約束 〜幼馴染みの甘い執愛〜

紺乃 藍

文字の大きさ
上 下
14 / 95
2章 Side:雪哉

1話

しおりを挟む

 雪哉ゆきやはアメリカに移住した当初、全く英語が話せずコミュニケーションの面で相当な苦労を強いられた。だが人間の慣れとは不思議なもので、半年も経たないうちに周囲との会話に困らない程度には英語が話せるようになった。

 その2年後には学業にも支障がないほど語学力は上達し、更に1年後には全科目を通して成績優秀者としてクラスで名前が挙がるほどになった。

 移住してから約9年後、大学卒業と同時に単身日本へ戻ってきた。

 日本に戻ってきて最初に行ったことは、就職活動だった。雪哉は特別手に職がある訳ではなかったので仕事探しにも苦労したが、自分にネイティブと同じ英語力がある事に気付いてからは、すんなりとやりたい仕事が見つかった。

 通訳の仕事は語学力とコミュニケーション能力はもとより、洞察力や情報処理能力も必要とする。けれどそれが自分に合っている事に気付くと、そのうち仕事に楽しみを見出せるようになった。

 仕事が落ち着いた頃、ようやく愛梨あいりを探し始めた。そもそも両親がアメリカに移住しているにも関わらず、わざわざ日本に戻ってきたのは幼馴染みの愛梨に会いたかったからだ。


『愛梨。俺、絶対に愛梨を迎えにくるから。待ってて』

 雪哉は日本を発つとき、ずっと好きだった愛梨にそう約束した。

 後から考えれば随分思い切った約束をしたと思う。自分なりに必死で想いを伝えたし、十分本気のつもりだった。だが中学生というのは大人でも子供でもないどっちつかずな年齢だったから、愛梨が本気にしてくれる自信はなかった。

『私も、ユキのこと、ずっと待ってる』

 けれど愛梨は少し困った顔をしながらも、雪哉を待つと約束に応えてくれた。


 雪哉が愛梨を特別に想うようになったきっかけは、たまたま家がお向かい同士だっただけかもしれない。

 けれど物心がついた頃からいつも傍には愛梨がいたし、愛梨以外の女子が自分のパーソナルスペースに入ってくるのは、何だが落ち着かなかった。

 愛梨が相手じゃないと何もかもが上手くいかない事は、日本にいる頃から自覚していた。だから愛しい幼馴染みを、必死に探し続けた。


 まずは昔住んでいた田舎へと足を運んだ。元々雪哉たち一家が住んでいた家は既に別の家族が住んでおり、肝心の上田家は家どころか土地ごと他人の手に渡ったようで、敷地の端から端までが見知らぬ田んぼに様変わりしていた。

 今度は懐かしい風景を眺めながら、近所を散策しつつ上田家の事情を知っている人を探した。話によると一家がこの土地を離れてから既に10年以上の年月が経過しているらしく、雪哉が尋ねまわった中にその後の詳細を知る人はいなかった。

 この時点で、元々住んでいた田舎を捜索することは諦めた。今の時代ならネットやSNSで検索した方がよっぽど効率がいい。
 そう思いつくと自分の足で探すのは諦め、今度は電子機器の前に長時間居座るようになった。

 だがここでも思うような情報は見つからない。愛梨や愛梨の弟のSNSアカウントも見つからない。当時の愛梨の友人の名前も、さほど頓着していなかったためか一切思い出せない。

 考えているうちに、愛梨の名字が『上田』じゃないような気さえしてきて、自分が相当疲労してきていることに気が付いた。

(手掛かりなし、か)

 気付けば雪哉が日本に戻って、5年が経過していた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

練習なのに、とろけてしまいました

あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。 「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく ※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。 ※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。 書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。 ――――――――――――――――――― ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。 傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。 ―――なのに! その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!? 恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆ 「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」 *・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・* ▶Attention ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました

瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...