約束 〜幼馴染みの甘い執愛〜

紺乃 藍

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2章 Side:雪哉

6話

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「ここ座ってもいい?」
「………うん」

 訊ねると、少し間を置いて愛梨が頷いた。一瞬『嫌なのかな?』と思ったが『それなら止めよう』と言う結論にはならない。なる筈がない。

「本当に久しぶりだ。元気だった?」
「うん」

 腰を落ち着けて訊ねると、今度は素直に頷いてくれた。雪哉と会話をする事自体が嫌な訳ではないようで安心する。

 正面から愛梨の顔を見つめると、記憶の中にいた愛梨が急に大人びている事に喜びを感じたが、同じぐらいの焦りも覚えた。雪哉が想像していたよりも、ずっと女性らしく、可愛らしくなっている。

 想像通りといえば、髪形ぐらいだ。昔からずっと同じショートカット。細い首から鎖骨のラインが際立ち、見ているだけで惹き込まれるような、無邪気さと危うさが入り交じるフォルム。

「ユキも元気そうでよかった。おじさんとおばさんは元気?」

 そんな焦りなど知る由もない愛梨は、雪哉の顔を見ながら郷愁にかられたように訊ねてきた。

 雪哉の事を嫌がったように感じたのは勘違いだったのか、顔を覗き込んでくる愛梨の表情は昔と同じように柔らかくて明るい。

「多分な。日本に来るとうるさいから、最近はあんまり会ってないけど」

 一度コーヒーを飲んで、呟く。

 雪哉の父も母も勤め人ではないので、まとまった暇を見つけてはよく日本に遊びに来ている。名目上は雪哉の様子を見るためらしいが、息子の顔など1時間で見飽きて、いつもジャパン文化を満喫したら土産を抱えてさっさとアメリカに戻っていく。

 ハリケーンのような両親の相手をすると心身ともに疲れるので、ここ数年は来日しても連絡のみで、会わないことも結構多い。

「愛梨のとこは? みんな元気?」
「うん。お父さんのメタボがちょっとまずい事になってるだけで、みんな元気だよ」
「そっか、相変わらずだ」

 雪哉の問いかけに、愛梨が冗談めかして答えた。思わず笑い声が零れると、愛梨もつられて笑い出す。

 懐かしい。
 昔はこうしてよくふざけ合った。

 愛梨は昔から悪戯好きで、よく冗談を言ったり雪哉をからかったりしていた。雪哉も身体を動かすこと自体は好きで愛梨と一緒にその辺を走り回っていたが、どちらかというと口数は少ない子供だった。だから愛梨が笑わせてくれることが、雪哉には何よりも大事な時間だった。

「ずっと、愛梨に会いたかったんだ」

 幼い頃の笑顔と、目の前で笑う姿が重なると、自然と素直な感情が言葉になった。

「引っ越したんだな。前の住所を訪ねたら、田んぼになってて驚いた」

 そっと見つめて呟くと、愛梨は少し神妙な面持ちで顎を引いた。

「あの家、曾おじいちゃんの建てた古い家だったから雨漏りがひどくて。おじいちゃんとおばあちゃんが施設に入るタイミングで、都会に引っ越したの。私はもう1人暮らしだけど」

 雪哉が田舎の周辺で聞き込んだ時には得られなかった話に、成程と納得する。

 幼い頃は手入れが行き届いた上田家を古いと感じたことはなかったが、10年以上経って思い返せば、確かに造りはかなり古風な家だったと気付く。それと同時に、愛梨と一緒に雪哉の事も可愛がってくれていた老夫婦の顔も思い出した。

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