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第12話 ◆
しおりを挟む大和の顔が近付いてくると、そのままゆっくりと唇が重なる。
初めて触れる彼の唇は想像していたよりもずっと柔らかかった。その分、身体を掴まえる手は力強い。想像よりも骨張った手に逃げられないように二の腕を掴まれる。
男の人なんだ、と当り前のことを今更ながらに実感する。大和の言う通り今まではあまり意識していなかった。異性として考えたことなんてなかった気がする。それはきっと、幼なじみの時間が長かったから。
触れ合うだけの可愛らしいキスから、ふ、と唇を離して見つめ合うと、急に恥ずかしくなってきた。だから目も顔も見ないで欲しいと思うのに。
「見たい」
ニットワンピースの裾をくいっと引っ張った大和の要求は『自分がプレゼントしたものを、見せて欲しい』――恥ずかしげもなく、むしろ大真面目に。
また頬と耳が熱を持つ。もう厚手のワンピースなど脱いでしまいたいと思うほど、身体がかぁっと火照ってくる。
前に下着姿を見られた経緯がなければ、このタイミングで相当躊躇したと思う。けれど大和は菜帆の下着姿を見たことがある。
その時の大和も、菜帆の身体を否定しなかった。自分ではあまり好きになれない大きな胸を見た彼から、いやらしい視線は感じなかった。だから大丈夫かな、と思ってしまう。
膝立ちになってニットワンピースの裾をスルスルと捲り上げていく。そのまま腕を抜いて頭からすぽっと脱いでしまう。着ていた薄いインナーも一緒に。
アクリル繊維が静電気をまとってパチパチと嫌な音を立てる。けれど毛羽立ったかもしれない髪を撫でているうちに、そんな事はどうでもよくなった。
目の前にいる大和が、照れたように口元を押さえているから。でもその視線は菜帆の全身をじっと見つめているから。
綺麗だ、とボソッと呟く声が聞こえて、下着と同じぐらい全身が真っ赤に色付いていく気がした。
「あんまりじろじろ見ないで……恥ずかしいから……」
いまさら隠すのもおかしいと思う。けれどドンと構えて『どうぞ見て下さい』とも言うのも何か違う。
昔と同じく、真剣な眼差しから逃れるために無意識のうちに背中を丸める。すると伸びてきた大和の手が、菜帆の手を取った。
「菜帆」
「……ん」
名前を呼ばれて、身体を引っ張られる。下着姿のまま大和の腕に抱きしめられると、心臓の音が急激に大きくなる。
そこでようやく気付く。恋がわくわくと楽しいだけじゃないこと。菜帆はまだ、大人の関係に踏み出す自覚が足りていなかっただけだということ。
長年の幼なじみが相手ではドキドキしないかもしれないと思っていた自分は間違っていた。大間違いだ。目の前にいる大和と見つめ合うと、心臓はドキドキどころかバクバクして、楽しいよりも、むしろ恥ずかしい。すっごく、とっても、恥ずかしい。
「もっと、ちゃんと見せて」
真面目な表情と真剣な声で告げられた言葉は、命令のようにもお願いのようにも聞こえる。ふるふると首を振って恥ずかしいと訴えても、大和はきっとやめてはくれない。
「これを脱がせたくなるのが、男の性なんだよな」
「大和……!」
ただでさえ困っているのに、大和の指先はもっと恥ずかしいことをしようとしている。下着姿を見て終わりなわけがないだろ、と訴えてくる。全部を見る、と明確に宣言される。
大人の関係に踏み出す自覚が足りないなら、教えてやるから。――そう言われた気がしたが、返事をする前にもう一度唇を塞がれた。
そして小さな口付けは段々と深いキスに変わっていく。
大和のキスに応えるように夢中で口付け合う。開いた唇の隙間から舌を出すと、そこを舌の先で突かれて、吸われて、舐められる。
「ん……ん、っ……あ……」
舌同士を絡め合う深いキスも、当然のようにはじめてだ。熱く震える柔らかい舌同士を重ね合わせているうちに、身体から力が抜けてくる。思考がくるくるして、身体がふわふわしてくる。
「菜帆、ベッド上がれる?」
「……う、ん」
唇を離した大和に誘われ、すぐ後ろにあったベッドに移動する。
そしてふと、昔は無邪気な少年らしく青や黄色といった原色系が多かったベッドカバーやシーツが、今はモノトーンのシンプルなものに統一されていると気付く。
そんな変化にさえドキドキしてしまう。知らない間に少年から男性に成長していた大和の変化に、菜帆はまだ順応できなくて。
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