結婚を前提に異世界にきてくれませんか?

むー

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第2部

2-4

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あれ……。
この手触りは……。


「ネコしゃんは、はろうぃんじゃなくてもネコしゃんだったんね。かぁいいねー」
「ぇ……あの……」

純真なまなこに頭に付いている猫耳カチューシャを外せない。

「本当、可愛いですよね!僕もそう思います!」
「ねー!」

イチゴくんはしゃがんで女の子と目線を合わせ楽しそうに笑っている。
女の子の笑顔は可愛いのに、イチゴくんの笑顔は今だけすごく憎らしく見える。

「じゃ、じゃあ、私たちはこれで……」

女の子を抱き上げ3歩後退したお母さんとやっと目が合うと苦笑いされた。
オレも苦笑いを返すとお母さんは女の子を抱えたままものすごい勢いで去っていった。
そんなお母さんの背中を隣で笑顔で見送る憎っくきイケメンに視線を送る。

「……歩夢先輩。視線が痛いです」

オレはゆっくり猫耳カチューシャを外す。

「イチゴくんはさぁ……態と教えなかったんだよなぁ?」

あの時、店長はコレを教えてくれようとしたのにイチゴくんはそれを阻止した。

「えっ……あの、その……それは」

オレの低い声にしどろもどろになりながら後退るイチゴくんに合わせてオレは前進する。

「楽しかったぁ?オレがこんなの付けて歩いて笑われるところを見るの」
「それは違いますっ」
「何が違うんだよっ」

声を荒げカチューシャを握るオレの手をイチゴくんに掴まれる。

「だってっ。猫耳付けている歩夢先輩があまりにも可愛くてもっとずっと見ていたかったんですもんっ」
「ーーもんっ⁉︎」

ここにきて「もんっ」って語尾はズルくないか?
しかも、大真面目な目でオレを見ていて、ちょっと居た堪れない。

「だ、だからって、コンビニ出たら教えろよ。恥ずかしいのはオレなんだから、さ」
「ごめんなさい……」

シュンとするイチゴくんの頭に、ないはずの狼の耳が垂れて見えた気がする。
こんな風に謝れるともう怒れない。

「しっ、しかたねぇな。今回は許してやるよ」
「歩夢せんぱぁい」

やばい。
あるはずのない尻尾がブンブン振ってるのも見える。

「そのかわり」
「?」

でも、タダでは許さないのがオレだ。
首を傾げるイチゴくんにオレは続ける。

「イチゴくんがもらったお菓子、オレにちょうだい。それで許してやるよ」
「?」
「あっ、全部じゃないよ。キャンディー1個。それで許す」

って……あれ?
イチゴくんは更に首を傾げた後、すっと目を細め傾けていた首を元の位置に戻した。

「いいですよ」
「やったぁ……ぇ?」

手に持っていたカチューシャをイチゴくんは取り上げると再びオレの頭に付ける。

「で……こういう時、何て言うか解りますよね?黒猫さん」
「……え?」

猫耳に顔を寄せ囁いたイチゴくんを見上げる。

「あと、今は勤務外です。イチゴくんじゃないですよ、ね?」
「ぁ……あの……」

笑顔なのに目笑ってないんですけど。
思わずプルプル震えるオレの顎下をイチゴくんの指先が優しく撫でる。

「せーんぱい?」
「……と、トリック オア トリート……あ、淡雪くんっ」

少しの沈黙後。

「『ニャア』でしょ。黒猫さん」
「っ……にゃあー!」

やけくそ気味に鳴くとコロンっと口の中に何かを放り込まれた。

「ふふっ、よくできました」
「んぐぅ」
「あと、新しいバイトが可愛い女の子でも、僕は負けませんからね」

その笑顔に口の中のイチゴキャンディーを危うく飲み込みそうになった。


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