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今日は帰る日だから、ここに来る時に着ていた服に袖を通す。
ここに来てからずっと手触りが良い質のいい服ばかり来ていたから、このちょっとゴワッとする感じが懐かしい。
着替えが終わるとノック音が聞こえた。
「はーい」
カチャ
返事を待ってから開けられた扉からイチゴくんが現れる。
ここに居た時の服から着替え、ちゃんと王子様になってる。
「歩夢先輩、おはようございます。朝食のお迎えに来ました。さあ、行きましょう」
挨拶からの手を差し出す仕草まで、ちゃんと王子様だ。
イチゴくんのエスコートされるのも今日で最後か。
なんだかんだでコレにも慣れた。
所作とかも向こうに戻っても役に立ちそうだけど、披露する場はないだろう。
あったとしても、うっかりしてエスコートされる側をやってしまうかも。
「プッ」
つい声に出して笑ってしまい、イチゴくんに不思議そうな顔をされ咳払いをして誤魔化す。
「あ、そうだ。歩夢先輩。朝食後、梟が収監されている地下牢にご案内します」
「えっ、アウルと話していいのっ?」
嬉しそうなオレにイチゴくんはあからさまにムッとした顔をして「5分だけですよ」と釘を刺した。
「5分で十分だよ。アウルにもちゃんとお礼言いたかっただけだし」
「だから、先輩は被害者なんですから、あんな梟にお礼なんて言う必要ーー」
「俺がどうした?」
不意に割って入られた声にオレとイチゴくんは同時に振り返ると、そこには地下牢に居るはずのアウルがいた。
「アウルっ」
「何故、ここにっ⁉︎」
「ああ、元気になったから出てきた。次の仕事があるし。……まぁ、許可はもらってないけどな」
ニッと歯を見せ笑うアウルに一瞬呆気に取られたが、ハッとしてイチゴくんが止めるのも構わずアウルに駆け寄る。
「アウル、怪我は?」
「あー、大したない。治癒魔法は効きづらくて傷が塞がるのにちょっと時間かかったがこの通り」
腕を捲り見せた肩はすっかり傷が塞がっていて、そこには傷跡と思しき10センチほどの線が残っていた。
この線もその内消えると聞いてホッとする。
「アウル、あの時は本当にありがとう。お前が居なかったら、あっという間にオレは殺されていたよ」
「そもそも俺がアユムを連れていったせいだろ」
「それでもっ、オレを誘拐したのがアウルだったから、オレは死なずにここに戻ってこられたんだ。過程はどうあれ、オレはアウルに助けてもらったから……お礼をちゃんと言いたかったんだ」
一気に捲し立てたオレに今度はアウルが呆気に取られた様子だったが、すぐに笑った。
「そっか。なら、そのお礼受け取る」
「うん……ん?」
伸ばされた手に頬を撫でられられると、顎をクイっと上げられーー
「チュッ」
左頬、唇のすぐ脇にキスをされた。
「えっ?アウっ、何してんだよぉおおっ?」
言い切る前にイチゴくんによって引き剥がされた。
「ククッ。アユム、王子様に嫌気がさしたら俺を呼べ。俺はお前が男でも構わない……王子様から攫ってやるよ」
「させませんよ……絶対に」
オレを隠すように抱きしめるイチゴくんと不敵に笑うアウルは、オレの意思を無視してバチバチした。
「ふっ、じゃあ……アユム、またな」
「えっ、ああ、じゃあな」
アウルは侵入してきたと思しき窓から出ていった。
ここに来てからずっと手触りが良い質のいい服ばかり来ていたから、このちょっとゴワッとする感じが懐かしい。
着替えが終わるとノック音が聞こえた。
「はーい」
カチャ
返事を待ってから開けられた扉からイチゴくんが現れる。
ここに居た時の服から着替え、ちゃんと王子様になってる。
「歩夢先輩、おはようございます。朝食のお迎えに来ました。さあ、行きましょう」
挨拶からの手を差し出す仕草まで、ちゃんと王子様だ。
イチゴくんのエスコートされるのも今日で最後か。
なんだかんだでコレにも慣れた。
所作とかも向こうに戻っても役に立ちそうだけど、披露する場はないだろう。
あったとしても、うっかりしてエスコートされる側をやってしまうかも。
「プッ」
つい声に出して笑ってしまい、イチゴくんに不思議そうな顔をされ咳払いをして誤魔化す。
「あ、そうだ。歩夢先輩。朝食後、梟が収監されている地下牢にご案内します」
「えっ、アウルと話していいのっ?」
嬉しそうなオレにイチゴくんはあからさまにムッとした顔をして「5分だけですよ」と釘を刺した。
「5分で十分だよ。アウルにもちゃんとお礼言いたかっただけだし」
「だから、先輩は被害者なんですから、あんな梟にお礼なんて言う必要ーー」
「俺がどうした?」
不意に割って入られた声にオレとイチゴくんは同時に振り返ると、そこには地下牢に居るはずのアウルがいた。
「アウルっ」
「何故、ここにっ⁉︎」
「ああ、元気になったから出てきた。次の仕事があるし。……まぁ、許可はもらってないけどな」
ニッと歯を見せ笑うアウルに一瞬呆気に取られたが、ハッとしてイチゴくんが止めるのも構わずアウルに駆け寄る。
「アウル、怪我は?」
「あー、大したない。治癒魔法は効きづらくて傷が塞がるのにちょっと時間かかったがこの通り」
腕を捲り見せた肩はすっかり傷が塞がっていて、そこには傷跡と思しき10センチほどの線が残っていた。
この線もその内消えると聞いてホッとする。
「アウル、あの時は本当にありがとう。お前が居なかったら、あっという間にオレは殺されていたよ」
「そもそも俺がアユムを連れていったせいだろ」
「それでもっ、オレを誘拐したのがアウルだったから、オレは死なずにここに戻ってこられたんだ。過程はどうあれ、オレはアウルに助けてもらったから……お礼をちゃんと言いたかったんだ」
一気に捲し立てたオレに今度はアウルが呆気に取られた様子だったが、すぐに笑った。
「そっか。なら、そのお礼受け取る」
「うん……ん?」
伸ばされた手に頬を撫でられられると、顎をクイっと上げられーー
「チュッ」
左頬、唇のすぐ脇にキスをされた。
「えっ?アウっ、何してんだよぉおおっ?」
言い切る前にイチゴくんによって引き剥がされた。
「ククッ。アユム、王子様に嫌気がさしたら俺を呼べ。俺はお前が男でも構わない……王子様から攫ってやるよ」
「させませんよ……絶対に」
オレを隠すように抱きしめるイチゴくんと不敵に笑うアウルは、オレの意思を無視してバチバチした。
「ふっ、じゃあ……アユム、またな」
「えっ、ああ、じゃあな」
アウルは侵入してきたと思しき窓から出ていった。
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