18 / 18
Epilogue
しおりを挟む「菜帆」
「わあぁッ……!?」
後ろから突然声を掛けられ、びっくりして大きな声を出してしまった。びっくりするに決まっている。着替え中、だったのだから。
下着姿のまま振り返ると、部屋の入り口に大和が立っていた。はぁ、とわざとらしいため息が聞こえる。
「お前、わざと俺に下着姿見せようとしてるだろ」
「そんな訳ないでしょ! 大和こそ、約束した時間より早く来ないでよ!」
穿こうとしていたタイツを手にしたまま、振り返って叫ぶ。
残念ながらこの部屋には鍵がない。着替え中も就寝中も侵入者を阻めない。おまけに大和も、ノックをしない。だから二年前にも趣味のひとときを見られてしまった。
というか母も母だ。年頃の娘の部屋に男の人をホイホイ通さないで欲しい。いくら幼なじみだからといって。
大和は部屋に入って扉を閉めると、そのまま菜帆の傍に近付いて来た。
「ちょっと、着替えるんだから出て行って!」
「いいじゃん、もうここで待つよ」
「やだ、外で待……って、ちょ、ちょっとおおぉ! 外さないで!!」
「脱がせたくなるのが男の性だって言ってるだろ?」
「今!? ここで!?」
大和の手が腰に伸びて来るので、驚いて絶叫する。この場で下着の引き下ろされるのだと焦って身を捩る。
その直後、扉をコンコンと叩く音が聞こえて二人の動きがぴたっと止まった。
『あんたたち、うるさいわよ』
――お母さんの声だ。
『ご近所迷惑になるから、もう少し静かにしなさいね?』
「……はい」
「ごめんなさい」
扉越しに思いきり不機嫌な声を掛けられて、二人でしゅんと謝罪する。大和と違って中まで入って来ないだけ母の方が良心的だったが、この会話を親に聞かれていたのかと思うと猛烈に恥ずかしかった。
*****
「お待たせしました」
「ん」
着替えを済ませて家を出ると、マンションの共用廊下で大和が待っていてくれた。知らない仲じゃないのだからリビングで待っていれば良かったのに、大和も恥ずかしかったみたいだ。
「映画見に行って、飯食って。あと文房具も見たいな」
「大和」
幼なじみから恋人同士になって、少しだけ距離感と空気が変わった。と思うのは菜帆だけのようで、大和の態度は以前とさほど変わらない。いつもと同じマイペースだ。
「あの……そろそろ、バレンタイン向けの可愛い商品が売り出される頃で。ちょっとだけ見たいなぁ、なんて……」
菜帆は大和と恋人になったが、ランジェリーショップにまで連れていくのは忍びない。普通なら嫌がられてもおかしくないし、大和も気まずいと思う。
だから少しだけ、コーヒーショップとかファストフードとかで待っていてくれないかなぁ。それとも、デートの最中に下着を見るのは止めておいた方がいいものなのかな。なんて、思っていたら。
「うん、いくらでも買ってやる」
「え……いや、買うのは自分で買うんだけど」
大和はなんだかご機嫌だった。
なぜ。と首を傾げたら、大和はもっとご機嫌になった。
「菜帆、知らないの? 男が買った服や下着は、そいつだけが脱がせていいって『特権』が付いてくるもんなんだよ」
「!?」
キラキラで美しくて可愛いランジェリーだけじゃない。下着の世界の常識には、まだまだ菜帆の知らないことがたくさんだ。
――― Fin*
1
お気に入りに追加
186
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説



百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
メリー✨✨クリスマス☺️
クリスマス🍀メリークリスマスさん
コメントありがとうございます!
メリークリスマスです😀🎄💕
ささゆき細雪さん 感想ありがとうございます♪
遅くなってしまいましたが、メリークリスマスです~!
一年前のお話の加筆版なのですが、大好きな幼馴染み設定にランジェリーの要素やクリスマスの要素を詰め込んでみました☆ささゆきさんにキュンキュンして頂き嬉しいです(*'ω'*) 大和くんむっつりDTになっちゃいましたけど……笑
お読み頂きありがとうございました~!