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「サーペント侯爵」
「っ⁉︎」

名を呼ばれた父娘は体を強張らせる。
グラスを塞いだ手はそのままオレからグラスを取り上げた。
それを目で追うと、その先にはオオキミくんが立っていた。
少し目線を下げるとオオキミくんの後ろからキラピカくんが出てきて、オレの隣に移動した。

「これはこれはオオキミ王子とキラピカ王子。ごきげん麗しゅうございます」

サーペント侯爵父娘は恭しく挨拶をするが、2人の視線はどこか冷めている。
オオキミくんはオレを隠すように前に立ち、キラピカくんはオレの手を握った。

「兄上の御婚約者に何か用ですか?」
「いえ、アワユキ王子の御婚約者にご挨拶をさせて頂いておりましただけですよ」

娘が娘なら父親も役者のようだ。

「ボクにはそうは聞こえなかったけど」
「そんな……私はそのようなことは……」

キラピカくんの言葉にマリフェス嬢は涙を浮かべる。
たしかにこの人は言ってないけど、顔はガンガン言ってた。

「挨拶が済んだのならもういいだろうか。兄上に彼をエスコートするように頼まれている。俺が目を離した隙に彼が酒でも飲んで酔ってしまわれたら俺が叱られますから」
「それは申し訳ございません。私はアワユキ王子の御婚約者である彼と酒を交わしてみたかったので……。それでは私どもはこれで失礼致します」

恭しくお辞儀をするとサーペント侯爵父娘は離れていった。
最後にオレ一瞬睨まれたけど。

「あの、ありがとう」
「いえ。貴方のことは兄上に頼まれていたので。来るのが遅くなって申し訳ありません」
「キミ兄様、ユキ兄様に言われてすぐ来ようとしたんだけど、途中で御令嬢たちに捕まっちゃったんだ」

オオキミくんの言葉にすかさずキラピカくんがフォローをする。
なかなかいいコンビだな。
アフタヌーンティーの時のオオキミくんは腹に一物を抱えている印象があったけど、気のせいだったんだな。

「ううん。来てくれて助かった。ありがとう」

オレは素直に感謝の言葉を述べ笑顔を浮かべた。


「アユくん、このケーキ美味しいよ。ボクこれ大好きなんだ」
「んー。おっ、マジで美味い」
「でしょでしょ!」
「おい」

キラピカくんと和気藹々とケーキを突いていたら頭上から怖い声がした。

「ど、どうしたのかなぁ、オオキミくん?」
「どうしたもこうしたも、あんた、人の話をちゃんと聞いていたか?」

おっと、オオキミくん、ちょっとお口が悪いぞ。
なんてしようかと思ったが、めっちゃ怖い顔してるから辞めた。

「えーと、なんだっけ?」

実のところ、ケーキに夢中でオオキミくんの話をすっかりスルーしてしまった。

「さっきの2人はサーペント侯爵の者だ。爵位としては2番目に高いが侯爵はそれに満足しておらず、娘を使って王族との縁を作って公爵に這い上がろうと狙っている。で、その娘のマリフェス嬢は兄上にしつこく付き纏っている令嬢の1人で、どういう訳か次期王妃との噂も上がってる。王宮としては否定するのも面倒で放置していたのだが、今回兄が貴方を連れて来たことで噂の出所がサーペント侯爵家の所縁ゆかりの者からだと貴族どもは気が付いた。だからこの宴では大人しくしていると思っていたのに……隙をつかれた。クソッ」
「オオキミくんて、意外に口悪いね」
「ヘラヘラすんなっ」

ピシャリと叱られて、オレとキラピカくんは肩をすくめた。

「兄上はこの国にとって特別な人なんだ。そんな人があんたみたいな平凡な人間を連れて来るなんて……。嫁ぐのならもっとしっかりしてくれよっ」

オレは叱られてしまった。


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