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21. 本の森に隠れて 後編 ◆

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「ゃぁ……っ……ふ、ぅ」
「我慢してる声も可愛い」

 セシルの反応を愛でるように耳元で囁くレオンの手が、シャツの裾から侵入してくる。女性と違って膨らんでいるわけでも柔らかいわけでもない胸をするすると撫でられ、ツンと尖った乳嘴を爪の先で引っかくように捏ねられる。

「んん、……っふ、ぅ……ッ」

 男性がそんなところを撫でられても、くすぐったいだけで感じるはずがない。――以前はそう思っていたセシルだが、レオンに触れられて撫でられるたびにその認識が間違っていたことを思い知らされる。

 ゆるゆると乳首を撫でられる優しい刺激の中にピンと弾かれるような鋭い刺激が混ざると、無意識のうちに腰が跳ねて後孔が収縮する。

 セシルの反応を愉しむレオンの唇が耳の傍から頸動脈の傍を下り、やがで項に辿り着く。ふっ、と首筋に息を吹きかけられると、熱く湿った吐息に反応して身体がまたピクッと飛び跳ねた。

「っぃ……たぁっ!」

 レオンの唇に吸い付かれる感覚の中に、ふと鋭利な痛みが走った。肌を吸われる刺激とは明らかに異なる痛みに驚き、思わず大きな声を出してレオンの脚の上から飛び降りてしまう。

「ああ、悪い……美味そうだったから、つい」
「つい、じゃないですよ! 普通に痛いです!」

 首の後ろを押さえたまま距離を置くと、レオンが一瞬きょとんとした表情を見せる。しかし不思議そうな表情がすぐに不敵な笑みに変化した。

 セシルを追ってレオンもソファから立ち上がる。そのまま近付いてくる姿をおそるおそる見上げると、彼の顔や首も少し汗ばんで上気していることがわかる。男性的な色気を放って静かにセシルとの距離を詰めてくるレオンは、まるで肉食獣のようだ。

 確かにレオンは見目麗しく、立つ姿にも座る姿にも所作の一つ一つにも気品が感じられる。だがこれまで遠目に眺めてきた『アレックス王子』と、こうしてセシルの前で素の姿を見せる『レオン』は纏う空気が明らかに異なる。セシルを捕えるアイスブルーの瞳は、お腹を空かせて獲物を狙う野獣そのもの。

「ほら、本は後でいいだろ」
「だ、だめです! 時間が……!」
「時間なんて気にしなくていい」

 持っていた本を強引に奪われ、テーブルの上にぽいっと放り投げられる。

 レオンにとってはただの本かもしれないが、ここにあるすべての書物は国の保有する貴重な情報と記録の結集だ。たとえ興味がなくてももう少し丁重に扱ってほしいのに、今の彼にはどうでもいいらしい。

「あ、あの……僕本を読んだら研究所に戻らなきゃいけないんですが……」
「大丈夫だ、ちゃんと送ってやる」

 本が敷き詰められた棚に、トン、と背中が当たる。レオンの色気と迫力に圧され、いつの間にか彼と本棚の間に挟まれ、逃げないように退路を塞がれている。 

「つれないな。せっかく一週間ぶりに触れるのに」
「そんなこ、と……んぅ……んん」

 距離を縮められるとそのまま唇を奪われる。目の前にレオン、後ろに本棚が在っては逃げることも出来ず、舌を絡められて激しく貪られるとセシルには拒否できない。

 シャツ越しにお腹に触れた指先が臍の周囲を撫でる。そのまま手の位置が下がると、器用に片手でベルトを外される。

「あ、ちょっ……」

 腰回りの締め付けが緩むと、スラックスが足元にするりと落ちる。だが下半身から下衣の感覚が消えたことに驚いている暇は与えられず、あっと言う間に下着まで降ろされ、下半身が丸出しという恥ずかしい格好にさせられる。

「白衣で下は裸、というのはなかなか煽情的だな」
「な、ちがっ……っひぁッ」

 今日のセシルは研究の一環として必要な資料を閲覧するために、王族であるレオンと上司であるマルコム双方の許可を得て王城を訪れている。

 研究者として活動する際は王立魔法研究所の所属であることを示すために、白衣を着用するのが一般的だ。そのため今日も白衣姿のセシルだが、この格好はレオンを淫靡に誘うことが目的なのではない。

 しかし白衣の下で勃ち上がっている屹立を握られ、その刺激に少しでも反応してしまえば説得力が半減する。セシルをからかう濡れた瞳にこの格好と痴態を見下ろされると、不埒ではないと言いきる自信がなくなる。

「や、ぁ……んっ」
「いい声だ」

 そっと掴まれた陰茎をゆるゆると扱かれる。その優しい上下運動が気持ち良すぎて、腰から力が抜けて頽れそうになる。

 右手で自分の口を押えて、左手を後ろの本棚につく。どこかに体重と快感を逃がさないとあっという間に果ててしまいそうだ。

「あっ……ふ、ぁ……ん……ぅん」

 セシルの蜜棒を擦り上げるレオンの手の動きに合わせて喉から声が溢れ出る。

 他人に陰茎を握られて擦られる行為は、緩急も速度も強さも予測不能だ。与えられる刺激は思いのほか心地良く、快感が腰の奥に直接伝わると下半身がびりびりと痺れる。

 何度か擦られると勝手に陰嚢が震えて腰の奥から熱い感覚がせり上がってくる。射精の衝動に身を委ねれば楽になることはわかっているが、うっすらと目を開けてレオンと見つめ合うとやはりどうしても背徳感が勝る。

「レオン、さま……っ、ここ、……資、りょ……こっ」

 自分の部屋なら諦めもつく。申し訳なさこそあれど、学園であれ王城であれレオンの寝室というのもまだ受け入れられる。

 しかしここは王城の資料庫だ。普段人が近寄らない奥まった場所にあるとはいえ、扉一枚向こう側は普通の廊下である。誰が行き来してもおかしくないし、誰かが入室してくる可能性もゼロではない。

「ああ、誰もいない」
「そう、じゃな……っふ、ぅ……」

 だがレオンの態度はセシルの訴えなどどこ吹く風。むしろ誰もいない場所だから好都合だとでも言いたげに、セシルの陰茎を扱くスピードを速める。

「ふ、ぁっ……はあぁっ……ん!」

 このまま射精してしまえと言わんばかりにさらに手早く擦り上げられる。そのあまりの刺激の強さに耐えられず、セシルは結局、擦られるままに呆気なく果ててしまった。

「はぁ……は、ぁ……」
「派手に達したな、セシル」
「う……うぅ……」

 元々先走りの露で濡れていたレオンの手が白濁液で汚れ、いつも身に着けている白衣の内側にもべっとりと精蜜が付着する。

 肩で息をしながら、衣服が濡れた感覚が気持ち悪い、汚れた白衣でどうやって研究室に帰ろうか、と考えていると、レオンの手によって身体をくるりとひっくり返された。

「え……?」

 レオンに誘導により、背後にあった本棚に前腕をつきお尻を突き出すような格好にさせられる。頑丈な木製の棚に体重を預けると身体の支えになるため立つのは楽だが、ほっと安堵する間もなく後蕾にレオンの指が突き入れられた。

「っぁ――ッ!」
「力抜け、セシル」

 自分が放った蜜液を潤滑油の代わりにして後孔を解きほぐされる。その刺激に再び身体が反応を始める。

 レオンの指は細いが長く、力んできゅうっと収縮しても奥の深い場所まで指の先が届く。ぐちゅぐちゅ、ぬちゅぬちゅ、と濡れた音が激しく響く。

 女性の膣と異なり、普通、後ろはほとんど濡れないはずだ。しかし自ら放った精液を丁寧に塗り込まれてわざと激しい音を響かせられると、自分の身体が自分のものじゃないように思える。レオンの手により、だんだんと淫らに変えられていく気がするのだ。

「ぁ……、ゃっ、ぁ、あっ……!」

 レオンの人差し指と中指の動きに合わせて腰が自然と動き出す。白衣を捲り上げられて立ったまま後ろから組み敷かれるという状況がセシルの背徳感をさらに煽るのに、身体は自然とレオンを求めてしまう。

 右手で先の準備をしつつ、左手が顔の前に回ってきて頬を撫でる。そのまま斜め後ろを向くように誘導されると、セシルの表情を確認したレオンがフッと笑顔になった。

「興奮してるのか? 泣くほど気持ちいい?」
「は、はずかしく、て……死にそ、です……んぅ……ふあぁっ!」

 期待と興奮で濡れた瞳と、火照った顔を確認されることが恥ずかしい。だから見ないで、と首を振ると、ちゅぽんと音を立てて後ろをかき混ぜていた指を引き抜かれた。

 ほっとするのも束の間、埋めるものがなくなった後孔の入り口に固い何かが宛がわれた。そのまま先端が沈められると身体がひくっと反応する。

「あ、まだ挿れちゃ――だめ、ぇっ……ぁあん!」

 レオンの存在を感じ取る暇もなく、一気に貫かれる。

「……ッ、締めすぎだ、セシル」
「や、ぁ……だって……っ」

 奥まで挿入したレオンがセシルの反応を指摘するが、身体に力が入ってしまうのはセシルのコントロール下にない無意識の緊張だ。レオンの雄竿に満たされる感覚だけで、異様に興奮して自然と身体が力んでしまう。

「あ、ふぁ……っ、ん……!」

 セシルの興奮と快感を知ったレオンが、仕方がないとばかりに腰を掴んでゆっくりと動き出す。腰を引かれるとずるるぅっと陰茎が抜けていくが、次の瞬間にはじゅぷんっと深い場所まで貫かれる。

「ああ、ああぁっ……!」
「セシル……ここは? っ……どうだ?」
「きもち、ぃ……レオンさ、まっ……っ、ふぁ、っは……はぁ」

 ゆったりとした抽挿の一突きごとに快楽が増幅する。結合部に摩擦が生じるたびに熱が生まれ、蜜壁をみっちりと埋める存在に心も身体も満たされていく。

 いつの間にかセシルの蜜棒も再度完全に勃ち上がっている。その先が白衣に擦れるわずかな刺激さえ、今のセシルにとっては新たな快感を生む火種になった。

「あっ……やぁあ、あっ……、ふ」

 快感に震えて喘ぐと、レオンに再度口付けられた。唇を塞がれたまま腰を打つスピードが加速すると、強い熱量に抗うことができずそのまま絶頂に昇り詰める。

「あ、っふぁっ、……んんんっ――!!」
「ン、はぁ……っ……セシル」
「レオン、さま……ぁ」

 レオンの激しい腰遣いに押し出されるように、びゅく、びゅるる、と射精してしまう。それと同時にセシルのそれよりも熱く大量の精を吐き出されたことを感じたが、快楽の余韻に溺れて貪り合うようなキスに夢中で、しばし汚れた場所のことまで頭が回らなかった。

「あ……」

 レオンの陰茎がずるりと引き抜かれると、ようやくその場に崩れ落ちる。

 しかし本棚に身を預けながら脱力したセシルは、ふと自分の足元に広がる床や本棚下部の惨状にサァッと青褪めてしまった。

「ど、どど、どうしよう……! 本が汚れて……!」

 見れば下段にある本の一部に精液がかかって汚れている。てっきり白衣の内側に出してしまったとばかり思っていたが、主に自分の放ったものと思われる白濁液が床と本を盛大に汚している。

 棚に詰められた背表紙に精液が付着しているのを見ると、快感の余韻も吹き飛ぶ勢いで焦ってしまう。

「拭いとけば大丈夫だろ。どうせ誰も見ない」
「そういう問題じゃないです!」

 セシルの慌てぶりを見てもレオンはあっけらかんとしているが、そういう問題ではない。もちろん買って弁償すればいいというわけでもないが、ここにある書餅はそもそも買うことすらできないような貴重な代物ばかりだ。

 大慌てで室内にあった布を引っ張り出してくると、古ぼけた茶色い本の背表紙を懸命に拭いていく。

 お尻丸出しで本の心配をする姿もどうかと思うが、それよりも貴重な本の状態の方が大事だ。レオンの色気にあてられてつい激しい行為に及んでしまったが、自分のせいで大切な本や資料が傷んだり汚れてしまうなど決してあってはならない。

「あれ? これ、何語……?」
「ん?」

 平然とするレオンの傍らで涙目になりながら本を拭くセシルだったが、ふと違和感に気づく。

 何気なく手にした本を確認すると、そこに箔押しされていたタイトルは、まったく見たことのない文字だった。

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