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第7話
しおりを挟む「えっと……本人に聞いてみたらどう? クリスマスプレゼントに何もらったら嬉しい? って」
「それもう告白だろ」
大和の意見に、そう? と首をかしげてみる。
確かにそうかもしれない。でも相手が好きな人で、大和が付き合いたいと思っている人なら、別にいいのではないかと思う。
「クリスマス前に告白してもいいと思うけど。そんで一緒にクリスマス過ごしたらいいじゃん」
「じゃあ聞いてみるか」
「そうそう、それが一番てっとり早いよ」
なんて返事をしながら、帰る準備をはじめる。準備と言っても、同じマンション内に住んでいるから羽織ってきたカーディガンとスマートフォン以外に持ち物なんて何もない。
大和が自分のスマートフォンの操作をはじめる。その様子からパッと視線を逸らすと、立ち上がるために腰を浮かせた。
「菜帆」
けれど、立ち上がる直前に大和に名前を呼ばれてしまった。スマートフォンの操作をはじめたと思ったら、実は真逆。大和は手にしていたアプリを終了させると、テーブルの上にスマートフォンを置いてしまった。
そしてそのまま。
真剣な、目で。
「下着のサイズ教えて」
と。これまでのセクハラ発言と比較しても、かなりインパクトの強い問題発言をされた。
「………は?」
間抜け……すっとんきょう、とも言うかもしれない。ぽかん、と口を開けて固まってしまう。
あまりにダイレクトすぎるハラスメント発言に気を取られて忘れていたが、直前に話していたのは『クリスマスプレゼントに貰って嬉しいものを、大和の好きな人に直接聞いてみる』という話だった。
「いや、私に聞くんじゃなくて……」
だから菜帆に聞かれても困る。
しかも色んな過程をぶっ飛ばしすぎている。普通は『プレゼントにもらうなら何が嬉しい?』『下着とかは嫌?』の、最低二つの質問を挟んだ上での『じゃあサイズ教えて』じゃないだろうか?
いきなりサイズから聞くなんて、大和はちょっと……いや、かなり変かもしれない。
「だから言ったじゃん」
その変な人が、やけに真面目な声で呟く。後退りし始めていた身体をその場に留めるように、菜帆の手首をあっさりと掴む。そのまま自分の方へ意識を向けようと、ぐっと手を引っ張られる。
「聞けば、告白になるって」
「……」
真剣な瞳とばっちり目が合う。
話が、急激に繋がる。質問を大幅に短縮してきた理由にも気付く。
大和の好きな人は、わざわざ確認して聞くまでもなく、下着を贈られて喜んでくれる相手だったから。だってそれは紛れもない、菜帆自身だから。
「クリスマス、菜帆がいちばん喜ぶものを用意したい」
「や、やま、と……」
「俺、菜帆が好きだから」
常にべったりという訳ではないが、異性の友人の中では最も慣れた存在のはずだった。けれど親やきょうだいではないし、親友と呼べるほど密接な関係でもない。
なのに緊張してしまう。大和に向けられる感情を認識した瞬間に、身体が強張る気配がした。
この穏やかな関係性が崩れてしまうかもしれない。そう気付いた瞬間、急に現実が遠くに感じて、思わずその手を振り解いて立ち上がってしまった。
「ごめ、ん……バイトあるから……行かないと」
「菜帆」
アルバイトがあるのは嘘ではない。
でも十七時に開始する歩いて十分のアルバイト先に、十四時から行く必要はない。全くない。
わかってはいるが、咄嗟の言い訳に他になにも思い浮かばない。だから苦しい言い訳を残して大和に背を向ける。
けれど大和は逃がしてくれない。
リビングルームのドアに手をかけると、後を追うように立ち上がった大和の手に、後ろからぐっと肩を掴まれた。
「なんで答えず逃げるんだよ」
「っ……」
「菜帆!」
逃げるな、と強い口調で詰め寄られ、さらに身体を掴まれて。
一瞬躊躇したけれど、結局は逃げた。制止の声を振りきってリビングルームのドアを押し開けると、玄関で靴を履きそのまま大和の家を飛び出す。
転がるように家を出てエレベーターの前まで走る。エレベーターボタンの「↓」を押してから振り返ると、共用廊下には人の気配が一切なかった。彼がそれ以上菜帆を追って来る様子がないことに、ほっと安堵の息を吐く。
びっくり、した。青天の霹靂というやつだ。大和に恋愛感情を持たれていたことなど、全く知らなかったから。
逃げてしまったのは、大和が怖くなったから。苦しくなったから。
ではなくて。
きっと真っ赤になっているであろう今のこの顔を、大和にだけは見られたくなかったから。
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