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番外編/後日談
番外編:髪を切る (アゲハ)3
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来店から2時間後。
僕の目の前から長い前髪がなくなった。
キョンちゃんは、眉毛よりちょっと上で、サイドに流すように前髪を作ってくれた。
一緒にサイドと後ろもカットされて、全体的にスッキリした仕上がりになった。
これなら僕でもセットできそうだ。
キョンちゃんの腕は、素人の僕でも分かるくらい凄かった。
予約が取りにくいのも、瑠璃が月2で通う理由が分かった気がする。
そんな瑠璃の髪も、キョンちゃんのパートナーさんの手でサラサラに仕上がっていた。
「こうして見ると、ホント、蝶子ちゃんにそっくりねー。デビューする時は私がヘアメイク担当するから絶対言ってね」
「あ、いや、それは、ないです……」
その後、休憩室に通されてみんなでキョンちゃんお手製のケーキと紅茶を頂いた。
そこで何故かキョンちゃんとパートナーの真来さんの馴れ初めを聞かされた。
キョンちゃんはゲイで、興奮するとオネエ口調になってしまうキャラらしい。
だから、お客さんの前では出来るだけ冷静に男っぽく振る舞っているそうだ。
パートナーの真来さんはキョンちゃんの二つ下で、キョンちゃんが母の元に押しかけるまでは、2人は同じ美容室の先輩と後輩だった。
真来さんはゲイではないが、同じ美容室で働いている時からキョンちゃんの美容師としての腕に惚れていて、今はキョンちゃん自身にも惚れていると言った。
「蝶子ちゃんが瑠璃ちゃんを孕って結婚、引退した後、真来に一緒に美容室やらないかって誘われたのよ。でも私、ゲイじゃない。だから『私はセックス込みのパートナーじゃないと無理』って断ったの。真来はノンケだから、そう言えば諦めると思ったんだけど……」
キョンちゃんが真来さんを見ると、真来さんは懐かしそうにクスリと笑って頷いた。
「でもね。真来ったら『なら、俺の残りの人生、恭介さんの全てのパートナーになるよ』って言ってくれたの。あれにはキュンとしたー」
「まあ、その時にはもう恭介さんをひとりの人間として好きだったし、実際、男同士とか、そんな迷いは一瞬だけだったよ……」
「一瞬はあったんだ。ふふっ」
2人は寄り添って微笑みあっていた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「なんかいいな」
帰りの電車で衛が呟いた。
思いの外長居をしてしまい、どこにも寄ることができずに帰ることになった。
僕はまだ慣れない髪型を隠すようにベージュのニットの帽子を目深に被る。
「まだ顔を出すの恥ずかしいでしょ」
そう言って瑠璃が僕にくれた帽子だ。
態々、美容室に来る前に買ってきたうちのひとつで、ちょっと大きくて勝手に目深になってしまうけど、今の僕にはちょうど良い。
「俺たちも、あの2人みたいになりたいな」
シートの隣りに座る衛は、僕にだけ聞こえる声で言った。
そんな言葉にドキドキしながら僕は小さく頷いた。
「あの、先輩」
「ん?」
僕は思い切って、バッグの下にある衛の手に触れる。
掴んだ小指をキュッと握った。
「明日の朝、教室の前まで一緒についてきてもらえませんか?」
「ん、分かった」
意外にアッサリ了承してくれた。
顔がよく見える髪型でひとりで教室に行くのが少し怖かったから、衛の即答は正直嬉しかった。
昇降口から教室まで、衛が隣りにいてくれたら心強い。
「じゃあーー」
「明日から駅前で待ち合わせな」
「えっ……」
衛の家は学校から徒歩圏内とはいえ、駅を経由するのは遠回りだ。
でも、僕を見る衛はそんなこと一切気にする様子もなく笑った。
「一緒に学校行こう」
「……はい」
その笑顔に釣られて僕も笑ったら、衛が顔を寄せて、握られていない反対の手で帽子を掴んで持ち上げた。
「揚羽……その髪、似合ってるよ」
至近距離で囁かれ僕の顔は真っ赤になったけど、嬉しくて「へへっ」と笑った。
いつの間にかバッグの下の手は、貝のように繋ぎなおされていた。
駅に着くまで、ずっと、ぎゅっと握り合った。
fin
僕の目の前から長い前髪がなくなった。
キョンちゃんは、眉毛よりちょっと上で、サイドに流すように前髪を作ってくれた。
一緒にサイドと後ろもカットされて、全体的にスッキリした仕上がりになった。
これなら僕でもセットできそうだ。
キョンちゃんの腕は、素人の僕でも分かるくらい凄かった。
予約が取りにくいのも、瑠璃が月2で通う理由が分かった気がする。
そんな瑠璃の髪も、キョンちゃんのパートナーさんの手でサラサラに仕上がっていた。
「こうして見ると、ホント、蝶子ちゃんにそっくりねー。デビューする時は私がヘアメイク担当するから絶対言ってね」
「あ、いや、それは、ないです……」
その後、休憩室に通されてみんなでキョンちゃんお手製のケーキと紅茶を頂いた。
そこで何故かキョンちゃんとパートナーの真来さんの馴れ初めを聞かされた。
キョンちゃんはゲイで、興奮するとオネエ口調になってしまうキャラらしい。
だから、お客さんの前では出来るだけ冷静に男っぽく振る舞っているそうだ。
パートナーの真来さんはキョンちゃんの二つ下で、キョンちゃんが母の元に押しかけるまでは、2人は同じ美容室の先輩と後輩だった。
真来さんはゲイではないが、同じ美容室で働いている時からキョンちゃんの美容師としての腕に惚れていて、今はキョンちゃん自身にも惚れていると言った。
「蝶子ちゃんが瑠璃ちゃんを孕って結婚、引退した後、真来に一緒に美容室やらないかって誘われたのよ。でも私、ゲイじゃない。だから『私はセックス込みのパートナーじゃないと無理』って断ったの。真来はノンケだから、そう言えば諦めると思ったんだけど……」
キョンちゃんが真来さんを見ると、真来さんは懐かしそうにクスリと笑って頷いた。
「でもね。真来ったら『なら、俺の残りの人生、恭介さんの全てのパートナーになるよ』って言ってくれたの。あれにはキュンとしたー」
「まあ、その時にはもう恭介さんをひとりの人間として好きだったし、実際、男同士とか、そんな迷いは一瞬だけだったよ……」
「一瞬はあったんだ。ふふっ」
2人は寄り添って微笑みあっていた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「なんかいいな」
帰りの電車で衛が呟いた。
思いの外長居をしてしまい、どこにも寄ることができずに帰ることになった。
僕はまだ慣れない髪型を隠すようにベージュのニットの帽子を目深に被る。
「まだ顔を出すの恥ずかしいでしょ」
そう言って瑠璃が僕にくれた帽子だ。
態々、美容室に来る前に買ってきたうちのひとつで、ちょっと大きくて勝手に目深になってしまうけど、今の僕にはちょうど良い。
「俺たちも、あの2人みたいになりたいな」
シートの隣りに座る衛は、僕にだけ聞こえる声で言った。
そんな言葉にドキドキしながら僕は小さく頷いた。
「あの、先輩」
「ん?」
僕は思い切って、バッグの下にある衛の手に触れる。
掴んだ小指をキュッと握った。
「明日の朝、教室の前まで一緒についてきてもらえませんか?」
「ん、分かった」
意外にアッサリ了承してくれた。
顔がよく見える髪型でひとりで教室に行くのが少し怖かったから、衛の即答は正直嬉しかった。
昇降口から教室まで、衛が隣りにいてくれたら心強い。
「じゃあーー」
「明日から駅前で待ち合わせな」
「えっ……」
衛の家は学校から徒歩圏内とはいえ、駅を経由するのは遠回りだ。
でも、僕を見る衛はそんなこと一切気にする様子もなく笑った。
「一緒に学校行こう」
「……はい」
その笑顔に釣られて僕も笑ったら、衛が顔を寄せて、握られていない反対の手で帽子を掴んで持ち上げた。
「揚羽……その髪、似合ってるよ」
至近距離で囁かれ僕の顔は真っ赤になったけど、嬉しくて「へへっ」と笑った。
いつの間にかバッグの下の手は、貝のように繋ぎなおされていた。
駅に着くまで、ずっと、ぎゅっと握り合った。
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