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第7話 R
しおりを挟む「このまま挿入れても大丈夫そうだな」
視線を上げるとノエルが口の端を上げて恐ろしい言葉を呟いた。その言葉を聞いて、一瞬で我に返る。しかしマリーの身体を本棚に縫い付け、ショーツを太ももの中間までずり下ろしたノエルの素早い動きを止めることは、やっぱり不可能だった。
「だめっ……見えちゃう……!」
「平気だ。今の時間、図書館の職員は昼休憩中だからな」
まるで見てきたように――いや、図書館内にいる全ての人の配置さえ完全掌握しているような口振りで『大丈夫だ』とマリーを諭す。その言葉を信用していいのかどうかを測りかねているうちに、片足を持ち上げられて下からずぷんっ、と熱棒を押し込まれた。
「っ、ぁ――、ッ……ん――」
声を抑えようと唇を噛んで必死にその衝撃に耐える。一気に奥まで侵入してきた塊は熱く、その凶器じみた質量に全身がふるるっと震えてしまう。
「きつっ……狭い、な……」
「ん、ゃあ……っ」
至近距離で吐息と共に零したノエルの感嘆が、鼓膜に響く。
きついと感じるのはマリーも同じだ。ノエルと恋人同士になってから身体の触れ合いは何度かあるが、そう簡単に慣れるものでもない。だからどうしても力が入ってしまうし、目の前のノエルの首に腕を絡めて縋ってしまう。
だがノエルは、マリーの無意識の行動に違う解釈をしたようだ。
「興奮してるのか?」
「ちが、ちが、ぅ……」
「……俺はしてるぞ」
耳元で囁くように告げられ、背筋がぞわりと粟立つ。ノエルの宣言の意味するところはマリーへの欲情だ。愛情を注がれることに拒否権はないと教えられているようで、マリーの性感も急激に昂る。
抜けかけた雄竿を最奥まで押し込まれると、快感のあまり意識が飛びそうになった。
「っゃああっ……!」
出来るだけ声は押し殺したつもりだったが、図書館の吹き抜けの空間には反響してしまったように感じる。
今の声を聞いた誰かがここに様子を見に来るかもしれないと思うと、異常な緊張感に襲われてさらに結合部をキュウキュウと締め付けてしまった。
「っ……ぁ、……ん……ぅ」
快感と嬌声が溢れ出ないよう、突き上げの衝撃に耐える。片足をノエルに抱えられているために、マリーの身体はもう片方の足と背後の本棚のみで支えられている。力が抜けると一気に崩れてしまいそうなほど不安定なのに、ノエルは一切妥協してくれない。
「だめ……ゃ、……ぁ――っ、ふ」
静かな空間に微かな喘ぎ声とぐちゅ、ぬちゅ、ぷちゅ、と濡れた水音が溶け込んでいく。その卑猥な音を聞いただけで緊張感と背徳感がさらに増幅し、触れられていない乳首や陰核にまで快感を与えられている気がしてしまう。
「マリーッ……」
「~~っ……んん、ん……っ!」
ノエルよりも自分の方がよっぽどえっちじゃない、と自分に呆れていると、腰の動きが急に速度を増した。ノエルの首に縋りながら間近で見つめ合うと、そのまま唇を重ねて熱と空気を深く奪い合う。
「ぁ、っ……あ、ぁ!」
「マリー! もう……っ」
「っん――! あ、っああぁ……」
ノエルの悩ましげな声と共に、マリーも絶頂を極めた。繋がった場所のさらに奥に、濃い快楽の雫を吐き出された感覚がする。マリーの身体も、呼応するように身体の奥から濡れてしまう。
「……っ、――ふ、……ぁ」
快感の波が遠ざかるのを静かに待っていると、ノエルは腰を引いて抱えていた脚を下ろしてくれた。だが抱き合った状態からは中々離れてくれなかった。
「マリー。夢中になってくれるのは、ありがたいが……」
何度か口付けを交わした後に名前を呼ばれたので、そろりと視線を上げる。少し気まずそうに後頭部をさすって苦笑するノエルの表情を見つけると同時に、自分の右手に違和感を覚える。そしてその右手を見たマリーは、衝撃的な事実に気が付いた。
彼の首に腕を回し、快感に耐えるよう縋りついてしまっていたが、我を忘れて感じているうちにマリーは大きな失態を犯していたようだ。
「わあぁ……! ノエル、ごめん! ごめんね!?」
マリーが自分の手を見つめてみると、そこには黒い絹糸が数本纏わりついていた。
この色と質感には身に覚えがある。それはそうだろう。ノエルの散髪に立ち会う度に、マリーは理髪店の店主からノエルの髪をもらっているのだから。
「痛かったよね? ごめんねえぇ!」
快楽に溺れるあまり、そして強い快感に耐えようと必死のあまり、ノエルの髪を握りしめてしまっていたようだ。否、握りしめるならまだしも、マリーはノエルの髪の毛を無意識に数本引っこ抜いていたようだ。
あれだけノエルがはげてしまうかもしれないと心配していたのに、当のマリーがノエルの頭皮と毛髪にダメージを与えてしまうとは。信じがたい痛恨の極みである。
「大丈夫だ。俺も悪いから、いい」
そう言って後悔に苛まれるマリーを慰めようと、瞼に優しいキスを落としてくれる。ついでにその場に膝をついて、マリーのショーツのリボンを結び直してくれる。
無口で不愛想な堅物賢者様は、愛しい恋人には驚くほど紳士的だ。
しゃがみ込んだノエルがマリーのショーツのリボンを結んでいる間、マリーは猛烈な申し訳なさを抱きつつ、少し高い位置からノエルの後頭部をじっと観察した。さらにさらさらの黒髪を探るように撫でて頭皮をくまなくチェックすると、ほっと胸を撫でおろす。
「よかった……はげてない」
「数本なら平気だと思うが」
「だめよ、ノエル」
顔を上げて苦笑するノエルに、懇切丁寧に説明する。マリーは調べたから知っているが、ノエルははげの恐ろしさを知らないようだ。
「はげは毎日ゆっくり忍び寄って来るの。一本だからいいとか、三本までなら平気とかじゃないのよ。伸びるのも抜けるのも少しずつだけど、確実に侵食されて、気付いたときには手遅れなんだから」
「……何でそんなに真剣なんだ?」
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