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エピローグ

【後日談番外編】天ケ瀬夫婦の癒し時間 ★

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☆ 投稿がちょっと遅くなってしまいましたが、いい風呂の日(11/26)SSです。



「はぁ~……極楽~……」

 ヒノキの香りがする湯船の中で、熱めの温泉に浸りながら大きく息をつく。

 視界の先で湯口からとぽとぽとお湯が流入する代わり、湯船の端に作られた小さな溝からそれと同じ分量のお湯が排出されていく。

 いわゆる〝源泉かけ流し〟というやつだ。健康に影響がないよう温度や泉質は管理されて多少調節されているとは思うが、正真正銘の天然温泉である。最高だ。

「疲れは取れそうか?」
「もちろんです」

 極楽気分を味わいながらぽかぽか和む美果のすぐ後ろから、同じように温泉に浸かっている翔が声をかけてくる。後ろもなにも実際は彼がお湯の中で立てた足の間に美果が座って背中を預けている状態なので、抱きしめられたまま一緒に入浴しているのと同じだ。

 美果としてはどうせ客室露天風呂付きの部屋に宿泊するのだから、どちらかが入浴時間をずらせば、もっとゆっくり入れると思う。

 だが翔の言い分は『それじゃ客室に風呂がついてる意味ないだろ』とのことなので、二回目三回目の入浴はともかく、最初だけは一緒に入ることにした。案の定、ちゃんとくつろいでげているかどうかは怪しいけれど。

「まさか『温泉に行く』と言われるとは思いませんでしたが」
「ん?」
「翔さん、レストランと同じノリで温泉に来るんですね」
「まあ、明日休みだったしな」

 後ろから美果を抱きしめてくる翔の口振りに、つい苦笑いを零してしまう。

 週末は一刻も早く帰宅するよう心がけているらしい翔は、今日も定時直後に仕事を終え、比較的早い時間に帰宅してきた。そんな翔をいつもなら万端の準備を整えて玄関先で出迎える美果だが、今日は少々、いやかなり疲れていた。

 それもそのはず。美果は計画を立てることもそのスケジュール通りに行動することもさほど苦痛に思わない性分だが、今回の大学の課題はグループワークを含むレポートの作成だった。

 そのグループワークのため講師が適当に割り振ったメンバーの中に、計画通りに行動できずすぐに脱線する者がいた。そのせいでレポートの作成が大幅に遅れ、美果のグループは全員が提出期限ぎりぎり――今朝まで徹夜で課題に取り組む羽目になってしまった。

 自分勝手なメンバーは同じグループの他メンバーにしこたま叱られてしゅんと反省していたので、美果自身は彼に対して怒りはしなかった。しかしそのしわ寄せが猛烈な眠気となって美果を襲い、結果、レポート提出と午前の授業を終えて帰宅したあと、家事に手をつける前にリビングで丸まって爆睡してしまうことになった。――翔の帰宅を知らせるチャイムが鳴る、その瞬間まで。

 申し訳ないと思いつつ振り返ると、すぐに翔と目が合う。

「ん?」
「あ、いえ……仕事終わりに運転するの、疲れただろうなって」
「なんだ、そんなこと気にしてたのか?」

 くすくすと笑う声が耳朶を掠める。
 楽しそうな声色に、申し訳なさに加えて恥ずかしさも湧き起こる。

 大学への社会人入学を決めたとき、『自分も家事に協力する』と言ってくれた翔の言葉は――まあ、一応嘘ではなかった。しかし元々さほど経験がない翔が、ある日突然、美果と同等の家事をこなせるようになるわけがない。

 確かに自分の身の回りのことや買い物や風呂掃除ぐらいなら、ある程度はできるようになってきた。だがこれまでやったことがない手間がかかる家事に、金曜日という疲労困憊状態であえて初挑戦することもないだろう。精度が低いどころか、かえって互いの負担を増やしてしまうかもしれない。

 ……と、二人で結論づけた結果、今夜はすべての家事を丸投げし、外で外食をすることになった。まさか行きつけのレストランに行くのと同じテンションで、せっかくなら疲れを癒すために温泉に行こう、と言い出すとは思わなかったけれど。

 家事は苦手な翔だが、体力と行動力と人脈には事欠かないらしい。金曜の夜に、急に客室露天風呂と二食付きの高級旅館に宿泊すると言われたときは、美果も思わず固まってしまった。普通なら数日前に事前連絡しろ、と旅館側から怒られるところである。

「代わりに美果に癒してもらうから、問題ない」
「え……疲れを癒しにきたのに、疲れることするんですか?」
「俺は別に疲れないぞ……俺はな」
「ってことは、私は疲れるんですね」

 唐突に決定した温泉旅行だが、翔はすこぶる機嫌がいいらしい。数日徹夜をしてレポートを書いた美果よりも一週間働き詰めの翔のほうが疲れていそうなものなのに、美果を後ろから抱きしめてお湯に浸かる翔はどこまでも嬉しそうだ。

「いつもありがとう。勉強もレポートも大変なのに、家事も天ケ瀬の付き合いも頑張ってくれて、美果は本当にえらいな。俺の、自慢の妻だ」
「翔さん……」

 そんな彼が幸せそうに美果を労ってくれるので、じん、と心を打たれる。美果の些細な疲れなど、その言葉だけですべて吹き飛んでしまいそうだ。

「翔さんも、毎日お仕事頑張ってくれてありがとうございます。私の応援をしてくれるところも、私が無理をしないように見守ってくれるところも、大好きです」

 だから美果も自分の想いを伝えるために、頬を撫でてくれる大きな手にすりっと肌を寄せてみる。いつも美果を想ってくれて、応援してくれて、大事に扱ってくれて、めいっぱい甘やかして癒してくれる――そんな彼に少しでもお礼の気持ちを伝えたくて感謝の言葉を素直に口にした。

 だが翔はなぜか力が抜けてしまったようで、後ろから美果の肩に額を乗せると、はあぁ……と深いため息を零す。温泉に浸かったときの美果の感嘆よりも大きな声で。

「……一気に無理させない自信がなくなった」
「え。……っ、しょ……さんっ」

 翔は力が抜けたわけではなかった。
 むしろ力がみなぎってきたようだ。主に、股の間の。

「美果が可愛いのが悪い」
「え、ええっ!? 感謝の気持ちを伝えただけなのに!?」

 お湯の中で腰を抱かれて引き寄せられると、お尻の後ろに固く張り詰めたものをぐりっと押しつけられる。

 夫婦二人きりの客室露天風呂なので、特に腰や身体をタオルで覆っているわけでもない。よって固くなった存在も直に感じてしまうし、ヒノキの湯船の中に翔の愛撫から逃げられる場所も見つからない。

「ん、んん……ん」

 後ろから顎先を捕らえられ、そのまま唇を重ねられる。今週はお互い多忙で寝る時間もばらばらだったし、特に週の後半の美果に至っては寝室でちゃんと寝ることもできなかった。

 だから挨拶以上のキスも久々な気がする。ちゅ、ちゅ……と啄むような口づけが徐々に深くなっていく。熱い舌同士が絡む温度が、心地いい。

「ふ……ぁ、……ぁ」

 肩から振り返って口づける合間に、脇腹から回り込んできた翔の両手が美果の胸に触れてきた。浮力で湯面に浮く胸を骨張った指がふんわりと包み込み、外気の冷たさを感じて少し固くなった先端を左右同時にくりくりと摘まんで撫でられる。

「あ……っぅ、ん」
「ここ擦られるの、好きか?」
「え、えっと……ぁ……はい」
「ああ……素直で可愛いな」

 楽しそうに笑う声が耳朶を掠めるたびに、背中がぞくぞくと震えて甘く痺れる。翔の吐息と声だけで感じてしまう身体を恥ずかしく思う反面、美果の反応ひとつひとつを喜んでくれることを嬉しく思う。

(先のとこだけ、いっぱい……。翔さん、やっぱり私が気持ちいいとこ……全部知ってるんだ)

 翔に撫でてもらいやすいよう腕を少し浮かせると、隙間ができて動かしやすくなったぶん翔の指の動きが大胆になった。むに、と強めに胸を掴まれ、人差し指の腹を使って乳の頂を上下に激しく嬲られる。

「ふぁあっ……ん」
「ん。いい声……」
(! そ、そういえばここ、外だった……!)

 激しい愛撫に甘えるような声が零れると、翔がまた嬉しそうに笑う。だがこの姿は翔以外の誰にも見られたくないし、声も聞かれたくない。

 もちろん客室内に作られた浴場である以上、他の部屋や廊下から覗かれない仕組みにはなっているだろう。しかしここは屋外なのだ。あまり大きな声を出せば、隣接する別室の宿泊客に声を聞かれてしまう可能性はある。

 幸い腕を浮かせているぶん、自分の口元を覆って隠しやすい。そう気づいた美果は指の背で唇を覆い、必死に声を押さえようとした。

 しかし再びキスをしようとしたことで、美果が懸命に声を我慢しようとしていることに気づいたらしい。ふ、と笑った翔が、わざと強く柔肌を掴んで先端をピン、と弾くように刺激してくる。

「ん、んん……ぅ」

 強すぎる愛撫に負けて、また甘えるような声が漏れる。だが翔に聞こえるぐらいの声なので、そこまで響いていないし外には聞こえていない……はず。

 そう思って安心しかけた美果だったが、左胸を刺激する左手はそのままに、右手が突然、美果の腹の上を撫でた。思わずびくん、と身体が跳ねる美果だが、翔の目標地点はお腹ではなかったらしい。

 柱からぶら下がったお洒落なランタンの電球色が、湯面に反射してきらきらと煌めく。その輝きの下で美果の下腹部――さらにその下へ進んだ翔の手は、あっという間に中央の窪みに到達した。

「あ、ぁ……や、ぁ……」
「ん、痛いか?」
「ちが……ちが、う……っぅん!」

 翔の指先が割れ目の奥に侵入する。そのままゆっくりと指を挿入されて、中をゆるゆると掻き混ぜられる。奥がぬるりと濡れている気がするのは、きっと温泉の成分のせいではない。それがわかっているから恥ずかしいのに、翔が美果の耳元で、

「美果? ここ、濡れてるな?」

 と意地悪に訊ねてくる。

 ふるふると首を振って、すぐ後ろにいる夫に自ら答えを示すことを拒否する。もちろん質問の内容そのものも恥ずかしいが、それ以上にこのままだと必死に我慢している声が溢れ出てしまいそうで、たまらなく恥ずかしい。

 色んな羞恥が一気に襲い掛かってくると、無意識に秘部が収縮する。その場所を丁寧にほぐしてくれる指の動きが気持ち良くて、なおさら必死の我慢が必要になる。

「声……出ちゃ……うの、恥ずかし……ふぁ……っ」
「美果……?」
「しょ……さん、以外……に、聞かれたく、ない……の!」

 翔は温度が高い湯に長時間浸かっていたせいで、美果の具合が悪くなった、と感じたのかもしれない。しかし美果の言葉が途切れ途切れになってしまう理由は、翔の気持ちいい指の動きに耐えるため。大きな声が出ないよう、喉に力を入れているせいだ。

「はぁ、ん……しょ、さ……ぁん」

 後ろから顔を覗き込まれ、翔の不思議そうな目と目が合う。美果の表情と様子を確認した彼は一瞬目を見開いたが、すぐに表情を緩めて微笑んでくれた。

 ――ちがう、微笑んだわけじゃない。
 翔の瞳に宿った色欲の温度は、美果をもっと可愛がって、もっと深く愛することを楽しみたいという意地悪な色に変わっていた。その変化を、無意識のうちに理解してしまう。

「美果。そこの縁に、手ついてくれ」
「え……な、なんで……」

 美果の身体を抱えるように突然立ち上がった翔が、少し進んだ湯船の奥――誤って外へ落ちないようやや高くなったヒノキの縁に、美果の手の位置を誘導する。

 翔の行動に驚いた美果は振り返ろうとしたが、美果が前方の縁にちゃんと掴まったことを確認したらしい彼は、もう止まらない。止まってくれない。

 立って密着した状態のまま、下腹部の前から股の隙間に侵入してきた指が、美果の秘部を左右に大きく割り開く。

「ま、待っ……! 翔さん……このままは……!」 
「いい……美果の声、聞きたいんだ」

 必死に首を振って恥ずかしい、無理です、と訴えたが、翔はやっぱり動じない。冷たい外気に晒されてひくりと蠢く場所に、斜め下から熱塊の先端を押し当てられる。

「だめ……翔さ……」
「だめ、はこっちの台詞だろ。美果の声が可愛くて――もう、限界だ」
「ふぁあ……ん!」

 制止の言葉はかけるだけ無駄だった。美果の身体を抱きしめた翔が、お湯と愛液で濡れた秘部に昂った剛直を突き立てる。

 挿入と同時に結合部からじゅぷぷ、と激しい水音が溢れ出す。しかしその音を正確に聞き取る前に、一度動きを止めていた翔の腰がさらに奥まで……ずちゅん、と濡れた音と共に、今度は最奥まで貫かれた。

「あっ……ぁああッ」

 そのまま抽挿が始まるので、ヒノキの縁に掴まって激しい腰遣いに耐えようとする。

 太腿のあたりまで浸かった湯気には鉱物っぽい温泉特有の匂いが混じっていて、その非日常的な刺激にまた別の興奮を覚える。それにほのかな灯りが湯面にキラキラと反射する幻想的な光も。目の前に広がる朱色と黄色の掛け軸のような、秋色の大自然の風景も。

「あっ……っゃ……ぁ……あ」
「ここ……中、すごいな……柔らかくて、熱い……!」
「ふぁ……あ……ぁん……っ!」

 花壺を開くために陰唇に添えられていた翔の手は、今はもう秘部を離れ、美果の身体を抱きしめるように胸に添えられている。時折指先が勃ちあがった突起をくりくりと捏ね回すので、その淫らな刺激に身体にまたきゅう、と力が入る。

(だめ、だめ……! ほんとに、声……!)

 不規則に最奥をつく腰遣いも、背中に密着する翔の温度も、胸を刺激する指先も、縁についた美果の手の上に重ねられる反対側の手も。それに湯に入らないよう髪を結んでいたせいで、いつもよりよく見えるうなじに落とされる口づけも――なにもかもが美果の性感を高める刺激になる。

「ひぁ、あっ……ああ、ぁ……っ」

 互いに立った状態で後ろから貫かれているせいだろうか、抽挿のたびに肌がぶつかって響く音が、いつもより大きく聞こえる。それだけではなく、お湯と愛液が混ざってじゅぷじゅぷと溢れ出る恥ずかしい水音も。これでは美果が声を我慢している意味がないのでは、と思うほどに。

「だめ、翔さ……ぁ……も、イ……っちゃ……ぅ」
「ああ、イけ……イッていい……俺も、もう……!」

 背後にいる翔に限界を訴えると、美果の耳の傍に快感に溺れたような掠れ声が響く。その艶を帯びた声が、美果を愉悦の壁の向こう側へ誘う。

 許可の一言に激しく乱れることを許された気がして――いっそ体力の限界まで疲れて、その後ゆっくり時間をかけて回復したほうが後々疲労が残らないと言われているように錯覚して――快楽のまま翔に身を委ねることを決める。

 そうなるとあとはもう、二人で溺れる一方だ。

「ふぁ……あ、ぁ……っ」
「美果……っ」

 敏感になった内壁をごりごりと擦られて奥を突かれているうちに、足の付け根がびりびりと痺れ始める。その甘い熱が増大する瞬間と腰を奥まで突き込まれた瞬間がぴたりと重なると、下腹部の奥でばちばちと電流が弾けた。

「んぅ……ぁ、ああぁ――っん……!」

 びく、びくんと激しい痙攣と共に達すると、腰を引いた翔の剛直の先端から白濁した液が溢れて、美果の股をどろどろに濡らした。

「しょう、さ……ぁん」
「ん……美果」

 最近、避妊具がないとき、あるいは使えないとき、翔はこういう方法を取ることが多い気がする。そのまま出すつもりなのではと思うほど激しく奥を責められるが、結局美果が先に達するのを見届けてから、陰茎を引き抜かれて股の間に精をかけられる。

 きっと本当は思いきり愛し合って中に放ってしまいたい願望も、はやく子どもが欲しい気持ちもあるのだろう。けれど最後は美果の現況と負担を考えて、ぎりぎりのところで中に放つことを回避してくれる。

 それが彼なりの願望と良心がせめぎ合った結果だと察している美果だから、達した後の口づけだけは拒まない。翔のキスは、今日もとろけるほどに甘い。

 しばし甘やかな触れ合いを堪能していた二人だが、秋の冷たい風に晒されているうちにまた少し寒さを感じるようになった。

 よって元の場所に戻って湯に浸かるうちに、また後ろから美果を抱きしめた翔が胸に触れてきたので、このまま無限ループが始まりそうな気がしていた。いくらなんでも、それは止めておきたいところだが。

「声……誰かに聞かれてしまったかも……」

 そこでふと、達する直前まで気にしていたことを思い出したので、ぽつりと呟いてみる。その一言は美果としては『だから、もうしません』の意思表示だったが、美果を抱きしめる翔の表情はけろりとしたものだった。

「ああ、それでいつもより興奮してたのか」
「え?」

 聞き捨てならない台詞にぴくりと反応する美果に、翔がにこりと微笑む。天ケ瀬御曹司さまは温泉に浸かっていてもキラキラ王子さまだ。

「この部屋に入るまでの廊下、かなり長かっただろ? ここ、館内に一室しかない〝離れ〟の特別室なんだ」
「え……そ、そうなんですか!?」
「ああ。だから別に、誰も聞いてないと思うけどな」

 興奮云々よりも聞き捨てならないことを言われてしまった。

 驚いた。なんと金曜の夜に予約もなしに宿泊どころか、今いるこの部屋は旅館の中でもたった一室しか存在しない、完全隔離された特別な場所らしい。だから他の宿泊客からは一切様子を探られない場所だと教えられ、ほっとしたような拍子抜けしたような微妙な気分を味わう。

「そうと分かれば、もっと乱れてみたくなっただろ?」
「……なってません」

 翔は本当に、本気なのか嘘なのかわからない冗談を言う人だ。


  ――Fin*

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