7 / 159
7
しおりを挟む
「うーん。考えても意味がわからん。僕の国ってなんだよ」
イチゴくんは地方出身者なようだが、今時、出身県を『国』と古風な呼び方をする若者はいない。
「益々わからん」
と言いつつ、大きめのバッグに着替えを詰める。
イチゴくんは手ぶらで来ていいと言っていたけど、手ぶらで旅行には行けない。
着替えとかおやつとか必要だし。
イチゴくんの実家に行くならお土産も用意しないと。
気がつけば、大きめのバッグはキャリーケースに替わっていた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
2日後。
約束は13時。
集合場所はイチゴくんのマンション。
ここに来るのは2度目だけど、見上げるとやっぱり首が痛くなる。
「歩夢先輩、いらっしゃいませー。会えなくて寂しかったですー」
「いや、寂しくなるほど経ってないだろ……」
バイトの時は週3は会わないし。
「つか、急すぎなんだよ。旅行の準備は普通1週間いるだろ」
「だから手ぶらで大丈夫ですって言ったじゃないですか」
「手ぶらで旅行するアホがどこにいる」
「……ふふっ。怒った先輩の顔も可愛いですね」
頬を赤らめるイチゴくんにオレはガックシ肩を落とした。
「では、今から出発するんですが、先輩に一つお願いがあります」
「お願い?」
「向こうにいる間、先輩は僕と結婚を前提にお付き合いしている恋人の設定でお願いします」
「はぁ?そんな話この前してなかったじゃねぇか⁉︎」
「テヘ」
後出しジャンケンもいいところだ。
イケメンだからってそんなズルまで許される訳ないだろ。
「テヘ、じゃない。帰る」
「待ってください。折角ここまで来たんだから行きましょうよ。楽しいですよー」
「ここまで来たって、イチゴくん家に来ただけだろ。まだ出発はしてないっ!」
「っ痛」
「ぁ……」
振り払った際、オレの肘が運悪くイチゴくんの怪我をしている右手に当たってしまった。
ついいつもの癖でしてしまったが、イチゴくんは怪我人だった。
包帯がじわじわ赤く染まり、イケメンの眉間の皺が深くなる。
「イチゴくんっ、ごめっ」
「大丈夫です。……こんな怪我向こうに行ったらすぐ治りますから。……だから……」
オレを安心させるために無理して笑うイチゴくんにオレは涙ぐむ。
オレは決めた。
「行くよ。イチゴくんのか、カレピとして、行ってやるよ!」
オレは宣言した。
「やったー!」
イチゴくんが両手を上げて喜んだ。
コイツ、怪我人だよな……?
イチゴくんは地方出身者なようだが、今時、出身県を『国』と古風な呼び方をする若者はいない。
「益々わからん」
と言いつつ、大きめのバッグに着替えを詰める。
イチゴくんは手ぶらで来ていいと言っていたけど、手ぶらで旅行には行けない。
着替えとかおやつとか必要だし。
イチゴくんの実家に行くならお土産も用意しないと。
気がつけば、大きめのバッグはキャリーケースに替わっていた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
2日後。
約束は13時。
集合場所はイチゴくんのマンション。
ここに来るのは2度目だけど、見上げるとやっぱり首が痛くなる。
「歩夢先輩、いらっしゃいませー。会えなくて寂しかったですー」
「いや、寂しくなるほど経ってないだろ……」
バイトの時は週3は会わないし。
「つか、急すぎなんだよ。旅行の準備は普通1週間いるだろ」
「だから手ぶらで大丈夫ですって言ったじゃないですか」
「手ぶらで旅行するアホがどこにいる」
「……ふふっ。怒った先輩の顔も可愛いですね」
頬を赤らめるイチゴくんにオレはガックシ肩を落とした。
「では、今から出発するんですが、先輩に一つお願いがあります」
「お願い?」
「向こうにいる間、先輩は僕と結婚を前提にお付き合いしている恋人の設定でお願いします」
「はぁ?そんな話この前してなかったじゃねぇか⁉︎」
「テヘ」
後出しジャンケンもいいところだ。
イケメンだからってそんなズルまで許される訳ないだろ。
「テヘ、じゃない。帰る」
「待ってください。折角ここまで来たんだから行きましょうよ。楽しいですよー」
「ここまで来たって、イチゴくん家に来ただけだろ。まだ出発はしてないっ!」
「っ痛」
「ぁ……」
振り払った際、オレの肘が運悪くイチゴくんの怪我をしている右手に当たってしまった。
ついいつもの癖でしてしまったが、イチゴくんは怪我人だった。
包帯がじわじわ赤く染まり、イケメンの眉間の皺が深くなる。
「イチゴくんっ、ごめっ」
「大丈夫です。……こんな怪我向こうに行ったらすぐ治りますから。……だから……」
オレを安心させるために無理して笑うイチゴくんにオレは涙ぐむ。
オレは決めた。
「行くよ。イチゴくんのか、カレピとして、行ってやるよ!」
オレは宣言した。
「やったー!」
イチゴくんが両手を上げて喜んだ。
コイツ、怪我人だよな……?
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
これは兄さんじゃありません
くるむ
BL
東田志音(しおん)の兄、壱琉(いちる)はある日一人旅に出たまま行方知れずになった。
だが兄の事をどうしても諦められない志音は、兄の友人大翔(ひろと)、新(しん)、晴斗(せいと)の3人と、行方不明になる直前に兄が宿泊の予約を入れていたホテルに泊まりに行くことを決意。
そしてとうとう、行方不明になった壱琉に出会うことが出来たのだが……?
「ちょっと待って、なに? 僕のこと好きになっちゃった!? 待って、待って、待って。急にキスしたりなんてしないで―――!!」
ブラコンで兄さん大好きな志音と、彼を取り巻く人たちとの悲喜こもごもとした(?)ラブストーリーです??
短いですが、シリアスごちゃまぜの基本ギャグ。
なんとも言えない空気感が漂っていると思います。ちょっぴりご注意くださいませ。
僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て運命の相手を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
────────────
※感想、いいね大歓迎です!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる