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本編
3月 ③
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あれから何日経ったのだろう?
全身打撲と額を切ったオレは、処方された鎮痛剤の影響で寝て起きてを繰り返していた。
オレが眠っている間、神凪家の使用人が身の回りの世話をしてくれているようで、目覚めるといつも枕元に冷たくなった食事と薬が置かれていた。
あの日からからオレは誰とも会っていない。
冷んやりと腕に当たる物に手を触れる。
外し方がわからなかったのか、ブレスレットはそのまま着けられていた。
「お兄ちゃん?」
声が聞こえて振り返ると、格子の向こうに制服姿の女の子がいた。
「もしかして……陽菜?」
最後に会ったのはまだ4歳の頃だったけど、面影残る顔にオレの記憶は鮮明に甦る。
父に似た意思の強い目には薄ら涙が浮かんでいた。
「お兄ちゃん、記憶が…」
「うん。頭打ったときに。たくさん血が出てビックリしたよ」
包帯が巻かれている頭を摩り苦笑いをする。
「記憶は完全には戻ってないけど、陽菜の顔見たら少し思い出したよ」
オレの両親の顔も今は思い出せる。
まだボンヤリとした部分があるけど、そのうち思い出すだろう。
「お兄ちゃん、お父さんもお母さんも元気だよ。くそジジイのせいで私だけしかお兄ちゃんに会わせてもらえないけど…」
「そっか……。元気なら良かった」
陽菜の口調から、両親がオレがこの家から逃がしたことについて罰を受けていないようで良かった。
記憶の片隅にいるオレの両親は、7歳までだけどオレの事を大切に育ててくれた。
ちゃんと覚えてる。
「そういえば、陽菜、今日って何日?」
「3月19日」
「うわっ、結構寝てたなぁ」
あれから1週間も経っていた。
体の痛みはほぼなくなった。
頭の傷は縫ったのか、引き攣る痛みがあるからもう少しかかるかも知れない。
それまでにここから逃げる手立てを考えないと。
逃げられる…のか?
「お兄ちゃん……絶対、ここから助けるからね。お父さんもお母さんも諦めてないから!」
「うん、ひーー」
「陽菜。いい加減なことを言うんじゃない」
「……清暙兄さん」
陽菜の背後から清暙兄さんが現れた。
「結季、気分はどうだ?」
「………」
「顔色はだいぶ良くなってな。これなら予定通り儀式も行えそうだな」
「……儀式?」
「そう、僕と結季が番になるための儀式だよ」
清暙兄さんは格子の向こうからオレを見下ろし目を細め微笑んだ。
「僕としてはもうしても良いけど、発情促進剤は血行を良くしてしまうから、結季の頭の傷に響くと医者に止められてしまってね。でも、あと2週間もすれば結季は発情期を迎えるだろう?だから、それまで待つことにしたんだよ」
「誰がお前の番なんかになるかよ」
「仕方がないだろう。もう、予約が入っているのだから……。結季には神凪家のためにたくさん子供を産んでもらわないとね。大丈夫だよ。1人目は僕の子供だ。結季は初めてだから僕が自分から欲しがるくらい気持ちよくしてあげるよ…ふふっ」
それだけ言うと、清暙兄さんは陽菜の腕を引いて戻っていった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
それから陽菜が現れることはなかった。
オレはずっと、風呂とトイレしかないこの牢の中で過ごした。
時々現れる使用人がシーツと新しい浴衣と食事を小さな間口から差し入れていった。
食事は相変わらず冷たかった。
何の手立ても見いだせないまま、ただブレスレットに触れ眺めて過ごした。
「会いたいな…」
溢れでた言葉と共に涙も溢れた。
オレは……逢いたい。
全身打撲と額を切ったオレは、処方された鎮痛剤の影響で寝て起きてを繰り返していた。
オレが眠っている間、神凪家の使用人が身の回りの世話をしてくれているようで、目覚めるといつも枕元に冷たくなった食事と薬が置かれていた。
あの日からからオレは誰とも会っていない。
冷んやりと腕に当たる物に手を触れる。
外し方がわからなかったのか、ブレスレットはそのまま着けられていた。
「お兄ちゃん?」
声が聞こえて振り返ると、格子の向こうに制服姿の女の子がいた。
「もしかして……陽菜?」
最後に会ったのはまだ4歳の頃だったけど、面影残る顔にオレの記憶は鮮明に甦る。
父に似た意思の強い目には薄ら涙が浮かんでいた。
「お兄ちゃん、記憶が…」
「うん。頭打ったときに。たくさん血が出てビックリしたよ」
包帯が巻かれている頭を摩り苦笑いをする。
「記憶は完全には戻ってないけど、陽菜の顔見たら少し思い出したよ」
オレの両親の顔も今は思い出せる。
まだボンヤリとした部分があるけど、そのうち思い出すだろう。
「お兄ちゃん、お父さんもお母さんも元気だよ。くそジジイのせいで私だけしかお兄ちゃんに会わせてもらえないけど…」
「そっか……。元気なら良かった」
陽菜の口調から、両親がオレがこの家から逃がしたことについて罰を受けていないようで良かった。
記憶の片隅にいるオレの両親は、7歳までだけどオレの事を大切に育ててくれた。
ちゃんと覚えてる。
「そういえば、陽菜、今日って何日?」
「3月19日」
「うわっ、結構寝てたなぁ」
あれから1週間も経っていた。
体の痛みはほぼなくなった。
頭の傷は縫ったのか、引き攣る痛みがあるからもう少しかかるかも知れない。
それまでにここから逃げる手立てを考えないと。
逃げられる…のか?
「お兄ちゃん……絶対、ここから助けるからね。お父さんもお母さんも諦めてないから!」
「うん、ひーー」
「陽菜。いい加減なことを言うんじゃない」
「……清暙兄さん」
陽菜の背後から清暙兄さんが現れた。
「結季、気分はどうだ?」
「………」
「顔色はだいぶ良くなってな。これなら予定通り儀式も行えそうだな」
「……儀式?」
「そう、僕と結季が番になるための儀式だよ」
清暙兄さんは格子の向こうからオレを見下ろし目を細め微笑んだ。
「僕としてはもうしても良いけど、発情促進剤は血行を良くしてしまうから、結季の頭の傷に響くと医者に止められてしまってね。でも、あと2週間もすれば結季は発情期を迎えるだろう?だから、それまで待つことにしたんだよ」
「誰がお前の番なんかになるかよ」
「仕方がないだろう。もう、予約が入っているのだから……。結季には神凪家のためにたくさん子供を産んでもらわないとね。大丈夫だよ。1人目は僕の子供だ。結季は初めてだから僕が自分から欲しがるくらい気持ちよくしてあげるよ…ふふっ」
それだけ言うと、清暙兄さんは陽菜の腕を引いて戻っていった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
それから陽菜が現れることはなかった。
オレはずっと、風呂とトイレしかないこの牢の中で過ごした。
時々現れる使用人がシーツと新しい浴衣と食事を小さな間口から差し入れていった。
食事は相変わらず冷たかった。
何の手立ても見いだせないまま、ただブレスレットに触れ眺めて過ごした。
「会いたいな…」
溢れでた言葉と共に涙も溢れた。
オレは……逢いたい。
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