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それから、アウルとは会話らしい会話もせずに移動した。


アウルに背負われ移動すること数時間。
何度か休憩を挟んでやっと目的地に着いた頃には夜がふけていた。

森の中の小さな物置き小屋のような建物の前で下ろされる。
この小屋以外の建物はなく待ち合わせにはおあつらえ向きの場所だ。

「此処で依頼人と会う。……それが終わったら、アユムの国に帰すよ」

オレはアウルの言葉を聞き流す。
だって、アウルには無理だもん。

オレはこの世界の人間じゃなくて、

この世界にはイチゴくんが連れてきてくれて、

イチゴくんじゃないとオレはオレの世界には帰れない。

「アウルには無理だよ。……オレにはもう……帰る場所がない……」

なくなったんだ、帰る場所は。
面白くも楽しくもないのに笑いが込み上げてくる。

「は、ははっ……ふっ、ハハッ」

視界の端にオレに触れようとするアウルの手が見え、思わず手で払いのけた。

「触るなっ」
「アユーー」

オレの名を呼びかけたアウルは息を潜め、10m先の木を睨むように見る。
足元に落ちている小石を拾いその木に向かって投げる。
小石が木に当たった数秒後、その影から1人の男が現れこっちに歩いてきた。
男は騎士か兵士のような武装をしている。

「覗き見ですか?悪趣味デスネ」

アウルはオレを背に隠して皮肉めいた言葉を投げる。

「そんなことより……どういうことだ。依頼は死体のはずだが……」
「肉の塊は運ぶのに苦労するから面倒なんでね。あと依頼で人を殺すことはあるが、俺は誰彼構わず殺したりはしない。特に一般人を手に掛ける趣味はない」

アウルの後ろに立たされて、相手の表情もアウルの表情も見えない。
会話から分かるのは、あの男はアウルにオレを殺してここに連れて来るように依頼をした。
きっとイチゴくんの婚約者のオレが邪魔に思っている誰かが依頼したんだろう。

誰が?

思いつくのはたった1人……だけど。

今アウルと対峙している男ではない。

「ならば、今ここで殺せ。若しくは我々に差し出せ」

男の冷たい言葉がオレの耳にまで届き、さっきまであったアウルに対する怒りは消え、今感じる男の剥き出しの殺気に恐怖で体が震え出した。
アウルがオレをあの男に差し出した瞬間、男の腰に差している剣で斬られてしまう気がしてならない。

オレはここで殺されてしまうのか……。
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