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本編
後日談:瑠可の謝罪
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学園に戻って数日後の週末。
コンコン
ノック音にドアを開けると、そこに瑠可がいた。
「結季くん、少しいいかな?」
「ああ、うん。どうぞ」
部屋に入ってから一言も喋らない瑠可の顔はなんとなく暗く、どう声を掛けていいか迷う。
こんな時はとりあえず。
キッチンでお湯を沸かしている間に冷蔵庫から牛乳を取り出した。
片手鍋で沸かしたお湯にスプーン4杯の茶葉を入れて蓋をし1分蒸らした後に、レンジで温めた牛乳を入れて弱火で温める。
「うん、このくらいかな?」
ポットに茶漉しをセットして、鍋のお茶を一気に注ぎ入れた。
それをマグカップに注ぎ入れて、スプーン1杯の蜂蜜を入れて混ぜた。
「瑠可、お茶どーぞ」
「えっ、ありがとう……これ、なあに?」
「まっ、飲んでみて」
オレはそう言うと、自分の分のお茶を一口飲んだ。
うん、美味い。
チラッと瑠可の様子を見る。
少しクンクン匂いを嗅いでから恐る恐る一口飲むと、すぐ頬が緩んだ。
「美味しい……」
「良かったぁ。これ、カモミールで作ったミルクティーなんだ。オレもはじめて作ったんだけど美味しく出来て良かった」
「カモミール?」
「ああ、オレも名前しか知らなかったんだけど、なんかリラックス効果のあるハーブなんだって」
「ボク、ハーブティーはじめて飲んだかも」
お茶の効果なのか、さっきまでの暗い顔は消えた。
カモミールティーは、寮に戻る数日前に楓兄から貰ったやつだ。
伊吹くんからのお裾分けらしい。
伊吹くんのカフェは定期的にコーヒー豆や茶葉を入れ替えるらしく、その際廃棄するのが勿体ないとスタッフに配ってるそうだ。
コーヒーと紅茶の方がメインのお店だから、ハーブは結構余るらしい。
「他にミントももらったんだ。こっちもミルクと相性良いらしいから、今度、ミントミルクティーにして飲もうよ」
「うんっ」
カモミールのおかげが、リラックスした瑠可はゴクゴクとミルクティーを飲み干した。
「あのね……ボク、結季くんに謝らないといけないことがあって……」
「謝る?……なんで?前も謝られたけど、アレ、瑠可のせいじゃないし……」
「ううん、違うの」
「……瑠可?」
瑠可の顔はまた暗くなってしまった。
膝の上に乗せた手はキツく握られていた。
「ボク、ずっと皇貴先輩が好きだったでしょ。だから最初の頃、結季くんのことが大嫌いだったんだ……」
「ぇ……」
「だって、目の前でキスするし……皇貴先輩はずっと結季くんのこと気に入ってたみたいだし……」
「あ……ごめん…」
そうだ。
分かっていたはずなのに、オレは瑠可に何も協力出来ていなかった。
それどころか、オレも好きになってしまった。
「ううん。結季くんが謝ることは全然ないんだ。……だってボク、本当はアルファの人、怖くて1人じゃ近寄れなかったから……」
「うそ……」
瑠可がアルファを怖いなんて初耳だ。
でも、よく考えたら、オレと一緒にいる時しかアルファの人に近寄らなかったし、決して自分から触れようとはしなかった。
「結季くんがはじめて発情期になった日。ボク、ベータの先輩に結季くんの居場所教えたんだ。先輩に近づく奴なんて居なくなっちゃえ……って」
オレは言葉が出なかった。
そこまで瑠可に嫌われているなんて思ってなかった。
「………あれ……でも、あの時来たのはアルファの先輩……」
「うん。だから、ボクもビックリしたの。ベータならちょっと怖い目に遭うくらいだし、いい人ならそのまま保健室に運んでもらえると思ったから……でも、後で結季くんがアルファの先輩に襲われたって聞いて……そんなことになってるなんてボク、知らなくて……だから」
俯き小刻みに肩を震わせる瑠可の姿に、それはきっと嘘ではないのだろう。
「なら、それは瑠可のせいじゃないよ。あの時はオレの不注意でもあったし。襲われたけど助けてもらって無事だったから」
「でもっ」
「それに、瑠可が教えたのはベータの先輩だろ。なら、それをアルファの先輩に教えたのはそいつらだ。オレに謝る必要があるのはそいつらだ」
顔を上げた瑠可の目には今にも溢れそうなくらい涙が溜まっていた。
ティッシュでそれを吸い取り、頭を撫でる。
「でもっ、体育祭の時も」
「え……?」
それもなのか?
「ボクが結季くんと一緒にいたから、目をつけられたんだと思う。あの先輩、その頃しつこく声かけて来てボク怖くて逃げてたから……」
「そう、なのか……」
それはオレにとってはとばっちりというやつか。
瑠可はその先輩から逃げるため、オレの練習に顔を出していたのか。
皇貴先輩が居るだけの理由じゃなかったんだ。
「でも、それも瑠可のせいじゃないだろ」
「だってぇ、ボクのせいで結季くん嫌な思いさせちゃったから……」
「ほら、泣かないの」
ティッシュを更に取り出して渡すが、瑠可はオレに抱きついてそのまましばらく泣いた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「やっぱりこうなるか……」
瑠可は泣き疲れてオレの膝の上でスヤスヤ眠っている。
オレは長時間の正座と瑠可の頭の重みで、痺れを通り越して感覚がなくなっていた。
わかるのは、これはヤバいやつだ。
とはいえ、ぐっすり眠っている瑠可はオレにしがみ付いていて簡単には剥がせそうにない。
天使のような寝顔にオレはため息をつくしかなかった。
「ぅぅん……」
瑠可が寝返りを打った。
「っ!!!」
瑠可が起きるまで、オレは何度も悶絶した……。
コンコン
ノック音にドアを開けると、そこに瑠可がいた。
「結季くん、少しいいかな?」
「ああ、うん。どうぞ」
部屋に入ってから一言も喋らない瑠可の顔はなんとなく暗く、どう声を掛けていいか迷う。
こんな時はとりあえず。
キッチンでお湯を沸かしている間に冷蔵庫から牛乳を取り出した。
片手鍋で沸かしたお湯にスプーン4杯の茶葉を入れて蓋をし1分蒸らした後に、レンジで温めた牛乳を入れて弱火で温める。
「うん、このくらいかな?」
ポットに茶漉しをセットして、鍋のお茶を一気に注ぎ入れた。
それをマグカップに注ぎ入れて、スプーン1杯の蜂蜜を入れて混ぜた。
「瑠可、お茶どーぞ」
「えっ、ありがとう……これ、なあに?」
「まっ、飲んでみて」
オレはそう言うと、自分の分のお茶を一口飲んだ。
うん、美味い。
チラッと瑠可の様子を見る。
少しクンクン匂いを嗅いでから恐る恐る一口飲むと、すぐ頬が緩んだ。
「美味しい……」
「良かったぁ。これ、カモミールで作ったミルクティーなんだ。オレもはじめて作ったんだけど美味しく出来て良かった」
「カモミール?」
「ああ、オレも名前しか知らなかったんだけど、なんかリラックス効果のあるハーブなんだって」
「ボク、ハーブティーはじめて飲んだかも」
お茶の効果なのか、さっきまでの暗い顔は消えた。
カモミールティーは、寮に戻る数日前に楓兄から貰ったやつだ。
伊吹くんからのお裾分けらしい。
伊吹くんのカフェは定期的にコーヒー豆や茶葉を入れ替えるらしく、その際廃棄するのが勿体ないとスタッフに配ってるそうだ。
コーヒーと紅茶の方がメインのお店だから、ハーブは結構余るらしい。
「他にミントももらったんだ。こっちもミルクと相性良いらしいから、今度、ミントミルクティーにして飲もうよ」
「うんっ」
カモミールのおかげが、リラックスした瑠可はゴクゴクとミルクティーを飲み干した。
「あのね……ボク、結季くんに謝らないといけないことがあって……」
「謝る?……なんで?前も謝られたけど、アレ、瑠可のせいじゃないし……」
「ううん、違うの」
「……瑠可?」
瑠可の顔はまた暗くなってしまった。
膝の上に乗せた手はキツく握られていた。
「ボク、ずっと皇貴先輩が好きだったでしょ。だから最初の頃、結季くんのことが大嫌いだったんだ……」
「ぇ……」
「だって、目の前でキスするし……皇貴先輩はずっと結季くんのこと気に入ってたみたいだし……」
「あ……ごめん…」
そうだ。
分かっていたはずなのに、オレは瑠可に何も協力出来ていなかった。
それどころか、オレも好きになってしまった。
「ううん。結季くんが謝ることは全然ないんだ。……だってボク、本当はアルファの人、怖くて1人じゃ近寄れなかったから……」
「うそ……」
瑠可がアルファを怖いなんて初耳だ。
でも、よく考えたら、オレと一緒にいる時しかアルファの人に近寄らなかったし、決して自分から触れようとはしなかった。
「結季くんがはじめて発情期になった日。ボク、ベータの先輩に結季くんの居場所教えたんだ。先輩に近づく奴なんて居なくなっちゃえ……って」
オレは言葉が出なかった。
そこまで瑠可に嫌われているなんて思ってなかった。
「………あれ……でも、あの時来たのはアルファの先輩……」
「うん。だから、ボクもビックリしたの。ベータならちょっと怖い目に遭うくらいだし、いい人ならそのまま保健室に運んでもらえると思ったから……でも、後で結季くんがアルファの先輩に襲われたって聞いて……そんなことになってるなんてボク、知らなくて……だから」
俯き小刻みに肩を震わせる瑠可の姿に、それはきっと嘘ではないのだろう。
「なら、それは瑠可のせいじゃないよ。あの時はオレの不注意でもあったし。襲われたけど助けてもらって無事だったから」
「でもっ」
「それに、瑠可が教えたのはベータの先輩だろ。なら、それをアルファの先輩に教えたのはそいつらだ。オレに謝る必要があるのはそいつらだ」
顔を上げた瑠可の目には今にも溢れそうなくらい涙が溜まっていた。
ティッシュでそれを吸い取り、頭を撫でる。
「でもっ、体育祭の時も」
「え……?」
それもなのか?
「ボクが結季くんと一緒にいたから、目をつけられたんだと思う。あの先輩、その頃しつこく声かけて来てボク怖くて逃げてたから……」
「そう、なのか……」
それはオレにとってはとばっちりというやつか。
瑠可はその先輩から逃げるため、オレの練習に顔を出していたのか。
皇貴先輩が居るだけの理由じゃなかったんだ。
「でも、それも瑠可のせいじゃないだろ」
「だってぇ、ボクのせいで結季くん嫌な思いさせちゃったから……」
「ほら、泣かないの」
ティッシュを更に取り出して渡すが、瑠可はオレに抱きついてそのまましばらく泣いた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「やっぱりこうなるか……」
瑠可は泣き疲れてオレの膝の上でスヤスヤ眠っている。
オレは長時間の正座と瑠可の頭の重みで、痺れを通り越して感覚がなくなっていた。
わかるのは、これはヤバいやつだ。
とはいえ、ぐっすり眠っている瑠可はオレにしがみ付いていて簡単には剥がせそうにない。
天使のような寝顔にオレはため息をつくしかなかった。
「ぅぅん……」
瑠可が寝返りを打った。
「っ!!!」
瑠可が起きるまで、オレは何度も悶絶した……。
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