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イチゴくんとの夜勤も1ヶ月が過ぎた頃。
深夜2時も過ぎ、やっと平和になった店内は最近よく見る立ち読みの黒ずくめの男性しかおらず閑散としていた。
「先輩、ゴミ出ししてきますね」
「おう、頼んだ」
イチゴくんは相変わらず交際を迫ってくるが仕事はちゃんとしてくれる。
最近では自ら掃除を買って出てくれるほどで、オレはとても楽をさせてもらっている。
「さ、オレもちょっと店内の掃除でもしようかな」
イチゴくんが裏手に回収したゴミを持っていくのを見送るとカウンターから出ようとした。
「おいっ」
「はい、いらっしゃーー、へっ?」
振り返ると目の前にナイフの先端があった。
さっきまで立ち読みをしていたお客さんのようで、男は15cmほどの果物ナイフを突き出していた。
「あ、の……」
「か、金を出せっ」
強盗さんでした。
が、本物の強盗にはじめて遭遇したオレの体は強張ってしまい動けない。
「ボサッとするな。早くレジ開けろっ」
「えっ……いっ」
弾かれるように上げた手にナイフの先端が当たった。
血が滲む程度に掌が切れたようで傷口がチリチリ痛む。
おかげでオレの体はますます強張って動けなくなる。
「早くしろおっ!ぶっ殺されたいのかっ」
「ぁ……ぁ……」
身を乗り出した男にエプロンごと襟首を掴まれ引き寄せられた。
至近距離にナイフをチラつかされたオレは恐怖のあまり目を瞑った。
頬にはヒンヤリとしたナイフの先端が当たり押された。
切られるーー
そう思ったがその感触は直ぐに離れた。
「そこまでです。これ以上先輩を傷付けるのは僕が許しません」
「ぐぅっ」
襟首からも手が離れ解放され目を開けると、強盗を背後から羽交い締めにするイチゴくんがいた。
その右手はナイフの歯を掴んでいて血が流れている。
「い、いち……」
「先輩、警察呼んでください。早くっ!」
「は、はいっ」
オレは慌てて店内の通報ブザーを押す。
5分ほど待っていると2人の警察官が来て強盗を取り押さえた。
「先輩、大丈夫ですか?」
警察が来てくれたことでホッとしてへたり込んだオレに、イチゴくんが声を掛ける。
「あっ、い、イチゴくん、血が……」
イチゴくんの右手は血で真っ赤に染まり掌から溢れた血が床にポタポタと落ちる。
「ああ」
何でもない様に傷口を見るイチゴくんに、オレは慌てて棚から新品のタオルを取り出して血塗れの手に当てた。
「っ!」
「あ、ごめっ」
強く押し当ててしまったようで、イチゴくんは一瞬顔を歪めたが直ぐに笑顔をオレに向けた。
「先輩も怪我してる。大丈夫ですか?」
「お、オレのなんてかすり傷だよ。それよりイチゴくんの手がぁ」
オレを安心させるように怪我をしていない左手で頬を撫でててくれるが少し冷たい。
「先輩が無事で良かったです。先輩に何かあったら僕……」
「い、イチゴくんーー」
「先輩、泣かないで」
頬を触れていた左手がオレの肩にまわり抱きしめられる。
イチゴくんの肩に顔を埋めたオレは、彼の服にしがみつき暫く泣いた。
深夜2時も過ぎ、やっと平和になった店内は最近よく見る立ち読みの黒ずくめの男性しかおらず閑散としていた。
「先輩、ゴミ出ししてきますね」
「おう、頼んだ」
イチゴくんは相変わらず交際を迫ってくるが仕事はちゃんとしてくれる。
最近では自ら掃除を買って出てくれるほどで、オレはとても楽をさせてもらっている。
「さ、オレもちょっと店内の掃除でもしようかな」
イチゴくんが裏手に回収したゴミを持っていくのを見送るとカウンターから出ようとした。
「おいっ」
「はい、いらっしゃーー、へっ?」
振り返ると目の前にナイフの先端があった。
さっきまで立ち読みをしていたお客さんのようで、男は15cmほどの果物ナイフを突き出していた。
「あ、の……」
「か、金を出せっ」
強盗さんでした。
が、本物の強盗にはじめて遭遇したオレの体は強張ってしまい動けない。
「ボサッとするな。早くレジ開けろっ」
「えっ……いっ」
弾かれるように上げた手にナイフの先端が当たった。
血が滲む程度に掌が切れたようで傷口がチリチリ痛む。
おかげでオレの体はますます強張って動けなくなる。
「早くしろおっ!ぶっ殺されたいのかっ」
「ぁ……ぁ……」
身を乗り出した男にエプロンごと襟首を掴まれ引き寄せられた。
至近距離にナイフをチラつかされたオレは恐怖のあまり目を瞑った。
頬にはヒンヤリとしたナイフの先端が当たり押された。
切られるーー
そう思ったがその感触は直ぐに離れた。
「そこまでです。これ以上先輩を傷付けるのは僕が許しません」
「ぐぅっ」
襟首からも手が離れ解放され目を開けると、強盗を背後から羽交い締めにするイチゴくんがいた。
その右手はナイフの歯を掴んでいて血が流れている。
「い、いち……」
「先輩、警察呼んでください。早くっ!」
「は、はいっ」
オレは慌てて店内の通報ブザーを押す。
5分ほど待っていると2人の警察官が来て強盗を取り押さえた。
「先輩、大丈夫ですか?」
警察が来てくれたことでホッとしてへたり込んだオレに、イチゴくんが声を掛ける。
「あっ、い、イチゴくん、血が……」
イチゴくんの右手は血で真っ赤に染まり掌から溢れた血が床にポタポタと落ちる。
「ああ」
何でもない様に傷口を見るイチゴくんに、オレは慌てて棚から新品のタオルを取り出して血塗れの手に当てた。
「っ!」
「あ、ごめっ」
強く押し当ててしまったようで、イチゴくんは一瞬顔を歪めたが直ぐに笑顔をオレに向けた。
「先輩も怪我してる。大丈夫ですか?」
「お、オレのなんてかすり傷だよ。それよりイチゴくんの手がぁ」
オレを安心させるように怪我をしていない左手で頬を撫でててくれるが少し冷たい。
「先輩が無事で良かったです。先輩に何かあったら僕……」
「い、イチゴくんーー」
「先輩、泣かないで」
頬を触れていた左手がオレの肩にまわり抱きしめられる。
イチゴくんの肩に顔を埋めたオレは、彼の服にしがみつき暫く泣いた。
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