短編作品集(*異世界恋愛もの*)

紺乃 藍

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真夜中のシークレット・フリル

Secret Frill 後編 ◆

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「これも解くから」
「あん……だめ、です……っ」
「ん、もう解いた」

 ミーシャの思考が蕩けきって何も考えられなくなっているうちに、腰骨の位置で留めていたショーツの結び目も解かれた。ミーシャは咄嗟に股を閉じようとしたが、それよりも秘部を覆う布が股の間から引きずり出される方が早かった。

「ああ、水飴が溢れてくるみたいだ。ネットリしてて甘そうだね」
「ち、ちが……ぁ、ふぁっ」
「すごいな、ぐちょぐちょになってる」
「やぁ、あん! だめ、ぇ……」

 恥ずかしい場所が空気に触れるだけで顔から火が出そうなのに、エミリオはミーシャの脚を広く開き、制止を気にせず指先を深い場所へ埋めていく。尖った突起を撫で、閉じた陰唇を開き、濡れた蜜口を丁寧に撫であげる。

 ミーシャの目を見つめて口付けながら、蜜壺の中をぐちゅぐちゅとかき混ぜる。彼の指がスムーズに抜き差し可能になる頃には呼吸も思考も抗議の言葉も乱れ、ただエミリオに導かれるままに喘ぐことしかできなくなっていた。

「俺の花嫁は可愛くていやらしい妖精みたいだ」

 前を寛げながら愉しげに笑うエミリオに、ぼーっとしながら首を横へ振る。

 月夜の森に現れる妖精は、薄い布を身体に巻いただけのほぼ裸に近い姿で人間の男性を誘惑し、ひとときの甘い夢を見せる存在だと言い伝えられる。

 確かにこんな薄着で月明かりの寝台に横たわり、エミリオに触れられたいと願った自分ははしたない妻かもしれない。けれどミーシャをここまで乱したのはエミリオなのに。この可愛い衣装を濡らしたのも、ミーシャじゃないのに。

「素直に溺れてやりたいところだけど。俺に抱かれたくてたまらないミーシャに……ちゃんと教えてやらないといけないな」
「ち、ちがいま……っ、ぁあああ!」

 エミリオの額から頬へ汗が伝う。その様子を見つめながらもう一度彼の言葉を否定したが、最後まで言い終わらないうちに蜜口に宛がわれた熱の塊がミーシャの身体を貫いた。

「ふぁ……ああっ……!」
「ごめん、ミーシャ……痛い、だろ?」

 逞しい腕がミーシャの身体を包んで、ぎゅっと強く抱きしめる。それと同時に陰茎がさらに深い場所へ侵入する。

 挿入の圧迫感はあるが、思っていたよりも痛みはない。それに荒い呼吸を繰り返して歯を食いしばっているエミリオが、ミーシャの身体を気遣ってくれる。ミーシャが痛みや恐怖や不安を感じないように、優しく労わってくれるとわかる。

「だい、じょうぶ……です」
「……ミーシャ」
「うごいて、っください……。私に……エミリオさまを、ください……ませ」

 エミリオに向かって腕を伸ばすと、一瞬だけ驚いたように目を見開く。けれどすぐに優しく微笑んで身体の位置を下げてくれたので、ミーシャは遠慮なく彼の首に腕を絡めた。するとその直後に、エミリオの腰がゆっくりと動き始める。

「あっ、あ……っぁん、ぁあっ……」

 一番奥に到達すると同時に引けていく。しかし蜜壺から陰茎が抜け出る直前、また奥まで挿入される。

 そこから徐々に激しくなるエミリオの動きに合わせて、首の後ろで解けていたリボンが胸の上に踊る。フリルが脇腹をくすぐり、レースの端が陰核を擦る。肌と触れ合う予期せぬ刺激が、ミーシャの快楽を深めて、感度をどんどんと上げていく。

「やぁ、ぁん……っぁ、あっ……」
「ごめんミーシャ……もう、ダメだ……ッ」
「や、エミリオ、さま……あっ、ふあ、ぁあ~~っ!」

 エミリオが激しく腰を打ち付ける。そうやって何度も最奥を突き上げられているうちに、ミーシャの快楽もあっという間に限界を迎えてしまう。

 蜜壺の奥に生じた熱が一気に爆発した直後、激しい愉悦の波に呑み込まれた。そのまま意識がどこかへ飛んでしまわないよう必死にエミリオの首へしがみつく。

 エミリオの腰の動きが緩慢になり、小さな律動で子宮口を突かれる。その動作が完全に停止すると、陰茎の存在と激しい快感が同時に遠退いていく。生まれて初めて絶頂を味わったばかりのミーシャは、しばらくその余韻に溺れていた。

 しかし体力に自信のないミーシャと異なり、エミリオはまだまだ活力が尽きないようだ。

「まだだよ、ミーシャ」
「え……エミリ……ひゃぁっ!?」
「散々焦らされた分、今夜はたくさん注いであげるから」

 そう宣言して濡れたレースの上から臍の上にキスを落とすエミリオは、きっとまだ新妻への手加減の仕方を知らない。秘蜜のべールで包み込むようにミーシャを優しく眠らせてくれるのは、もう少しだけ後の話だ。



   * * *



「エミリオ、ミーシャ」

 二人で庭を散歩していると、屋敷の入り口から誰かに声を掛けられた。金木犀の香りを楽しんでいたミーシャとエミリオが同時に振り返ると、そこにいたのは姉アリーシャの夫でありエミリオの友人である、セインだった。

「セインお義兄さま、お久しぶりです」
「そうだね、二人の婚礼の日以来かな」

 ミーシャが笑顔を向けるとセインが楽しそうに笑う。元々穏やかな人ではあるが、姉アリーシャと結婚してからは以前にも増して笑顔が増えたように思う。

 そんな義兄に近付いて丁寧に膝を落とすと、挨拶もそこそこにセインがエミリオに紙の袋を差し出してきた。

「これは?」

 贈り物や届け物の報せを受けていなかったのか、エミリオが不思議そうに首を傾げる。そんなエミリオの困惑をよそに、セインがにこりと微笑んだ。

「君の下穿き」

 胸を張ってそう宣言したセインに、エミリオの動きがぴたりと止まる。もちろんミーシャの動きも止まってしまう。

「「……」」
「そんな虫けらを蔑むような目で見ないでほしいな」

 セインが笑いながら両手を広げる。友人の奇行にエミリオの表情が驚愕と失望と不快に満ちる。明らかに嫌そうな顔だ。

「どうしてセインが俺の下着を……?」
「二人の婚礼の夜に、不慮の事故により盗んでしまった」
「は? 盗……?」
「そうさ。エミリオがあんまりにも早く酒席を抜けるもんだから、つまらなくて」

 この国の婚礼祝いでは、花嫁と花婿が酒席に長く居残り続けることは一般的ではない。その後の二人が初夜に臨むことも多いので、主役は早々に退席することが多いし、周りもそれを引き留めないのが暗黙の了解だ。

 だがセインは、エミリオの退席があまりにも早すぎて面白くないと感じたらしい。本当は妻の妹と結婚したエミリオをもっと盛大にからかうつもりだった。しかし気がつけばエミリオの姿が宴席から消えていた。だから彼は勝手知ったる顔で屋敷の中を歩き、エミリオを探し回った。

 そして浴場の傍を通ったセインは、エミリオが一人で湯浴みをしていることに気が付いた。だからちょっとした悪戯のつもりでエミリオの下穿きを奪い隠した。脱いだ衣服はすでに使用人が片付けていたので、その後身に着ける下穿きがなければエミリオが困惑すると思ったのだ。

 だがその悪戯を完遂する前に状況が変化した。消えた夫を探しにきたアリーシャが、セインを宴席に連れ戻してしまったのだ。

 そのため、咄嗟にポケットにしまい込んで戻すタイミングが失われたエミリオの下穿きは、セインがそのまま所持し続けることになった。しかも下着を盗まれたエミリオも『浮かれていたせいで用意するのを忘れてしまった自分の落ち度だ』と思い込んだ。まさか友人(男)に盗まれていたとは思いもよらずに。

「お前のせいじゃないか!!」
「まあまあ、いいじゃないか。アリーシャのおかげで上手くいったんだろ?」
「⁉」

 エミリオに胸倉を掴まれても一切悪びれる様子もない。楽しそうに笑うセインのさり気ない目配せに、ミーシャも赤面してしまう。

 セインはおそらく、アリーシャから話を聞いたことで自分の悪戯を唐突に思い出したのだろう。だから慌ててお詫びに来てくれたのだと思うが、表情を見るに彼はすべてを察しているようだ。そしてきっと、彼の悪戯は今も続いている。

「ちなみに僕のおすすめもあるから、聞きたいなら教えてあげるよ。――ね、ミーシャ?」
「い、いりませんっ……!」

 だからミーシャも悟ってしまう。
 きっともう一度秘蜜のフリルを纏う夜は、そう遠くない。


  ――Fin*

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