至高のオメガとガラスの靴

むー

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アカリちゃんと発情期①

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アカリちゃんはオメガだから発情期がある。
3ヵ月毎、1週間学校を休む。
アカリちゃんの発情期には年々酷くなって、最近は2-3日部屋から出てこれないくらい酷い。

発情期の度に僕のお父さんが開発した抑制剤を飲んでいるけど、酷い時はあまり効かないみたい。
だからといって強い薬は副作用のリスクが高いから、部屋に閉じこもって我慢しているってアカリちゃんのお母さんが言っていた。

症状が落ち着いた頃にお見舞いに行くと笑顔で迎え入れてくれるけど、その目元はいつも赤い。
苦しくて苦しくて止まらない涙をゴシゴシと擦っているから。
「将来、ヒロとの元気な子供をたくさん産みたいから、こんなのなんてことないよ」と笑って言うけどそれに対して僕は言葉をかけることができない。
そしてアカリちゃんは、発情期の時だけ僕がお見舞いに来る日は家でもネックプロテクターを着けている。
発情期のフェロモンに僕が充てられないように。

「発情期でもヒロに逢いたいから」

微笑むアカリちゃんに僕はいつも胸が苦しくなる。
アカリちゃんは僕が番になる覚悟が持てないのを解っているけど、決してそれについて触れてこない。
代わりにーー。

「ヒロ、項触ってもいい?」

ベッドに腰かけると傍にきて、僕のちょっと長めの襟足の髪を掻き分ける。
そこにはアカリちゃんが付けた噛み跡が薄ら残っている。
そっと指でなぞり顔を寄せてスンと匂いを嗅いで、ちゅっとキスを落とす。

「良かった、まだ痕が残ってる」

10年も前につけた跡はもう消えることはないのに、この時だけはいつも不安な眼をしている。

確認が終えると、今度は僕を正面を向かせて、そっと僕の眼鏡を外す。
5秒じっと見つめ、顔を寄せてくるアカリちゃんに合わせて閉じた僕の左目蓋にキスを落とす。

「大好きだよ…ヒロ」


これが、14歳から始まった発情期中のアカリちゃんの儀式だ。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

5月の後半、アカリちゃんの発情期が始まった。

少しずつ重くなっていっているアカリちゃんの発情期、今回は4日間の面会謝絶だった。

5日目の朝、アカリちゃんのお母さんから解除の連絡をもらい逢いに行くと、アカリちゃんは笑顔で僕を部屋に迎え入れてくれた。
「ヒロに逢えて嬉しい!」と喜んでくれるアカリちゃんの目元は、擦りすぎて血が出たのかポツポツと小さな瘡蓋がたくさんあった。

アカリちゃんが籠っていた4日間の出来事を話した後、アカリちゃんのいつもの儀式。
いつもよりゆっくりで、閉じた左目蓋にキスを落として「大好きだよ…ヒロ」で終わる。

ふに。

あれ…?

唇に柔らかい何かが当たった。
ビックリして目を開けるとすぐ近くでアカリちゃんと目が合った。

「あ…かーー」

名前を呼び終える間も無く、アカリちゃんは僕の背中に手を回し抱きついた。

「早くヒロと番になりたい…」

数十秒の沈黙後、僕の肩に顔を埋めたアカリちゃんから発せられた小さな小さな言葉が僕の耳に届いた。

カタカタと小さく震えながら僕を抱きしめるアカリちゃんに、僕は声をかけることも抱き返すこともできなかった。

アカリちゃんの部屋を出た僕の左肩は少しだけ濡れていた。

__________________

次回の更新は18時更新予定です。
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