と美容室に赴き、背中まであった長い髪を耳の下あたりでバッサリと切ってしまった。
今朝会った時に確かに長い髪を見ていた雪哉は、清々しい程のショートカットヘアになった愛梨の様子に、心底驚いたような顔をして未だに立ち上がれずにいる。
「ユキと同じぐらいに短いかも」
「……僕より短くない?」
座り込んだ雪哉の前にしゃがみ込みながら、愛梨はにまにまと笑って呟いた。完全に愛梨の悪戯に負けてしまったように唇を尖らせた雪哉に、愛梨はまたひとり満足する。
「バレーするとき、邪魔だったんだ。いつもお母さんが結んでくれるけど、うちのお母さん不器用だから。すぐ解けて困ってたの」
愛梨が髪を切った理由を説明すると、雪哉は喉から深い息を洩らした。その反応を見た愛梨は、一転して不安感に襲われてしまう。
「似合わない?」
恐る恐る訊ねてみる。
愛梨はただ、それだけが心配だった。
不器用な母に髪を結ばれる煩わしさはなくなったが、誰が見ても似合わない髪形にしてクラスで笑い者にされるのは嫌だった。
愛梨と雪哉が通う小学5年生の今のクラスはみんな仲が良く、男子も女子も関係なく毎日バカみたいに活発に転がりまわっている。だがそれ故に集団としての結束意識が強く、おまけに田舎者ばかりなので些細な変化に敏感だ。
スカスカになって触るところが無くなったので、仕方がなく自分の首の後ろを撫でる。戸惑いながら雪哉に感想を訊ねると、雪哉は間を置かずに首を横に振ってくれた。
「ううん、似合う」
「ほんとに? 男の子みたい?」
雪哉が感心したように頷くので、不安はすぐに期待に変わり、愛梨はすかさず問いを重ねた。
「えっ、愛梨は男の子になりたいの?」
「そうじゃないけど、どうせならカッコよくなりたいから!」
愛梨は更に目を輝かせて、雪哉にはにかんだ。けれど雪哉はきょとんとしたまま、首を捻ってしまう。
「かっこよく……?」
「あれ、カッコよくない?」
「うん」
似合うと言われて舞い上がっていたのに、あっさりと否定した雪哉に、露骨にショックを受けた。えええ!と声が出てしまう。
今、似合うって言ったばかりなのに!
「可愛い」
だが雪哉は、愛梨の顔をぼんやりと眺めたまま、心から溢れた言葉をそのまま口に出したように感嘆の言葉を呟いた。
「えー! カッコいい方がよかったー!」
可愛いと言われたことに驚いて、一瞬照れた。けれど我に返ると、自分がカッコいいバレーボール選手を目指していたことを思い出す。
愛梨がバレーボールクラブに所属したのは学校の休み時間だけでは動き回る機会が少なく、もっと身体を動かす場所が欲しかったから。理由は安易だが、どうせなら強く凛々しくプレー出来るようになりたいと思っていた。愛梨としては髪を切って身軽になることがその第一歩のつもりだったが、雪哉には違う感想を持たれてしまったようだ。
「でも短い方が、愛梨に似合うよ」
地団駄を踏んだ愛梨に、雪哉が笑いながら呟いた。愛梨は自分の望みとは違う方向性になってしまったことに釈然としなかったが、雪哉が少し照れながら褒め言葉を連ねるので、素直にその言葉を受けることにした。
「んー。まぁ、ユキが似合うって言ってくれるなら、いっか」
カッコいいプレイヤーになれるかどうかは、愛梨の頑張り次第だ。もちろんプロ選手を目指している訳ではないが、やるからには一生懸命やりたいし、その為に髪を切ったのは愛梨自身の希望なので文句はない。
とりあえず学級で浮くほど似合わない、という最悪の事態じゃない事は、雪哉を通して確認できた。それなら、まぁ、よしとしよう。
「似合わないって言われたら、もう1回美容室に行って、髪伸ばしてもらうとこだった」
「美容師さんそんなこと出来ないよ」
口を尖らせると、ようやく立ち上がった雪哉が、愛梨の冗談を笑ってくれた。
約束していたゲームをするために家の中に入ろうとすると、雪哉が愛梨の手首を掴まえて、目線を合わせてきた。えっ、と驚いていると、雪哉が大真面目な顔をして、再び同じ誉め言葉を呟いた。
「うん、こっちの方が可愛い」
……ユキ。そんなに何回も言われたら、流石に照れるよ。
11
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。
まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。
今日は同期飲み会だった。
後輩のミスで行けたのは本当に最後。
飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。
彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。
きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。
けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。
でも、あれから変わった私なら……。
******
2021/05/29 公開
******
表紙 いもこは妹pixivID:11163077
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる