魔法使いと眠れるオメガ

むー

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同居:20日目 12/11(土)

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「なんで俺を避けるんですか?」

そう問われた真琴さんの身体は微かに震えた。
俺は隣の椅子に移動し、それまで俺が座っていた椅子に真琴さんを引っ張り座らせた。
腕を掴んでいた手は、真琴さんと手を繋ぐ形で握り直した。
その手はとても冷たかった。

「もう一度言います。何故、俺を避けるんですか?俺、真琴さんになんかしましたか?」
「……してない。紫陽くんは何もしてない」
「なら」
「これは僕の問題だから……か、関係のない紫陽くんに心配かけたくなくて…」

俺の隣で真琴さんは俯いて表情が見えない。
今どんな顔をしているかすごく見たいけど、真琴さんが顔を上げてくれるのを待つ。

「心配しますよ。一緒に住んでいるんですから」
「………」
「この2週間、"おはよう"と"おやすみ"を毎日欠かさずしていた人の姿が見えなくなったら心配します」
「………」
「あと、関係ないとか言われたらちょっと傷つきます」
「………」

真琴さんの長いまつ毛が震えるように揺れたが、泣いてはいなかった。

「それに、ご飯が変わりました。あれ、真琴さんが作ったものじゃないですよね?」
「うそ、何で……」

やっと顔を上げてくれた真琴さんはすごく驚いたのかいつも以上に目を見開いていた。

「この前のナポリタン。初めて一緒に出かけた時に食べた喫茶店のですよね」
「う、そ…なんで…」
「真琴さんのナポリタン、ピーマンは入れずに黄色と赤のパプリカ入れるでしょ?パプリカの甘さでケチャップの酸味が緩和されて…。まだ一回しか食べたことないけど、俺アレ好きです」
「………」
「昨日の唐揚げも。真琴さんの唐揚げは生姜たっぷりなのに味が濃すぎず絶妙な塩梅で、しかも鶏肉がすっげぇ柔らかいから何個でもいける」
「そ、それは、液ダレに漬け込む前にスジを切って塩やお酒で揉み込んでいて…だ、誰でもしていることだよ」

褒められて恥ずかしいのか目を逸らしてモゴモゴ言い訳をする。
なんかハムスターみたいで可愛いな。

「そうかもしれないけど、身近でそれをやっている人を俺は真琴さんしか知らない」
「お、お母さんは?」
「前も話したでしょ。うちの母親、そういうとこ雑だって。唐揚げは唐揚げの素使うし。まあ、俺も今まで疑問を抱いて食べたことなかったけど…」

ははっと笑うと、真琴さんは俯いてクスッと笑ったーーように見えた。

「この2週間。まだたった2週間だけど、俺の舌は真琴さんの味を覚えたんだよ。そう簡単に騙せると思わないでね」
「……はい」

「ごめんなさい」と呟くのが聞こえた。
俺の体温で少し温まった手をぎゅっと握ると「痛い」と顔を上げた。

「ーーで」
「で?」

首を傾げでおうむ返しをする真琴さんの顔色はさっきよりほんの少しだけ良くなった。

「最初の質問。ご飯食べてますか?」

あからさまに目を背けたのて、真琴さんの目線の先に顔を出す。

「しょ、食欲、なくて…」
「どうして?」
「それは言えない」

そこだけはハッキリ言ったので、それ以上聞くのはやめた。

「今は食べれそうですか?」
「す、少しだけなら」
「なら、今から一緒にご飯食べてください。俺、昼から何も食ってなくて腹ペコなんですよ」

そう言う俺の腹は空気を読んでぐーと鳴ってくれた。

「ぷっ、ふふふ…そうだね、何か食べよう」

真琴さんが立ち上がろうとしたので制止した。

「今日は俺が作ります……って言ってもインスタントで許してください」


5分後ーー。

「インスタント…というか、カップ麺だね」
「これが今の俺の限界です」

真琴さんがご飯を食べていないと踏んだ俺は、帰りにコンビニでカップのうどんを買った。
ちょっと高級な生うどんタイプのやつだ。

説明書きの通り、熱湯で麺をほぐしてお湯を捨て、新たに注いだ熱湯でスープを溶かして乾燥薬味を散らして完成。
それを2つ作った。

「あ、あの、紫陽くーー」
「残したら俺が食べますから、食べれるとこまで食べてください」

真琴さんが言うことは分かっている。
取り分けられるようにお茶碗を出すことも考えた。
でも、それだと最初の一回で「ごちそうさま」しそうだったからやめた。

「直接食べる方が美味いですよ。真琴さんの手料理には負けるけど」
「……ありがとう」

真琴さんはふわりと笑うと、手を合わせて「いただきます」と言い食べ始めた。

「本当だ、美味しいね」
「でしょ」

真琴さんは頑張って半分食べてくれた。
それからソファーに移動して、空白の3日間を埋めるように話をした。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

アラームの音で目が覚めた。
真琴さんと話し込んで、いつの間にか眠ってしまったようだ。
毛布を掛けられていたから、俺が先に寝てしまって真琴さんがしてくれたんだろう。
スマホを見るとまだ少し時間に余裕がありそうだからもう少し寝るか迷っていると、肩にある重みが少し動いた。
振り向くとつむじが見えた。
まだ起きる気配がなく、覗き込んでマジマジと顔を見ると目の下には薄ら隈があった。
もしかしたら、食欲だけでなく、ほとんど眠れていなかったのかもしれない。
だから朝も早かったのかも。
少し痩けた頬を撫でると身動ぎして、肩口に頭をグリグリ押し付けてきた。
その拍子に毛布が落ちそうになり慌ててキャッチすると、ふんわりとした甘い香りが鼻をくすぐった。

俺は毛布で真琴さんを包み、膝の上に抱えた。
こうすると甘い香りをちゃんと感じることができる。
少しだけこのまま、と真琴さんを抱きしめて目を閉じた。


次に目を開けた時、真っ赤になって狼狽えている真琴さんの顔と、やばい時間を表示したスマホが見えた。

俺は烏の行水でシャワーを浴びて、ダッシュでバイト先へ向かった。
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