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第13話 ◆
しおりを挟む「なんか……やばいな」
「!」
ベッドカバーひとつに緊張してしまう菜帆と同じように、大和も少し緊張したように息を吐く。上擦った声が聞こえたと思った瞬間、菜帆はモノトーンのシーツの上に身体を押し倒されていた。
そのまま大和の指が下着の赤い色に触れる。いつの間にか男性らしく成長していた骨ばった中指が、赤いレースの縁をたどる。ブラカップの表面に施された刺繍の柄を、点字を確認するように指の腹でなぞられる。布地の上を滑る指先は肌には触れていないのに、まるで胸の膨らみを直接撫でられているかのように甘く痺れる。
「……想像してたより大きい」
ルージュカラーの布地を撫でる大和の呟きが聞こえて、菜帆はえっ、と小さな声を上げた。そして見つめ合った瞬間、
「大和、胸大きいのきらい……?」
と訊ねてしまう。
大和は菜帆のコンプレックスを否定したりしない。菜帆の悩みを馬鹿にしたりしない。
けれどそれは彼が優しいから――菜帆を傷付けたくないからであって、彼自身の好みには関係がない。もしかしたら大和は、大きい胸をあまり好まないのだろうか。もし小さい方が好きだと言われたらどうしよう……と一抹の不安が過る。
「は? そんなわけないじゃん。俺、菜帆の胸なら大きくても小さくてもいいけど」
しかし菜帆の不安はただの杞憂だった。大和は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに真顔になってとんでもないことを言う。身体なんて二の次だと真面目な口調で強く訴えてくる。
「俺、胸なんて何もないときから菜帆のこと好きだし」
「……っ」
「まぁ、こんなに大きくなるのは予想外だったけど」
大和の言葉に、以前の言葉を思い出す。彼は『菜帆が身体に合った下着を身に着けるようになったら、菜帆のことを変な目で見る男が減った』と言っていた。あの時は過保護な幼なじみだと思ったが、大和はただ過保護なだけではなかった。
きっと大和は、身体がだんだんと女性らしく変化していく菜帆の姿に焦っていたのだろう。中学生の男子なんてみな考えることは同じ。友達や先輩や後輩が菜帆の身体を見て下世話な話をするたびに、内心では怒りと焦りと困惑だらけだったに違いない。
けれどそんな菜帆も大和も、今はもう大人になった。自分の意思を自分で伝え、欲しいものは欲しいと訴え、自分の指で直接触れることが出来るようになった。愛しい身体にも、相手を想う優しい心にも。
「……やわらけ」
「んっ」
最初は触れるだけだった手や指が、だんだんと大胆な動きに変わっていく。菜帆が照れる姿をじっと観察しながら、時折耳元に恥ずかしい言葉を吹きかける大和は、きっと少しだけ変態なのだろうと思ってしまう。
「や……っ、大和……あんまり、触ったら……」
「痛い?」
「痛くはない、けど……」
「気持ちよくない?」
「……気持ちい、けど」
大和の手の動きはすでに下着の柄を確かめる、なんて可愛らしいものではなくなっている。胸の膨らみを掴んで形を変えるほどに、もにゅ、むにゅ、と揉みしだかれている。
ただの触れ合いがだんだんといやらしいものに変わってきている。男女の営みの色を帯び始めている。
「ブラ……形崩れしちゃう、から」
けれどその羞恥心よりも、菜帆は新しい下着が心配だった。この美麗の極みともいえるフォルムとディティールが損なわれるのはもったいない。汗を吸うぐらいなら洗濯でどうにかなるが、形の崩れやレースの綻び、装飾の損壊だけは菜帆にはどうしようもない。
菜帆の呟きを聞いた大和は『こんな時にも下着かよ』と苦笑したが、菜帆の意思は汲んでくれた。大和も自分の贈りものを菜帆が大事にしてくれることが嬉しいみたいだ。
「じゃあ、外すか……。……菜帆、背中浮かせて」
「せ、なか……?」
「手が入らないとホック取れないだろ」
大和の指摘に、あ、そうか……と冷静に納得してしまう。初めての連続で何もわからない菜帆と同じように、大和も何もかもが手探りだ。見つめ合って照れ合うと、慌てて身体を横に傾ける。すると照れて少しだけ赤い顔をした大和の手が、下着の留め具の上でぴたりと止まった。
「……取る、からな」
最後の確認に無言でコクンと頷くと、背中の留め具がすぐにプチンと外された。その瞬間、急に心許ない心地を覚えてサッと視線を外す。けれど大和は、菜帆の照れも逃亡も許してくれなかった。
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