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第6話
しおりを挟む大和に下着姿を披露することはないが、大和の前で下着ブランドのサイトをチェックすること自体はためらいが無くなった。
それはためらいじゃなくて、恥じらいが無くなったのよ、と母には呆れられている。でも大和は特に何も言わないし、この距離感はそれなりに居心地が良かった。
菜帆は母に頼まれていた届け物を、二つ上の階の大和の家まで届けに来ていた。暇なら愛犬のマロンと遊んでいくか? と誘われ、そのまま大和の家のリビングで日曜の午後をだらだらと過ごすことになった。
あまりにちょっかいを出しすぎて菜帆の傍から早々に離れていってしまったマロンと違い、大和はずっと菜帆の傍にいた。菜帆が座ったカーペットの隣に腰を下ろすと、そのままソファーに背中を預けてリラックスしたようにスマートフォンをいじりだした。
最近、ただの幼なじみにしてはやけに距離が近いな、と不思議に感じている時だった。
「はあぁ、難しいな」
「何が?」
「いや、だからクリスマスプレゼント」
「……え、まだ悩んでたの?」
一週間ぐらい前に、大学からの帰り道で相談されていた話を思い出す。
大和はまだ彼女ではない女の子にプレゼントを贈りたいと考えていて、それにはどんなものがいいかと聞かれていた。というより、下着を贈るから参考意見を聞かせて欲しいと言われていた。
でもそれは、やっぱり危険だ。
「アクセサリーでいいじゃん。女の子好きだよ?」
もう一度当り障りのない回答を示すと、大和が『うーん』と困ったように腕を組んで首を捻った。
「でも菜帆は、アクセサリーより下着の方が喜ぶだろ?」
「そりゃ……私はそうだけど」
「すべての女子が、アクセサリーを一番喜んでくれるなら苦労はしない」
「喜ばない人の方が少数派だと思うけど」
「一番嬉しい?」
「え、いや……いちばん……かどうかは、わかんないけど」
「だろ? 世の中には菜帆みたいなトリッキーな奴がいるから困ってるんだよなぁ」
「トリッキー言わないで」
失礼な。別に意表をつこうとか、奇をてらっているわけではない。世の中にはアクセサリーよりも本が好きな女の子もいるし、雑貨の方がいいと言う女の子もいる。下着を喜ぶのだってそれと同じようなものだ。
もちろん自分が普通と比べて変わっていることは、自覚している。
けれどそれはそれとして、大和には一度ちゃんと『それは気持ち悪いよ』と言ってあげた方がいいのかもしれない。
下心は見え見えだし。もしどうしても下着をプレゼントしたいにしても、のちの事を考えたら他の女子の意見は取り入れない方がいいだろう。
お気に入りのランジェリーブランド『WHO-LILL』の公式サイトから視線を外し、大和の横顔を見つめる。近寄ってきていた愛犬の頭を撫でていても、大和の表情は真剣そのものだった。
大和が一生懸命に悩んでいる事はわかった。数日前に菜帆の心のもやもやを聞いてもらった時と同じ、真面目な顔をしていたから。
そこでふと気が付く。
大和の恋が成就したら、菜帆と大和は今より少し距離を置かなくてはいけない。大和の好きな子がどんな子なのかは知らない。同じ大学の友人なのか、菜帆が知っている高校時代の同級生なのか、大和のバイト先の知り合いなのか。
けれどどんな子が相手だとしても、彼女がいる人の隣に別の女の子が居座るわけにはいかない。たとえ同じ建物内に住んでいる幼なじみだとしても、休みの日にお互いの家を行き来する仲だとしても。
「……ずいぶん変な子、好きになっちゃったんだね」
そう思ったら、つい余計な一言を口走ってしまった。大和に対するからかいにしても、失礼な冗談だ。余計なお世話もいいところ。
慌てて謝ろうとしたら、大和と目が合った。
「そうなんだよなぁ……」
なんて。ちょっと困ったみたいに、自分で自分呆れているみたいに。初めて恋をした少年みたいに。
大和が苦く笑う表情をみて、重大な事に気が付いてしまう。
「大和……」
気付いた瞬間、もうこの話題を放り出したくなった。この場から逃げ出したくなった。
大和に好きな人がいることを―――面白くないと感じてしまうなんて。
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