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◆ 第2章
8. 突然ですが、偽物夫婦はじめました
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集合時間に遅れてしまったことを申し訳ないと思いつつ、約束していたダイニングバーに入店する。入り口で予約名を告げてアンティークウッド調のお洒落な店内を進むと、オープンフロアの四人掛け席に二人の女性が向かい合わせで座っていた。
入り口側に正面を向いて座っていた経理課に所属する友人、綾川小百合が七海に気づいてパッと顔を上げる。
「お、来たわね、社長夫人」
「小百合、お願いだからそれやめて……」
「お疲れさま、七海ちゃん」
七海が返答するともう一人の友人、厚生課に所属する才野ほのかも顔をあげてにこりと微笑んだ。七海の同期であり社内で最も仲が良い二人に労われ、「ごめんね、遅くなっちゃった」と謝罪しつつほのかの隣に腰を落ち着ける。
座った直後、小百合が身を乗り出してきた。
「もう、すごいびっくりしたんだから」
「ごめん……ほんと、色んな人に申し訳ないことしたと思ってる……」
「七海ちゃん、支倉社長と浮気してたのかと思っちゃった」
「そんなわけないでしょ……あ、生一つ」
ほのかの予想に苦笑しつつ、おしぼりを持ってきてくれた店員に飲み物を注文する。それから小百合が差し出してくれた小皿を受け取り、すでに運ばれてきていた料理を取り分ける。
今日の昼食はおにぎりが一つだけだったので七海のお腹はぺこぺこだったが、ゆっくりと食事ができる空気ではない。七海の様子を見つめる小百合とほのかは、七海の次の言葉に興味津々だった。
それはそうだろう。一昨日の披露宴に参加してくれていた小百合とほのかも、突然の花婿交代と自社の社長の電撃結婚を目の当たりにしている。学生時代から親交のある友人たちは七海とだけ知り合いだが、職場の関係者は七海にも将斗にも慎介にも関わりがある人たちだ。祝いの場では聞けなくても、二日の時間が経過した今、一体何があったのかと詳細を聞きたい気持ちは理解できる。
「正直、私もなにがなんだか全然わからないの……」
しかし今の状況に心が追いついていないのは、七海自身も他者とそう変わらない。むしろ当事者である七海の方が、客観的な視点から今の自分の状況を訊ねたい気分だった。
七海のため息に、小百合とほのかが揃って首を横へ傾ける。
「七海ちゃんもわからない?」
「どーゆーこと?」
「……」
披露宴の終了後そのままホテルに宿泊した七海は、窮地を救ってくれたことに対するお詫びのつもりで将斗の求めに応じた。
朝早くから結婚式の準備と最終確認、本来の花婿である慎介の逃亡と将斗からの求婚、参列者への説明と謝罪に加え、急遽花婿を交代しての披露宴続行。
ただでさえ気忙しい花嫁の七海は、度重なる急展開の連続に肉体的にも精神的にも疲労困憊状態だった。そのせいか情事後うっかり寝落ちしてしまったが、翌日の将斗は呼び方が『柏木』から『七海』になったこと以外、驚くほどいつも通りだった。
一緒にホテルの朝食を摂った後、将斗の車で実家まで送り届けてもらった。しかし彼は七海の両親と軽く挨拶を交わしただけで、そのまますぐに帰宅していった。
何事もなかったかのような将斗の態度はそこから一夜明けて出社した月曜日――つまり今日も同じで、いつものように七海と確認したスケジュールをこなし、時に七海をからかいつつ二時間の残業を終えると、『お疲れ』と言い残してそのまま普通に帰宅していった。
否、今日も一つだけ、いつもと違うことがあった。
朝のうちに『スケジュールを調整して午後イチで時間を作ってほしい』と言われたので指示通りに日程を調整すると、ランチタイムの直前で将斗の父・将志の秘書が一通の封筒を届けてくれた。
不思議に思って中を開けると、そこに入っていたものは一枚が将斗の『戸籍謄本』で、もう一枚は証人欄の片方に将志の名前が入った『婚姻届』だった。
驚く七海の手から婚姻届を奪い取った将斗は、社内にいる七海の父・稔郎からもう一つの証人欄にサインをもらってくると、調整して空けた午後一番の時間を使って七海を役所へ連行した。
『七海が自分で出せ』と言うので窓口に必要書類を提出すると、ほんの数分で婚姻届が受理された。あっという間の出来事に呆気に取られているうちに再び将斗の車に乗せられて会社に戻った後は、いつも通り。午後の会議が長引いて定時を二時間オーバーするところまでいつも通りだった。
そう、つまり七海はつい先ほど、正式に将斗の妻となった。
なぜそんなに大急ぎで……と思う間もなく入籍したため、驚く暇も実感する暇も照れている暇もなかったが、なぜか将斗は満足げだった。
この数日間で起こったことを小百合とほのかにかいつまんで説明すると、瞬きを忘れて聞き入っていた二人が七海の顔を凝視してきた。
もちろん将斗と過ごした初夜の恥ずかしい状況や父の落ち込む様子などは割愛しているが、七海の困惑は十分に伝わったらしい。
「偽装結婚……」
「ドラマとか漫画みたい……」
「……私もそう思ってる」
小百合とほのかの感想に全面同意する。七海自身、ドラマじみてて現実離れにも程があると思っている。だが驚くことに、七海は本当に『柏木七海』から『支倉七海』になったのだ。
七海は仲の良い会社の同期、小百合とほのかにだけは事実を伝えると決めていた。二人は七海の秘密を勝手に暴露するような人たちではないし、将斗にも『心の整理をつけるために相談する相手がほしい』と伝えて、二人にだけは正確な状況を説明する許可をもらっていた。
大きな会社なので、年齢が近い人はもちろん他にも存在するが、小百合とほのかほど七海の気持ちを理解して寄り添ってくれる人はいない。
その二人のおかげで、自分の価値観が世間一般から大幅にはずれていないことを再認識できた。それと同時に、自分の味方になってくれる友人たちの存在にほっと安堵を覚える。
「けど、そっか……佐久係長、他に女がいたのね」
「……そうみたい」
ベリーショートカットの小百合が、晒された首の後ろを掻きながら呆れたようなため息をつく。七海はただ苦笑するしかない。
「というか、最初から向こうが本命だった可能性も……」
「なおさらクズじゃない。だったら最初からその女と結婚すればいいのに、頭の中お花畑なんじゃないの」
「小百合ちゃん、言葉悪いよ?」
「あ、ごめん。一応は目上の人だったわね」
ほのかが長いゆる巻き髪を耳にかけながら、優しく……けれど内心では誰よりも苛立っているような表情で小百合を窘める。ほのかは浮気や不倫を断固として許さないタイプだ。
「でもそれで、俺が結婚する! って、社長ってば強引~!」
「確かに大胆よね。男らしくていいと思うけど」
「え、ええ……?」
暗い空気が一転、ほのかと小百合がきゃっきゃと楽しげな声を出すので、つい混乱の声が出る。男らしい……? と首を傾げると、二人がそれまでとは異なるテンションで急に将斗を褒め始めた。
「だって、支倉社長だよ? 高身長、高学歴、高収入、高好感度、高顔面! 三高通り越して五高なんだよ?」
「高顔面ってはじめて聞いたけど……どういう意味?」
「最高級イケメン♡」
「あ、そう……圧が怖いって意味じゃないんだ」
「そんなわけないでしょ。あのね、七海はずっと一緒にいるから知らないかもしれないけど、支倉社長ほんとにモテるのよ。経理の後輩に、経済誌に載ってる支倉社長のインタビュー記事ぜんぶスクラップしてる子いるんだから」
「えっ? な、なんで……?」
「死ぬほど忙しい締め日の癒しらしいわ。この人のために働いてると思うと鬼残業でも許せるんだって」
「へ、へえ……」
「あと支倉社長、良いカラダしてる♡」
「そう、それは大事。支倉社長は本当にいい身体してる」
「なんでわかるの……?」
「「見ればわかるでしょ!?」」
最後は二人同時に突っ込まれてしまい、うっ……と言葉に詰まる。
正直、七海には全然わからない。
否、今まではわからなかった。
だが今は『見た』ので『わかる』。確かに将斗は腕にも胸にもほどよく筋肉がついていて、バランスのいい均整の取れた肉体をしている。筋腹が隆々と盛り上がるほどではないが、七海を抱きしめる力強さは確かに男らしかった――……
「そ、そういえばほのか。お父さん、今日どんな感じだった?」
「うん? 柏木部長?」
一昨日の夜のことを鮮明に思い出してしまった七海は、恥ずかしい記憶を振り払うべくやや強引に話題を切り替えた。
七海の母は『結婚する前に慎介さんがあんな人だってわかってよかったじゃない』と前向きに考えている様子だった。それに関しては七海も、おそらく父も同意見だった。
だが稔郎には大企業『支倉建設』の総務部長としての立場がある。単純に娘の結婚が白紙になっただけでは済ませられない影響があるだろう。
まして代わりに突然結婚することになった相手が『社長』となれば、さらに大きな変化が起こることは想像に容易い。七海はただ、父の心労が気がかりだった。
「午前中は離席してることが多かったからわからないけど、午後はいつも通りだったよ。でもちょっと元気なかったかなぁ」
ほのかの嘘偽りない報告に、う、と胸が痛む。午前中の離席は方々への説明に追われていたためだと思うが、元気がないのは誰かに何かを言われたからかもしれない。
(ごめん、お父さん……)
心の中で謝罪しつつ、グラスを傾けてビールを一気に飲み干す。いつかちゃんと親孝行がしたい、と思いつつ空になったグラスをコースターに戻した七海は、底に残った泡を見つめているうちにもう一つ気がかりだったことを思い出した。
「……慎介さんは?」
それは他でもない、七海を置き去りにした佐久慎介の様子についてだ。
七海の問いかけに、ほのかが少し呆れたようなため息をつく。
もちろん彼女の言わんとしていることはわかる。しかし一応は結婚するつもりでいた相手なのだ。どんな様子なのか、気にならないはずがない。
「佐久係長は肩身の狭い感じで静か~にしてたけど、取り乱してる感じはなかったよ」
ほのかの報告を聞くと、安心したような悲しいようななんとも言えない感情が湧き起こる。
一見すると繊細な印象を受ける慎介だが、意外と神経は図太いらしい。七海としては色々思うところもあるが、とりあえず普通に出社していると知り、ほっと胸を撫で下ろす。
「でも、年度末で退職する……って」
「……そう」
厚生課に所属するほのかは、人事部に所属する社員並みに情報が早い。聞けば問題のない範囲で色々と教えてくれるが、個人情報の観点からも、七海の動揺を鑑みた結果からも、聞かれなかったらそのまま言わずにいてくれたのかもしれない。
そう思うとほのかに申し訳ないことを尋ねてしまった気がしたが、彼女は端的に、そして秘密裏に事実のみを伝えてくれた。
一瞬だけ静かな空気が流れるが、その様子を見守っていた小百合がふと別の質問をしてきた。
「あのあと一回も連絡取ってないの?」
「あ、うん……社長から禁止されてるの。連絡先は消せ、自分からは連絡するな、って……」
七海よりもよほど怒っているらしい将斗は、七海が慎介に情けをかけることに対してやけに厳しかった。挙式直後は彼の両親に優しい言葉をかけていた将斗だが、やはり自分の部下を傷つけた慎介本人には閉口しているようだ。日曜の朝、自宅まで送ってもらう車の中で口を酸っぱくして慎介との今後の関わり方に対する注意を受けた。
だが七海の説明に、小百合とほのかは別の感想を抱いたらしい。テーブルに頬杖をついた二人がにこにこと顔を覗き込んでくる。
「独占欲ぅ」
「七海ちゃん、社長に愛されてるぅ」
「……二人とも、私の話ちゃんと聞いてた?」
やけに楽しそうにからかってくる二人に、呆れた気持ちでため息をつく。
「社長は私を憐れんで助けてくれただけ。偽装結婚なんだってば」
「えー? 本当にそれだけかなぁ?」
「支倉社長、嬉しそうだったよね? 七海はそれどころじゃなかったかもだけど、披露宴のときの七海を見てる表情とか、すごい楽しそうだったもん」
「お仕事のときも、七海ちゃんと一緒にいるといつも楽しそうだよ」
「あ、そうなんだ。私あんまり仕事中に社長に会うことないから、見てみたいかも」
「ちょっとちょっと、話が飛躍しすぎだから」
またも将斗の話で盛り上がり始める二人に、ないない、と手を振って否定する。
支倉建設という企業のトップに立ち、多数の社員を従え、経営責任を一手に背負う『社長』の責務は誰にでも務まるものではないだろう。祖父が他界し父が会長職に就いたため、将斗が後継者として社長の座に就いたのだが、そのぶん苦労もしているし苦い思いもしている。
将斗の姿を傍で見続けてきた七海は、若さゆえの経験不足を努力と人柄で補っていける力強さを知っている。そしてそれ以上に、将斗が難しい挑戦から日常の小さな業務まで、それなりに仕事を楽しんでいる姿も知っている。まあ、目を離すとすぐにサボるし、だらけるし、どこかに消えるのも事実なのだけれど。
「あの人、仕事中はいつも楽しそうだからね?」
七海の説明に不満そうに二人が唇を尖らせる。
なんで二人が面白くなさそうなの……と苦笑していると、ふとテーブルに伏せていた七海のスマートフォンの上部が、ぴかぴかと光った。それをテーブルの上で起動させると、画面に『メッセージ:支倉社長』と表示されているのが目に入る。
「おっと、噂をすれば?」
「まだ報告会は始まったばかりですよ~社長~。七海ちゃんはまだ飲み足りないです~」
通話じゃなくメールなのでスマートフォンに話しかけても将斗には届かないが、小百合もほのかもそこそこ酔っているのかもしれない。二人の反応にくすくすと笑いつつメッセージアプリを開く。そこに書かれている内容をざっと読んだ七海は、つい沈黙してしまう。
「社長、なんて?」
「えっと……週末、実家に荷物取りに行くからって」
「え? それだけ?」
――それだけである。
昨日、七海を家まで送り届けてくれた際に、将斗は七海の両親と少しだけ会話を交わしていた。内容は主に前日のお礼と謝罪だったが、その際に母が『社長、七海でよければ身の回りのお世話をなんでも言いつけてくださいね』と余計なことを口走ってしまったのだ。
母としては、紳士的な態度で接する将斗に少しでも恩を返したい一心だったのだろう。しかし将斗は『七海に長年片想いをしている』という設定を貫かなければならない立場だ。せっかく前日『同居はしなくてもいい』と告げていたのに、母にそう言われては将斗も喜ばないわけにはいかない。
結果『七海さんさえよければ、早く一緒に住みたいですね』と答えざる得なくなったせいで、唐突に週末同居婚が決定してしまったのだ。お母さん……!
月曜の夜に、週末の予定をわざわざメッセージで尋ねられた七海は少し困惑してしまう。
「そんなの明日出社してからでもいいのにね」
「きっと社長、七海ちゃんに連絡取りたくて仕方ないんだよ」
二人はなんとしても『将斗は七海を大事にしている』という方向に持っていきたいらしい。実際そんなことはないのだが、確かにたったこれだけの内容で、友人と飲みに行っている時間にわざわざ連絡をくれるのは過保護で心配性な夫に見えるかもしれない。
小百合とほのか相手に愛妻アピールしなくてもいいんだけどなぁ……と思いつつ、プライベートの返信文面に悩む七海だった。
入り口側に正面を向いて座っていた経理課に所属する友人、綾川小百合が七海に気づいてパッと顔を上げる。
「お、来たわね、社長夫人」
「小百合、お願いだからそれやめて……」
「お疲れさま、七海ちゃん」
七海が返答するともう一人の友人、厚生課に所属する才野ほのかも顔をあげてにこりと微笑んだ。七海の同期であり社内で最も仲が良い二人に労われ、「ごめんね、遅くなっちゃった」と謝罪しつつほのかの隣に腰を落ち着ける。
座った直後、小百合が身を乗り出してきた。
「もう、すごいびっくりしたんだから」
「ごめん……ほんと、色んな人に申し訳ないことしたと思ってる……」
「七海ちゃん、支倉社長と浮気してたのかと思っちゃった」
「そんなわけないでしょ……あ、生一つ」
ほのかの予想に苦笑しつつ、おしぼりを持ってきてくれた店員に飲み物を注文する。それから小百合が差し出してくれた小皿を受け取り、すでに運ばれてきていた料理を取り分ける。
今日の昼食はおにぎりが一つだけだったので七海のお腹はぺこぺこだったが、ゆっくりと食事ができる空気ではない。七海の様子を見つめる小百合とほのかは、七海の次の言葉に興味津々だった。
それはそうだろう。一昨日の披露宴に参加してくれていた小百合とほのかも、突然の花婿交代と自社の社長の電撃結婚を目の当たりにしている。学生時代から親交のある友人たちは七海とだけ知り合いだが、職場の関係者は七海にも将斗にも慎介にも関わりがある人たちだ。祝いの場では聞けなくても、二日の時間が経過した今、一体何があったのかと詳細を聞きたい気持ちは理解できる。
「正直、私もなにがなんだか全然わからないの……」
しかし今の状況に心が追いついていないのは、七海自身も他者とそう変わらない。むしろ当事者である七海の方が、客観的な視点から今の自分の状況を訊ねたい気分だった。
七海のため息に、小百合とほのかが揃って首を横へ傾ける。
「七海ちゃんもわからない?」
「どーゆーこと?」
「……」
披露宴の終了後そのままホテルに宿泊した七海は、窮地を救ってくれたことに対するお詫びのつもりで将斗の求めに応じた。
朝早くから結婚式の準備と最終確認、本来の花婿である慎介の逃亡と将斗からの求婚、参列者への説明と謝罪に加え、急遽花婿を交代しての披露宴続行。
ただでさえ気忙しい花嫁の七海は、度重なる急展開の連続に肉体的にも精神的にも疲労困憊状態だった。そのせいか情事後うっかり寝落ちしてしまったが、翌日の将斗は呼び方が『柏木』から『七海』になったこと以外、驚くほどいつも通りだった。
一緒にホテルの朝食を摂った後、将斗の車で実家まで送り届けてもらった。しかし彼は七海の両親と軽く挨拶を交わしただけで、そのまますぐに帰宅していった。
何事もなかったかのような将斗の態度はそこから一夜明けて出社した月曜日――つまり今日も同じで、いつものように七海と確認したスケジュールをこなし、時に七海をからかいつつ二時間の残業を終えると、『お疲れ』と言い残してそのまま普通に帰宅していった。
否、今日も一つだけ、いつもと違うことがあった。
朝のうちに『スケジュールを調整して午後イチで時間を作ってほしい』と言われたので指示通りに日程を調整すると、ランチタイムの直前で将斗の父・将志の秘書が一通の封筒を届けてくれた。
不思議に思って中を開けると、そこに入っていたものは一枚が将斗の『戸籍謄本』で、もう一枚は証人欄の片方に将志の名前が入った『婚姻届』だった。
驚く七海の手から婚姻届を奪い取った将斗は、社内にいる七海の父・稔郎からもう一つの証人欄にサインをもらってくると、調整して空けた午後一番の時間を使って七海を役所へ連行した。
『七海が自分で出せ』と言うので窓口に必要書類を提出すると、ほんの数分で婚姻届が受理された。あっという間の出来事に呆気に取られているうちに再び将斗の車に乗せられて会社に戻った後は、いつも通り。午後の会議が長引いて定時を二時間オーバーするところまでいつも通りだった。
そう、つまり七海はつい先ほど、正式に将斗の妻となった。
なぜそんなに大急ぎで……と思う間もなく入籍したため、驚く暇も実感する暇も照れている暇もなかったが、なぜか将斗は満足げだった。
この数日間で起こったことを小百合とほのかにかいつまんで説明すると、瞬きを忘れて聞き入っていた二人が七海の顔を凝視してきた。
もちろん将斗と過ごした初夜の恥ずかしい状況や父の落ち込む様子などは割愛しているが、七海の困惑は十分に伝わったらしい。
「偽装結婚……」
「ドラマとか漫画みたい……」
「……私もそう思ってる」
小百合とほのかの感想に全面同意する。七海自身、ドラマじみてて現実離れにも程があると思っている。だが驚くことに、七海は本当に『柏木七海』から『支倉七海』になったのだ。
七海は仲の良い会社の同期、小百合とほのかにだけは事実を伝えると決めていた。二人は七海の秘密を勝手に暴露するような人たちではないし、将斗にも『心の整理をつけるために相談する相手がほしい』と伝えて、二人にだけは正確な状況を説明する許可をもらっていた。
大きな会社なので、年齢が近い人はもちろん他にも存在するが、小百合とほのかほど七海の気持ちを理解して寄り添ってくれる人はいない。
その二人のおかげで、自分の価値観が世間一般から大幅にはずれていないことを再認識できた。それと同時に、自分の味方になってくれる友人たちの存在にほっと安堵を覚える。
「けど、そっか……佐久係長、他に女がいたのね」
「……そうみたい」
ベリーショートカットの小百合が、晒された首の後ろを掻きながら呆れたようなため息をつく。七海はただ苦笑するしかない。
「というか、最初から向こうが本命だった可能性も……」
「なおさらクズじゃない。だったら最初からその女と結婚すればいいのに、頭の中お花畑なんじゃないの」
「小百合ちゃん、言葉悪いよ?」
「あ、ごめん。一応は目上の人だったわね」
ほのかが長いゆる巻き髪を耳にかけながら、優しく……けれど内心では誰よりも苛立っているような表情で小百合を窘める。ほのかは浮気や不倫を断固として許さないタイプだ。
「でもそれで、俺が結婚する! って、社長ってば強引~!」
「確かに大胆よね。男らしくていいと思うけど」
「え、ええ……?」
暗い空気が一転、ほのかと小百合がきゃっきゃと楽しげな声を出すので、つい混乱の声が出る。男らしい……? と首を傾げると、二人がそれまでとは異なるテンションで急に将斗を褒め始めた。
「だって、支倉社長だよ? 高身長、高学歴、高収入、高好感度、高顔面! 三高通り越して五高なんだよ?」
「高顔面ってはじめて聞いたけど……どういう意味?」
「最高級イケメン♡」
「あ、そう……圧が怖いって意味じゃないんだ」
「そんなわけないでしょ。あのね、七海はずっと一緒にいるから知らないかもしれないけど、支倉社長ほんとにモテるのよ。経理の後輩に、経済誌に載ってる支倉社長のインタビュー記事ぜんぶスクラップしてる子いるんだから」
「えっ? な、なんで……?」
「死ぬほど忙しい締め日の癒しらしいわ。この人のために働いてると思うと鬼残業でも許せるんだって」
「へ、へえ……」
「あと支倉社長、良いカラダしてる♡」
「そう、それは大事。支倉社長は本当にいい身体してる」
「なんでわかるの……?」
「「見ればわかるでしょ!?」」
最後は二人同時に突っ込まれてしまい、うっ……と言葉に詰まる。
正直、七海には全然わからない。
否、今まではわからなかった。
だが今は『見た』ので『わかる』。確かに将斗は腕にも胸にもほどよく筋肉がついていて、バランスのいい均整の取れた肉体をしている。筋腹が隆々と盛り上がるほどではないが、七海を抱きしめる力強さは確かに男らしかった――……
「そ、そういえばほのか。お父さん、今日どんな感じだった?」
「うん? 柏木部長?」
一昨日の夜のことを鮮明に思い出してしまった七海は、恥ずかしい記憶を振り払うべくやや強引に話題を切り替えた。
七海の母は『結婚する前に慎介さんがあんな人だってわかってよかったじゃない』と前向きに考えている様子だった。それに関しては七海も、おそらく父も同意見だった。
だが稔郎には大企業『支倉建設』の総務部長としての立場がある。単純に娘の結婚が白紙になっただけでは済ませられない影響があるだろう。
まして代わりに突然結婚することになった相手が『社長』となれば、さらに大きな変化が起こることは想像に容易い。七海はただ、父の心労が気がかりだった。
「午前中は離席してることが多かったからわからないけど、午後はいつも通りだったよ。でもちょっと元気なかったかなぁ」
ほのかの嘘偽りない報告に、う、と胸が痛む。午前中の離席は方々への説明に追われていたためだと思うが、元気がないのは誰かに何かを言われたからかもしれない。
(ごめん、お父さん……)
心の中で謝罪しつつ、グラスを傾けてビールを一気に飲み干す。いつかちゃんと親孝行がしたい、と思いつつ空になったグラスをコースターに戻した七海は、底に残った泡を見つめているうちにもう一つ気がかりだったことを思い出した。
「……慎介さんは?」
それは他でもない、七海を置き去りにした佐久慎介の様子についてだ。
七海の問いかけに、ほのかが少し呆れたようなため息をつく。
もちろん彼女の言わんとしていることはわかる。しかし一応は結婚するつもりでいた相手なのだ。どんな様子なのか、気にならないはずがない。
「佐久係長は肩身の狭い感じで静か~にしてたけど、取り乱してる感じはなかったよ」
ほのかの報告を聞くと、安心したような悲しいようななんとも言えない感情が湧き起こる。
一見すると繊細な印象を受ける慎介だが、意外と神経は図太いらしい。七海としては色々思うところもあるが、とりあえず普通に出社していると知り、ほっと胸を撫で下ろす。
「でも、年度末で退職する……って」
「……そう」
厚生課に所属するほのかは、人事部に所属する社員並みに情報が早い。聞けば問題のない範囲で色々と教えてくれるが、個人情報の観点からも、七海の動揺を鑑みた結果からも、聞かれなかったらそのまま言わずにいてくれたのかもしれない。
そう思うとほのかに申し訳ないことを尋ねてしまった気がしたが、彼女は端的に、そして秘密裏に事実のみを伝えてくれた。
一瞬だけ静かな空気が流れるが、その様子を見守っていた小百合がふと別の質問をしてきた。
「あのあと一回も連絡取ってないの?」
「あ、うん……社長から禁止されてるの。連絡先は消せ、自分からは連絡するな、って……」
七海よりもよほど怒っているらしい将斗は、七海が慎介に情けをかけることに対してやけに厳しかった。挙式直後は彼の両親に優しい言葉をかけていた将斗だが、やはり自分の部下を傷つけた慎介本人には閉口しているようだ。日曜の朝、自宅まで送ってもらう車の中で口を酸っぱくして慎介との今後の関わり方に対する注意を受けた。
だが七海の説明に、小百合とほのかは別の感想を抱いたらしい。テーブルに頬杖をついた二人がにこにこと顔を覗き込んでくる。
「独占欲ぅ」
「七海ちゃん、社長に愛されてるぅ」
「……二人とも、私の話ちゃんと聞いてた?」
やけに楽しそうにからかってくる二人に、呆れた気持ちでため息をつく。
「社長は私を憐れんで助けてくれただけ。偽装結婚なんだってば」
「えー? 本当にそれだけかなぁ?」
「支倉社長、嬉しそうだったよね? 七海はそれどころじゃなかったかもだけど、披露宴のときの七海を見てる表情とか、すごい楽しそうだったもん」
「お仕事のときも、七海ちゃんと一緒にいるといつも楽しそうだよ」
「あ、そうなんだ。私あんまり仕事中に社長に会うことないから、見てみたいかも」
「ちょっとちょっと、話が飛躍しすぎだから」
またも将斗の話で盛り上がり始める二人に、ないない、と手を振って否定する。
支倉建設という企業のトップに立ち、多数の社員を従え、経営責任を一手に背負う『社長』の責務は誰にでも務まるものではないだろう。祖父が他界し父が会長職に就いたため、将斗が後継者として社長の座に就いたのだが、そのぶん苦労もしているし苦い思いもしている。
将斗の姿を傍で見続けてきた七海は、若さゆえの経験不足を努力と人柄で補っていける力強さを知っている。そしてそれ以上に、将斗が難しい挑戦から日常の小さな業務まで、それなりに仕事を楽しんでいる姿も知っている。まあ、目を離すとすぐにサボるし、だらけるし、どこかに消えるのも事実なのだけれど。
「あの人、仕事中はいつも楽しそうだからね?」
七海の説明に不満そうに二人が唇を尖らせる。
なんで二人が面白くなさそうなの……と苦笑していると、ふとテーブルに伏せていた七海のスマートフォンの上部が、ぴかぴかと光った。それをテーブルの上で起動させると、画面に『メッセージ:支倉社長』と表示されているのが目に入る。
「おっと、噂をすれば?」
「まだ報告会は始まったばかりですよ~社長~。七海ちゃんはまだ飲み足りないです~」
通話じゃなくメールなのでスマートフォンに話しかけても将斗には届かないが、小百合もほのかもそこそこ酔っているのかもしれない。二人の反応にくすくすと笑いつつメッセージアプリを開く。そこに書かれている内容をざっと読んだ七海は、つい沈黙してしまう。
「社長、なんて?」
「えっと……週末、実家に荷物取りに行くからって」
「え? それだけ?」
――それだけである。
昨日、七海を家まで送り届けてくれた際に、将斗は七海の両親と少しだけ会話を交わしていた。内容は主に前日のお礼と謝罪だったが、その際に母が『社長、七海でよければ身の回りのお世話をなんでも言いつけてくださいね』と余計なことを口走ってしまったのだ。
母としては、紳士的な態度で接する将斗に少しでも恩を返したい一心だったのだろう。しかし将斗は『七海に長年片想いをしている』という設定を貫かなければならない立場だ。せっかく前日『同居はしなくてもいい』と告げていたのに、母にそう言われては将斗も喜ばないわけにはいかない。
結果『七海さんさえよければ、早く一緒に住みたいですね』と答えざる得なくなったせいで、唐突に週末同居婚が決定してしまったのだ。お母さん……!
月曜の夜に、週末の予定をわざわざメッセージで尋ねられた七海は少し困惑してしまう。
「そんなの明日出社してからでもいいのにね」
「きっと社長、七海ちゃんに連絡取りたくて仕方ないんだよ」
二人はなんとしても『将斗は七海を大事にしている』という方向に持っていきたいらしい。実際そんなことはないのだが、確かにたったこれだけの内容で、友人と飲みに行っている時間にわざわざ連絡をくれるのは過保護で心配性な夫に見えるかもしれない。
小百合とほのか相手に愛妻アピールしなくてもいいんだけどなぁ……と思いつつ、プライベートの返信文面に悩む七海だった。
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