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真夜中のシークレット・フリル
Secret Frill 中編 ◆
しおりを挟む晴れて婚礼の儀式を執り行い正式な夫婦になったとはいえ、まだまだ馴れ初めあったばかり。以前からの知り合いではあるが、二人は未だに互いの肌の温度も知らない。だというのに、今のミーシャはひどくふしだらな格好をしている。透けたミルク色のレース生地は、品のある上流貴族婦人の理想からはかけ離れている。
「ミミ、ミ、ミーシャ……!? その格好は……!?」
エミリオの言葉が動揺に震える。そこにミーシャを侮蔑するような感情は含まれていないが、それでもしっかり驚いたような声を出すので、彼と同じぐらいにミーシャも挙動不審になる。
けれどどうにか頑張って自分の気持ちを伝える。
「エミリオさまに……女性として、見て……いただきたくて」
初夜の失敗に悩むミーシャに打開策と秘策を用意したのは姉のアリーシャだが、最終的にこの行動を選択したのはミーシャ自身だ。
「私はそんなに美しい顔立ちではありませんし、グラマラスな体型でもありません。腰だってぜんぜん細くないです」
ミーシャはエミリオを驚かせたいのではない。困らせたいわけでもない。
ただもっと近付きたかった。
もっとエミリオを知りたくて、自分のことを知ってほしかった。
「エミリオさまが結婚を申し込んでくださったのが嬉しくて、すっかり舞い上がっていたのです」
「……ミーシャ?」
「だから気付かなかったんです。……婚礼の夜に触れてくださらなかったのは、私の努力が足りないからですよね?」
大好きなエミリオとの結婚に浮かれてばかりはいられない。昔なじみで仲は悪くないが、大事な初夜を失敗してしまった二人は、このままの関係に甘んじていてはいずれ冷めきってしまう。夫婦関係を修復するなら、今しかないのだ。
「エミリオさまに喜んでいただけるよう、もっとお勉強します。だから他の女性をお傍に置く前に、一度だけでもいいので私を……!」
「ちょ、待って待って! ミーシャ、なんかすごい勘違いしてる!」
焦ったエミリオの声がミーシャの手首を掴む。決死の行動を夫に妨げられ、はっと我に返ったミーシャが視線を上げる。
「ごめん、不安にさせた俺が悪いね」
目が合うと少し困ったように微笑まれ、密かに胸を締め付けられる。このまま拒絶されてしまうかも、と感じて、咄嗟に別れの言葉を覚悟する。
「笑わずに聞いて欲しい」
コホンと一つ咳払いをして真剣な表情になったエミリオに、ミーシャも思わず息を飲む。何か重大な事実を語られる気配を感じとり、不安と期待に心音がドクドクと加速する。
「実は婚礼の夜、俺、下着を穿いてなかったんだ」
「……。……え?」
真顔で告げるエミリオの言葉に、一瞬だけ時間が止まる。
告げられた言葉の意味を、すぐには理解できない。
下着――を、穿いてなかった……?
「な、なぜ……?」
「浮かれすぎてて……湯浴みの後に、下穿きを身に着けるのを忘れてたんだ」
エミリオの告白についぱちぱちと瞬きをしてしまう。多分、いまミーシャの目は点になっていると思う。意味が分からず頭の中が疑問符だらけになってしまう。
「ベッドに入って、ミーシャに口付けた後に気付いた。あれ、俺もしかして、いま穿いてない? って」
真剣に見つめ合っていた二人だが、エミリオはだんだんいたたまれなくなったらしい。フッと視線を逸らして何もない空間に目を泳がせる。
「いや、まあ、どっちにしろ脱ぐんだけどさ。でも下着を穿く余裕すらなかったなんて、知られたくなくて……。興奮しすぎて下穿きも忘れたのか、って思われたら、ミーシャに幻滅される気がして」
「だ、だからあの夜、キスだけで……?」
「そう。部屋の明かりさえ消せば知られないまま済むかも、とも考えたけど……万が一服脱いだ瞬間に下半身見られたら、俺もう色々と終わる気がして」
終わる、と口にした瞬間、自分でも過去の醜態を思い出したらしい。視線を逸らした瞳から徐々に眼光が薄まっていくエミリオを見て、ミーシャはとうとう笑いを堪えられなくなった。
「……っふ」
「笑わずに聞いて欲しいって言ったはずだけど?」
「だ、だって……!」
口元を押さえてサッと顔を背けたが、エミリオには目聡く発見されてしまう。本格的に笑ってしまう前に自然な形で身体を離そうとしたミーシャだったが、それは適わなかった。
「――と、俺はちゃんと白状したけど、ミーシャのこの格好は一体どういうことかな?」
「!」
形勢逆転と言わんばかりに微笑んだエミリオを見て、今度は自分が赤面する番になったと気が付く。恥ずかしい失敗をちゃんと話してくれたエミリオに対して、ミーシャが自分の事情を隠して逃げることはできない。エミリオと見つめ合ったミーシャも腹を括り、婚礼の夜から今夜までに考えていたこと、姉に相談したことと、その助言で現在このような格好をしていることを包み隠さず打ち明ける。
ミーシャの説明を聞いたエミリオが、ふむ、と納得したように頷いた。
それからニヤリと腹黒い笑みを浮かべた夫に、背中がふるりと震える。
「なるほど、アリーシャはいい仕事をするね」
ぽつりと呟いたエミリオに身体を引っ張られ、そのままベッドへ押し倒される。驚いて目を閉じたミーシャの唇を奪ったエミリオは一瞬だけ唇を離してくれたが、すぐにまたキスを繰り返した。
「ちゃんとやり直そう、ミーシャ」
仕切り直しを提案するエミリオの言葉に、首を縦に振る。やり直したからといって必ず成功する保証はない。だが夫の優しい表情を見つけたミーシャは、自然と顎を引いていた。
再びキスを重ね合いながらエミリオに身を委ねる。首の後ろから回ってきた左腕が、ミーシャの頭を抱きつつ頬を撫でてくれる。その指遣いはひどく優しいのに、レースに包まれた胸の形を確かめるように動く右手はだんだん淫らに変化していく。薄いレースから胸の突起をきゅっと摘ままれるたびに、全身の感覚が研ぎ澄まされていく気がする。
「ぁ、あの……エミリオさま……っ」
直接触られているのか布越しに触られているのかがわからない。その絶妙な感覚にくすぐったさといたたまれなさを覚えたミーシャは、舌を食んでいた唇が離れた瞬間、エミリオの腕に縋りついた。
「こ、この服、もう不要だと思います。エミリオさまのお気持ちは……私の勘違いでしたので」
「うん。でも可愛いから、このままでいいよ」
「え……」
寝室内はレースのカーテン越しの月明かりに満たされている。満月の穏やかな光に照らされて微笑むエミリオに、ミーシャは全身が痺れて動けなくなる。何か要らぬところを刺激してしまったのかもしれない、と思った瞬間、透けた布の上から左胸を強めに撫でられた。
「俺の可愛い花嫁……俺のために、こんなにいやらしいドレスを着て」
「や、やぁっ……ん」
「全部透けて身体のラインまでちゃんと見える。ミーシャは細身だから、リボンが余るんだな」
エミリオが口にするのとほぼ同時に、首の後ろで胸を支えていたリボンの結び目がシュル、と解かれた。そのまま胸を覆う布地をめくられると、薄いレースの下から乳房がまろび出て空気に晒される。それならいっそアンダーラインで結ばれたリボンも解いてくれればいいのに、ふわりと裾が広がったベールはそのままなので、胸だけが強調されているようで恥ずかしい。
「擦ってあげる」
「ゃ、あっ……ぁあッ!」
甘やかな吐息を耳孔に注がれ、その熱で背中がぞくりと震え出す。その間にもレースから零れた胸を揉みしだき、胸の上に甘く色づく突起を指先でクリクリと転がされる。
性感帯ばかりを執拗に刺激され、思考が白く霞んでいく。身を捩って逃げようとしても細長いエミリオの指に追いかけられ、視線を逸らそうとするたびに左手に顎を捕えられて深く口付けられる。
「んん、っぁ……ふ」
散々胸を弄られ、お腹の奥からむずむずするようなじれったさとふわふわするような快感が生まれてくる。その奇妙な感覚に怯えてエミリオの夜着の端を掴むと、気付いた彼が胸から手を離してくれた。だからこの蜜戯は終わると思ったのに、いつになく優しい表情で微笑んだエミリオがあらぬ場所に指先を忍ばせる。
「! っ……?」
レースの上から下腹部をゆっくりと撫でられる。布越しとはいえこれまで他人どころか自分でもちゃんと触ったことがない場所に――恥部に触れられ、言葉では言い表せない羞恥心と背徳感に襲われる。
「だ、だめ……エミリオさま、そこは……ぁっ」
ふるふると首を振って拒否してもエミリオは楽しそうに微笑むだけだ。生地が薄いのをいいことに秘部の奥まで指先を押し込み、未開の地を拓くようにミーシャの身体を暴いていく。
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