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エピローグ

【おまけ番外編】天ケ瀬美果の恩返し 後 ★

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「それで、あの……いっぱい応援してくれた翔さんに、ちゃんとお礼をしたいと思っていて……」
「律儀だな。気にしなくていいんだぞ? 俺は美果の夫なんだから」
「そうなんですけど……でも、その……」

 とろけるようなの甘い笑顔で美果を撫でる翔の手からそっと離れ、彼の前に立ち上がる。それから身に着けている自分のバスローブの結び目を解くと、白い布地をはらりと脱ぎ去った。

 その中に隠されていた美果の肌をかろうじて隠す薄い布に――美果のいつもと違う下着姿に、翔が目をまん丸に見開く。

「はっ? み、美果……っ!?」

 珍しく動揺したらしい翔の声が跳ね上がる。けれど彼が驚くのも無理はない。

 美果がバスローブの中に身に着けていたのは、ほぼ透明に近い薄いレースと細いリボンでできた真っ白なベビードール。みぞおちの辺りから左右にふわりと広がる軽やかな生地はほとんどが透けていて、かろうじて胸の頂点を覆っているカップ部分も、フロントホックを外せばすべてがほどけて見えてしまう。同じ素材でできたショーツはオープンクロッチタイプで、足を広げれば秘部が丸見えになる構造だ。

 この大胆すぎる下着姿を目の当たりにして、翔が動揺しないはずがない。

「美果……よ、酔ってるのか?」
「酔ってませんっ」

 いや、まったく酔っていないわけではない。翔に宿泊付きのディナーデートに誘われ、密かに用意していたこのランジェリーを家から持ち出す間、美果はずっと奇妙な緊張感と戦っていた。その緊張を紛らわそうとディナーの際にややハイペースでお酒を飲んだのも事実である。

 だが美果は酔った勢いでこんな大胆な格好をしているわけではない。

「翔さん、こういうの好きなんですよね……?」
「は? 俺そんなこと言ったか……? ……いや、嫌いじゃないけどな!?」

 美果の問いかけを否定しかけた翔だったが、美果が動揺に身体を震わせたことに気づいたらしい。慌てて訂正する声はいつになく大きかったが、そのせいかむしろそれが翔の本心のように思えた。

 美果に負けず劣らず動揺している様子の翔に、俯いたまま秘めた気持ちを紡ぐ。

「試験が終わってから、ずっと考えてたんです。合否に関わらず、結果が出たら翔さんにちゃんと感謝の言葉を伝えよう、って……」
「……美果」
「だから、その……ハワイ旅行のときに翔さんにいっぱいサプライズしてもらったので、私もサプライズでお返しをしかった……ちゃんと、お礼を言いたかったんです」

 翔が美果の夢を叶えてくれたとき、本当は言葉に言い表せないぐらい嬉しかった。スケジュールを調整してくれて、美果の夢を一緒に追いかけてくれて、旅行中ずっと笑顔でいてくれた。

 今の美果には、まだ最高の幸福はプレゼントできないかもしれない。けれど一瞬でもいいから、翔に喜んで欲しい。美果を応援してくれる彼に、せめて感謝の気持ちだけでも伝えたい。――美果の選択は、ただその一心だった。

「私、自分でなんでも買えちゃう翔さんにどんなプレゼントしていいのか、全然わからなくて……。すごく悩んだんですけど結局答えが出なかったので、森屋さんに聞けばなにかヒントをもらえるかもと思って……」
「誠人に相談したのか?」
「はい。なのでこれは、『翔はこういうのが好きだよ』と教えてくださったものを……参考に……」
「いや確かにビックリしたが、これ誠人からのサプライズだろ」

 翔の呆れ声に、ううっ、と情けない声が出る。

 親指を立てて片目を瞑った誠人が『翔は白が好きだと思うヨ!』と教えてくれたので、あくまで参考という形にしつつ、本当に実行するかどうかを検討していた。

 もちろん最終的には美果が自分自身で答えを出して、翔の喜びそうな姿を披露しようと思ったのだが……。

「ごめんなさい……。私、翔さんの好みをちゃんとわかってなくて……!」

 翔の反応を見るに、きっと美果の選択は間違っていたのだろう。ならばこれ以上痴態を晒す前にバスローブを身に着けてしまおう、と前屈みになった美果の腕を、翔が突然ぐいっと引っ張った。

「わっ……! 翔さ……」
「別に好みじゃないとは言ってないぞ?」
「……え?」

 ベッドに座る翔の腕の中に抱き寄せられると、低い位置からじっと顔を覗き込まれる。

 彼の目の前にいつもより薄い下着姿で立つと、緊張と期待で身体が震え出す。今は翔しかこの姿を見ていないという絶対保証があるから耐えられるが、水着姿よりもよほど恥ずかしい。

 美果の腰を掴んだ翔の親指が腰骨の上をそろりと撫でる。

「んっ……」
「可愛いな、美果……すごい格好だ。もうここも濡れてる」
「んぅ……っ……う」

 翔の親指が腰から足の付け根に下り、人差し指が内股を撫で、中指をほんの数センチの股の間に差し込まれる。

 彼の言葉通りすでにそこはしっとりと濡れていて、少し折り曲げた指を前後に動かされるだけでぬちょぬちょと卑猥な音が溢れてくる。先ほど入浴したばかりなのに、どうやら翔に隠れて羽衣の下着を纏っていたことに、美果自身も興奮していたらしい。

「美果はいけない子だな。夫を悩殺しようとするなんて」
「悩殺なんて、そんな……ふぁっ……!」

 美果のサプライズを叱責するような口調にふるふると首を振るが、翔は自分を驚かせた美果を簡単には許してくれない。もちろん本気で怒っているわけではないが、彼の目は『その気にさせた責任はとってもらう』と物語っている。

「恩返し、してくれるんだろ?」
「……はい」

 翔の問いかけの意味を察してゆっくり頷くと、腰に回ってきた手に力が込められる。そのままぐいっと抱きしめられた勢いで唇を重ね合うと、舌を貪るような激しいキスに襲われた。

 後から思えば誠人の助言は随分適当だったとわかるが、結論からいうと彼の予想は当たらずとも遠からず、といったところだろう。

「しょう、さ……んぅ」
「着たままでいい」

 薄いレースで出来た下着は、一切脱がされることがなかった。翔はリボンの位置をほんの少しだけずらして乳首を舐めて吸ったり、薄い生地ごと胸を鷲掴みにして激しく揉んだり、レースの上から臍の窪みを舐めたり、ショーツを脱がせることなくオープンクロッチを活用してそのまま指を挿入して慣らしたりと――美果の大胆な格好とそれに恥じ入って興奮する姿を心ゆくまで堪能し続けた。

 指と舌で全身の性感帯を愛撫されて乱された美果は、最後の最後で衝撃的な状況に見舞われた。

 寝転がっていたベッドからぐいっと腕を引っ張られて抱き起こされた美果は、ベッドから少し離れた場所にある大きな窓の中に、興奮と快感に濡れる天ケ瀬美果の姿を見つけた。

「やだ、翔さ……この体勢……!」

 立った状態で窓に手をつくよう誘導された美果は、背後から覆いかぶさってきた翔の体温の高さで、ふっと現実に引き戻される。だが屹立がレースのオープンクロッチ部分に宛がわれたときにはなにもかもが遅かった。

「そうだな、美果のいやらしい胸とこの表情……外から誰かが見てるかもな」

 耳元で熱を含んだ声に囁かれると同時に、十分慣らされた蜜壺に一気に陰茎を突き立てられた。

「ふぁ、あ、やぁ……っ!」

 思わず窓が割れそうなほどの力を指先に込めてしまうが、美果には窓の心配などしていられない。息つく暇もなく前後に揺れ始めた翔の動きに合わせ、蜜孔を貫通する猛った熱の塊をきゅうぅ、と締め付ける。

「あっ、あ、っぁん」

 ず、ずず、ずぷ、と後ろから責められるたびに、結合部の隙間から、ぐちゅ、ずちゅ、ぬちゅっと濡れた音が溢れ出す。その狂おしい律動に耐えるよう、ふるふると身を震わせてどうにか理性を現実に繋ぎとめる。

 美果の右胸は翔の大きな手に包まれ、時折先端をコリコリと弄られるが、支えのない左胸はふわふわとみだらに揺れ動くのみ。都会の夜景を透かした窓ガラスにその恥ずかしい姿と快感に溺れる表情が重なると、美果の痴態を確認した翔の雄竿もまた固く大きく膨張し、美果の淫花をさらに強く掘削する。

「ああ……俺の妻が、かわいい」
「ひぁ、あ、あっ……」

 首筋にかかる吐息と同時に紡がれた褒め言葉が、美果の聴覚を甘く刺激する。その響きを感じて身体に力が入ると、今度はレースを濡らすほどの大量の蜜液が結合部の隙間から溢れ出してきた。

 翔の言葉が本当なら、この恥ずかしい姿を誰かに見られているのかもしれない……そう感じて小さく首を振ると、ふっと笑った翔が耳朶にかぷりと噛みついてきた。

「ひぁ、あ、ああっ、あっ……や、っぁん」
「大丈夫だ。俺が、美果のこんな表情、他人に見せるわけないだろ……?」

 翔も美果の不安を察していたらしい。

 くすくすとご機嫌に笑う理由はわからなかったが、翔の言葉はちゃんと信じられる。そう思って少しだけ力を抜いた瞬間、抽挿のスピードが急に速まった。

「やぁ、ああん……んぅ」
「ああ、美果……」

 がっちりと身体を掴まれ、後ろからばちゅばちゅと腰を突き込まれる。その激しさでどちらのものかわからない蜜液が股の間に激しく噴き出して滴り落ちても、翔の動きは止まらない。

「だめ、しょお、さ……もう、きちゃ……ぅ、っ」

 あっという間に快感の頂まで連れて来られた美果は、翔の名前を呼んでキスをねだった。その望みをそっと察してくれた翔が、後ろから美果の顎先を捉えて唇を奪ってくる。

「翔、さ、ぁん……ぅん、んん」
「美果……ッ」
「ふぁ、っ――ぁああぁん……!」

 濃厚な舌遣いと激しい腰遣いに乱されて、一気に絶頂を迎えてしまう。舌を絡ませながら翔の剛直を飲み込んだ蜜壺をきゅうきゅうと締め付けると、彼も美果の中に濃い精蜜を勢いよく注ぎ込んだ。

 くたりと力が抜けると同時に、翔に身体を抱き留められる。立ったまま行為に溺れて絶頂するなど恥ずかしいことこの上なかったが、快感の余韻から抜けきらない身体を抱きかかえてベッドまで運んでくれた翔の表情はどこか楽し気だった。

 翔が美果の身体を抱きしめたままベッドに倒れ込む。そうして強く抱き合ったまま唇を重ねると、二人の身体の境界線が溶けて交わっていくようで心地いい。

 快感とも眠さとも違うまどろみの中に見た翔の表情は、美果をなによりも大切にしてくれるいつもの優しい夫の姿だ。

「翔さん……」
「……ん?」
「私を見つけてくれて……たくさん愛してくれて、ありがとうございます」
「それは俺の台詞じゃないか?」

 普段は恥ずかしくてなかなか伝えられない想いを言葉に出すと、翔がゆっくりと微笑んで頭を撫でてくれる。その台詞と優しい手つきから、美果と翔は身体だけではなく心までちゃんと繋がっているのだと思える。そんな愛の確認であり想いを重ね合う戯れでもある甘やかな時間が、美果はなによりも嬉しい。

「私、もっともっと恩返しできるように、頑張りますね」

 美果が翔に伝えたい感謝の気持ちはこんなものではない。秘めた想いのすべてを的確に伝えるには、まだまだ言葉も時間も足りない。

 だから長い時間をかけて二人で歩む人生の中で、少しずつ、けれど確実に美果の気持ちが伝わっていけばいいと思っている。美果の恩返しは、まだまだ始まったばかりだ。

「楽しみにしてる」

 美果の宣言に、翔がまたいつもと笑顔を向けてくれる。優しい夫の腕に包まれて、ぎゅっと手を握り合って、ゆっくりと唇を重ね合う温度が――ふっと離れた唇同士の間でくすくすと笑い合う時間が、ただ愛おしい。

 だからこの余韻も大切にしたいと思う美果だが、ふと翔が笑顔のまま発した、

「この格好のまま、次は上に乗ってくれ。その後は普通にしたい」

 との台詞には、美果も凍り付くしかなかった。


  ――Fin*

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