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25. 指を絡めて、共に歩いて ◆
しおりを挟む※ ちょっとだけ無理矢理表現があります。お読みの際はご注意下さいませ。
身体を投げ出された場所はレオンのベッドの上だった。バランスを崩してシーツの上にうつ伏せに倒れ込むと、すぐにレオンが身体の上へのしかかってくる。
そのままセシルをがっちりと捕まえ、決して離さないと言わんばかりに強い力で抱きしめられる。
「ちょ、レオ……ん、んんっ」
冷たいオーラを纏ったままの言葉も発さず、セシルを組み敷いてくる力強さが少しだけ怖い。
不安と恐怖を抱いたセシルは、せめて少しだけでも力を緩めてもらおうと思った。だが振り返ってレオンと視線を合わせる前に、首の後ろに吸い付かれる。
「や、ぁ……まって……!」
ちゅぅと吸い上げる唇の感覚に、言葉も思考も奪われる。首筋から背中に向かってゾクリと電流が走る。
刺激が快感に変わる前にレオンに離れてもらおうとしたが、起き上がろうとベッドに手をついた瞬間、上から手首を押さえつけられた。そのまま指の間にレオンの指が入り込み、ぎゅうと強く握り込まれる。
耳の後ろに再度熱を含んだ吐息がかかる。ショックを受けた反動か、息遣いからレオンが激しい興奮状態にあるとわかる。
「やぁ……っ、ぁ、……ん」
「……渡さない」
すぐにでもレオンから離れるべきだと感じたが、掠れた吐息が項にかかると全身がぞくぞくっと反応する。彼の衝動的な行為を回避するべきだと理解しているのに、身体がぜんぜん言うことをきかない。
レオンの熱に驚いているうちに、彼の手が白衣の中に侵入してきた。腰のベルトを外そうと細長い指が股間の周囲をまさぐる。その荒々しい手つきに、また身体が反応する。
「やっ……ゃ、です……お願い……離し、っぁん!」
あっという間に露出されて剥き出しにされた蜜棒にレオンの指先が絡む。まだ反応していない陰茎を長い指で包み込まれ、ゆるゆると扱かれる。性の刺激を与えられ、強制的に勃起させられていく。
自分の反応が恥ずかしいと思うのに、レオンの温度を感じ取るとなぜか無意識に反応してしまう。
「んん、くぅ……っ、ん」
陰茎を上下に扱かれると腰がびくびくっと激しく跳ねた。レオンの手に勃起させられただけでも恥ずかしいのに、さらに痴態を晒す姿にさせられていく。
「だめ、そこ……強……ぁあん!」
白衣とスラックスを剥ぎ取られ、ボタンを外して胸元を肌蹴られ、かろうじてシャツを羽織っているだけという恥ずかしい格好にされる。
その間も恥じ入る暇もないほど激しく陰茎を扱かれ、気付けばセシルの身体は熱に浮かされたように汗ばんで火照っていた。
「は……は、ぁ……レオン、さま……」
「セシル……」
「んん、んぅ……っふ、ぁ」
背後に覆いかぶさってくる彼の名前を呼ぶ。すると腕を掴んでいた手が離れ、代わりに顎を掴まれた。
背後からのキスは想像よりも官能的だった。深く口付けられると、さらに竿が固くなってより鋭い角度を持ち始める。
「ふぁっ、ぁ……ああっ」
舌と舌を擦り合わせ、互いの唾液を絡ませるように口付け合って貪り合う。
キスと呼ぶにはあまりに淫らだ。六年前に子種を注がれたときのように、こちらの意見を聞き入れてくれないような態度を「怖い」と感じてもおかしくないはずなのに。
優しい口付けに身体が反応する。無意識のうちにレオンを受け入れる準備を始める。
「いい、ですよ……」
「……セシル?」
わかっている。これはレオンの絶望と嫉妬と独占欲を、一方的にぶつけられているだけだ。だからここでレオンの行為を受け入れても問題は何も解決しないし、後で我に返ったときに互いに傷付く可能性もある。
ならば無理にでもレオンの行動をとめるべき。成人した大人の男性同士、衝動のまま感情をぶつけて肌を重ね合うのではなく、話し合って気持ちの整理をすべき。――わかっている。
けれど身体はレオンの感情に応えたがる。彼の悔しさや絶望や愛憎のすべてを受け入れてあげたいと思ってしまう。
セシルがそう感じるのは、レオンが本気でセシルに危害を加えるつもりがないことにちゃんと気付いているからだ。
彼はセシルを拘束したり縛り付けたりするときに、魔法を使わない。特殊な魔法が扱えても基本的な魔法の能力は人並であるセシルに対して、レオンは魔力の純度が高く扱える魔法の種類も豊富である。
ならば無理矢理拘束したりベッドに縛り付けたりして強引な行為に至ることも可能なのに、彼は絶対に暴力的な行動をとらない。
だからレオンの衝動が一時的であると理解している。それに彼の絶望の原因が自分にもあると気付いている。だからこそ、セシルはレオンの衝動を受け入れてあげられたら、と思うのだ。
「そうだな。……こんな事をしても、本当は意味が無い」
「……? レオンさま……?」
レオンになら何をされてもいいと思うセシルだったが、そこで迸る彼の熱がふっと冷めた。頭が冷えてクリアになったかのように息をつくと、それまで後ろ向きになっていたセシルの身体をころりとひっくり返す。
向かい合って見つめ合う。覆いかぶさるレオンの瞳の奥には熱が宿っていたが、声や表情は我に返ったように穏やかで優しかった。
そのまま背中に腕を入れられ、ぎゅ、と強く抱きしめられる。
「アレックスが目覚めなければ、ずっとこうしてセシルを抱いていられるのにな」
「……レオン様」
「でもあいつが目覚めなければ俺が王位を継いで……いずれは好きでもない誰かと結婚しなければならなくなる」
ぽつぽつと語る言葉の一つ一つが、きっと彼の本心だった。
レオンの言う通り、アレックスが目覚めればセシルはアレックスの傍に身を置かなくてはいけなくなる。おそらく研究所の仕事よりもアレックスの補佐を務めることが重要であると判断され、常にアレックスと共に行動することを求められるだろう。そうなればレオンの傍で過ごす時間など作れるはずがない。
だがそれを回避しようと今から魔法薬作りを拒否したり、失敗を装ったとしても、アレックスが目覚めなければいずれはレオンが王位を継ぐことになる。次代の国王として妻を娶り、絶対に出来なるはずがない子をどうにかもうけることを強要される。当然、そこにセシルが入り込む余地などない。
「どうすればこの時間が続くんだろうな。どうすれば誰にも文句を言われずに……こうやってセシルだけを撫でていられるんだ」
「レオン様……」
どちらを選択しても変わらない。どちらの道を歩んでも、今はこうして絡め合う指をいずれは解かなくてはいけない。
セシルも深く悩む。レオンの腕に包まれ、ぎゅうと抱きしめられたままま、永遠に埋まらないパズルのピースを思考の片隅で弄ぶ。
じっと考え込んでいると、ふとレオンがもぞもぞと動いた。
上から抱きしめる体勢ではなくベッドの隣にごろんと横になり、空いた二の腕にセシルの頭を乗せる。そしてセシルの髪の中に鼻先を埋め、ぐりぐりと顔を押し付けてくる。
「……もしかして、甘えてます?」
「ああ」
その動きが主人に甘える犬のようで、なんとなく可愛いと思ってしまう。だから全力で否定されることを予想してそう訊ねたのに、レオンにはあっさりと肯定されてしまった。
頷くレオンに驚くと同時に、この優しい時間があと少しだけ残された貴重な時間なのだと気付かされる。どう転んでも、この関係が終わるまでもう猶予がないことを思い知る。
ならばせめてこの時間を大切にしたいと思う。傷付けあっている場合じゃない。もう、思い出をつくる暇さえ惜しいのだ。
「僕、痛いのはあんまり好きじゃないです」
レオンの背中に手を回し、少しだけ身体を離すと精一杯の笑顔を作る。行為の続きを受け入れる台詞を紡ぎ、自分の気持ちも受け入れる。
「だから撫でるなら、ちゃんと優しくしてくださいね」
「なんだ、珍しく素直だな」
その台詞に一瞬驚いたような顔をしたレオンだったが、すぐにフッと笑顔を作った。
「まさか、最後の思い出のつもりか?」
「え……えっと……」
「だが残念だな。俺はまだ諦めてない」
「……。……へ?」
レオンの言葉に胸を抉られる心地を覚えたが、内心そういう運命だから、と自分に必死に言い聞かせていた。だが次のレオンの言葉はセシルの予想と異なっていた。
思わず、間抜けな声が出る。
「薬が完成したからと言って即座に飲ませて叩き起こす必要はない。父上に知られている以上あまり先延ばしにもできないが、時間がまったくないわけじゃないだろ?」
「そ、それは……」
「それにもし仮にあいつが目覚めてセシルと常時行動を共にすることになっても、さすがに寝るときは別々だろう。それなら、夜は俺のベッドで眠ればいい」
「え、ええ? そんな……!」
レオンが淡々と紡ぐ言葉に、セシルはただただ驚くしかない。
先ほどまでの絶望の表情と衝動的な行動はどこへ行ったのだろう。急に吹っ切れたような、いや、それどころか人が変わったようにセシルの想像を超えた発想を語り続ける。
「必ず方法を見つける。セシルだけは渡さない。俺も、他はいらない」
「……」
レオンの宣言を至近距離で聞いていると、もしかしてこれがレオンの本来の姿なのかもしれない、と思う。
王子として政務をこなす姿を見たことはほとんどないが、いくら王の子だからといっても、才能がなければ国は回せない。臣下は動かせないし、国民を導くことも出来ない。
ならば自分の理想を語り、そこに向かっていくつもの発想を生み出し、目標に到達するまで邁進する姿は、彼に与えられた天賦の才能なのだろう。
――その理想が、私的で不埒なものだとしても。
「なんだ、顔真っ赤だぞ」
レオンの姿をじっと見上げているうちに、なんだか無性に照れくさくなってしまう。この真っ直ぐで賢明な想いが向かう先が、他でもない自分だと思うと急に恥ずかしくなってくる。さっきまで我を忘れて、独占欲と嫉妬を剥き出しにしていたのに。
「いえ……なんか、すごく愛されてると思いまして……」
「だから、そうだと言ってるだろ」
レオンが呆れたようにため息をつく。
その言葉にまた顔が火照る。あまりにも自信満々なので、愛していると言われた覚えなんてない、とは言い出しにくくなる。
言葉に詰まったままレオンの顔を見上げていると、アイスブルーの瞳と目が合った。澄んだ氷のような印象を受ける色の奥底に、ふと情熱的な温度を感じる。
「怖かっただろ? 悪かった、今度はもう少し優しくしてやるから」
「……はい」
レオンの宣言に頷くと同時に、また優しく唇を奪われた。
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