【本編完結】訳あって王子様の子種を隠し持っています

紺乃 藍

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17. 眠れる獅子が起きるまで 後編 ◆

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 アイスブルーの瞳は静かで冷たい印象を受けるのに、レオンの言葉は温かく、指遣いは優しく、視線は痛いほどに熱い。

 万人の認識とまったく違うレオンの態度は、自分だけに向けられているもの。それを知ると照れて何も言えなくなるが、レオンはセシルの反応が薄いことが心配になったらしい。指で顎先を掬われ、視線を合わせられると不安げな表情で顔を覗き込んでくる。

「セシルは? 俺に嫌々付き合わされてるだけか? 他に付き合っている奴がいる?」
「い……いませんよ……」

 そんな相手などいるわけがない。残念ながらセシルには男らしさが足りないのか、生まれて二十四年間異性にモテたためしがない。

 もちろん自分から意図的に人を避けているせいで、他人と交流を持つ機会が少ないのもある。だが例えば同僚のジェフリーなんかも、魔力が暴走したときに周囲を巻き込まないよう人との関わりを避けているらしいのに、異性から声を掛けられることが多い。きっとがっしりとした男らしい身体つきと精悍な顔立ちが女性にとって好ましい外見だからだろう。

 そう考えるとセシルには異性を惹きつける魅力が圧倒的に足りていないと思う。そのせいかセシルには恋人などいない。もちろんこれまでの交際経験もゼロだ。

「こんな姿、見せるの……レオン様だけです」
「!」 

 着衣を乱され熱と快感に浸ったふしだらな姿など、他人に見せたことはない。そんな相手は貴方だけ――そう告げるとレオンの動きがぴた、と止まる。セシルの上に跨ったまま、目を見開いて驚かれる。

 レオンの表情の理由がわからずセシルも固まってしまうが、動き出してもレオンは長いため息をつくばかり。困ったような呆れたような表情に首を傾げていると、再び唇を奪われた。

「っ……ん」
「セシル……今日はこのまま、前からする」

 唇の間で紡がれた宣言にもまた驚くが、セシルはすぐに受け入れる覚悟をする。こくんと頷くとそのまま夜衣の下衣も一気に剥ぎ取られた。

 下半身をすべて晒されると、脚を開かれてその間にレオンの身体が滑り込む。膝立ちで自分の前を寛げる様子を緊張しながら見つめていたセシルだが、視線に気付いたレオンは表情を緩めると、身体を前に倒してセシルをぎゅっと抱きしめてきた。

「これなら口付けながらできる。セシルの顔も見れる。俺の本気も、わかるだろ」
「それは、もうじゅうぶ……ん」

 レオンの本気は存分に伝わっている。だが彼はまだ足りないと言わんばかりに、またセシルの唇を奪う。今度はより深くまで口付けられ、舌同士を絡め合う。柔らかく濡れた感覚が溶け合うようで、少し息苦しいはずなのに心地いい。

「ん……んぅ……は、ぁ」

 覚えたばかりのキスに夢中になっていると、レオンの指が腰を撫で、脚の付け根の前を通り、すでに回復している陰茎と膨らんだ陰嚢に触れながら股の間をするっと撫でる。その手がシーツと臀部の間に入り込むと、中指で閉じた菊門に触れられた。

「ふぁ……っ!」

 敏感な場所に触れられた身体が一瞬びくりと強張る。しかし彼の指の動きを阻むことはなく、一呼吸置くとそのまま指を挿し込まれた。

「う……っ、ん……」
「痛いか?」

 異物の侵入に声が漏れると、すぐに動きを止めて状態を確認してくれる。そうやってセシルの負担を気遣ってくれるレオンの優しさが嬉しくて、ふるふると首を振る。

「大丈夫、です……」

 大丈夫。痛くも怖くもないと言えば嘘になるが、それを乗り越えてでもレオンを受け入れたいと思っている。彼とまた繋がることに躊躇いはないし、多少の負荷は覚悟している。

 セシルが頷くと「痛かったら教えてくれ」と優しく微笑まれる。その麗しい笑顔をこんなに間近で見れるのならばで、痛みや不安や緊張などいくらだって我慢できそうだ。

 指がさらに奥へ侵入する。外へ出すための構造はあるが中へ導いて受け入れる機能を持たないその場所は、レオンの指を押し出そうと無意識に力んでしまう。

「っ、ぅ……ん」

 身体がふるる、と震えると、レオンが空いている手で頭を撫でてくれる。ふわふわと髪を撫でられてぽんぽんと頭を軽く叩かれると、その心地良さに絆されて後孔に挿入されている異物感が急速に和らいでいく。

 力が緩むとまた指が奥へ侵入する。そうして指を根元まで埋められると、今度はゆっくりと引かれていく。

 抜けきらないうちにまた奥を目指して進んでくる指が、今度は孔壁をトン、と強めに押した。その刺激に身体がピクと跳ねる。

「あっ……!」
「ん……感じるのか?」
「え、違……」

 セシルの反応に気が付いたレオンにそう訊ねられたが、聞かれたセシルにもわからない。

 慌てて首を振って否定したが、表情を崩したレオンに意見を聞いてくれる態度や気配は感じられなかった。

「……ここか?」
「ぅあ……ッ」

 先ほどと同じ場所を指先で強めに引っかかれる。すると突然それまでとは明らかに違う、ただの違和感だけではない反応が生じた。

 びくびくと震える身体に誘発されるように、一度吐精して萎んでいたはずの陰棒も再び熱を帯び始める。勃ち上がった先端がレオンの肌に触れるので、意識していなくても身体の変化に気付いてしまう。

「あっ……あ、ちが……っ!」

 小刻みに震える身体が快楽を得ていることを教えてくれる。恥ずかしさのあまり一生懸命否定するが、レオンはセシルの痴態を見ても楽しそうに微笑むだけだ。

「セシルはここが好きなんだな」
「や、やっ……わかん、な……っぁ!」

 レオンの指が同じ場所ばかりを擦り撫でる。その度に甘えたような声が漏れ出てしまう。

 六年前とは明らかに違う。あの時のセシルは突然の出来事に思考がついていけず、強い刺激を与えられながらどうにか心の準備をしているうちに、あっという間にレオンから子種を放たれた印象だった。

 けれど今のレオンに強引さは感じられない。セシルが感じる場所を探り当ててそこに正しい快感を与えることで、セシルを労わって甘やかそうとしているようだ。

「あっ……あ、ぁん……」
「可愛い……」

 先ほどと同じその褒め言葉は、男性相手に使うものではない気がする。しかしレオンは心からそう思っているようにセシルを褒めて可愛がろうとする。

 快楽反応が強い場所を中心に、後孔を優しくかき混ぜられる。以前は水の魔法を使って濡らされたが、今回は己の指だけでゆっくりと丁寧に解されていく。濡れ足りないときは一旦抜いた指を唾液で濡らしてまた解されるので、何度かそうしているうちにセシルの身体はすっかりとろけて火照ってしまった。

「だいぶ解れたな」
「ん……」

 レオンの呟きにくたりと力が抜けたまま頷く。実際は自分で自分の状態を正確に把握できているわけではないが、時間をかけて丁寧に解されたことは事実だ。

 抱えられた足を左右へ開かれる。緊張しながらレオンの姿を見つめていると、彼の喉仏がごくりと上下に動く様子が見れた。

「レオン、さま……」
「痛かったら言ってくれ」

 たくさんかき混ぜられて撫でられた場所を再度割り開かれる。いつの間にか強く奮い立っていたレオンの陰茎は、一度達したセシルのそれよりも太く固く張り詰めている。

 凶器のような質量の先端が、菊孔に宛がわれる。密着したそこが緊張感でひくひくと収縮しているのを自覚する前に、レオンの雄竿がずぷっと侵入してきた。

「ふぁ、ああぁっ……!」

 一気に中ほどまで挿入されるとシーツの上に身体が仰け反る。身体がビクッビク、と激しく反応する。

 しかしまだ完全には埋められていない。レオンが何かに耐えるように長い息を吐くので、衝撃でつい閉じてしまった目をうっすらと開く。

 セシルを見下ろしていた獣のように鋭い眼と見つめ合うと、その瞳がぎらりと激しく揺れ動いた。口元が、ゆるりと弧を描く。

「っぅ、んっ……あ――ッ」

 レオンの雄々しい姿に見惚れているうちに、残りの半分を一気に挿入される。

 二段階に分けてレオンの雄竿が根元まで埋められると、あまりの質量と激しさにセシルの身体が弓なりにしなる。しかし身体を貫かれる衝撃に震えている間に、一度腰を引かれて挿入された熱棒が抜けていく。

「セシル……っ」
「っぁ……ぅ」

 尻を掴んでいた手が少しだけ上に移動して、腰をしっかりと掴まえる。だがそれは激しい律動の始まりの合図で、セシルがまともな返答をする前に再度奥まで突きたてられた。

「あっ、ああぁ、っ……!」

 二度目の挿入に再度背中が仰け反る。だが違和感と圧迫感が強いはずなのに、痛みよりも先に嬉しさがこみ上げる。ゆったりとした突き上げが加速するたびに甘い声と涙が溢れるので、自分がこんなにもレオンを欲していたのだと気付かされる。

「ぁ、アッ……ふぁ、っあぁ……!」

 激しい抽挿のたびに甘えた猫のような声が漏れる。女の子みたいに喘いでしまうことが恥ずかしいはずなのに、結合部が擦れて熱が生まれると心と身体が満たされていく。

 レオンに抱かれていることを実感すると、これまでの六年間で蓄積してきた不安と不満がじんわりと溶けて消えていくように思えた。

「ああ、セシル……可愛い……ッ」
「れお、ん……さまぁ……っ」

 レオンもレオンで、絶対に男性にかけるような言葉ではないことばかり呟く。けれどセシルを欲して、愛して、可愛がってくれる何よりの証拠のように思えると、抗議の言葉などすぐにどこかへ消えていく。自然と嬉しい、と感じてしまう。

 ぱちゅ、ぐちゅ、ずちゅ、と結合部から生じる摩擦音と肌同士がぶつかる音が激しく変化する。混ざり合った体温と体液にも性感を高められ、快楽が一気に膨れ上がる。

「ああ、あぁ、あ……!」
「っく、――ン!」

 セシルが熱を感じると同時に、レオンの快楽が頂点に達したようだ。宙を彷徨っていた左手にレオンの右手が絡むとそのままシーツに押し付けられる。

「っ、セシ、ル……ッ」
「ふ、ぁ……っ!」

 腰をぐりゅっと突き入れられた瞬間、後孔に大量の精を吐かれた。その熱に浮かされてセシルの身体も強く反応したが、前に触れられていないセシルは後ろを突かれただけでは達しなかった。達するはずがないと思っていた。

「え……?」

 しかし己の腹の中でレオンの精を受け止めたことを知った瞬間、なぜか異様に興奮してしまったらしい。

「ふぁ、ぅん、ぁああ――っ……!」

 気が付けばセシルも大量の精液をまき散らし、レオンの後を追うように絶頂を迎えていた。

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