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◆ 第6章

38. 偽装から始まる溺愛婚 後編 ◆

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「だめぇ……そこ、深……っぃ、ぁああっ」
「ああ、ここ……好きだろ?」
「ふぁ、あっ……あぁっ……ん」

 七海の腰を浮かせて、濡れた蜜花に何度も何度も抽挿を繰り返す。微妙に角度を変えて腰を突き込まれるたびに新たな快楽に溺れるのに、将斗は七海をさらなる恋と快楽の淵に突き落とそうと強く激しく責め立てる。

「だめ、まさと、さ……! 奥、突いちゃ……」
「無理だ、って……止まるわけ、ないだろ……っ」
「あ、ああっ……ああ」

 再び迫りくる快感の波にどうにか抗って首を振るが、本当はそれが無駄な努力だと理解している。なにせ『相性が良い二人』なのだ。重ねた肌から伝わる温度も、見つめ合った視線から溢れる感情も、すべてが最高の状態で一致する二人なら、もう止まれるはずがない。

「七海、七海……っ」
「あ、あんっ……将斗さ……ぁあん」

 将斗が身体を傾けて七海の身体をぎゅっと抱きしめてくれる。だから七海も震える内股から足先までの力をあえて抜かず、将斗の腰に絡めるように脚を組む。

(気持ちいい……いっぱい……)

 隙間がないようにぴったりと抱き合うと、それだけで気持ちいい。将斗が頭を撫でながら、激しく腰を振りつつ重ねてくるキスも心地いい。

 こんなにも満たされて気持ち良くなれる相手は――七海が夢中になれる相手は、きっと支倉将斗以外にあり得ない。そう思えば七海の胸の中にあるこの感情は、まごうことなき『愛情』だ。

「将斗さ……すきっ……」
「っ、七海」

 身体の芯から生まれる言葉を、キスの合間に自然と口にする。

 将斗が好き。彼だけを愛している。それを感じるまま言葉にしてみると、七海の胸の奥がぽわっとあたたかくなった。

(好きって、言いながら……いく、の……)

 そうだ。将斗に以前言われていた。

 好きな人に好き、と伝えながら達することが気持ちいい、と。自分の感情をありのまま伝えながら愛し合ったことはないのか、と。

 今ならわかる。将斗の言っていることは正しかった。この感情を隠すなんて、この想いを飲み込むなんてもったいない。

 溢れる想いをそのまま伝えたら、きっと七海も将斗ももっと深く愛し合える。きっともっと、好きになる。

「好き……将斗さ……ぁん、すき……好きです……っ」
「っ七海……なな……――っ!」
「好き……愛し、て……っ、あ、ああぁ――っ……!」

 想うがままに、あるがままに感情を吐露すると、それまで小さな渦としてわだかまっていた恋心がぱん、と花火のように弾けた。それが七海の素直な感情なのだと理解する前に、次の波が麻痺した身体を襲う。

 嵐のように増幅する快感に飲み込まれると、再び同時に絶頂を迎える。下腹部がびく、びくんっと激しく震えた直後、将斗に唇を奪われた。

 そのまま何度も口付け合う。貪り合って、熱を絡め合って、愛し合う。それがこんなにも幸福なことだと、こんなにも満たされることだと、七海はずっと知らなかった。

 知らないまま生きていく人生だったのかもしれない。〝本物〟を味わうことのないまま、虚構の日々を歩んでいたかもしれない。

 けれど将斗が見つけてくれた。ずっと七海に恋をしていたという将斗が、ちゃんと掬ってくれた。そして七海の手から枯れて不要になった芽を取り上げ、新しい種をくれた。

 胸の奥に咲いたほんわりと優しい花の香りや色を感じていると、ふ、と唇を離した将斗がにこりと微笑んだ。愛情深く優しい夫は、今夜も七海を可愛がって撫でてくれる。愛おしい、と伝るように。

「っとに……七海は、可愛いな」
「え、そんなことは……」
「あるよ。七海は俺をダメにする天才だ」
「……だめになったら、困ります」
「もう手遅れだって」

 未だ身体を繋げたまま、ぎゅっと強く抱きしめられる。行為後の処理よりも七海と触れ合うこの時間が大切で、なによりも愛おしいと示してくれる姿に、またきゅんとときめいてしまう。

 しかし『手遅れ』では七海も困る。じゃあどうすれば? と首を傾げると、将斗がふわりと微笑んだ。

「だから次は、七海にダメになってもらおうか」
「!?」
「俺に愛されて、ぐずぐずになって、とろっとろになって……俺に溺れてもらう」
「……それこそ、手遅れだと思いますけど」

 む、と頬を膨らませて不満を口にする。その頬にそっとキスを落とされると同時に、将斗の指先がまた敏感な場所を撫で始めた。



   * * *



 数えきれないほどの絶頂を味わいどうにか肩で息をしていると、七海の身体を引き寄せた将斗がこめかみにそっとキスを落としてきた。激しい行為と打って変わって、繰り返される愛情表現はどこまでも可愛らしい。

 将斗の求めに従うように彼の腕の中へもぞもぞ移動すると、汗ばんだ横髪を耳にかけてくれた将斗が幸福に満ちた笑みを零した。

「七海。俺のお願い、もう一つ聞いてくれるか?」

 穏やかな声音で告げられた問いに、小さく首を傾げる。誕生日を盾にしたお願いは十分叶えたつもりだが、まだ七海に何かさせたいのだろうか。

「えっちなお願いはもう聞きませんよ」
「それは明日でいい。今日はこれ以上やめておく」
「……明日」

 一瞬、七海の主張を全面的に受け入れてくれたように感じた。だが実際は日付が変わったので持ち越しにしたというだけで、七海の希望は通っていないらしい。

 明日もする気なの……? と驚愕する七海の感情を一旦横に置き、将斗が真剣な表情で頬に触れてくる。

 頭の右側は将斗の左腕にのせていわゆる腕枕状態になっているので、彼が触れるのは七海の左頬のみ。そこをふわりと包み込み、ゆっくりと、優しく、丁寧に撫でられる。

 大切な妻を愛でるように。
 指先から愛おしいと伝えるように。

「七海が俺の妻であると正式に公表して、少しずつ関係者に周知していきたい」

 将斗が七海の頬に触れながら告げてきたのは、七海がすっかりと忘れていた『偽装溺愛婚』のその後についてだった。

 二人の結婚に一定の『期限』が設けられていることは、当事者である七海と将斗、七海の両親、そして今はもう連絡をとることもない慎介の両親しか知らない話だ。

 対外的には将斗が片想いを成就させて七海を手に入れたことになっている現在の関係だが、そういった『恋愛事情』とは別に、支倉建設グループの御曹司である将斗の結婚には『会社の事情』の意味も含まれる。

 つまりいつまで経っても『結婚した』という状態のままでは不都合が生じることもあるので、いずれは『結婚した』という状態にしたい。伴侶を得て家庭を持った身であることを、関連する業界全体へ示さなければならないタイミングがやってくるのだ。

 将斗としては揺るがない決意だったようだが、稔郎に『一年後に判断して欲しい』と宣言した以上、二人が確固たる絆で結ばれたと証明できるまでは――七海が将斗の想いを受け入れて、七海の両親に認められるまでは『公表できない結婚』だった。

 しかし想いが通じ合って本物の夫婦になったのなら、それを周囲に周知したい、というのが将斗の『お願い』らしい。

「もう一度、俺と結婚式を挙げてほしい」

 誰の目にもわかりやすい形で二人の関係を示す方法を提案され、静かに目を見開く。

 てっきり定型文を書面に記したものを関係各所に送ることで、正式な夫婦になったと宣言する程度だと思っていたのに――まさか再び結婚式をしたいと言い出すなんて。

「他の奴とのために用意したものに乗っかるんじゃない。七海と俺のためだけに最初から考えて準備した式をしたい。――俺が七海の最愛だと示す機会がほしいんだ」
「……将斗さん」
「俺が七海を、誰よりも幸福な〝愛され花嫁〟にする。だから七海を愛していると……七海だけを永遠に愛し抜くと、ちゃんと誓わせてほしい」

 将斗の真剣な言葉に、また涙が溢れそうになる。

 支倉将斗という人は、どれほど七海を強く想ってくれるのだろう。こんなにも懸命に、力強く、なによりも大切にすると誓って慈しんでくれる人は、きっと他には存在しない。本気の愛を教えてくれる人は、七海の前にはきっともう二度と現れない。

「もし思い出しそうで嫌だと言うなら、神前式でもいい。なんなら披露宴だけで、挙式はしなくてもいい。だから……」

 将斗は七海が嫌な記憶を思い出して傷付くことを危惧しているらしい。あの日、あの時、あの場所で深く傷つけられたことを思い出してしまうのなら、無理して同じ状況に合わせなくてもいい。

 将斗はそう言ってくれるが、七海はなにも心配していない。将斗がこの手を離すとは――離れてほしいと懇願しても決して離してくれないことは、もう十分に理解しているし、教え込まれている。だから。

「平気ですよ」

 将斗の腕の中で少しだけ身を起こすと、彼の胸に手を添えてそっと唇を重ねる。七海からキスをするのはきっとこれが初めてで、だからこそ離れてみた将斗の表情も、衝撃のあまり固まっているのだろうけれど。

「私も将斗さんと結婚式、したいです」
「! 七海……!」

 七海の答えに対する将斗の返答は、少しだけ強引なキスだった。首の後ろに回った大きな手で頭を支えられ、噛みつくような激しいキスを受けると、このまま食べられてしまうのではないかと思う。

 けれど息継ぎも出来ないほどの深い口づけでも、言葉のない戯れだとしても、お互いにもう理解している。嬉しいと思う七海の気持ちも、伝わっているはず。

 なぜならあの日始まった『偽装溺愛婚』は、いつの間にか互いに恋焦がれて、愛し合って、想い合う――なにものにも代えがたい『永久溺愛婚』に生まれ変わったのだから。

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