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56 淡雪くん
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9月のバイトは2日からスタートだ。
派遣バイトは1ヶ月は休みにして、コンビニに専念することにした。
少し早めに出勤して、リニューアルに合わせて作られた新しい制服に着替える。
制服といっても上だけだが、前は私服にエプロンだったからすごく新鮮だ。
胸元のポケットに名札をつけて鏡で確認する。
ワクワクとドキドキが入り混じっていて、ここでのバイト初日をちょっと思い出した。
今日はオレもイチゴくんもリニューアル後の初日で、店長が24時まで居てくれるからちょっと賑やかだ。
と思ったら、時間になってもイチゴくんは現れない。
「さっき連絡があってね。用事でちょっと遅れるんだって。彼が来るまで2人で頑張ろうね」
「……はい」
出鼻を挫かれたオレはちょっとガッカリする。
思っていた以上に会えるのが楽しみだったみたいだ。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「おはようございます。遅れてすみませんっ」
自動ドアが開き駆け込んできたのはイチゴくんだ。
走ってきたのか珍しく額から汗が流れ、イチゴくんは服の裾で拭いた。
「いいよ、いいよ。君の予定確認しないでシフト組んじゃってごめんね。今日は用事あったんでしょ?」
「はい。でも、もう済みましたので入ります。明日以降のシフトも大丈夫ですから。あっ、すぐ着替えてきます」
「なら、僕も行くよ。可愛くん、一后くんに説明してくるから、少し任せていいかな?」
「はい、大丈夫です」
店長はイチゴくんを引き連れバックヤードに下がった。
イチゴくんはすれ違う時に「じゃあ、歩夢先輩、あとで」と小さく手を振った。
それだけなのに、ちょっとだけドキドキしてしまった。
「じゃあ、あとはよろしくね~」
「「お疲れ様です」」
24時半を過ぎた頃、店長はちょっと眠そうな顔をして帰っていった。
朝番ばかりしている店長にとってこの時間帯は夢の中だからキツかったみたいだ。
「歩夢先輩、今日はすみません」
お客が居なくなると、イチゴくんはまたオレに頭を下げてきた。
「いいって。つか、これで何回目だよ。……それに、今日は店長がいてくれたからイチゴくんのことは怒ってないよ」
イチゴくんは着替えて出てきてすぐ10回くらい謝ってきて、それから30分に一回は謝ってる。
本当にしつこい。
「歩夢先ーー」
「あのさ。これ以上謝ってきたら、今度は本当に怒るかんな」
「でもーー」
なおも食い下がるイチゴくんに本気で怒りが湧いてきた。
「何だよ」
声を荒げてしまうオレに目をまん丸にしたイチゴくんは困ったように眉尻を下げた。
「でも……ここ来た時から歩夢先輩少し不機嫌そうで……僕の顔見る時もやっぱり怒ってるような顔してたから……」
「……え?」
全然気付かなかった。
オレ、そんな酷い顔をイチゴくんに見せてたのか……。
思わず両手で顔を叩くように隠す。
かなりいい音がしたから、横にいるイチゴくんが「あ、あの……先輩?」とオロオロしている。
そんなの構わず、また顔を叩いた。
そして、もう一度叩こうとしたら手首を掴まれ止められる。
「先輩?」
「……ごめん」
オレは情けなくてお客さんが入ってくるまで顔を上げることができなかった。
派遣バイトは1ヶ月は休みにして、コンビニに専念することにした。
少し早めに出勤して、リニューアルに合わせて作られた新しい制服に着替える。
制服といっても上だけだが、前は私服にエプロンだったからすごく新鮮だ。
胸元のポケットに名札をつけて鏡で確認する。
ワクワクとドキドキが入り混じっていて、ここでのバイト初日をちょっと思い出した。
今日はオレもイチゴくんもリニューアル後の初日で、店長が24時まで居てくれるからちょっと賑やかだ。
と思ったら、時間になってもイチゴくんは現れない。
「さっき連絡があってね。用事でちょっと遅れるんだって。彼が来るまで2人で頑張ろうね」
「……はい」
出鼻を挫かれたオレはちょっとガッカリする。
思っていた以上に会えるのが楽しみだったみたいだ。
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「おはようございます。遅れてすみませんっ」
自動ドアが開き駆け込んできたのはイチゴくんだ。
走ってきたのか珍しく額から汗が流れ、イチゴくんは服の裾で拭いた。
「いいよ、いいよ。君の予定確認しないでシフト組んじゃってごめんね。今日は用事あったんでしょ?」
「はい。でも、もう済みましたので入ります。明日以降のシフトも大丈夫ですから。あっ、すぐ着替えてきます」
「なら、僕も行くよ。可愛くん、一后くんに説明してくるから、少し任せていいかな?」
「はい、大丈夫です」
店長はイチゴくんを引き連れバックヤードに下がった。
イチゴくんはすれ違う時に「じゃあ、歩夢先輩、あとで」と小さく手を振った。
それだけなのに、ちょっとだけドキドキしてしまった。
「じゃあ、あとはよろしくね~」
「「お疲れ様です」」
24時半を過ぎた頃、店長はちょっと眠そうな顔をして帰っていった。
朝番ばかりしている店長にとってこの時間帯は夢の中だからキツかったみたいだ。
「歩夢先輩、今日はすみません」
お客が居なくなると、イチゴくんはまたオレに頭を下げてきた。
「いいって。つか、これで何回目だよ。……それに、今日は店長がいてくれたからイチゴくんのことは怒ってないよ」
イチゴくんは着替えて出てきてすぐ10回くらい謝ってきて、それから30分に一回は謝ってる。
本当にしつこい。
「歩夢先ーー」
「あのさ。これ以上謝ってきたら、今度は本当に怒るかんな」
「でもーー」
なおも食い下がるイチゴくんに本気で怒りが湧いてきた。
「何だよ」
声を荒げてしまうオレに目をまん丸にしたイチゴくんは困ったように眉尻を下げた。
「でも……ここ来た時から歩夢先輩少し不機嫌そうで……僕の顔見る時もやっぱり怒ってるような顔してたから……」
「……え?」
全然気付かなかった。
オレ、そんな酷い顔をイチゴくんに見せてたのか……。
思わず両手で顔を叩くように隠す。
かなりいい音がしたから、横にいるイチゴくんが「あ、あの……先輩?」とオロオロしている。
そんなの構わず、また顔を叩いた。
そして、もう一度叩こうとしたら手首を掴まれ止められる。
「先輩?」
「……ごめん」
オレは情けなくてお客さんが入ってくるまで顔を上げることができなかった。
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