53 / 78
番外編 瑠可/楓
番外編 Luka-9
しおりを挟む
コンコン
ノックをするとすぐ「はい。どーぞ」と中から声がした。
ドアを静かに開けると、楓兄はベッドに入ってスマホを弄っていた。
「お取り込み中?」
「いや、ゆうに連絡してただけ。あいつ、瑠可のことすっげぇ心配してて、返事よこせって何度もメッセージ来ててこえーの。……ほら」
クイと手招きされて近づくとその画面を見せてくれた。
結季くんとの画面の前半はボクの様子を聞くメッセージがたくさん並んでいたけど、後半は返事がなくてイライラしたのか楓兄への悪口だった。
「わーホントだー。ボクにも来てたのかな?」
「もう連絡したから、明日、確認すればいいよ。悪口は書いてないはずだから」
ピコンと結季くんから『おやすみ』のスタンプが届いて、ボクはふふふっと笑ってしまった。
「で、瑠可、どうした?眠れないのか?」
「えっと、楓兄の顔が見たかった…から?」
「くっ、何だそれ」
適当に答えると笑って頭をくしゃくしゃされた。
「ちょっとー、もう髪型崩れるから」
「寝たら寝癖つくんだから関係ないだろ」
「そうだけど…」
それ以上言葉が続かなくて、楓兄にくしゃくしゃにされた髪を撫で続ける。
「………眠れないのか?」
「……うん……静かにしてるから此処にいて、いい?」
楓兄に呆れられたらって思ったら顔を見ながらは言えなくて、握りしめるパジャマの裾をずっと見つめた。
ふぅと、息を吐く音にビクッと肩が揺れる。
「瑠可……おいで」
その声に視線を上げると楓兄はベッドの奥に寄ってスペースを空けてくれた。
今更ながら、自分の発言に恥ずかしくなってモジモジするボクの手を取ってベッドに招き入れた。
「狭くても文句言うなよ」
セミダブルベッドはあの時のホテルのより少し狭くて必然的に密着する。
「せ、狭い…」
「我慢しろ」
仰向けになるボクのために、楓兄は横向きになって腕枕をしてくれた。
「お日様の匂いがする」
「ああ、昼間干したからな」
薄掛けの掛け布団からお日様の匂いに混じって楓兄の匂いがする。
この匂いにホッとする反面、篠崎さんに項を噛まれていたらと考えたらゾッとした。
ボクはモゾモゾと楓兄の方に向きを変えた。
「瑠可?」
「こうして…眠っていい?」
楓兄にしがみついて、その胸に顔を埋める。
今頃、震えが止まらなくなったボクの背中を楓兄は温める様にさすってくれる。
震えが落ち着いてくると、顔を埋める胸からトクトクと少し早い心臓の音が耳に届いた。
この部屋は楓兄の匂いで溢れている。
森林の様な匂いと少し早い心臓の音、背中に当たる暖かさに安心したボクの目蓋は少しずつ重くなった。
ボクはなんでこの人の手を放そうとしたのだろう?
こんなにも温かくて優しい手を取らなかったんだろう?
眠りに落ちる直前、そんなことが頭をよぎった。
ノックをするとすぐ「はい。どーぞ」と中から声がした。
ドアを静かに開けると、楓兄はベッドに入ってスマホを弄っていた。
「お取り込み中?」
「いや、ゆうに連絡してただけ。あいつ、瑠可のことすっげぇ心配してて、返事よこせって何度もメッセージ来ててこえーの。……ほら」
クイと手招きされて近づくとその画面を見せてくれた。
結季くんとの画面の前半はボクの様子を聞くメッセージがたくさん並んでいたけど、後半は返事がなくてイライラしたのか楓兄への悪口だった。
「わーホントだー。ボクにも来てたのかな?」
「もう連絡したから、明日、確認すればいいよ。悪口は書いてないはずだから」
ピコンと結季くんから『おやすみ』のスタンプが届いて、ボクはふふふっと笑ってしまった。
「で、瑠可、どうした?眠れないのか?」
「えっと、楓兄の顔が見たかった…から?」
「くっ、何だそれ」
適当に答えると笑って頭をくしゃくしゃされた。
「ちょっとー、もう髪型崩れるから」
「寝たら寝癖つくんだから関係ないだろ」
「そうだけど…」
それ以上言葉が続かなくて、楓兄にくしゃくしゃにされた髪を撫で続ける。
「………眠れないのか?」
「……うん……静かにしてるから此処にいて、いい?」
楓兄に呆れられたらって思ったら顔を見ながらは言えなくて、握りしめるパジャマの裾をずっと見つめた。
ふぅと、息を吐く音にビクッと肩が揺れる。
「瑠可……おいで」
その声に視線を上げると楓兄はベッドの奥に寄ってスペースを空けてくれた。
今更ながら、自分の発言に恥ずかしくなってモジモジするボクの手を取ってベッドに招き入れた。
「狭くても文句言うなよ」
セミダブルベッドはあの時のホテルのより少し狭くて必然的に密着する。
「せ、狭い…」
「我慢しろ」
仰向けになるボクのために、楓兄は横向きになって腕枕をしてくれた。
「お日様の匂いがする」
「ああ、昼間干したからな」
薄掛けの掛け布団からお日様の匂いに混じって楓兄の匂いがする。
この匂いにホッとする反面、篠崎さんに項を噛まれていたらと考えたらゾッとした。
ボクはモゾモゾと楓兄の方に向きを変えた。
「瑠可?」
「こうして…眠っていい?」
楓兄にしがみついて、その胸に顔を埋める。
今頃、震えが止まらなくなったボクの背中を楓兄は温める様にさすってくれる。
震えが落ち着いてくると、顔を埋める胸からトクトクと少し早い心臓の音が耳に届いた。
この部屋は楓兄の匂いで溢れている。
森林の様な匂いと少し早い心臓の音、背中に当たる暖かさに安心したボクの目蓋は少しずつ重くなった。
ボクはなんでこの人の手を放そうとしたのだろう?
こんなにも温かくて優しい手を取らなかったんだろう?
眠りに落ちる直前、そんなことが頭をよぎった。
11
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説


出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?


幸せになりたかった話
幡谷ナツキ
BL
このまま幸せでいたかった。
このまま幸せになりたかった。
このまま幸せにしたかった。
けれど、まあ、それと全部置いておいて。
「苦労もいつかは笑い話になるかもね」
そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる