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2章 Side:雪哉
4話
しおりを挟む「来週から、本格的に頼むよ」
「はい。よろしくお願いします」
専務に声を掛けられて返事をする頃には、隣に浩一郎と友理香が並んでいた。
通訳者や翻訳家専門の派遣会社に所属する先輩の澤村浩一郎と後輩の細木友理香とは、一緒にチームを組むことも多い。
今回の派遣先であるこの株式会社SUI-LENでは、基本的に雪哉が専任通訳として担当する事になるが、大きな商談や展示会への同行、雪哉が対応していない言語の翻訳などはこの2人にも協力を仰ぎながら業務を進めていくことになっている。
3人同時に頭を下げると、専務は機嫌よく頷き、乗ってきたエレベーターで自分の部屋へと戻っていった。
ようやく緊張感から解放されて後ろを振り返るが、案の定そこには既に愛梨の姿はなかった。それはそうか、と仕方がなしに諦める。それでも。
(愛梨。……やっと見つけた)
探し求めていた想い人を、ようやく見つけた。まさか派遣先の会社に勤めているとは思わなかったので突然の出来事に驚きはしたが、巡り合わせには率直に感謝する。
5年、探した。生まれ育った田舎の街を探しても、SNSを駆使しても見つからなかった幼馴染みに、運命的に出会う事が出来た。
「遅かったな、雪哉」
浩一郎に声を掛けられたので、ふと我に返って首を縦に振る。もう50歳が目前に迫る年齢でありながら、肉体の若々しさと精神のダンディズムを合わせ持つ浩一郎は、メインの英語とフランス語の他に、ドイツ語とポルトガル語にも堪能だ。
「私めっちゃお腹減った~。何か食べてこー?」
友理香がスマートフォンで近隣の飲食店を検索しながら口を尖らせる。友理香は雪哉の1つ年下で、女優顔負けの美貌と存在感を持つが、生意気な性格と口調だけなら日本の女子高校生のようにも感じられる。これでも英語に加えて中国語と韓国語は流暢に扱えるのだから、人は見た目じゃわからないものだ。
浩一郎と友理香は他の企業への勤務予定もあり、週に1~2回程度しか出勤日が無いため、今日の重役への挨拶回りは割愛していた。なら雪哉も割愛させてくれと心の中で願ったが、それは無理だった。
案の定、社長・副社長・常務の前へ次々と引っ張り回されてしまい、2人の事は随分待たせてしまった。雪哉も疲れたが、2人も退屈だった筈だ。
夕食の店の選定は友理香に任せるとする。特に苦手なものはないし、それは浩一郎も同じだ。
いや、そんな事よりも。
(誰だ、あいつ)
愛梨と一緒にいた、あの男は一体誰なんだ。愛梨の弟の響平君、ではない。顔が全然違うし、姉弟で同じ会社に勤めているとは思えない。
家族以外で、ドラックストアに寄って日用品を買い求める会話をする間柄、と言えば。
(恋人…?)
想像するだけで、ひどい胸やけがした。
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