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◆ 第3章

48. これは寵愛契約ですか? 4 ★

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 美果の脚を持ち上げて股関節と膝を曲げると、濡れた秘部に陰茎の先端を宛がわれる。薄膜越しに熱の塊を押し付けられるとまた怖気づきそうになったが、美果をじっと見下ろす翔と見つめ合うと不安は自然と和らいだ。

 一呼吸置くと、陰茎が蜜壺に沈む。ちゅぷ、と濡れた音がした直後、下腹部に圧迫感が生まれたが、痛いというほどではなかった。

「美果、苦しいか?」
「っん……少し……でも大丈夫、です」

 翔が頬を撫でてくれるので、どうにか笑顔を返す。

 確かに多少の痛みはあるが、最初に想像していたほどではないし、熱の塊を突き立てられる圧迫感も耐えられないほどではない。これなら少し時間をかけてゆっくり慣れていれば、自分は気持ち良くなれなくても翔が精を吐くまでなら頑張れるかもしれない。

「んんっ……ん」
「はぁ……、っ、美果……」

 ぐぷ、ずぷぷ、と深い場所まで少しずつ陰茎を埋められていく。そうして挿入が深まるたびに、美果の内壁と翔の熱棒が擦れる感覚を拾った中がきゅう、と収縮する。

 だがその刺激に対する反応は美果よりも翔の方が強い。ふと顔を上げると、美果の身体の横に手を付いて覆いかぶさっている翔がひどく辛そうな表情をしていることに気づく。額に汗の雫を浮かべて深い呼吸を繰り返している姿は、美果が驚いてしまうほどに辛そうだ。

「翔さん……?」
「美果、出来るだけ力入れるな……今、俺の方がまずい」
「痛い……ですか?」

 悩ましげな表情で「まずい」と口にしたので動きを止めたまま訊ねるが、口角を上げた翔が口にしたのは「逆だ」という短い言葉だった。

「気持ち良すぎて、理性飛びそうなんだ……」
「っ……じゃ、抜い……?」
「いや……美果が平気なら、少しずつ動く……仕切り直す余裕もない」

 翔の表情の意味は、苦痛ではなく恍惚だった。美果と繋がる感覚、美果の中を味わうこの瞬間、美果の中で果てることへの渇望が彼の性感を極限まで高めているらしく、何かに耐える翔の表情は獣のように雄々しく蠱惑的だった。

 初めて見る翔の男の表情に固まる美果だが、彼が宣言通りに少しずつ動き出すと、美果にも余裕はなくなった。

「っんぅ……あ……あぁっ……」
「美果……」

 翔の快感に浸る表情を目の当たりにしたからだろうか。

 先ほどまでは多少の痛みと圧迫感があったはずなのに、今は不思議と繋がった箇所が甘く痺れ始めている。翔の腰が奥に進んでくると、きゅん、きゅう、と強く締め付けてしまう。

「ここが奥……突くと、少し痛いだろ?」
「いえ……痛くは……」

 翔に痛みを前提でそう訊ねられたが、言うほどではない。翔の言葉からそこが行き止まりなのだと理解したが、一度引いた腰を再びグッと突き入れられた瞬間、美果の身体が突然びくっと飛び跳ねた。

「ひぁ、ああっ……!」
「っ……美果?」

 美果はこのときはじめて、奥に突き入れられるときの感覚と、奥から引き抜かれていく感覚が少し異なることを知った。

「あっ……ゃあ、あっ……翔さん……っ」

 下腹部を満たした翔の存在がもう一度ずるるっと抜け出ていく感覚に、言葉に出来ない虚脱感を覚えた。そこから再度深くまで突き入れられた瞬間、美果は未知の快感に全身を震わせた。

「ああぁっ……ひぁ、ああんっ」
「く――、っ……う」

 トン、と最奥を突かれた瞬間、腹の奥から突然快感の波が押し寄せてきた。驚く間もなく身体がびくっ、びくん、と飛び跳ねて全身がふるふると震え出す。

 結合部を突然締め付けられる反応には翔も驚いたらしく、一瞬息を飲んだ彼もグッと耐えるような表情を見せた。急激な波が過ぎ去るのを同じ体勢のまま待っていた翔が、後続する緩い痙攣の合間に美果の顔を覗き込む。

「美果……イッたのか?」
「しょ、ぉ……さん……?」
「急に締まって、柔らかくなった……」

 突然の快感に怯える美果に、翔がぽつりと呟いた。

 確かに今のは、先週陰核を撫でられて達した感覚に似ているが、それよりも快感が深くて余韻が長い。

 未だ内壁が小刻みに痙攣するせいで美果はまともな言葉を発せなかったが、美果の絶頂を知った翔は愛しい恋人を愛でるように――そして縛り付けるように、耳元で優しい言葉ばかりを甘く囁く。

「美果はすごいな。最初から中イキ出来るなんて……可愛すぎる」
「あっ、ぁ……? え……?」
「俺との相性が最高なんだ。だから美果は……他の奴とはこんな風に気持ち良くなれない。わかるか?」

 美果に言い聞かせるような言葉の羅列に、上手く頭が働かないままこくこくと頷く。

 そんな確認なんてしなくても、強制なんてしなくても、美果がここまで乱れた姿を見せられるのは翔だけに決まっている。なのに彼は、独占欲丸出しに美果を説き伏せようとする。

「美果……もっと、俺で乱れろ」
「あっ……あ、あぁっ……」

 意味深な言葉を零した翔は、それまで停止していた腰の動きをゆっくりと再開させた。

 美果の様子をじっと観察して労わってくれるのは先ほどと一緒だが、揺れる腰の動きと速さは先ほどまでと明らかに違う。美果の最奥に自分の印を刻み付けるかのように腰を振られると、美果の喉からは主人に甘える猫のような甘え声ばかりが溢れてきた。

「やぁ、ぁっ……翔、さぁ……あん」
「……美果」

 腰をがっちりと掴まれて激しく揺さぶられているのに、痛みどころか気持ちいい以外の感覚がなにもわからなくなる。下腹部で生まれた快感が背中を這い上がるように駆け抜け、頭の先からすべての感覚が抜けるように全身が痺れる。

「だめ、しょぉ、さ……っああ、ぁあっ」
「美果、可愛い……」

 宣言通りに美果を食らいつくそうとするような翔の瞳の温度に、また深く感じてしまう。もっとゆっくり、もっとじっくり、回を重ねるごとに少しずつ気持ち良くなっていければいい、と思っていたのにこんなにも激しくみだらに乱れてしまうなんて。

「しょぉ、さ……! もう……っ」
「美果……みか……ッ」

 ぱちゅん、ぱちゅ、と肌と肌がぶつかり合う。繰り返される抽挿の激しさに導かれるように、快感が一気に増幅する。

「あっ、ああっ……ふぁ、あっ!」

 腰の奥からせり上がってきた快楽で、きゅう、と蜜壺を締めつける。その反応をじっと見下ろしていた翔が、快感に濡れた瞳を輝かせて、ふ、と微笑んだ。

「あ、やっ……突いちゃ……ぁ~~っ」
「――っ……美果ッ……!」
「しょお、さ……ぁ、ふぁ、ぁああっ……!」

 微笑みながらも夢中で腰を動かす翔に最奥を突かれ、激しい快楽に引きずり込まれるように絶頂を迎える。胎の中でぐつぐつと煮えていた快楽が一気に弾け飛び、それと同に目の前が白く明滅する。

 美果の激しい反応を追うように翔も精を放ったようだ。それと同時にまた深く唇を重ねられて舌を絡ませられたので、美果も腕を伸ばして翔の首に抱きつき、その優しい口づけをそっと受け入れた。



   * * *



「美果、疲れただろ? 水飲まないか?」
「ん……」

 優しく頭を撫でられながら声をかけられたのでふと目を覚ますと、翔が美果の顔をそっと覗き込んでいた。

 それほど深く眠っているわけではなかったが、ぼーっとしているうちにウトウトしていたらしい。布団で身体を隠しながらベッドの上に起き上がると、翔がミネラルウォーターを渡してくれた。

 喉が渇いていたので三分の一ほどを一気に飲み干すと、様子を見ていた翔にそっと頬を撫でられる。その表情はいつになく嬉しそうだが、先ほどまでの激しい行為を思い出した美果は自然と照れて俯いてしまう。

 翔が美果に向ける感情はどれも甘く優しくて、最初の印象とはまったくの別物に変わってしまった気がする。もちろん嫌なわけではないが、美果は翔に与えられるばかりで何も返せていないと思う。これではせっかく恋人同士になったというのに、翔に申し訳ない。

「翔さん。私、もっとお勉強しますね」
「ん?」
「だって……私だけ、その……気持ち良く、してもらってばかりで……」

 年齢も恋愛経験も違う翔と比べても仕方がないのはわかっている。勉強したところですぐに実践できるわけではないこともわかっている。

 けれど今の美果が翔に出来ることはあまりにも少ない。翔の身の回りの世話は出来るが、それではただの家政婦と何も変わらない。だからせめて、翔が気持ち良くなれる方法ぐらいは身につけたい。

「翔さんのことも気持ち良く出来るように、精進しますから」
「……ふは、あはは」

 そう思って真面目に宣言したら、何故か翔に笑われてしまった。

「な、なんですか……?」
「いや、美果は努力家で勉強熱心だからな……けど」

 一瞬は美果のことを褒めてくれた翔だったが、すぐに自分の言葉を否定する。だから何か不満があるのかと思ったが、そういう意味ではないらしく。

 翔が布団ごと美果の身体を抱き寄せる。未だ全裸の美果と違い、いつの間にかルームパンツとシャツを着ている翔だが触れ合った体温は温かい。……熱すぎるぐらいに。

「可愛い恋人ができて浮かれてる俺の『色々教え込む楽しみ』を奪うのは、ほどほどにしてほしいな」
「!?」

 そう言って美果のこめかみにちゅ、と口付けてくる。さらににこりと笑顔を向けられると、美果はもう照れるしかない。

(翔さん……ちょっと色気が漏れすぎてるというか、甘すぎるというか)

 天ケ瀬翔、恋人に対しては一周回って元のキラキラで完璧な王子様になるなんて、あまりにも予想外すぎる。

 ちゃんと身構えておかなければ、やっぱり美果の心臓は持たないかもしれない。

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