金の野獣と薔薇の番

むー

文字の大きさ
上 下
42 / 78
本編

金の野獣と薔薇の番

しおりを挟む
7月の期末試験が終わり、オレの部屋で瑠可とDVDを観た。
某有名なアニメ映画の『美女と野獣』だ。

これは瑠可が一番好きな映画で、すでに何回か一緒に観てる。

「真実の愛って素敵だよね。ボクもいつかこんな恋愛したいなぁ」

瑠可はエンディングロールをウットリとした顔で眺めながら呟く。
えっ、瑠可は楓兄とはどうなってんの?

「瑠可、あのさ…」
「あっ、そういえば。皇貴先輩って別の意味で野獣だったって知ってた?」
「へっ?」

突然、先輩の名前が出て声が裏返った。
瑠可は「あ、ヤッバーイ」みたいな顔をした後、慌てて口を開く。

「あ、ごめんね。変なこと思い出しちゃって…わすれ…」
「いや、いいよ。それで、野獣って?」
「あ…ぇっ…とぉ…うぅん」

言いづらそうな瑠可に笑顔でしつこく聞くと、渋々口を開いた。

「先輩が1年の時、学園祭の先輩のクラスの出し物がコスプレ喫茶でね、先輩、『美女と野獣』の野獣のコスプレしたの。髪の毛、ライオンみたいに立ててね。もうそれはそれはすっごくカッコよかったんだ。しかも先輩のフェロモンって薔薇の匂いだったから、ホント『野獣』がピッタリで超モテモテだったの!」
「うん」

ここまでは普通だ。
拳を握って興奮しながら話していた瑠可のトーンが突然下がる。

「でさ…………ほら……以前の先輩って下半身が節操なしだったじゃない?」
「あー」

ありましたね。
年齢制限有りで来るもの拒まずだったかな。

「う、噂なんだけど、その当時は、あの……誘われたらベータの男の人とも…その…」
「やってたんだ……」
「う、噂だよ!あくまで」

瑠可がめちゃくちゃ焦ってるところをみると、確実なネタがあるな。うん。

「それで?」

瑠可が少し怯えてる気がするけど、気のせいだろう。
あれ、視野が少し狭いな。
うん、気のせいだ。

「その、相手の人たちが話してるのを偶然聞いちゃったんだけど……その人たちが先輩とのエッチが『ちょー野獣だった!』って……」
「ほう」

瑠可の『ちょー野獣だった!』の真似がリアルで、笑顔がちょっと引き攣った。

「で、その野獣のコスプレのせいで、その後しばらく先輩、陰で『野獣』って呼ばれてたの。そ、それだけだよ!」

いや、十分です。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

そんな野獣ネタを聞いた数日後、発情期になったオレは先輩のマンションで1週間お世話になることになった。
番を持ったオメガは、発情期中は番に過ごした方が精神的に安定するそうだ。

大学進学を機に一人暮らしを始めた先輩の部屋は学生用で、広さは1DKとまあまあ広い。
今回はじめてお邪魔したけど、必要最低限のものしかなくて、すごく綺麗な部屋だった。

最初の3日間は、発情期の熱に浮かされてヤってるか寝てるか時々食事だった。
4日目になるとその熱も落ち着いて、まあぶっちゃけしなくても別にいいやって感じの状態だった。
そんなこと言ったら、項噛まれて強制的に発情させられた。

そして5日目の今日。

「ゆう…」
「えっ、先輩、まだするんですか?折角シャワー浴びたのに…」

腰の痛みが引いて、やっと動けるようになってゆっくりお風呂に浸かって綺麗になったのに。

「だって、お前からいい匂いするんだもん」

「もん」って…。
後ろから抱きついてる先輩に首筋にキスされて、ちょっと流されそうになる。

「せ、先輩って、んっ…本当、野獣ですよね…」

何気なく言ったのだが、ビシッと音が聞こえてきそうな感じで先輩か固まった。

「な、なんでそれ…」
「あー聞いたんです。先輩が1年の時、学園祭のコスプレ喫茶で野獣のコスプレしたことと、下半身も野獣だったって噂を…」

下半身が野獣だったことは、敢えて『噂』にしておいた。

「あ…それは、その……」
「オレが出会う前の先輩だから、オレに責める権利はありませんけどね…」
「ゴクッ」

耳に当たる喉仏が上下して唾を飲み込む音がした。

「あのこうくんがそこまで節操なしだったのはちょっとショックでした」
「そ、そこまで、とは?」
「誘われたらベータの男の人まで食い散らかしていたこと」

項垂れた先輩はオレの肩に頭を乗せた。
その様子から、噂が真実だったことが確定した。

うん、やっぱり、ショックだ。

ベータの男の人だけでなく、先輩と関係を持った全ての人に嫉妬した。

「ゆう、泣いてる…」
「え…」

いつの間にか、先輩はオレの正面にいた。
でも、ぼやけてよく見えない。
頬を包む手の温かさで先輩だってわかる。

「ゆう、ごめん」
「謝らないでください。これはオレが勝手に嫉妬して…勝手にショック受けただけで……」

頬に触れている手を跳ね除けて逃げようとしたのに、先輩の腕の中にすっぽり包まれた。
ちょっと汗ばんだTシャツからは、薔薇の香りのフェロモンが漂っている。
すごく心地良いのに自分以外も知ってるなんて悔しい。

「ゆうにたくさん謝んなきゃいけねぇのに、ヤキモチ妬いてくれてるのがすっげぇ嬉しい。ヤベェ、ニヤける」
「ちょ…先輩、それ苦しいって」

思いっきり抱きしめてくるから、何度も加減してって言ってるのに。
バシバシ背中を叩くけど、今回に限ってその腕は中々弛まない。

「なあ、気づいていたか?お前のフェロモンも薔薇の匂いがしてるって」
「嘘…知らない」

自分のフェロモンの匂いなんてわからないし、今まで言われたこともなかったから知らなかった。
でも、もしかしたら如月の家族ならわかっていたかもしれない。

「ゆうの父さんに聞いたんだけど、神凪のオメガって項を噛まれると、フェロモンの匂いが番と同じになるんだって」
「……ふっ、何それ?オレ、その話聞いてませんよ。都市伝説か何かですか?」

そんな話、初耳だ。

「学園ではじめて会った時、ゆう、発情しただろう?あの時、微かに薔薇の匂いがしたんだ」
「そう、なんですか?」
「ああ、たぶん『おまじない』でココ噛んだ時からゆうは俺の番として同じ匂いになっていたんだと思ってる」

項に残る痕をなぞりながら先輩は言うと、耳朶にカリッと齧り付いた。

「あ…ズルい」

治まっていたはずの身体が再び疼き熱くなってきた。
膝がガクガクしてまともに立っていられなくなるオレを先輩は抱き上げると、ベッドに運んだ。

「仕方がないだろ。だって俺『野獣』だからさ」

耳元で囁いた先輩を涙目で睨むけど、今回はオレの負けだ。
濃厚な薔薇の香りに包まれながら、主に下半身が野獣の愛しい人に噛み付くような口付けをオレからした。



おしまい

____________________

本編はこれで完結ですが、後日談を一本あげます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が攻めで大丈夫なのか?!

琴葉悠
BL
東雲あずさは、トラックの事故に巻き込まれたと思ったら赤子になっていた。 男の子の赤ん坊に転生したあずさは、その世界がやっていた乙女ゲームの世界だと知る。 ただ、少し内容が異なっていて──

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

愛孫と婚約破棄して性奴隷にするだと?!

克全
BL
婚約者だった王女に愛孫がオメガ性奴隷とされると言われた公爵が、王国をぶっ壊して愛孫を救う物語

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

子悪党令息の息子として生まれました

菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!? ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。 「お父様とお母様本当に仲がいいね」 「良すぎて目の毒だ」 ーーーーーーーーーーー 「僕達の子ども達本当に可愛い!!」 「ゆっくりと見守って上げよう」 偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。

処理中です...