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◆ 第1章
6. 予想外の初夜 後編 ◆
しおりを挟む「は……ぁ……っふ」
「……七海」
貪るようなキスからようやく解放されてくったりしているうちに、バスローブの結び目をしゅるりと解かれた。深いキスに意識が奪われていた七海は、将斗の眼下に裸体を晒していることに数秒遅れて気がついたが、必死に腕を抱き寄せたところでもう遅い。
「七海は腰が細いな。……胸も大きい」
「や……見な、いで……っ」
「無茶言うなよ。……おい、隠すなって」
将斗の視界から裸体を覆い隠そうとすると、不満げな声とともに腕を掴んでシーツの上に押し付けられた。今度はじっと身体を見つめられ、羞恥のあまり顔から火が出そうになる。
「恥ずかし……です」
「なんでだ? こんなに綺麗なのに……ここも」
「ふぁっ!?」
将斗が腕を掴んだまま顔の位置を下げる。艶やかな黒髪が七海の胸の上で動きを止めた直後、胸の上に熱いほどの温度とぬるりとした感覚が生じた。
「ひぁ、あっ……!?」
緊張に強張る左胸の頂を口に含まれ、舌の先で転がされる。こんなにも恥ずかしい状況になると思っていなかった七海は、身体をよじってどうにか将斗から逃げようとした。だが胸を這う舌と膨らんだ突起を吸う唇、そして七海の両腕を掴む手が思いのほか力強く、上手く逃れられない。
「ふぁ、っ……ん」
乳首を丁寧に舐め転がされるたびに背中と腰がぴく、ぴくんっと飛び跳ねる。敏感に反応する自分の身体を恨めしく思う七海だったが、気持ち良さのあまり力が入らず、だんだんと思考も霞んでくる。
「ん……んんぅ……」
「どうだ? 七海、気持ちいいか?」
将斗が左胸の突起に歯を立てながら、視線だけで訊ねてくる。その表情がやけに楽しそうで、けれどどこか哀願するような仕草にも思えて、七海は縦にも横にも首を触れなくなってしまう。
気持ちいいか、と聞かれてなにも答えられない七海に、ふっと表情を緩めた将斗が左胸から顔を離して右胸に顔を埋める。そのまま右胸の突起を舐め始める将斗だったが、今度はこれまで散々舐めたり擦ったりしていた左の乳首も同時に、指の先で撫でられる。
すっかりと熟れた果実をくるくると擦られているうちに、腰がシーツから浮いて揺れはじめた。両胸を同時に刺激されると、口にすべき制止の言葉が少しずつ霞んで薄れていく。
「あ……そこ、だめ……っ」
「ん? 擦られる方が好きか?」
「ちが……ぁ、ん……そ、じゃなく……っ」
将斗の問いかけを必死に否定するが、右胸を吸われて舐められ、左胸を撫でられて弾かれる刺激があまりに強く、抗議の言葉も紡げない。
「ひぁ……だめ……あっ……ん」
「可愛いな、七海」
「あ……ぁぅ……ん、ん」
恥ずかしくてたまらないはずなのに、くすくすと笑う将斗の声と連動するように腰が揺れる。するとそれを見た将斗が左胸への愛撫を中断して、その手で七海の脇腹を撫で始めた。
恥ずかしい刺激は半分に減ったが、そのぶん肌を撫でるくすぐったさと手の温もりを感じる。将斗の大きな手がゆっくりとお腹の上、下腹部を辿っていって――やがて秘部を覆うショーツをするっと剥ぎ取られる。
「社ちょ……っ」
思わず『社長』と呼んでしまうが、事前に宣言されていた通りこの呼び方では将斗は七海の言うことを一切聞いてくれないらしい。下着を脱がされ、いつの間にか濡れていた股の間に指先が侵入すると、そのまま膨らんだ蜜芽をくちゅ、と撫でられた。
「濡れてる……」
「んぅ……、ふ、……ぁ」
「胸だけでこんな風になるのか……すごいな」
「いえ、これは……ちが……ぁ」
しっとりと濡れた陰核をゆるく撫でながら、感心したように呟かれる。将斗の反応にも自分の陰部から聞こえてくる水音にも羞恥を煽られる七海だったが、何度も秘部を擦り撫でられているうちに、だんだん将斗の手の動きが速く激しく変化してきた。
淫花の表面をぬるぬると滑る将斗の太い指に、身体がどうしようもなく反応してしまう。全身が熱く火照って、恥ずかしい場所からシーツに染みをつくるほどの愛蜜が溢れてくる。
(私、なんかへん……? 今までこんな風になったこと、ないのに……)
キスも、胸を愛撫されたことも、秘部を撫でられたこともある。なのにこんな風に全身で反応して濡れるのははじめてのこと。
どちらかというとセックスへの興味が薄く、声も控えめな方だと思っていたのに、今日はなんだか抑えが聞かない。上司相手なんて、一番自分を律しなければいけないと理解しているのに。
「指、挿入れるぞ」
「あ、まっ……! ひぁ……っあ」
(声、出ちゃう……耐えられない……っ)
蜜口から侵入してきた長い指に膣内をかき回されると、恥ずかしさと気持ち良さで自然と身体に力が入る。どうにか耐えようと喉と下腹部に力を入れることで将斗の指先が動きにくくなるせいか、膣口の上部にある敏感な部分を余計に強く撫でられてしまう。
「ふぁ、っ……んぅ」
「すごい締めつけだな。俺相手に、そこまで緊張しなくていいだろ」
「ちが……っぁ、あん」
感度の高い場所をぐりぐりと押される快感に涙が滲むと、表情を緩めて身を屈めた将斗が、目尻に小さなキスを落としてくれた。だがその代わりに手を引っ込めてくれるということはなく、さらに奥へ進んできた指先に狭い隘路を押し広げられ、一番奥の敏感な場所を指先で上下に嬲られる。
下腹部の奥で味わう未知の感覚に、背中にぞくぞくと電流が走る。しかし身を捩って逃げようとすると、なぜかさらに追い詰められる。
「えっ……ま、それはだめ……っ」
「だめじゃない、大丈夫だ」
「だめ、やぁ、あっ……あぁ」
蜜壺を抜き差しする手はそのままに、将斗の反対の手が先ほどまで撫でていた陰核を再び扱き始める。中と表を同時に愛撫される感覚が繰り返されると、快感を通り越して恐怖すら覚えた。異なる強い刺激が気持ち良すぎて、どうにかなってしまいそうなほどに。
「あぁ……だめ……っおねがい、です……手、離し……っ」
「ん? イきそうか?」
「ふぁっ……あぁ、……ん、んん」
七海が懇願すると、将斗がさらに指の動きを速めていく。濡れて感度が増した場所を手早く擦られ、ひくひくと蠢く場所をみだらにかき回される。
大きな両手に与えられる快感に成す術もない。もうだめ、と感じた直後、七海の下腹部の奥から快楽の波が押し寄せてきて、あっという間に流された。
「~~っ……っぅ、ん……ぅ」
軽く絶頂してもそれほど大きな声は出なかったが、はぁ、と息を零して脱力した瞬間、目尻から涙が伝い落ちた。
「泣くほどヨかった?」
濡れた自分の手を舐めながら、将斗が楽しそうに問いかけてくる。
「! まさ、とさん……、それ……っ」
「ん。甘いぞ」
それが自身の愛液だと気づいた七海は身体を起こして将斗の行為を止めさせようとしたが、彼は七海の意見なんて少しも聞いてくれなかった。
自分の手についた蜜液を舐めながら、将斗がそっと目を細めて肩で息をする七海を見下ろす。その視線にぞく、と背中が痺れる理由を探す前に、将斗がにやりと微笑んだ。
「普段のクールな美人秘書姿からは想像できないな」
「なんです、か……それ……!」
「こんなに可愛い表情と声でイクんだな、って。これから一年、俺がこれを独り占めできると思うと――たまらないな」
「……っ」
将斗の熱の籠もった表情に驚き、びくっと緊張する。独占欲を露わにして七海を口説く視線に硬直していると、七海に跨っていた将斗が身に着けていたバスローブの結び目をするっと解いた。
その下から現れた裸体に、一瞬目を奪われる。普段は質の良いスーツを着込んでいるためわかりにくいが、将斗はほどよい筋肉がついてよく引き締まった男性らしい身体つきをしている。
その姿にさらにどきどきと緊張していると、両足をぐいっと持ち上げられた。
正真正銘の全裸同士になってじっと見つめ合うと、ただ身体を触られるのとは別の緊張感が生まれる。ゆっくりと覆いかぶさってきた将斗に再度口付けられたので素直に応じると、将斗が七海の頭を優しく撫でてくれた。
きっと大人しく〝ご褒美〟を差し出すことに決めた七海へ、将斗からの〝ご褒美〟だろう。あるいは一年間妻を愛する夫を演じると決めた彼なりの慰めなのかもしれない。
「ん……っ」
キスを重ねる将斗の手に脚を大きく開かれる。唇を離して熱い息を零しながら見つめ合うと、濡れた蜜口に固く尖った亀頭をぐいっと押し付けられた。
(いつの間に……)
そこに薄い膜が被せられていることに気づくと、手際と準備の良さに感心してしまう。
披露宴を行ったこのホテルは、交通の便が良く景色が綺麗な都心のシティホテルだ。繁華街の片隅や郊外によくあるラブホテルではないのだから、避妊具は備えつけられていない。なのに将斗がちゃんと準備して持っているということは、彼には最初からそのつもりがあって……おそらく七海が入浴している間に準備をしたということだ。
お風呂から上がった段階で将斗にそのつもりがあったという事実に、なんだか無性に恥ずかしさを覚える。だが照れる間もなく猛った先端が蜜口に沈むと、将斗の腕に掴まった七海はびくっと身を震わせた。
「んぅ……っ……んん」
身体の大きさと陰茎の大きさは比例するものなのか、将斗の雄竿を受け入れると下腹部全体に言葉にできない圧迫感を覚えた。挿入はゆっくりとした動きだったが、一ミリ侵入するたびにお腹を押しつぶされそうなほどの質量を感じる。
小さな痛みを感じて少しだけ力むと、将斗の表情もわずかに歪む。泣くほど強烈な痛みではないが、一番奥まで挿入するのは物理的に不可能なのではないかと感じた。
「かなり慣らしたつもりだったが……」
「将斗さ……ん」
結婚式の最中に花婿に逃げられるような残念女でもいいと求められたのに、七海の身体では将斗が満足できないかもしれない。小さな痛みに耐えながら申し訳ないな、と思う。
それでもゆっくりと押し進められ、限界まで到達するとゆっくりと引き抜かれる。少しずつ繰り返される動きに徐々に痛みが和らいできた七海だったが、ある一点を突かれた直後、ふと身体に異変が起こった。
「ふぁっ……!?」
「!」
ゆったりと静かな動きのままググッと最奥を突かれた瞬間、七海の身体がびくんっと過剰に跳ね上がる。
「え……な、に……?」
「七海……?」
その電流に似た刺激から快感を得たのは将斗も一緒だったらしく、ふと視線を上げると、よく見慣れた整った顔が少し驚いたように目を見開いていた。
数秒の間は顔を見合わせたまま停止していた七海と将斗だったが、先に我に返った将斗がふっと表情を緩めた。
「今のとこ、気持ち良かった?」
「え、な……なに……?」
「俺もだ、七海。だから……もう一回」
「ふぁっ……!?」
将斗の宣言に答える間もなくシーツに腰を固定されて、上からより強めに体重をかけられる。脚を広げた状態で恥ずかしい質問をされると無性に恥ずかしかったが、顔を隠す前に頬を撫でられて再び唇を重ねられた。
「~~ッ、……ぁ……んぅ」
「余裕なくて、ごめん……な」
キスの合間にそう呟いた直後、将斗の腰を打つ速度を上げる。いつの間にか痛みが完全に消失していた結合部から、ぱちゅん、ずちゅん、と卑猥な水音が溢れて響く。
「あ、あ……だめ……んぅ……っぁ」
将斗の陰茎が蜜壺を満たしては引き抜くたびに灼熱のような摩擦を感じる。激しい抽挿に胸が揺れるとその動きを観察され、さらに興奮度を上げた腰遣いにより激しく貫かれる。
「七海……っ」
「あ……っふ、ぅ……あ」
「ほら……七海、わかるか? 今、七海の中にあるのは……誰のだ?」
七海の心と身体を暴くと同時に、ココロとカラダを満たしていく。今の七海を欲する相手なんて将斗以外にはいないのに、それでも七海の口から決定的な言葉を言わせたいのか、将斗の問いかけと視線はどこまでも意地悪だった。
「まさ……」
「ん?」
「将斗、さん……の……!」
「そうだ……この感覚、忘れるなよ」
「あ……やぁ、ん……」
にやりと微笑む将斗が腰を揺らして最奥を突く。鋭くも甘い刺激に震えた七海が甘く喘ぐと、その様子に満足げな表情を見せた将斗が七海の身体を抱きしめて唇を重ねてきた。
「七海っ……」
「ふぁ……っ! だめ、将斗さ……ぁ、……ん」
とんとんと何度も最奥を突かれているうちに、蜜壺がきゅぅんと切なく収縮する。まるで将斗に抱きしめられて口づけられることが幸福だと言わんばかりの反応が恥ずかしくてたまらない。けれど無意識のものは自分でも止められない。
「あ……は、ぁ……ぁんっ」
激しい抽挿に導かれるようにやってきた甘い痺れが、下腹部から全身へ広がっていく。その快楽が最大まで高まると、なにかが弾け飛ぶような強烈な快感に襲われた。
「あ、あ……ふぁ、あ……っ」
「……っ――は……七海ッ……!」
「ああ、あぁっ……ん!」
それが絶頂の瞬間だと気づいた直後、七海は身体の奥で燻っていた快感を放出するように激しく達していた。同じく腰を振っていた将斗も快感を堪えるように表情を歪め、七海の中に激しく精を放つ。
ぼんやりと麻痺した淫花の奥で薄膜が白濁の蜜液を受け止める感覚がしたが、それを知るよりも早く将斗のキスが思考と台詞を奪い取った。
* * *
「七海」
「ん……」
絶頂の気配が遠退くと、汗だくになった七海の前髪を撫でながら将斗が名前を呼んできた。腕枕をするように七海の身体を抱き寄せた将斗が、ふと意外な言葉を口にする。
「俺たち、身体の相性がいいと思わないか」
将斗が顔を覗き込みながら訊ねてくるが、七海には身体の相性の良し悪しはよくわからない。
(そうなの……?)
楽しそうな将斗の表情を見ても疑問に思うしかない七海だったが、確かに気持ちはよかった。誰かと比べるのは失礼だし、そもそも夜の事情について比較するほど経験豊富なわけでもないが、それでも将斗が頭や身体を撫でる指先は素直に気持ちいいと思えた。
(ふわふわして、あったかくて……)
将斗の腕に包まれると、夢の中にいるような気分になる。こうやって触れ合っているだけで、心が温かくなって満たされていく気がする。
本当はこれが、夫だと思っていた人に捨てられて傷付いた心を癒されているからだと――期限付きのかりそめの快楽と幸福であると気がついているけれど、今はそれでもいいと思う。身体の相性だけでも合ってよかったと思う。
だってこれは、そういう偽装結婚なのだから。
「早く慣れろよ、七海」
「……はい、将斗さん」
頭の中では別のことを考えつつ、将斗の求めに従うように頷く。
そう、頭の中では、別のことを考えている。
(一年……戸籍にバツがつくまでと、秘書を辞めるまでのカウントダウン……)
今夜、七海と将斗は一年限定の共犯者になった。父の面子と会社の体裁を守るために、将斗との結婚を受け入れて周囲のすべてを欺くと決めた。
だが一般家庭に生まれた七海と違い、支倉グループの御曹司として生まれた将斗には、会社と一族の将来を守る義務がある。そのためにどこかの会社重役のご令嬢や会社にとって有益な人、もしくは将斗が心の底から好きになった相手と結婚するべきだ。
ならば七海にはいつか身を引く時期がくる。元嫁の秘書なんて将斗の将来や恋愛を妨げる阻害因子にしかならないのだから、離婚と同時に秘書の仕事も辞めるべきだろう。
時期が近付いたら秘書室長と人事部にも相談するつもりだが、もし異動が叶わないのであれば、その時は会社を辞めることも考えている。もちろん将斗や支倉一族、父への影響が最小限で済む方法を考えるつもりだ。
(でも今日は……色々ありすぎて、疲れた)
だが今はもう何も考えられない。
思考と感情のすべてを使い切った。
「……七海?」
大きく息を吸って吐くと同時に、瞼がとろとろと落ちてくる。七海の身体を抱きしめる将斗になにかを問いかけられた気がしたが、それもしっかりとは把握できない。
うとうとと目を閉じると将斗が髪を撫でてくれたが、ありがとうございます、と伝える前に七海の意識は眠りの底に滑り落ちていた。
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