いつか◯◯◯になる

むー

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番外編/後日談

後日談:母と対面 (マモル)4

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「海里とは年が一緒で家も近かったから、物心つく頃から仲良かったんです」

ベッドに縁に背を当てて、揚羽の隣りに寄り添うように座り、手を握る。
揚羽はフゥッと何度も息を吐きながらポツポツと話し始めた。

「保育園の時もずっと一緒に遊んでいたんですけど、小学校に上がってクラスが別になって、海里も僕も新しい友達が増えてだんだん疎遠になっていったんです」

揚羽は思い出すように天井を見上げる。
そして、息を吐いてまた話す。

「1ヶ月過ぎた頃から、海里が僕のことを揶揄うようになったんです。その、当時の僕、ぽっちゃりだったんで……」

瑠璃が見せてくれた写真を思い出す。
ぽっちゃりと言われたら「そうなんだ」という程度の体型ではあったが、それ以上に可愛かった。

「海里に揶揄われたことについてはその時の僕はあまり気にしてなくて、でも海里とはなんとなくぎこちなくて……。それから1ヶ月ほど経った6月の後半の遠足で、一年生は植物園に行ったんです。その時、ちょうどイベントスペースで蝶の標本の展示がされていたんです。そこでみんなで見ていた時……」

❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

「ちょうちょ綺麗だね。あ、アゲハくんの名前もちょうちょだね」
「うん。お母さんの名前も蝶子なんだ」
「えー、お母さんもちょうちょだ。すごいねー」

クラスの友達と楽しく話しながら見ていた。
そこに海里がクラスの子数名と一緒に来た。
一瞬、僕を睨んだように見えた海里は、わざと大きな声を出して僕に言った。

「揚羽さぁ、その体型でちょうちょ?お前、"ちょうちょ"より"サナギ"の方が似合っているよな!アハハッ」
「蝶のサナギってまんまるだからピッタリだー!あはははっ」

海里の友達が、海里の言葉に同意して笑った。
僕と一緒に蝶を見ていた友達も、周りでそれを見ていた子たちも、みんな笑った。
僕が泣き出して、それに気づいた先生が注意するまでずっと笑われた。

❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

揚羽はそこまで話すと深く息を吐いた。

「そのことがきっかけで、みんなから【サナギ】って呼ばれて、揶揄われるようになったんです。その後、海里は転校していったんですけど、あだ名だけは残って。学年が上がっても、中学、高校に上がっても、そのあだ名を知ってる人がいたので、ずっと【サナギ】のままでした」
「………」
「海里が僕のことを【サナギ】と呼んだのはその一度きりだったんですが、僕にとってはそれが一番ショックでした。それから海里には避けられるようになって、あの時【サナギ】と呼んだ理由を教えてもらうことができませんでした。それで、僕、海里の態度に嫌われたんだって思ったら体調崩してちゃって……、休んでいるうちに海里はいなくなりました」

何度目かの長いため息は少し寂しそうだった。
その横顔に、ただ聞くことしか出来ないことが少し悔しかった。

「あと、【サナギ】というあだ名、最初は体型のことだったんですけど、いつの間にかお母さんや姉さんみたいな華やかさがないからって理由で呼ばれていたみたいですね。ははは……」

揚羽は泣きそうな顔で笑った。
俺が聞いた【サナギ】は、いつの間にかすり替わっていた方だった。
揚羽が前髪で顔を隠して人の目を避けるようになったのは、そうさせたのは揚羽にとって大切なたった1人の幼馴染だったのだろう。

「先輩、僕のあだ名知ってたでしょ?」
「ああ」
「でも、先輩だけは僕のことをずっと【アゲハ】って呼んでくれましたね。すごく嬉しかった」

コテンと俺の肩に揚羽の頭が当たった。

「先輩がずっと【アゲハ】って呼んでくれたから、僕変われた気がします」

俺を見上げて「ふふっ」と笑った。

「わっ、せ、先輩⁉︎」

見上げた額にキスをすると、揚羽は真っ赤になって慌てた。
そのまま俺から離れようとしたから、繋いでいた手を引いて腕の中に捕まえる。

「マモル」
「ぇ……」
「先輩、じゃなくて、マモルって呼べよ」

揚羽の耳に触れるほど唇を寄せて囁くと、その耳が熱くなった。

「やっ、でも先輩……あの……その……」
「呼ばないと離さない」
「えっ、えっ」

腕の中でジタバタとする体をガッチリとホールドすると、揚羽は大人しくなった。

「なあ、呼んでよ」
「……ま、…………」

俺の服を掴んで「マモル」と小さく呼んだ揚羽に、頬が緩んで、離すどころか、その体をぎゅうっと強く抱きしめた。


fin




「ぐぇ……」

「……あ、ごめん……」

おしまい(笑)
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