短編作品集(*異世界恋愛もの*)

紺乃 藍

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ふたなり女王陛下の甘美なる受難

第五話 ◆

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 オレンジ色に照らされた困惑の表情を見て、彼が言わんとしていることを理解する。騎士である彼は規律と正義を何よりも重んじる。その堅牢な壁を越えられるのは、君主たるシャルロッテの命令のみだ。

 ならば命令すればいい。

「ウィルフレッド――私を抱きなさい」

 これはウィルフレッドの意思ではない。シャルロッテが望むこと。彼はシャルロッテに命令されてそれに従っただけなのだから、己の衝動を欲望のままぶつけることに罪悪を感じなくていいのだ。

 とそこまで考えて急に不安になった。抱きなさい、とは言ったものの、彼が本当は嫌悪しているのに無理をさせるつもりはない。

「……えっと、気持ち悪くなかったら、でいいのだけど……」
「どうしてそこで弱腰になるんですか」

 シャルロッテが尻込みすると、ウィルフレッドが小さな笑みを零す。生真面目な彼が珍しく柔らかい笑顔を見せるので、シャルロッテはひっそりと胸の高鳴りを覚えた。

 だがその爽やかな笑みは、すぐに艶を含んだ大人びた色に変化する。起こしかけた身体を再びシーツの上に押しつけられ、右手を掬い取られて、手の甲に唇を寄せられる。

「――麗しき女王陛下の御心のままに」

 じい、と見つめて宣誓のように呟く。その瞳の奥に煌々と灯る感情の正体を、シャルロッテはまだ知らない。

 だが知らなくても感じることは出来る。彼は今この瞬間、シャルロッテに新たな快楽を教えることを決めた。齢二十にして未だ乙女である女王に、甘美な享楽を与えることを選んだのだ。

「ウィル……」

 着ていた衣服を邪魔くさそうに脱ぎ捨てると、裸になったウィルフレッドがシャルロッテを組み敷いて股を大きく左右へ開く。シャルロッテもまた夜着を引き剥がされて裸になっていたので、彼の眼下に裸体だけでなく恥ずかしい場所のすべてを晒してしまう。

 十分に精を吐き出したというのにすでに勃ち上がった陰茎の下部には、瑞々しい果実のような陰嚢が熟れて膨れている。そしてその裏側にある蜜口を探り出すと、指先を挿れられて丁寧に解きほぐされた。

「あっ……ん……!」
「きついですね」

 ちゅこ、くちゅっ、と水に濡れた音が響く。新たな快感を教え込まれることには不安や痛みを伴ったが、それよりも未知の感覚に異常なまでに興奮して、身体が熱く火照ってしまう。

 限界まで勃起した陰茎の先端から、トロトロと先走りの蜜が溢れてくる。それが腹の上に滴り落ちてもウィルフレッドの愛撫が止むことはない。

「っあ、ああっ……ん」
「可愛らしいですよ……シャルロッテ様」

 十分にほぐされた場所を指先でくぱりと開かれると、興奮に昂ったウィルフレッドの雄竿を迎え入れる。

 挿入の瞬間はピリッと小さな痛みが走ったが、ゆっくりと押し込まれてゆっくりと抜き引かれる動作を数度繰り返されると、痛みは少しずつ消え去っていった。

「んっ……ふぁ、ぅ……っん……あん」

 全身を震わせながら襲い来る強烈な快感に耐え忍ぶ。ゆったりと抽挿を繰り返される度に、淫らな花が咲き乱れるように快感に溺れていく。

「ははっ……突く度に、射精……してるんじゃ、ないですか……?」
「あっ……あ、あぁ、んぅ……」
「いっぱいまき散らして……、とんだ、変態女王様、ですね……」
「だめ……へんなこと、いわな、で……ぇ!」

 腰をゆるく前後するウィルフレッドが、シャルロッテをいたぶるための台詞ばかり呟く。

 彼の言う通り、膣の中に太い熱塊を挿し込まれる度にシャルロッテの陰棒からも甘い蜜が溢れ出す。そんなことはないと否定しても、腹の上に熱い飛沫が飛ぶたびに彼の言葉が事実であることを思い知らされる。

 さらにたわわに実った胸を大きな手が包み込み、先端に熟れる小さな花粒をくにゅくにゅと押し潰されるともはや反論の言葉さえ吹き飛んでしまう。

「やだ、胸……ひあ、ぁあ、ん!」

 上半身と下半身に別の刺激を与えられ、シャルロッテは悲鳴に似た嬌声を上げた。初めての鈍痛と甘い快感でわけもわからず泣き出しそうになっているというのに、ウィルフレッドの腰遣いにはまるで容赦がない。肌がぶつかり合う音に水に濡れたリズムが混ざると、それに呼応するように頭の中にチカチカッと閃光が瞬く。

「ああ、ああぁっ……!」

 びく、と身体が跳ねた次の瞬間、ぶわりと鳥肌が立つ。その直後、強い快感が下腹部から脳まで一気に走り抜けた。

 射精の感覚とは明らかに異なる。確かに精も吐いた気がするが、それよりも膣の中が痙攣する深い快感が勝る。全身がピクピクと震えて、下腹部の奥からじゅわぁと愛液が溢れ出す感覚を知る。

「ん……ん、……ぅ」

 気持ちいい……こんなにも深い快感は初めてだ。

 シャルロッテとウィルフレッドの間には恋愛の感情など存在しないはずだ。あるとすればシャルロッテの一方的な憧れ。親近感。小さな恋心。

 けれど絶対的な快楽に含まれる解放と享楽には抗えない。甘美な余韻を含んだままじっと見つめ合えば、身体よりも深い場所で繋がり合い、魂まで満たされたように感じてしまう。

 不思議な心地を味わうシャルロッテだったが、呼吸が整う前に下腹部でぐちゅん、と卑猥な音がした。

「え……ウィル……っ?」
「まだですよ。俺はまだイッてない……!」

 どこか秘密めいた快感に酔い痴れるシャルロッテだったが、安心するにはまだ早かった。シャルロッテに跨り、雄の本能を剥き出しにして舌なめずりをするウィルフレッドの陰茎は、まだシャルロッテの蜜壺に収まったままだ。

「なん……っ、で……?」
「言ったでしょう? 本物の、男の欲は……こんな、ものじゃない――!」
「ひ、ぁ、あああっ……!」

 大胆な宣言とともに、激しい動きが再開する。今後は腰を掴まれて、荒々しく暴れる龍のような雄竿を突き込まれる。

 シャルロッテの陰嚢の裏下部がウィルフレッドの男根と直接擦れる。触れた場所は摩擦と体温で焼けそうなほどに熱いのに、その強烈な感覚はいつしかまた快感を生み出している。精を放つと同時に蜜壁を擦られて強く達したはずの身体が、またウィルフレッドを求めてみだらに反応を始めている。

「あっ、ふぁ、んぅっ……」

 ぐちゅ、ずちゅ、と湿った音に、たん、ぱん、と肌がぶつかる乾いた音が混ざる。あまりにも激しい摩擦熱に、下腹部から全身がとけてしまうのではないかと思う。いや、その前に頭がおかしくなってしまう気がする。

「ああ、ああんっ……ふぁ……っ」
「ン……く、ぅ……ッ」
「あぁ、あっ……! やぁあッ……!」

 腰を打ち付けるスピードが急加速すると、シャルロッテはすぐに絶頂を迎えた。いつも彼に導かれるときと同じように、ふるふるっと震えると、陰茎の先から白濁液がパタパタッと零れて飛び散る。陰嚢もドクドクと収縮し、最後はきゅうっと縮こまったように震える。

 だが今回は少し様子が違った。

 恍惚に喘ぐシャルロッテの股の間からウィルフレッドの雄芯がズルっと抜け出ると同時に、シュウッ……と何かが溶けて霧散する音が聞こえた。暖炉の薪の最期を思わせる消滅音に、一瞬本当に結合部から秘部が溶けてしまったのではないかと焦った。

「シャルロッテ様……!」

 その音を聞いたのはシャルロッテだけではなかったらしく、抱き合った状態から身体を起こしたウィルフレッドが驚嘆の声を零した。

 何か不穏な出来事が起きてしまったのかと視線を下げたシャルロッテは、自分の股の間を確認して思わずがばっと身体を起こした。

「や、やった……やったわ! 無くなったわ!」

 消えた。シャルロッテの股の間に生えていた男性の逸物が、気が付けば綺麗さっぱり消えてなくなっていた。

 どうやら先ほどの音は逸物が消滅する音だったらしい。いつの間にか百回の射精を終えたことで、禍々しい雄の象徴と共に父の怨念が浄化されたと知る。その嬉しさのあまり、思わずウィルフレッドに勢いよく抱きつく。

「ありがとう、ウィル! これで夜も安心して眠れる!」
「安心して眠れる……?」

 今夜はもう何度達したのかわからない。ウィルフレッドの下腹部に、シャルロッテの放った精液がべっとりとはりつく。けれどそんなものは後で拭けばいい。とにかく元の身体に戻れたことが、今のシャルロッテには何よりも嬉しい出来事だった。

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