至高のオメガとガラスの靴

むー

文字の大きさ
上 下
45 / 53
番外編/後日談

番外編:20年くらい前のお見合いの話 side百合

しおりを挟む
蒼が苦い顔した、昔の話です。
百合視点で時々、実況中継っぽくなります。
__________________

両親とと3人で2泊3日の旅行のはずが、朝目覚めて案内された場所はお見合いの席だった。

お父さんが珍しく「家族旅行しよう」と誘うからおかしいと思ったのよね。
うちの決定権はお母さんにあるから、旅行するとしてもお母さん発信のはず。

避暑地にある山の上の高級ホテルに泊まるって聞いて浮かれたのが失敗だった。
あのホテルの結婚披露宴は人気があり、特に花嫁のドレスが秀逸と結婚情報誌でよく特集されている。
服飾系の専門学校でデザイナー目指している私にとって、そのドレスを間近で見せてもらえるって聞かされたら二つ返事で行くに決まっている。

なのに、、、

なのに、、、

ナニコレ?

ホテルで遅めの朝を迎えて、朝食を楽しみに支度してたら、ワラワラと乱入してきた女性たちの手によって振袖姿に変身した。
おかげで朝ご飯食べ損ねた。

最初はその着物の美しさに見惚れていたけど、連れて行かれた場所に愕然とした。

ホテルの離れにある宴会場でお見合いなんて聞いてない。

相手は取引先のツテで知り合った会社社長の息子で、何かのパーティーの席でお見合いの約束を取り付けたらしい。

逃げたくても、振袖に草履なんて逃亡不可。
すぐ捕獲されるに決まっている。

今日に限って頼もしい幼馴染はいないし。

いたら断固阻止してくれるのにぃ。

母も知らなかったようで、刺すような眼差しを容赦なく父に送っている。

「お見合いだって言ったら断られると思って」
「当たり前です」

肩を竦めて話す父にピシャリと言い放つ母。
いつ見ても頼もしい母だ。


それから10分後に現れた見合い相手を見る。
相手はアルファだ。
身長は180は軽く超えていて髪はちょっともっさりしているけどスタイルは抜群。
視力が弱いのか眼鏡を掛けている。
しかも、少し色付きっぽい。

お見合い相手じゃなかったら、髪の毛いじって私の作った服のモデルになって欲しいのにな。


お見合い相手の七月透さんは、医療機器メーカーの社長の1人息子。
日本でもトップクラスのアルファ一族。

対して、うちは香水メーカーで、優秀なアルファを産むと有名なオメガ一族。
私は姉2人、兄2人の5人兄妹の末っ子。
兄は2人ともアルファで、姉2人と私はオメガ。
私以外の兄妹は全員結婚している。

強いコネクションを取り付けたい父は、何がなんでもこの縁を結びたいようだけど、如月家のオメガは自分の番は自分で見つけるのがモットー。
母もそうやって父を見つけて番となり結婚した。
姉2人もそうだ。
だから、父のやり方に母の目は氷点下の如く冷たい。

そんなことより気になるのが、彼のフェロモンに微かに香る別のアルファの香り。
すごく好きな香り。
既にお相手がいるのかしら?
やっぱり女性?
でも、この香りの感じは…まさか"KI・N・DA・N・NO・KO・i"なのっ⁈

ナニソレトキメクー!


この香りがするということは、そのお相手(男)は近くにいる。
どうしよう、乱入してきたら……。

どうしよう…。

興奮する!

とりあえずもう少ししても乱入してこなかったら、この人と2人っきりになった時にじっくり話を聞かせてもらおうっと。


あれ…この匂い…。

バターン!

「そのお見合い、ちょっと待ったー」

豪快に扉が開かれ、逆光を背負った1人の女性が現れた。
チラッと後ろに男性のシルエットか見えたようだけど気のせい?

逆光を背負った女性は頼もしい幼馴染だった。
会場に乱入するとカツカツと擬音が合いそうな歩き方で中に入ってきた。
絨毯だから音しないのよね。残念。

「あ…や、やぁ、き、貴美ちゃん。ど、どうしたんだい?」
「どうしたもこうしたもありません!家に行ったらお婆さまに百合ちゃんがお見合いするって聞いて飛んできたんです。おじさま、これはどういうことですか?」

きゃー!
貴美ちゃん、カッコいいー!
私の心の中のうちわがブンブン振ってるわー。

あ、七月さん、固まってる。
というか、視線は扉の先に向いていた。
あ、貴美ちゃんで見えない…残念。

「あの、申し訳ありませんが、百合ちゃん連れて行きます」

貴美ちゃんは私の手を取って立ち上がらせる。
もうする事なす事、完璧な王子様っ!

「あー、うん。構わないよ。僕の方も迎えがきたから。な、蒼」
「ぁあ、うん…」

対する七月さんは表情ひとつ変えずに、扉の向こうの人に声を掛けた。
その人が中に入ってきたのか、香りが強くなった。
やっぱり、すっごく好きな匂い。

そしてやっぱり"KI・N・DA・N・NO・KO・i"なのねっ⁈
胸が高鳴る!

「百合ちゃん、行くわよ」
「あ…うん」

貴美ちゃんに手を引かれて扉から出る。
すごく好きな匂いの禁断のお相手とすれ違う時、チラッと顔を見たら目が合った。
驚いた顔で私を見てる。
私の鼓動が高鳴って、身体が熱を帯びた。
でも、貴美ちゃんに引っ張られている私はそのまま外に出た。


「ほんっと、おじさま何考えてるのよ」

庭園の隅の一際大きく育った沈丁花の陰の芝生に座った貴美ちゃんは、カッコよく足を組んだ。

「貴美ちゃん、かっこよかったぁ」
「百合ちゃんの一大事だもん、当たり前じゃない」

貴美ちゃんは隣にハンカチを広げてくれた。
私はその上に座って抱きつく。

「でもあっちの2人、男同士だったわよね?2人ともアルファ?」
「そ、アルファだったよ。あれはきっと"KI・N・DA・N・NO・KO・i"よ!やーん、来て良かったぁ」
「百合ちゃん、相変わらずね…」
「はっ、貴美ちゃん、しっ」

口の前に指を立てて声を抑え、身を沈めて気配を殺す。
コツコツと石畳を歩く2つの足音が近づいてきた。
香りからして禁断の2人。
ちょうど沈丁花の前に立ち止まったみたいで、声が聞こえてきた。

「蒼、来るの遅い」
「入るの勇気いったんだから仕方がないだろ」
「まあ、相手の女のおかげでぶち壊しになったからいいけど…って、蒼どうした?」
「ああ……透の相手さ……たぶん、俺の運命の番だと思う」

あ……

「嘘でしょ!」
「誰だっ…ってお前ら…」

立ち上がった貴美ちゃんは鬼の形相で禁断の2人に近寄っていったから、2人は驚いた。
貴美ちゃんについて行って、後ろからそおっと顔を覗かせると、アオさんとまた目が合った。
その姿と匂いに胸がギューって締め付けられる。
そうだ、この人が私の運命の番。
体が磁石のようにフラフラと引き寄せられ、気付けば目の前に立っていた。

「えっと……あの、棗蒼といいます。貴女は…」
「如月百合です」
「百合さん、俺と結婚を前提にお付き合いして下さい」

アオさんは唐突に告白してきた。
私は驚いたけど、返事については迷いはなかった。

「はい」

「「はいぃぃ?」」

外野の貴美ちゃんと七月さんの声は全く聞こえなかった。

❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

その2ヶ月後。

交際は順調に進んで発情期を迎えた私は、蒼くんと番になった。

その2年後、蒼くんと結婚した。
結婚式は透くんと貴美ちゃんとのWウエディング。
翌年、アカリを産んだ。

そんな二十歳の私が出会った、"禁断の恋"ではなく、"運命の恋"の話。


__________________

百合ちゃんは腐女子だったという話。

そして、2人はアッサリ恋人になりました。

次で番外編も最後です。
ちょっと早めの21時に公開します。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。 そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。 オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。 ※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。 ※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。

処理中です...